第十三話:命に繋がる扉・1
ユウはある決断をした。そしてその結果として、ある場所に忍び込もうとしている。
道に繋がる扉を開いて前に進む、果たしてユウは道を見つけることができるのか。そして道の先で待つものとは?
パレードに向けてのユウにとっての最後の休みの日。ユウがニーアと会っていた。
ユウはニーアには自分が城で働いていることだけは伝えている。そして、それはニーアの病気を治すための費用を稼いでいるのだと伝えていた。しかしそれは真実ではない。ニーアの病気を治すだけの金は城で働いただけでは手に入らない。さらに金だけでも解決はしない。その為、ユウは不本意な行動をとらざるを得なかった。本来は敵であるはずのヒエラルに言われるがまま城で働いているのだ。
そのことで、ユウは周囲からの疑いの目を向けられることに怯えなければならず。そしてそう思うたびに疑問を持ってきた。
休日の次の日。その疑問に突然、一つの不確かな答えが表れてきた。
それはヴェローナの存在だった。彼は今は無き国の、残された王位の継承者だ。
彼とユウは城の中で起こったノーブムの殺人事件を調べるために行動を共にした。そしてその間にユウはヴェローナに素性を見抜かれた。それは避けなければならないことのはずだった。しかし、それこそが答えだったのだ。
ユウはヴェローナと取引した。
ユウはヴェローナの仲間となったのだ。ヴェローナは少なくともヒエラル達よりかはましなはずだった。そして、ユウはヴェローナの仲間となる見返りとして最も重要な、これ以上ない報酬を約束させた。すなわち、ニーアの病気を治すための支援。
ただ、王位継承者と言えども今はその国自体が滅んでいる。その為ヴェローナもこの城の中での立場は弱く、金銭的な余裕などはない。
しかし、それも今だけの話だ。ノーブムはこの城で起こった殺人事件の真犯人を知っている。さらにノーブムの借金手形等の証拠も回収している。それはこの殺人を指示した有力者の弱みになる。
パレードが終われば、交渉を開始できる。もちろんその交渉というのが簡単にいくとは限らないが、ユウにはヴェローナならば成功させるような気がした。
そういうわけでヴェローナの仲間となった。しかし、仲間と言っても何をするのかユウにはわからなかった。しかしその旨をヴェローナに尋ねると、思いのほかすぐに返答が返ってきた。
今、ユウとネイはヴェローナの指示に従って、ある場所へと向かった。
「ユウ。ヴェローナ様の方が動いた。そろそろ降りて行け」
「……ああ、わかった――なあ、ネイ?」
「どうした、ユウ?」
「これって本当に俺じゃないといけないのか?別にネイがやっても」
「ダメだ。経験者だろ?しっかりやってくれよ、大丈夫だ。命綱は用意した」
「なあ、この命綱って、どこから?」
「物置の奥にちょうどいいのがあったから、そこから拾ってきた。安心しろって、それにほら、見て見ろ。目的地はここのほぼ真下だ。何が不安なんだ?」
「すべてだよ……」
「まあ、行けよ。命綱の端は握っていてやるから」
ユウ達が今いる場所。それは城の最上階。それも王女の部屋がある場所の真上に位置する部屋だった。
ユウはその窓から、王女の部屋に忍び込もうというわけだ。
それはユウには2度目の経験だった。その時は落ちそうになったユウをドンレミが助けたおかげで何とか行き着くことができたのだ。ユウには不安だった。だがしかし今回は怪しい命綱に頼ることも無く、無事着地することができた。
「それにしても。王女の部屋に忍び込むなんて、なんて大それたことを考えてるんだ」
ユウが部屋に来た理由。それはヴェローナのある計画によるものだ。
その計画とは王女の部屋にあるという、城の外へと続く抜け道。王女しか知らないその隠された道を調べることだ。
計画の概要はこうだ。
まず、ヴェローナが王女を適当な理由で部屋から連れ出す。そして王女が部屋を開けた隙にユウが窓から侵入し、部屋を探す。しかし、そこまで時間を掛けてはいられないので、場所を確認すればすぐに部屋を出る手はずだ。
ユウは部屋を探す。
その間ユウは思い出していた、ディナールの部屋にあった隠し扉は棚の裏にあった。
そうでなくても入り口があるとしたら壁の裏にあるに違いないため、重点的に壁を調べることに間違いは無いはずだった。
しかし、壁伝いに探しても隠し部屋らしきものは無かった。
ユウは次に、今いる部屋の奥にある部屋に移動した。そこは王女が絵を描く部屋として使っている部屋だった。
「ここに来るのは2回目か、散らかった部屋だな」
思ったままの印象だった。しかし散らかっているだけに何かを隠すには適した場所だった。
ユウは足元に気を付けながら壁を伝い調べた。しかしここもやはりそう簡単に見つかることは無かった。
「はあ、ダメだ。見つかりそうにない」
ユウは座り込んで頭を悩ませた。そもそも壁にあるという前提が間違いでは無いのかとさえ思い始めた。
そもそもそう簡単に見つかるのならもう使用人の誰かが見つけているだろう。城に来てそう長くないユウが見つけてしまうなど都合がよすぎることだ。
だが、ヴェローナはネイではなくユウが行くことを指示したのだ。それは何か、一度来たことがあるからという理由以外に何か意味があるような気がした。
そして、それは何の理由もない事だったがふと、ユウは天井の絵を見た。
ムクロイナと、そしてヨーライックの建国神話。それは天から舞い降りた二人の人間が(或いはより神聖な天使のようなものかもしれない)生まれ、生きて、そして最後に天に帰る物語。
対立し、いがみ合い、争いあった二人。しかし、その生まれも終わりも同じ場所だ。
ユウはこの絵の互いを威嚇するように向かい合う二人にどこか悲しみに似た表情を感じた。それはこの絵を描いた画家の手癖によるものかもしれなかったし、あるいはただ単に偶然そう見えるだけかもしれなかった。
だが、それがユウには意図的であるかによらず正しいように見えた。もし自分たちの子孫が自分たちの始めた争いによって何百年も何千年も争っていたら、どう思うだろう?
最初はなんてことない事だったかもしれない。ほんの小さな一言だったり、食い違いだったり。本当に些細なこと。ただその些細なことは今や致命的で、絶望的だ。なぜならそれはもう終わってしまったことだからだ。すでに終わってしまったことはどうやったって解決できない。
それは例えば、一度壊れた家族がもう、元には戻らないことと同じだ。
「……ムクロイナと、ヨーライックか。俺にわかるはずはない――ん?これは」
ぼんやりと絵を見ていたユウはふと、あることに気づいた。
その絵を中段。最も大きく描かれた向かい合うように交差する二人の視線が、厳密には互いを向いていないのだ。
その視線は厳密に言えば僅かに下。互いの丁度中間地点で交差していた。
ユウは立ち上がり、その地点の壁を近づいて調べた。
「考えすぎか。いや、さっきは絵の所為で気づかなかったけど、確かに少し、沈みこむ部分がある」
それが何か手掛かりであるということにユウは確信があった。とは言っても、それだけでは隠し扉を見つけられなかった。
「……ダメか?いや、違う。これは何か意味があるはずだ。この絵を描いた画家は意図して二人の視線を交差させた。それは何故だ?互いに睨み合っているんじゃない。この絵が示そうとしているのは……もし、隠し部屋への道を示しているなら。隠された、道。それは別の道。つまりこの絵の二人のような憎みあう道じゃない、別の道を示しているんじゃないか?だとしたら――」
ユウも少し強引すぎる気もした。しかしそれに託してもいい気がした。
「二人が睨み合っていない。つまり憎み合っていない時」
二人はある時から睨み合っている。それは死して天に上った先もそうだ。しかし、ただ唯一そうでない時があった。それは二人が生まれた時、天から二人の赤ん坊が降りて来る部分だ。
それはいまユウが触れている部分からほんの少しずれたところにあった。
ユウはその絵に手を伸ばし、その二人の赤ん坊の中心に手を触れた。すると――
「ここも沈み込む。さっきもあったのか?いやそんなはずない」
ユウがそう言ったのも無理も無かった。なぜなら壁の一部が数センチも沈みこんだのだ。そんなものを気づかないはずが無い。
ユウが新しく見つけた窪みを押すと、それに応じるようにもう一方の窪みがさらに深く押すことができた。そしてユウはその窪みを限界まで押しきった。
すると、ユウの後ろで小さな音が聞こえた。その音はユウの背後の棚がスライドした音だった。そしてその先にはユウが探していた隠し階段があった。
ユウは本当は道を見つけるだけに済ます予定だった。しかしその隠し階段がユウの冒険心を駆り立てたのか、一歩、ユウは階段を下りた。
そしてもう一歩、もう一歩と、どんどんとユウは下に降りて行った。そしてもうその時にはユウに階段を見つけたのだから帰ろうという気は消えていた。
王女の部屋の隠し扉だけがなぜ、他の部屋に比べてここまで凝った仕掛けがあるのか。それはこの隠し扉が城に張り巡らされた他の隠し通路や隠し部屋とは用途が違うからだ。
王女の部屋の隠し部屋だけは例えば城が敵に包囲されたときに王だけでも脱出できるように作られたものだ。当然、この隠し通路だけは他の道とは繋がっていない。
隠し通路の仕掛けはこの城ができたころに作られたものだ。しかし当初は特に絵は描かれていなかった。この絵が描かれたのはごく最近、ある有名な宮廷画家によって、仕掛けに合わせて描かれたものだ。
仕掛けに合わせたと言っても、それによって誰かがその隠し部屋の秘密に気づくことは無かった。なぜならその絵に対して、誰も何も違和感を抱かないからだ。
ムクロイナとヨーライック。争い合った2つの国の人々にはその絵に描かれた二人の視線が僅かに交差しているなんてことは気が付かない。
二人は争っている。睨み合っている。勇ましく、互いを。それが生まれた時から当然で、当然のように形成された先入観なのだ。
それに気が付かないのはユウのような部外者か、或いは自身の先入観を疑うことのできる人物だけだ。
本当は昨日投稿するはずだった。




