第十一話:静かなる気配・1
ノーブムはユウとネイに何を伝えるのか、なぜ伝えるのか、そもそも目的は?
そして、、、
日が落ちた教会でユウとネイ、ノーブムが机を囲んでいる。
ノーブムは二人を呼んで、かつ二人だけに話した。この城の中に裏切り者が居ると。
城に裏切り者が居る。そんなことを言っても大抵の使用人は信じはしない。それにもし信じてしまうようなことがあれば、使用人同士で疑心暗鬼に陥ってしまう。
ネイはそれが信じられないことだと言った。ユウも同様に信じられないと口だけで言った。しかし、ユウは少なくとも一人は知っている。なぜならそれが自分自身であるからだ。
「現状は何か表立って問題が起こってはいません。信じられないのも無理はない事です」
「もちろん信じられませんよ――ただ、なぜそう思ったんですか?」
「何故……それは……」
ノーブムは二人から目を逸らした。それはノーブムの疑いの根拠が不確かな直観であるからかもしれない。或いは二人に言えない根拠があるからかもしれない。
「……なあ、ネイ。別に理由は良いんじゃないか?」
「いや、だが」
「それより、その。裏切り者って言うのは何故この城に来たんでしょう?」
「わかりません。私には。ただいろいろ理由は考えられます。パレードで来た軍の関係かも知れませんし、或いは王女殿下の関係かもしれせん」
「じゃあ、どんな奴なんでしょう?どんなことをしているとか」
「そうですね、例えば、軍や王女殿下の事を調べているとか、後は不敬な行動を――」
「ち、ちょっと待ってください」
「ん?どうかしましたか。ネイさん」
「いや、その。そう思ったからって、それを俺たちに伝えてどうしようって言うんですか?」
「どうしようって、パレードが終わるころには私は城を去らなければいけないので、それまでに誰かに伝えておこうと思っただけです。それがどうかしましたか?」
「いえ、その。今日はもう遅いので、明日にしませんか?」
「明日ですか?別に私は構いませんけど。ユウもそれでいいですか?」
「え、はい。俺もそうします」
ユウはいきなりノーブムの会話を遮ったネイに驚きながらも、この場は一度お開きにすることにした。
二人は教会を離れ、一度宿舎へと戻った。
ユウはネイの様子が少し不審に映っていた。そのことでノーブムと別れてから話をした。
「なあ、さっきのはいったい何なんだ?別に話ぐらい聞いたっていいんじゃないか?」
「お前まさかノーブムさんの話を信じているのか?」
「いや、そういう訳じゃないけど。居てもおかしくないよなって、裏切り者」
「お前、興味があるわけじゃないよな?やめてくれよ、そういうのが一番よくないんだ」
「いや、確かに、それもそうだけど」
「わかればいい。面倒ごとは関わらないのが一番だ」
ユウはネイがそう言うのも理解できた。ただでさえ立場の弱い少数派のヨーライック人のネイが他の使用人を疑うようなことをすれば、もうここにはいられないからだ。
しかし、ユウにとってはノーブムが裏切り者を探しているなら、まだ自分を裏切り者だと認識していないうちに話をつけておくべきだと考えた。
「ネイ。少し、出て来る」
「出るって、どこへ?」
「思い出したんだ。俺、ディナールさんに呼ばれてたんだ」
「あ、そう言えばお前、今朝王女が出て来るのを待てって言われてたんだったな。俺も行こうか?」
「いや、一人でいいよ、それにお前は何もしてないだろ?」
「ははは、そうだな」
ネイはユウを笑って、ディナールの元へと送り出した。当然ユウの目的地はディナールの元ではない。
ユウは再び教会へと向かった。
ユウとネイが帰ってからまだそこまで時間は経っていなかったため、急いで教会の扉を開けて、更に奥の小部屋へと入った。
「ノーブムさん。いませんか?ユウです、さっきの話、もう少し聞かせてほしくて」
ユウが来たときには中は明かりがついたままで、更に扉に鍵が掛っていることも無かった。しかし、そこにノーブムの姿は無かった。
部屋の中は先程と変わらず整然としていて、そこにある物の一つ一つが決して動かしてはいけないような、そんな気がした。ただ一つ、机の上に散らばった書類を除いて。
ユウは小部屋の奥に、その机に向かって歩を進めた。それはその整然とした部屋の中に在って異質な、机の上に束にされて置かれた、ある特別な紙を見たからだ。
その紙をユウも一時は持っていた。しかし今はユウの持っていたものはヒエラルとのいざこざで紛失していたが。
それはユウとデジデリーとで交わした金銭の貸し借りの契約に使った紙と同じものだった。それも一枚ではなく、十枚以上もあった。
それぞれの額面はまばらだったが、そのどれもがユウがデジデリーから借りた額よりも高かった。
そして、それだけでもユウは驚いたが、ユウを一番驚かせたのは貸し借りの有無ではなかった。その借用書はいずれもノーブムの名が貸した側ではなく借りた側に書かれていたのだ。
それはつまり、ノーブムが莫大な借金があるということだ。ユウは恐ろしくなった。見てはいけないものを見てしまった。すぐに紙を置いて、部屋を後にし、一目散に教会を出た。
ユウは教会を離れ、しばらくの間城の中をぶらつくことにした。ネイにディナールの元に行くと言った以上まだ帰るには早かったのだ。
中庭を迂回し、日が落ち始めていた城の廊下を行き場も無く心なしか早足で進んだ。
食堂の明かりはもう消えていた。物置もすでに暗かった。しかし扉が開けられていた。誰かが閉め忘れたのだろうか、或いはまだ中に誰かいるのだろうか。そんなことを思っていると、丁度、物置の前を横切ろうとした時だった。物置の中から小さな少女が出てきたのだ。
その少女の名はネス。物置の中でしかユウは見たことがなかったが、この日は珍しく物置から出てきたようだ。しかしそれは本来ならば当然のことで、ネスがこの城の使用人ならユウ達と同じく宿舎に部屋があるはずであり、そもそも常に物置に居るはずはないのだ。
ユウがネスを見つけると同時にネスの方もユウに気が付いたようだ。
「……おはよう」
「え、お、おはよう」
もうすでにおはようというような時間ではないが取り敢えずユウは答えた。
「……どうした?帰らない?」
「いや、今帰ってるところだよ。君も今から帰るところ?」
「うん、ネス。今から帰る、けど、眠い」
ネスは眠そうに欠伸をしている。小さい子どもだからか、この時間にはもう眠くなるのだろう。今にも眠ってしまいそうにネスはゆらゆらと宿舎とは反対の食糧庫の方向に歩き出した。
「待って、そっちは反対だよ」
「ネス。大丈夫」
「大丈夫そうには見えないんだけど」
ネスは歩きながらうとうととしてしまっていて、度々壁にぶつかりかけていた。ユウはそれを見過ごすことはできなかった。
ユウが倒れそうなネスに駆け寄った。するとユウの足音で目が覚めたのか、突然ネスが駆け出した。
しかし勢いよく駆け出したネスだったが、廊下の曲がり角に達して、すぐ問題が発生した。
曲がり角を曲がる事に関してはネスは辛うじて成功した。しかし、勢いよく曲がった先に人が歩いてきていたのだ。寝ぼけ眼のネスには避けられるはずも無く、相手の方も飛び出して来たネスを避けられなかった。
ネスの方が覆いかぶさるようにして、二人は倒れた。
ユウはその二人の元に駆け寄った。
幸い、二人とも特に大事には至っていなかった。それより、ネスとぶつかった相手はユウが見知った人物だった。
「二人とも、大丈夫ですか?」
「こちらは大丈夫。って、ユウ。どうしてこんなところに?」
それはこの城で働く使用人の女性。フォルトゥナだった。
「部屋に帰ろうとしていたら、たまたまその子を見つけたんですよ。その子、宿舎の方へ帰ろうとしていると思うんですけど」
「そうだったのですか。それはネスがご迷惑を」
「……えっと、二人は知り合いだったんですか?」
「はい。私とネスは同室なので。迎えに来たんです」
意外なことにフォルトゥナはネスと面識があったのだ。それも宿舎が同室だという。
それを聞いてユウは思い出した。ネスが使用人として働いているなら宿舎に部屋があるはずだ。そして、例外はあれど部屋は一人部屋ではない。ネスと同室の使用人が居るのは当然のことだ。
しかし、そこでユウに一つ疑問があった。フォルトゥナには言えないがユウは一度今よりも遅くの深夜にネスが物置に居たことを覚えている。その時は何故迎えに来なかったのだろう?それとも迎えに来たが出てこなかったのだろうか?
「その、フォルトゥナさんはいつも、迎えに来ているんですか?」
「いえ、いつもではありません。今日は偶然他に用があったので来ただけです。それに使用人として働いている以上は自分のことは自分で出来なければなりません。同室と言えど甘やかしてはいけません」
フォルトゥナは厳しい言葉を送った。しかしそれもフォルトゥナの腕の中でもたれ掛かる様にまどろんでいるネスを抱きかかえている様子ではあまり説得力が無かった。
「……とにかくもう戻りませんか。もう夜ですし」
「そうですね――ん?」
「どうかしましたか?フォルトゥナさん」
ユウとフォルトゥナとネスが宿舎に帰ろうとしたときふと、フォルトゥナが足を止めた。
フォルトゥナは耳に手を当てて、静かな夜に潜む音を掻き分けた。ユウもそれをまねるようにした、するとどこかから何か物音が聞こえた。
「食糧庫の方ですね」
「何でしょうかね、見てきますか?」
「そうですね。もしかすると食料を誰かが盗みに来たのかもしれませんし、行ってみましょうか、ただ……」
フォルトゥナは自らの腕の中で眠るネスを見た。それは母が小さい娘を思うような慈愛に満ちた目だった。
「フォルトゥナさんはここで待っていてください。俺が見てきますよ」
「すいません。もし何かあったら言ってください。私とネスはここに居ますから」
フォルトゥナはユウに一礼し、ユウは食糧庫へと向かうため、まずは厨房へと向かった。
ユウは入ったことは無かったが、そのすぐ奥に食糧庫への扉があることは簡単にわかった。なぜなら扉の端から明かりが漏れていたのだ。
ユウはゆっくりと、恐る恐る扉へと近づいて行った。
しかし、ユウが扉に手を掛ける前に突然に扉は開かれた。
「うわっ、ちょっとユウ。なんでこんなところに居んの、脅かさないでよ」
「エ、エリーさん。なんでって、そっちこそなんでこんなところに居るんですか?まさか、さぼりだけじゃなく盗みまでするなんて」
「ち、違う。ユウ。私はただ、そ、そうだ見回りだ、夜の見回りをしてたんだ」
「でも食糧庫は無許可では入ってはいけませんよね?」
「そ、それは……」
もはやエリーは言い逃れできなかった。実際、食糧庫の食糧を人目を盗んでこっそり食べていたのは事実だった。
「……ユウ。ここに干し肉があるんだけど。食べない?」
「食べません。それにそれもそこから盗んだものでしょう」
「うっ」
最後の手段として、ユウを賄賂で引き込もうとしたが、それも失敗し。いよいよエリーには手が無くなった。こうなるとエリーには奥の手で行くしかない――
「そうだ、殺そう。もうそれしか手が無い」
「は?」
「そうだ。まず、ここは厨房だ。死体をばらすなんてわけない。あとは煮込んで、骨は、どこかに……」
「この人、どこまで最低なんだ」
最早、呆れるほかなかった。
「今だ、チャンス」
ユウが呆れている隙をついて、エリーはその場から逃走した。
ユウは茫然とその場に立ち尽くした。立ち尽くした、というよりも追いかける様な気にはなれなかったのだ。
しばらくすると、フォルトゥナとネスがユウの居る厨房に入ってきた。
三人は盗みの犯人をしっかりと見ていた。しかし今はもう暗い、このことはまた次の日に話をすることにし、三人は宿舎へと戻った。
あかん、後書きで書くことが思い浮かばん。
更新頻度さんは自由落下を楽しんでるけど、私は上がるよ、本気だよ本気。
まあ、早めに行きたいね、早めに。




