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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第九話:地下室の魔物・1

ユウは決意し、城へと帰る。

未来への道はどこにあるのか。

一先ずは王女とそれをよく知る友人と話をすることから始まる。

 ユウが偶然にも王女を保護し、城へと連れ帰ってから一夜が明けた。

 その日は朝からユウとネイは王女の部屋に来るようにと言われた。


「それにしても、いったい何の話をされるんだろうな」


「わからん、だが。見た目だけじゃなく中身もお子様だからなあの馬鹿王女は」


 ユウとネイは城の階段を上り、言われた通り王女の部屋の前へと来た。

 使用人や周りの人間にとっては城から抜け出した王女を連れ帰ったことは大手柄だが。王女の方はどう思っているかはわからない。

 ユウとネイはもしかすると、ここで腹いせにクビになってしまうかもしれないという不安があった。


「なあネイ、もしクビだって言われたらどうする?」


「ん、ああ。その時は一言言ってやるよ。この馬鹿王女めって」


 冗談めかしてネイが言うが、それが逆に事態の深刻さを物語っていた。 


「はあ、不安だ」


 ネイが扉を開き、二人で扉を抜けた先で見た物は――


「ごめ”ん”な”さ”い”。も”う”し”ま”せ”ん”か”ら”」


「泣いたふりをしても無駄です。そうやっていつも、もうしませんって。今月だけで二度目何ですからね」 


 二人が見た物は、泣きじゃくって布団に潜っている王女と、それに怯むこと無く立ち向かっている一人の女性だった。


「えっと、これは」


「あ、ユウとネイですね。呼びつけておいてすいませんが、少々お待ちください。ほら早く出て来て下さい」


「んー嫌だ。ディナールがいじめる」


「いじめてません、何時までそうしているつもりですか」


 ユウ達は予想していなかった事態に度肝を抜かれ、立ち尽くすより他無かった。

 そうこうしている間に、その王女に立ち向かっていた女性、ディナールと王女との決着はついた様子で、王女がしぶしぶユウ達の前に出てきた。

 その姿は透き通るような白い肌と白い髪に赤い目をした少女だったが、髪はぼさぼさで服ははだけていて、王女らしい威厳が全く持って感じられなかった。


「ごめいわくをおかけしました」


 王女はユウ達に気の抜けた謝罪の言葉を言った。本気で反省はしていないようだったが、ディナールは一様は謝罪をしたことでこれ以上の追及は諦めた。


「はぁ。しっかりと反省なさってくださいね――ユウ、ネイありがとうございます」


 ディナールはまるで王女の代わりにと言わんばかりに深々とお辞儀をした。一方の王女は一言いうとすぐにまた布団にくるまってしまった。


「い、いえ。それにしても、そのなんていうか」


 ネイとユウはまさか王女から謝罪されるとは思わなかったので反応に困った。


「王女殿下の事ですか?なぜ一国の王となる者がただの使用人に謝罪するとは思わなかった。と思っておいででしょう?」


 ユウ達の反応から内心を見透かしたようにディナールは言った。


「え、まあ、はい」


「だからこそ何ですよ。自らの非を認めることもできないようでは王となる資格はありません」


「はあ、そういうものですか。ただ、それにしても、なんというか王女殿下はあんなに小さいのに少々厳しような……」


 ネイが王女へは聞こえないようにディナールに言った。すると――


「だーれーが、小さいだ。私はこれでも18だぞ」


 王女が突然に布団から飛び出して叫んだ。そのさいの様子がユウには小動物が自身を大きく見せようとする威嚇に似て見えた。


「……えっと、十八か月ってことですか、ははは、王女殿下は冗談がうまいですね。まさかそんなに幼くは無いでしょう」


 ネイは軽い冗談なのだろうと、王女の言葉を自らの失言ごと流そうとした。


「ネイさん。気持ちはわかりますが、違います。王女殿下は一見そうは見えませんが、それでも一応18歳です」


 ディナールが王女を刺激しないよう配慮しながら補足したが、その場の空気が凍り付くことは避けられなかった。


「……なぜ黙る。お前ら私が18歳だと何か不味いのか。無礼な奴らめー」


「殿下。暴れないでください。いくら()()()とはいえ、暴れると怪我をしてしまいます」


「ディナール。お前まで……父上も母上もみんな背が高いのになんで私だけ」


「陛下、どうか気を落とさないでください。陛下の良いところはもっと他にあります。そうだ、絵を、絵を見せてください。また新しく書いたのでしょう?」


 落ち込む王女をディナールは懸命になだめようと、王女に絵を見せてほしいと提案した。

 王女も、まんざらでもない様子で立ち上がって、今いる部屋のその奥の部屋へとゆっくりと向かって行った。


「さ、行きますよ。ユウ、ネイ」


 なぜだか、それにユウとネイも付いて行くことに成ってしまった。




 王女の部屋の奥にある部屋は丸々一部屋王女が絵を描くための部屋として使っている。

 一部屋と言っても、ユウとネイが泊っている部屋の何倍も広い部屋である。

 部屋には至る所に書きかけの絵や画材が所狭しと並んでおり、その中でも一際目を引くのは壁から天井に至るまで描かれた一枚の巨大な絵だった。


「天井の絵が気になりますか?」


 巨大な絵を見るため頭を上げていたユウにディナールが声を掛けた。


「い、いえ別に。ただ、すごく大きな絵だったので、まさかこれも王女殿下が?」


「いえ、これは違います。これは昔仕えていた宮廷画家によるものです――壁の一番端に二人の人物が見えるでしょう?」


「え、あ、はい」


「これは彼らの人生を追った絵で、正面が誕生、そして天井へと二人の人生を描いたものです」


 ユウはその絵を目で追った。正面には天から二人の赤ん坊が下りてくる絵が、そしてその上には成長した二人も絵が続いていた。だがその途中、突如一方がもう一方へナイフを突き立てる絵が挟まった。それから二人は左右に分かれ。最後に二人は天井に移り、互いに剣を構え、向かい合っている。


「彼らはいったい何者なんです?」


「彼らはムクロイナとヨーライック。建国神話では彼らはそれぞれ同名の二つの国を建国者とされています」


「そうなんですね。それで……」


 ユウはネイから聞いたことを思い出した。

 ムクロイナとヨーライックの二つの国家は昔から対立していたと。そしてムクロイナではネイ達ヨーライックの人々の扱いがよくないこと。

 それは神話の時代から続く、根が深いものであったのだ。


「しかし、この絵を見てもわかる通り、ヨーライックもムクロイナも元は同じだった、と考えられています。ただ神が二人に差異を与えたことで、二人は決別しました。その後二人は争いますが、最後には同じく天へと昇って行った」


「詳しいんですね」


「当たり前だー。なんせディナールはこの国の、いやこの世界で一番賢いからな」


 ディナールとユウが話していると、再び突然に王女が話に分け入ってきた。


「……王女殿下、私のことではなく早く自らを誇れるようになって下さい」





 何はともあれ、ユウとネイ、そしてディナールは王女の機嫌を取るために王女の絵を見に来たのだった。


「これが、この前書いたの、こっちは今書いてる途中のそれであっちのは……」


 王女は自らの絵を自慢しに部屋の隅から隅へ慌ただしく動き回っている。ネイはその慌ただしい動きに食らいつく様に追従した。

 一方でユウは王女の絵にどことなく違和感を覚えた。

 王女の絵の多くはこの町や城の中の景色を書いたものばかりだったが、それには何かが足りなかったのだ。


「ユウ。どうかしましたか?」


 ディナールはユウが王女の絵に違和感を抱いたことに気づいたかのように、心配そうに尋ねた。


「いえ、なんというかそのこれってこの町(カプツィナ)ですよね?」


「ええ、そうですが。何かおかしい事でもありましたか?」


「い、いえ。おかしいところとかじゃなくて、なんというか、その、この絵は綺麗すぎるのかなと思います。実際のカプツィナはこんなに綺麗じゃないですし、いやそれどころかむしろ場所によってはカプツィナは汚いぐらいです。この路地裏の絵とかは特に、路地はもっと暗くて、もっと汚い感じが……えっとディナールさん?」


「……ユウ。あなた」


 ユウの言葉はディナールにはバツが悪いものの用だった。

 ディナールだけではない。さっきまで部屋を走り回っていたネイや王女もきまり悪そうにユウを見ている。


「あの、俺何か不味い事言ってしまいました?」


「おいおいユウ。何言ってんだよ王女殿下の面前で」


「いや、別に王女殿下の絵が悪いって言うんじゃないんです。むしろすごくうまいと思います」


「そんなことじゃない。お前王女殿下の名を知らないのか?」


「名前?」


 ネイがユウに耳打ちする。しかしユウには王女の名前は知らなかった。なぜなら城では誰も王女を名前で読んでいなかったのだ。


「おかしな奴だと思ってたが、まさか知らないのか?はぁ~。普通知ってるだろ。お前どこで働いてると――」


「ネイ。その辺にしておいてください。ユウに悪意は無かったようですし」


「はぁ、まあディナールさんが言うなら」


「今後失礼が無いように、ユウに紹介しておきましょう。さっきから遠くでこっちをちらちら見ている彼女は、ムクロイナ王国第一王女。カプツィナ・パーブム・ムクロイナ。ついでに私は殿下の学友、ディナール。一応これでも殿下と同い年です」


「えっ、同い年」


 ディナールがユウにした自己紹介で真っ先に反応したのはユウではなく隣に居たネイだった。

 ネイもディナールが王女が同い年だということは知らなかったのだ。


「……とにかく、ユウ。王女陛下に謝って来て下さい。せっかく機嫌がよくなってきたのに、また落ち込まれると困ります」


「はい、すいません」


 ディナールがユウに耳打ちした。ディナールにとって王女が気を悪くすることは避けたい事だった。その為、一刻も早くユウに釈明の機会を与える必要があったのだった。

 ユウは今もまだ大きなキャンバスの後ろからこちらを覗いている王女の方へと向かった。が――


「帰れ」


「謝らせてください。さっきは知らなかったんです。決して殿下を貶したわけでは――」


「かーえーれー」


 ユウが釈明するも、王女はもうすでに気を悪くしてユウの言葉に聞く耳を持たなかった。




 ユウとネイは王女に言われるがまま、部屋を後にすることに成った。


「悪い、ネイ。せっかく王女に気に入られるいい機会だったのに、俺の所為で」


「いいさ、気にするなよ。俺だって同じようなもんだし――それにしてもわがままな王女様だよな。あれに振り回されるディナールさんは大変だろうな」


「ああ、確かにそうだな」


「相当だぜ、なんせ使用人ですらないんだ。しかもあの王女ときたら、夜に城を抜け出したりするんだから」


 王女の城からの脱走。ディナールの話では今月で二回。それもその内昨晩の少なくとも一回は城の壁の外に出ているのだ。


「なあ、そのことで気になったんだけど。王女殿下はどうやって城の壁を越えたんだろうな?門は締まってるし、壁は越えられる高さじゃないだろ」


「ああ、そうだな。確かに。それにいくら夜とはいえ王女の部屋から歩いて外に出ようとしたら、誰かに見つかるだろうしな」


「だよな」


「使用人でもこっそり壁を超えるなんてできないしな。だが王女には不可能じゃないんだ」


「どういうことだ?」


「使用人の間でもっぱらの噂。王女はどうやって壁を越えたのか。上もだめ、正面もだめ、じゃあどこを通ったのか。でもそれは結局のところ方法は一つしかない。つまり()()()だ」


「壁の下?ひょっとして地下通路みたいなものか、あるのかそんなのが?」


 ユウはヒエラルが言っていた任務について思い出した。

 ユウに与えられたのは城の地下室を探すこと。ネイの言葉はまさにユウの必要な情報だった。


「お、おい。落ち着けよ。なんだいきなり。まあ、俺もあまり確かなことは言えないけど、王女含む王族しか知らない地下通路がこの城にあるってのは確からしい」


 ユウはこれから地下を探すはずだった。そんなユウにネイの言う情報はまさに渡りに船だった。

 少なくとも、それは次にユウが行く道を示したことは確かだった。

目指す道の先に何があるのか、心して降りる。次回地下へと、その一歩を踏み入れる。

くれぐれも暗闇に足を取られないように――

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