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望まぬ君を望む世界  作者: 波積 形り
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第八話:偽りの英雄と小さな王女・2

ある日の何でもない日、ユウの日常、光ある世界。

ある日の何でもない日、ユウの非日常、光無き世界。

 ユウが城に来て何日か経ったある日。

 ユウがいつも通り朝食の時間に間に合うように目を覚ました。

 ドンレミとの一件があってから、隣の席の四人がネイにちょっかいを掛けてくることは無くなった。そのためこれまでのようにわざわざ早めに行く必要もなくなったためかネイも朝から慌てる必要は無くなり、ユウが先に起きることも多かった。

 しかし、今日はユウが目を覚まして、そして着替えを終わってもネイが目を覚ますことは無かった。


「おい、ネイ。いつまで寝てるんだ?もう朝だぞ、流石に寝すぎじゃないか」


 ユウがネイを起こそうと体をさする。すると、ネイは煩わしそうにユウの手を払って言った。


「今日は休みだ。休みの日ぐらい寝させてくれ」


「休み?」


 ユウは知らなかったが、ここの使用人は週に一度交代で休みがある。

 今日はユウが城に来てから初めての休みだった。

 休みの過ごし方は使用人の自由で、ネイのように一日寝ているようなものも居れば城の外に遊びに行くものも居る。

 ユウにとってそれは予定外のことであったが、休みがあるなら何をするかは決まっていた。 


「もう何日も会ってないのか、早く会いたいな、ニーア。元気にしてるといいけれど」  


 そして、ユウは使用人の制服を着替え、城の門まで向かった。が、しかし――


「外に出るには許可証が必要?」


 まさかの事態であった。城の外に出るには事前に使用人宿舎で外出許可証を発行しておかなければならないのだという。

 そして、その外出許可証は規則として、当日の発行はできないということが決まっていた。


「その、何とかなりませんか?」


「残念ながら、規則ですので。許可証さえあれば通しても大丈夫なんですが……」 


「……はい。すいません。出直してきます」


 ユウはしぶしぶ、宿舎に戻ることにした。




 そんなこんなあって、ユウが門から宿舎へと歩いていると。


「あら、ユウじゃありませんか。仕事にはもう慣れましたか?」


 そこにフォルトゥナが偶然にもすれ違った。しかしフォルトゥナはいつものように使用人の制服ではなかった。


「あ、フォルトゥナさん。はい。お陰様で」


「何かありましたか。浮かない顔して?」


「え、ああ。すいません。顔に出てましたか。実は……」


 ユウは城の外に出たいという旨をフォルトゥナに話した。


「なるほど。そうでしたか――では、私の許可証を差し上げましょうか?」


「え、いやでも」


 フォルトゥナが使用人の制服を着ていないということはユウと同じく休日を利用して、城の外に出る予定だったはずだった。


「許可証の名前の欄に名を記せば大丈夫です」


「いやそれでも、わるいですよ。だってそれはフォルトゥナさんが外出のために貰っておいたものでしょう?」


「そうですけど。私は別にそれほど重要な用事じゃありませんので、それにこれは英雄の持て成しをしっかりとやり切ったユウへの、私からのご褒美ですよ」


「へ、ああ、はい」


 ユウはフォルトゥナがいきなりにその美しい顔を近づけたので、驚いてその提案を了承してしまった。


「必ず、日付が変わるまでに帰って来てくださいね。許可証の期限は当日限りですから」





 フォルトゥナの助けもあって、ユウは無事に城の門を抜けることができた。

 そしてフォルトゥナに感謝しつつ、すぐさまニーアの元へと向かった。

 現在の時刻はまだ早かったが、外に出ていられるのは一日しかないのだ。

 ユウは寒空の下、カプツィナの街を駆け抜けて行った。


「ニーア。居るか?」


 ユウが病室の扉を開け、ニーアが居るベットへと向かった。

 ユウが来たことをベットに腰かけていたニーアは、まるでユウが来ることを知っていたかのようにすぐに気が付いた。


「あ、ユウくん。久しぶり」


 ニーアはユウが見た限り前に会った時から変わりなく元気そうだった。一つ変わったとすればニーアはその手に大きな紙袋を持っていたことだ。

 ユウはそれが気になって、ニーアにそれはどうしたのかと、ジェスチャーで伝えようとした。


「ん、ああこれは。昨日、首から大きなペンダントを掛けた人とおばさんが来て置いていったの。私、ユウ君からだと思ってたんだけど、違うの?」


 ニーアは不思議そうにしながらも、紙袋の中身をユウに見せた。

 紙袋の中身は冬用の暖かそうな上着とマフラーだった。


「最近急に寒くなってきたから、これを着て外に行かないか?って言ってくれてるのかと……」


 ユウには首から大きなペンダントを掛けた人の心当たりは一人しか居なかった。


「ヒエラル。なんでこんなことを、何か裏があるのか。それとも――」 


「ねえ、違うの?ユウ君。それにさっきから難しい顔してどうしたの?」


 ニーアはユウが何か悩んでいることは一目でわかり、不安な気持ちになった。

 ユウにはその不安そうな顔は見ていられなかった。なので何でもないように笑って、ごまかすことにした。


「そう、本当に大丈夫?」


 ニーアにはユウがなにか自分のために抱えているのではないかという心配が募った。

 それをユウは必死に首を左右に振って否定した。




 しばらくして、ニーアとユウは町を見て回ることにした。

 本当に大丈夫なのか心配なユウではあったが、外に出れないままなのは不憫だった。

 そして、ニーアが「()()()()()()()()()()()()()()()()」と言ったことが、ユウを後押しした。

 裏道に入れば暗く汚いカプツィナの街も昼間の大通りは活気に溢れた、観光地だ。

 二人ははぐれぬようにと自然に互いに手を握った。それはなぜだかユウ達には新鮮で、少し気恥ずかしかった。

 街に行くと言っても、別にどこかに行く当てがあったわけではない。

 ただほんの少しの間だけ、診療所の近くを回るだけだ。ただそれでも久しぶりに過ごすユウとの外出の時間はニーアにとって他に変えが無いものだった。

 それは勿論ユウにとっても同じだった。

 ユウにとってニーアは、ヒエラル達が居る様な世界とはまるっきり違う光に満ちた世界の住人だった。そしてニーアとともにいる間は、ユウ自身もその世界に属しているのだと思うことができた。




 二人が町を歩いていると、開けた大通り一面に露店が並ぶ区画に通りかかった。

 それはカプツィナの街の近くの村から来た行商達の集まりだった。

 ユウにはあまり興味はわかなかったが、ニーアが楽しそうに商品を見ていたのでユウも楽しかった。

 立ち並ぶ店の片隅のある商人の店の前を通った時、ある珍しい商品を見て二人は足を止めた。

 そこでは小さな金属製の指輪を売っていた。


「どうかしたのかい。ニーア?」


「あ、ううん、何でもないの。少し気になって」


「お客さんたちは恋人かい、それとも夫婦かい?それを選ぶとはお目が高い。それは二人の魂を結ぶ、うちの特性の指輪だよ」


 ユウ達が話していると、店の男がユウ達に声を掛けてきた。


「なんていうか、珍しいですね」


 ユウにはこういった装飾品を行商が売っていることが珍しく感じられた。実際、その隣もそのまたとなりもそのようなものは売ってはいなかったし、この露店の並びの中にはここぐらいのものだった。


「ん、ああ上流階級の間で最近流行りだって話を聞いてよ、俺も作ってみたんだ。戦争が終わっちまって、うちも本職だけじゃ食っていけないんでさあ。どうだい買うかい?安くしとくよ」


 その男が言うようにそれは確かに指輪ではあったが、ただ金属を曲げただけの質素な、見る人にとってはガラクタと大差ないような物であった。

 しかしユウ達にはその指輪は魅力的に見えた。そして値段もそれほど高くない。


「嫌でも、すいません俺持ち合わせがないので」


「そうかい、そりゃ残念だね」


 ユウは今一切金を持っていない。それだけが障がいだった。

 元々ユウはお金を借りてこの町に来て、今は城で働いていると言ってもまだ給与は受け取っていないのだ。


「おや、お困りかな」


 その声はもうユウには見知った声だった。

 その声でユウはニーアとの光に満ちた世界から引き戻されてしまった。


「ヒエラル。どうして、こんな昼間に?」


「いやなに、人と会う用があって出てきたんだが、すっぽかされてしまってね。これからアジトへ帰る最中だったんだが、偶然にも途中で君達を見つけたというわけだ」


「そうか」


「まあ、偶然といっても。丁度君に伝えておくことがあったのも事実だがね。それよりも指輪(それ)、買わないのかい?」


「買わないさ、というか買えない。持ち合わせがないからな」


「なるほど、そりゃ残念だ――ところで、指輪を売っているそこの君、それを私が二つ買いたいんだが、売ってもらえるかい?」


「はい、もちろんですが……」


「どういうつもりだ、いったい?」

 

 ヒエラルの行動にユウは疑問を覚えた。なぜならヒエラルのような人間に恋人がいるとも妻が居るとも思えなかったのだ。店の男もそう思った。


「別に、ただ丁度買おうと思っただけだ。欲しいか?」


「要らないね、物はともかく、あんたからは受け取らない」


「そうか、それは残念。場所を変えるぞ、ここからは仕事の話だ」





 ユウはニーアを診療所へ連れて帰り、楽しい時間は終わった。

 今ユウとヒエラルは診療所の裏の、人目に付かない場所へと移動した。


「それで、いったいなんなんだ。仕事って?」


「どうした、いつに無く乗り気じゃないか――まあ、それもそうか、ひとまず潜入成功おめでとう。そして次の指令を送ろう」


「次の指令?」


「今君が働いている城に地下室があるのは知っているか?」


「……知らない」


「だろうな、我々も知らない。だから君に調べてほしいんだ。地下室はあるのか、そしてそれがあるのであればどうやって行くのかをね」


「そんなこと調べてどうするんだ?」


「質問を返すが、それを君が知ってどうするんだい?」


「……わかった。調べればいいんだろ。それで、話は終わりか?」


「ああ、ただ私から君へ一つ忠告しておこう――王の紋章の刺青に気をつけろ」


「王の紋章?どういう意味だ?」


「話は以上だ。お前も帰れ」


 ヒエラルはいつものようにユウの問いかけには答えず、言うだけ言って立ち去ろうとした。


「お、おい待てよ」


「何だ?」


「その、服の事。なんでニーアに服を送ったのか俺にはわからないけど――それでも、ニーアは喜んでいた。だから、()()()()()


「……人に感謝する前に、自分の心配をするんだな」


 その言葉だけを残して、ヒエラルはユウの前から姿を消した。これからどこへ行くのか、どこで暮らしているのかもユウは知らない。

提示と提出。

更新頻度が遅いのは某雪原の所為。アドベンチャーした。

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