第七話:王女様は美しいものがお好き・3
ユウが出会う様々な城の住人。次はどのような人物と出会うのか。
そして、彼らにユウは素性をバレずに済むだろうか。
「ふう、やっと入り口まで戻ってこれた。途中で言われてた箒も見つけられたし」
一時は暗くなっていた物置もユウが再び明かりをつけてから入り口に着くまでの間は消えずに明るいままだった。
「それにしても、さっきの子ども?はいったい何だったんだろう」
ユウを明かりのレバーまで連れてきた人物はそれから一度もユウの前に現れなかった。
しかし、考えたところで仕方がない事だった。それよりもユウに箒を持ってくるよう命じたフォルトゥナがユウを待っているはずだった。
「遅くなってしましました。これ、言われていた箒です。しっかり見つけましたよ……あれ、フォルトゥナさん?」
ユウが入り口まで戻って来て見ると、そこに居るはずだったフォルトゥナの姿は無かった。
それから入口周辺を見回したがやはり居ないようだった。
「はぁー。それもそうか、もしここに居たら明かりが消えた時に何かしてくれるよな――それより、これからどうすればいいんだ。とりあえず戻って見るか」
辺りに人影は見えなかった。その為ユウは道を戻ることにした。
ユウはフォルトゥナの案内の最中に通りがかった中庭に来ていた。
ユウは本当のところはもっとよく見てみたいという気持ちもあったからだ。
「近くで見るとますます綺麗だな」
ユウは特に自然を愛でる様な趣味は持ち合わせていなかった。しかし、そんなユウでさえも引かれるほどのものがそこにはあった。
ユウが花を見ていると、木に隠れる位置にユウと同じく花を愛でている人物がもう一人居るのを見つけた。
それは明るい茶髪を短くまとめた髪型の女性で、一目ではフォルトゥナと同じ制服を着ているとは思えないほどに着崩された制服を着ていた。
その女性はまだユウには気づいていないようだった。ユウは声を掛けようかと考えたが、じっと花を見ている様子に声を掛けづらかった。
それはまさに食い入るようにという様子で……
「ムシャ」
「は?」
ユウは思わず声を上げてしまっていた。
ユウはその女性が花を愛でていると思っていたのだ、少なくとも花を食べだすとは全く思っていなかった。
ユウの声に女性もユウに気づいたようだ。
「ん?えっと。何か御用でしょうか?」
何事も無かったかのようにその女性がすました顔でユウに尋ねる。
「いや、別に御用というか――今食べましたよね、花」
「……食べていません」
「え、いやでもさっき」
「食べていません」
「は、はい」
あまりにその女性が頑ななのでユウの方が折れなければならなかった。そもそもユウには食べたかどうかはどうでもいい事なのだが。
そんなやり取りをしていると、ユウ達二人の元に駆け寄って来る人物が居た。
それはフォルトゥナだった。フォルトゥナはユウを探していたのだった。
「ユウ。こんなところに居たんですか。探しましたよ」
「あ、すいません。その、戻って来た時に居なかったので。言われてた箒は見つけました」
ユウはフォルトゥナに頼まれていた箒を渡し、フォルトゥナはそれを受け取った。
「それでは行きましょうか、まだ案内する場所はたくさんありますから」
フォルトゥナは再びユウの案内をしようと歩き出した、もちろんユウもそれに続いた。
「ちょっと待った」
ユウ達が行くのを制止したのは花を食べていた女性だった。
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか?じゃなくて。その、そこの」
「ああ。ユウですか。ユウはここの新しい使用人です。そう言えば、まだユウは制服を貰っても居ませんでしたね」
「そ、そうか。で何やってた?フォルトゥナは」
「私ですか。私はユウにこの城を案内しています。そうしろと言われたので」
「何だ何だそう言うことか、なら後はあたしに任せなさい」
「……何故?」
「その箒。持ったまま案内するのか?それにあたしの方が先輩だ。先輩の言うことは聞きなさい」
「何時まで行っているんですか、先輩と言っても数日しか変わらないでしょう――まあ、良いでしょう。あとは任せます」
「おお。大船に乗ったつもりで任せなさい」
フォルトゥナを見送り、ユウはもう一人の使用人を見た。なぜ、ユウの案内を引き受けたのか、ユウにその理由はわからなかった。飛び切り仕事熱心なのだろうか。
「よし、行ったか。私はエリー。お前使用人だったんだな」
フォルトゥナが見えなくなって早々。エリーはユウにいたずらっ子のような笑顔で言った。
「はい。えっと。挨拶が遅れました。よろしく――」
「あーそういうの良いから。肩の力抜けよ」
「あ、ああ。はい」
「で、本題だけど――お前見てただろ」
「えっと、何を?」
「とぼけてるのか?さっきあたしが花を食ってたことだよ」
「え、いやでもさっき食べてないって、痛っ。なんで急に足を踏んでくるんですか」
「うるさい。庭の花はな、この城の主である王女様のお気に入りなんだ。だからもし咲いた花を取ったりしたらどうなるか――と、とにかく、誰にも言うなよ。わかったな」
「は、はい」
あまりの剣幕で迫られて、その勢いだけでもユウはハイと返事をしてしまっていた。
「よし、わかればよろしい。じゃあ、あたしは行くから」
「え、いやちょっと。案内は?俺これからどこに行けばいいかもわからないんだけど」
エリーはユウを口留めだけするとすぐさま言ってしまった。
ユウは引き留めようとしたが、
「その辺の奴に聞いたら」
と、言うだけ言って行ってしまった。
「一体何だったんだ」
ユウは途方に暮れていたが、とにかく誰かいないか探すことにした。
ユウは人を探して、辺りを見回していると、ふと気になる建物があった。
それはユウがニーアの居た村にもあった背の高い建物。城の中には他にも大きな建物が多く目立たなかったが、その特徴的な屋根の形がユウにその場所が教会であると確信付けさせた。
「行って見ようかな」
その建物の風貌はユウが最後にデジデリーと会ってからまだそれほど時間が経ってはいなかったというのに、とても懐かしく感じられた。
ユウは教会の扉をノックした。
扉の鍵はかかっていないようだった。しかし、中からの反応は無かった。
「やっぱり、同じだ。村の教会と」
ユウが扉を開けて、中を見渡すとそこはデジデリーが居た教会とまるっきり同じ間取りだった。違うのはデジデリーが居ないというだけだった。
「どうかなさいましたか?」
教会の中を見ているユウの後ろから何者かが声を掛けてきた。
ユウは振り返り、声の主を見る。声の主はデジデリーが来ていたような白装束を来た若い男性だった。
「えっと。ここで使用人として働くことに成りましたユウと言います。すいません。扉が開いていたので」
「ああ、そうでしたか。いったい誰が来たのかと思いましたよ。私はノーブム。聖職者で、王女様の教育係の一人でもあります。それで何か御用でしょうか?」
「いや、用というわけではないんですけど……」
ユウは城に来てからの顛末をノーブムに話した。フォルトゥナに城を案内されていたこと、その後エリーがどこかに行ってしまったせいで、途方に暮れていたこと。
「……それは大変でしたね。ただ、残念なことに私は使用人ではないのでこういう時どうすればいいのか……あ、そうだ宿舎に行けばいいんですよ。そこに行けばきっと大丈夫です」
「なるほど。ただ、その宿舎ってどこにあるんですか?」
ユウはノーブムの案内もあって、何とか宿舎に着くことができた。
「あれ?どうかしたんですか、ユウ。エリーと一緒ではないんですか?どうしてノーブムさんと一緒に?」
ユウとノーブムを宿舎で出迎えたのはまたしてもフォルトゥナだった。
「いや、それはまあ、いろいろありまして――それよりフォルトゥナさんはどうしてここに?」
「ああ、私は少し取りに来るものがありまして。それより案内するにしてもそろそろ夕食の時間なので行きませんか?」
フォルトゥナの手にはさっきは持っていなかった、何かの瓶が握られていた。取に来たのはこの瓶だろう。
「はい、喜んで」
フォルトゥナの誘いにユウはこの城に来てからもうそれなりに時間が経っていたのだということに気づいた。
「あの、ところで私はそろそろ帰っても?」
ノーブムはユウをここまで連れてきた後、帰るタイミングを逃した様子だった。
ノーブムを見送り、ユウとフォルトゥナは食堂へと向かった。
その食堂はかなりの広さがあったが、ユウ達が来たときにはすでに使用人でいっぱいになっていた。
「すごい人ですね。こんなに沢山の使用人が居たとは思いませんでしたよ」
「そうですね、この城はとにかく広いですから。それにここに居るのでも使用人の全員ではないですよ。それでは私はこれで」
「え、食べないんですか?」
「いえそういうわけではなく、食事の席は決まっているので、私はこっち。ユウは……えっと確か空き部屋の、あ、あそこです、あの端の方の黒髪の使用人の前ですね」
フォルトゥナが指をさす方にユウが目をやる、そこには確かに短い黒髪の細身の男性が一人黙々と食事をとっていた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして、それと席が向かいの使用人は宿舎の部屋が同じはずです、もし何かあれば聞いてみるといいでしょう」
「はい」
ユウはフォルトゥナに会釈をして。言われた席へと向かい、着席した。
「えっと、食事中にすいません。俺は新しく使用人になったユウです。よろしくお願いします」
ユウが向かいの男に挨拶をした。しかし、向かいの男は食べるのに夢中なようで受け答えしなかった。
「あの――」
「宿舎の三階、303号室で待つ」
男はそれだけ言うと食器を片付けてユウの前から去って行った。
「何なんだろう。いったい」
ユウは夕食を取った。使用人とは言えこれほど立派な城の料理はどのようなものか期待していたが、期待したほどではなかった。それでも十分な量と味だった。
城の中の隅にある使用人の宿舎、城の大きさとそこで働く使用人の数にふさわしく、かなりの部屋数があり、ひとまずユウは食堂の男に言われた通り三階の303番の部屋へとやって来た。
「失礼します」
「よ、来たか。まあ、適当に座れよ」
部屋の中には二段ベットが二つ、しかしその内の三つは使われていなかった。
部屋の中央には机が一つと向かい合うようにして椅子が二つ。一つは部屋にいた男が座っているため、ユウはもう片方の椅子に座った。
「えっと、俺はここで使用人として働くことに成った――」
「知ってる。名前は?」
「ユウ、です」
「ユウか、おれはネイ、よろしくな」
「ああ、はい。よろしく」
ネイがユウに手を差し出し、二人は固く握手をした。
「ふ、まあそんなに硬くならなくてもいい。どうせそこまで長い付き合いになることは無いだろ?」
「ん?それはどういう……」
「どういう意味って、一か月後にあるパレードの準備のために追加の人員としてきたんじゃないのか?」
「えっ、まあ、そんなところだな。ところで、使用人の仕事について教えてくれないか?」
ユウは素性を知られてはいけないのだ。その為話を合わせて、すぐに別の話へと移した。
「経験が無いのに来たのか?まあ、いいか。とりあえず宿舎についてだが、部屋は四人部屋、最もこの部屋は二つ空きがあるが、基本的には部屋ごとに行動するから、何かあれば俺に言え。あと風呂とトイレは城にあるのを使う、食事は決まった時間に決まった場所で、制服はそこに置いてあるのを使え」
「ありがとう」
「それと荷物とかないのか?この部屋には届いてないみたいだが」
「いや、特にはない。あるとしたらこれだけだな」
ユウの唯一持ってきた私物、それは村に居た頃デジデリーから貰った教書だった。ヒエラルによってボロボロになったが、いまでもユウにとっては必要なものだった。
「ふーん。やっぱりなんていうか変わった奴だな」
ユウはヒエラルに言われていた通り、その素性を知られてはいけない。可能な限り怪しまれないようにしなければいけないのだ。
しかしそれもむなしくネイに確実に不信感を持たれていた。
「いや、そんなことないよ。そ、それよりネイさんは――」
「ネイでいい」
「ネイはそのパレードの準備のために来たのか?」
とにかくユウは話題を自分のことから逸らすために逆にネイに話を振った。
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれたな。そうだ俺はそのためにここに採用された――だが、俺の夢はそれでは終わらない。パレードが終わった後も使用人としてこの城で働き続け、そしていずれは王女の側近になる。そして王女はいずれ王になる。そうすればこの国のトップの側近として、この国で最高峰の地位と富を手にすることができる。どうだ、すごいだろ?」
「あ、ああ。それはすごいな」
「そうだろう、俺はお前や他の奴とは違う。というわけで、俺はもう寝る。じゃあまた明日な」
「ああ、また明日」
いきなりネイが将来について熱弁し、そして話し終わるとすぐさま寝てしまった。
ユウは思った。これからネイにあまりこのことは離さないようにしようと。
何とか気づかれずに無事初日を乗り切ったユウ。だがこれがどこまで続くだろうか。




