第七話:王女様は美しいものがお好き・2
何かしらいろいろあって、城で働くことになった、ユウ。
果たしてこれからどのようなことがユウを待ち受けているのだろうか?
前回の後書きに次は明日投稿するとか書いておいて投稿しないのは本当に駄目なって思います。反省。
カプツィナ城。
カプツィナの街の中心に位置し、その周辺は城下町として発展して来た歴史ある町並みが広がっている。
ユウは今その城の城門の近くまで来ていた。
この町に来てから何度となく見ていたが、近くまで来たことは無かった。改めてみるとその大きさは圧巻であった。
「本当に、こんなところに行くのか」
「ああ、そうだ。そして私が付いていけるのはここまでだ。くれぐれもへまはするなよ、ユウ」
ヒエラルがさっきの店で買った小綺麗な衣服に身を包んだユウに言った。
ユウはヒエラルの言葉に未だに半信半疑だった。
「へまって言ったって。俺、使用人の経験なんてないぞ」
「奇遇だな私もだ」
「いや、それでも――」
「ユウ――あまり調子に乗るなよ、私はお前の保護者でも友人でもない。お前が行くのは組織の人間ではないからだ」
「ああ、わかってるよ」
ユウとヒエラルは行動を共にしてはいるが、仲間などでは決してない。
それにユウはヒエラルからの仕事を受けた時点で無茶は承知の上だった。
「それで、最後に復習だ。ユウ。お前がこれからすることは何だ?」
「城に使用人として潜り込む」
「そうだ」
「……本当にそれだけなのか?」
ユウがヒエラルに尋ねる。ユウはヒエラルがどれだけ理不尽な要求をしてくるのだろうかと思っていたというのに、蓋を開けてればそこが城の中であるとはいえ使用人とは、これではまるで普通に仕事を紹介されたようだ。何か裏があると疑わずにはいられなかった。
「心配するな、他にも用意してある。それよりまずはこれからある面接試験の心配をするべきじゃないか?」
「え?試験」
「……言ってなかったか、そう言えば。まあ、安心しろ簡単な受け答えだけのはずだ」
「はずだ。って、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫かどうかはお前の努力次第だ。と、言いたいところだが今回は本当に心配する必要はない。そもそも、使用人は名のある人物の紹介状が有ればほぼ間違いなく通る。面接は形式的なものだ」
「あ、ああ。そうなのか……で、俺の紹介状を書いた名のある人物ってのは一体」
「私だ」
「え」
「私がそれらしいものを偽造しておいた。当然だろう、お前のようなどこの誰かもわからん奴の紹介状を書くやつなどいない。まあ素性が知れないのは我々にとっては好都合だが」
「不安だ……」
「落ち込んでいる場合か、それそれ時間だ、行け」
ヒエラルがユウに城へと行くように促した。
ユウが門番に声をかけると、驚くほどすんなりと城の中へと入る事が出来た。
恐らくはここまで簡単に入れたのはユウの服装によるものだろう。
この城の城壁はとても高い。それは城壁の外からでは城その物は半分以上見えないほどだ。
その為城壁の内と外ではまるで違った雰囲気がある。
ユウは門を抜けると、もうこれまでユウが居た町とは別の世界であるように感じた。
ユウはそのまま城の中の一室へと通された。
部屋の中には年配の男が三人ユウの様子を見つめている。
「君がサショー氏の推薦で来たユウ。ということで間違いはないね?」
ユウが部屋に入るや否や、男の一人がユウにそう尋ねた。
ユウはとりあえず会釈し、適当に話しを合わせることにした。
「はい、そうです。間違いございません」
「なるほど。身なりを見るにどうやら確からしい。よし、それでは早速今日から使用人として働いてもらおう」
「今は特に人手不足だからな」
「いやまずは使用人の誰かに案内をさせよう。この城は広い」
「そうだな」
「私も同意見だ」
「決定だな。さっそく誰か連れてこよう……」
驚くほどあっけなく話は終わった。三人の男の一人が使用人を呼び、ユウはその使用人に城を案内されることとなった。
「初めまして。私はここの使用人の一人。名をフォルトゥナと言います。以後お見知りおきを」
ユウの案内を任されたのはフォルトゥナと名乗る女性の使用人だった。
ユウの見た印象では歳はユウよりも一回り上で、落ち着きのある、使用人らしい女性と言った所作であった。が、その反面、容姿はその白い長い髪と黒色の使用人の制服が強烈な印象を与える、一般的に見てかなりの美人と言えるものだった。
「はい、よろしくお願いします。新しくここで働くことに成りました。ユウと言います」
「ユウ、ですか。あまりかしこまらなくても大丈夫ですよ、私もここで働き始めてそこまで長くないので、それより行きましょうか」
「はい」
初対面のユウにフォルトゥナは微笑み掛け、先導した。これから働くことに不安が大きかったユウだったが、その微笑みで不安の少しは拭われた。
「ここは宴会場。主に式典などで大勢のお客様がいらっしゃったときに使用します」
まず案内されたのは部屋の端から端まで100メートルはありそうな広い宴会施設だった。
天井も高く、この城の中でも一番の広さを誇る部屋であった。
「さて、それでは次へ行きましょう」
あまり一つ一つの部屋に説明している時間が無いためかフォルトゥナは次へ次へと部屋を進む。
「ここは、厨房。今は入りませんが、その隣の部屋が使用人用の食事場です。食事の時間は決まっているので気を付けてください。そして、厨房の奥が食糧庫です。ここには厨房担当の許可なしでは入れません。もし勝手に入るようなことがあれば――」
「あれば?」
「次の日には食卓に上がることに成ります」
「え」
「冗談です」
「ははは、そうですよね」
その時ほんの少しだけユウはフォルトゥナの言葉を疑わなかった。
ユウにとってはこの世界の習慣や常識はまだまだわからない事が多いからだ。
或いは、まさかいきなりフォルトゥナが冗談を言うとは思わなかったからかもしれなかった。ユウが最初に抱いたよりは案外愉快な人なのかもしれない。
「次に行きますよ」
フォルトゥナはユウを先導し、広い廊下を進み、そこから一度中庭に出た。
そこは町の中にあるとは思えないほど緑に満ちた場所だった。
綺麗に剪定された木や草。少し遠くには池さえも見えた。
しかしそれよりも目を引くのはまるでどこかの高原をそのまま持ってきたかのような美しい花園が見えたからだった。
「どうかしましたか?」
ユウが庭に見入っていると、フォルトゥナが急かすように尋ねた。
この庭も、城の中もユウには思わず足を止めてしまうほど目新しいものだが、フォルトゥナにとっては何でもないものなのだ。
「いえ、何でもありません。それでここは?」
フォルトゥナが案内した先には中庭を突き抜けてすぐ、古ぼけた倉庫のような、或いはまるで童話の世界で妖精が住んでいるような家をそのまま大きくしたような幻想的な建物があった。
「ここは医務室です。城の使用人であればいつでも利用できます。ただし、出入りには記録をつけるのでさぼりはできませんから」
フォルトゥナが扉を開けて医務室へと入っていく、それに続いてユウも中に入った。
外装に反して内装は白色の壁の落ち着いた、清潔感のある場所だった。壁にはびっしりと細かく文字が書かれたラベルを張られた瓶が所狭しと並んでいる。
そこに、一人の恰幅の良い男性が居た。
「失礼します。お医者様。こちらのユウが新しくここで使用人として働くことに成りましたので、ご挨拶に来ました」
その医者がユウをじろりと睨む。その顔は妖精というよりはゴブリンのようだった。
10秒、医者がユウをじっと見つめている。
「あのー。何か?」
「……いや、何も」
医者はただそれだけ言うとユウにはまるで興味を無くしたように部屋の奥へと入って行った。
「えーっと。俺何かやっちゃいました?」
ユウが医者に聞こえないように小声でフォルトゥナに尋ねた。
「いえ、そんなことはございません。お医者様は口数が少ない方ですので。行きましょうか」
「はい」
この城はとにかく広い。ゆっくり回っていれば。丸一日かかってしまうだろう。
今ユウとフォルトゥナは物置に来ていた。
「暗いですね」
物置は窓が無いせいか、まだ昼間だというのに真っ暗だった。
「今明かりを点けるので、少々お待ちください」
フォルトゥナは部屋の入口の近くにあった。レバーを上げた。
するとあっという間に物置は明るくなった。天井と壁に並んでいるの照明が出す、燃えるような光によって。
そんなことよりもユウが驚いたのはその広さだった。それは先程の宴会場と同程度の広さだったのだ。最も天井の高さは比べるまでもないほど低かったが。
「すごい広さですね」
「はい。基本的に城の消耗品はここで管理されています。もちろん勝手に持ち出してはいけません。もし持ち出すと――」
「持ち出すと?」
「剥製にして、この城に飾られることとなります」
「ははは、それは怖いですね」
二度目ともなるとフォルトゥナの物騒な冗談も驚きはない。ただの冗談なのだから。
「しかし、ユウ。ここで働くとなると、この広い物置の中から必要なものを探せなければなりません。ですからあなたに今から使いを頼みたいのです。この物置の中から箒を一つとってきて欲しいのです。よろしいですか?」
「はい。わかりました」
城の案内をすると聞いていたので少し驚いたが、ユウはフォルトゥナの頼みを引き受けた。
ユウは箒を探すという頼みを引き受けて、それからしばらく時間は過ぎた。
引き受けたは良いが、未だに見つかっていない。
それはこの物置がやたらと広い事によるものだった。ユウが入って来た入り口から、まっすぐ正面の壁まで来るだけでも、それなりの時間を要した。それにユウは箒を探しながらだったので余計に時間が掛かった。
「壁際まで来て、見つからなかったか。というと次は右か左か……」
ユウが左右を確認する。右に行くにしても左に行くにしてもそれなりに時間が掛かりそうで気が引けた。
「それでも引き受けたものは仕方ない。フォルトゥナさんも待ってるだろうし。とりあえず……右だ」
ユウは右に回り再び箒を探しに向かった。
その時だった。
急に物置の明かりは消え、辺りは真っ暗闇に包まれた。
「うわっ。何だ、いきなり……フォルトゥナさんか?いや流石にそんなことはないか」
ユウは何かトラブルでもあったのかと思った。もし何かあったなら箒を探している暇はない、それにこの暗さなら箒を探すどころではなかった。
ユウは戻ろうと来た道を引き返そうとした。
しかしこの暗がりでは足元がよく見えなかった。そのため床に転がっていた何かに足が引っ掛かり、転びそうになってしまった。
「うわっ……あれ」
しかしユウが倒れることは無かった。
何者かがユウの背後から、ユウの服を引っ張ったのだ。
「大丈夫?」
ユウの背後から声がする。その声は女性の、それもとても幼い声だった。
「あ、はい。ありがとう、ございます?」
ユウが振り向いて、礼を言おうとしたが、ユウの後ろには誰も居なかった。
「こっち」
声がしたのはユウの視線よりかなり下だった。
暗闇で顔はよく見えなかったが、その声の主は声の通り子どもの用だった。
「えーっと。とりあえずありがとう。もう少しで転ぶところ……」
ユウが声をかけると、その小さい影は黙りこんでしまった。
「こっち」
いきなり、その小さい影はユウと服の端を引っ張って、ユウをどこかに連れて行こうとした。
その力は弱く、ユウには簡単に振りほどけそうであったが、ユウはなぜだかその先導に従った。
ユウが小さな影に導かれてしばらく歩いた。するといきなりにその影は足を止めて、ユウの手を引っ張った。
するとユウは何かレバーのようなものに触れた。ユウはそれを上へ上げた。
突然に物置は光に包まれた。ユウは眩しさから、目をしばらく開けられないほどだった。
光に目が慣れて、辺りを見渡すと、そこにはユウ以外誰も居なかった。もちろんさっきまで確かに居たはずのユウを先導した小さな影も。
果たしてユウが物置で見た影はいったい何者なのか。
ユウはバレずに過ごせるだろうか。
そして、ヒエラルの真の目的とは何なのか。




