誰の責任か
アヤカが魔法で野原の炎を消していると、フェルズ共和国の国境警備兵の数人が、騒ぎの確認にやってきた。
「こ、これは……、グランダム王国軍は?」
すでに龍形態を解いて、アヤカに予備の服を貰って着て、俺が国境警備兵と話をすると、どうやらフェルズ共和国もグランダムの進軍は把握していたようだ。
迎え撃つ準備が出来ていないので、ほとんどの兵は避難して一部の兵が確認と時間稼ぎで残っていた。
だが、いつまで経ってもグランダム軍はやってこない。するととんでもない地響きと遠くに火の手が上がったので様子を見に来ると、グランダム軍を虐殺する馬鹿デカイドラゴンがいた。
すぐに様子見はトンボ帰りし、そのことをフェルズに伝え、今首都では大慌てでは無いだろうかと話していた。
「では、あのドラゴンはジンサイト、様が?」
「様って……」
「お願いです、すぐに首都に帰って大統領にそのことを伝えて貰えませんか?。……いえ、もう全ては解決してるとのことですから慌てなくてもいいのはわかります。ですが、私たちが伝えても誰もその話を信じてくれないと申しますか……」
「あー、わかった」
たしかに。
一体誰がスキルでドラゴンに変身したと信じるのか。
そんなスキルは、現地人の観点からは存在しえない。何故ならば現地人の観点から見れば、スキルとは努力を証明する形で現れるものだからだ。一体どんな努力をすればそんなスキルが生えると言うのか。
俺たちはアヤカの魔法で、フェルズの首都ファイザの大統領官邸へと飛んだ。
あっ、ちなみにアヤカの怪我は大したことなかったし、アヤカが気を失いっていたのから戻れば、回復魔法で余裕だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
今、大統領官邸へと飛行している。
俺は頭の中がステレオで困っている。
アヤカと話し、エリーとも話していても、脳内でミコトが話しかけてくるので、うるさくて仕方ない。
俺はアヤカたちを黙らせ、アヤカに誘導されて飛びながらミコトと話す。
「ミコト、お前ちょっと黙ってろよ……」
『っはあ?!何よ!あたしが助けてあげたんじゃない!こっちは一人で寂しいのよ!。……、ねえ、次はこの《アポカリプス》ってスキルを試させてよ』
「ふざけんなっ!絶対やばいだろそれ!!」
名前からして世界の終わりにしか使ってはいけないやつだろ!!
『わからないじゃない。このユニークマスタリーって、言葉だけで効果が想像出来ないのが多いのよ』
「……そんなのは使わなくていい……」
『なんでよ、せっかくあるのにもったいないじゃない』
俺は「はぁ」とため息をつき、
「それよりもスキルの入れ替えが出来るのか?」
『あたしもよくわからないわ。仁さんからこっちにスキルを返したりした?』
「するわけねえだろ」
ミコトは数秒考えてから、
『だったらやっぱり鍵を90度戻したからかしら、今はパソコンの画面では仁さんには行く前にセットした《ソードパッケージ》が入ってることになってるわ。でもユニークマスタリーを転送した時には、仁さんには《ソードパッケージ》は無くて、《龍化》と《超回復》が入ってると表示されてたわ。…………ねえ、やっぱりもう一度鍵を回していい?』
「やめろ……、落ちつかねえんだよ……」
そうなのだ。ユニークマスタリーをミコトから送って貰って難を逃れた。そしてものすごい力に溢れたのだが、力が大きすぎて落ち着かないのだ。ソワソワすると言うか、じっとしていられないと言うか。
物騒な言い方をすれば、破壊衝動に駆られると言うか。
自分でもよくわからないのだが、このままでは危険だと思って、ミコトに鍵を90度回させたのだ。
そうしたら破壊衝動は収まった。どうやらそれがユニークマスタリーの効果の終了だったみたいだ。
『でも、ちゃんと把握しとかないといざと言う時に困るわよ?』
「わかってる。でもまた今度だ。帰ったら話し合おう。だからとりあえず出てくんなよ。話がしずらいんだよ!」
『またそこに戻るの?せっかく話が出来るようになったんだからあたしにも付き合いなさいよ。釣った魚にも餌をあげなさい』
「誰が釣った魚だよ……。なら、ミコト、とりあえずわかってることは、鍵を挿して90度回していれば俺と会話も出来るし、そのまま鍵に触れていればこちらの情景が見えると。これは確定なんだな?」
『そうね、絶対と言い切れないけど、それがこの森羅万象を通ず鍵の効果ね』
「なら検証は後にしろ。こっちも忙しいんだよ。見ててもいいから黙ってろ」
『…………ぶぅ、わかったわよ……、仁さん、これは貸しだからね?』
「なんだよ貸しって!!、とりあえず大人しくしてろ!」
『はぁ~い……』
俺の会話を聞いていたアヤカが、
「終わりました?」
「ん、まあ、大体な」
「こちらももうすぐ官邸です。見てください、下は大変なことになってます」
アヤカに促され下を見ると、首都の入り口の外には大勢の人が集まっている。
軍だな。
どうやらグランダム国軍に対応するために、急遽編成したらしい。
俺たちは軍の前へと降りたった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
軍とのやりとりは省略する。
今は軍の偉そうなやつと話をして、大統領官邸来ている。
そして大統領に事の顛末を説明した。
大統領は忙しいのだろう、執務机に座ったまま俺の話を聞いた。
「なるほど、話を整理するぞ?水龍は居たが会話が成立したので、水龍の困りごとを解決してやったと。で、あの水龍は湖の主と言うか守り神みたいなもので、討伐は辞めて、守り神から目と尾を奪ったと」
「待て待て、討伐だったろうが」
その言い方はどうなんだ?!
大統領は執務机に座り、書類に目を落としながら話を続ける。
「そしてグランダムが攻めてきたのを察知し、まだ軍もぶつかっておらずに宣戦布告の名乗りもないまま、一人で50000人を虐殺し、その後始末は残ってると。この後グランダムは何を吹っかけてくるのか……」
「いやだってよ、あのまま攻め込まれたら困るだろ」
大統領はチラリと俺を見て、また書類に目を落とした。
「何をしようとグランダム国軍はまだグランダム国内だったぞ?……グランダムにフェルズがジンサイトを差し向けてグランダム国内で虐殺したと言われでもしたら……」
「……」
いや、そうかもしれんけど!
あのままでいい訳はないだろ。しかも俺のせいで攻めて来てるんだぞ?
「国家間の問題と言うのは、個人のいざこざとは違う。簡単ではないのだよ」
「……」
「更に突如現れた古代のドラゴンは、ジンサイトが変身した姿だと?呆れて物も言えんな」
と、執務机から立ち上がり、コツコツと大統領は歩き回った。
「勘違いしないで欲しい。ワシはとても感謝している。だがな、大事は一言相談してくれたら、また違うことが出来たのではないか?」
「…………全くその通りだ」
ここは素直に認めよう。
自分のことだと俺は断定したが、大統領は俺をフェルズ共和国国民と認めてると言うことだ。俺のしたことがフェルズは関係ないとは言えないと言っている。
面倒でもあるが、有難いことでもある。
大統領はまたチラリと俺を見て、
「いっそ、あのドラゴンがグランダムを焼き払ってくれたら楽なのだがな……」
「待て待て」
「ふっ、冗談だ。……少し嫌味くさくなってしまってるが勘弁して欲しい。あと始末を考えると頭が痛いのだ」
「わかる。俺が軽率だったよ」
大統領は苦笑いをして、
「その言葉だけで充分だ。ジンサイトと出会えた幸運に、ワシは本心から神に感謝しているよ」
「……」
大統領は天井を仰ぎ見て、
「しかし、まお────、アヤカ殿が心酔してるジンサイトが弱いわけはないと思っていたが、まさか、神のごとき所業の力を持っていたとはな…………。流石と言うべきか……」
「とにかくすまなかった」
俺は頭を下げた。
「そんなことを言うな。ワシとジンサイトの仲ではないか」
いつのまにそんな仲になったのか。
話がひと段落すると、この部屋、大統領の執務室がノックされた。
「入れ」
大統領が声をかけると、なんと熊の獣人のギルドマスター、グレンザが入ってきた。
「ルカーレ、ん?ジンサイト?来てたのか」
「あ……、ギルドマスターか。俺の話は終わったよ」
俺が部屋を出ようとすると、
「いや、待て。お前にも関係のある話だ」
「ん?」
大統領はギルドマスターに言う。
「なんだグレンザ?更に輪をかける厄介ごとか?」
「いや、やっかいと言うよりもルカーレから見たら朗報かもしれない」
「……なんだ?」
グレンザは顔を曇らせながら言う。
「今回の軍の出動は、グランダム王国は関係ない。首都グランダムのギルドマスターとミレイとか言うギルド員がグランダム国軍の将軍をかどわかし、私欲で軍を動かした。グランダム王国は関知していないと表明を発表した」
「はあ?!」
「なんだと!」
俺と大統領は目を見開く。グレンザは続ける。
「グランダム王国は首都グランダムのギルドマスターとミレイと言う獣人を拘束した。明日処刑されるようだ」
俺は言葉を失った。
いや、その可能性もあるし、事実そうなのかもしれないが、ギルドは軍を動かせるほどの力があるのか?失敗したから責任をなすりつけたんじゃ?
大統領は声を強める。
「馬鹿な!グランダムの将軍はそこまで無能なのか!!」
「そんなわけなかろう。50000の軍が消えるのだ。兵を消した力がそのままグランダムに押し寄せるのを恐れているのだろう。よくあるスケープゴートだ」
「なるほど、だろうな。だがワシは楽になったか」
「であろう?」
大統領とギルドマスターは顔を見合わせ納得する。
だが、俺はしっくりこない。
俺が部屋を出ようとすると、
「ジンサイト、念のため言っとくが余計なことをするなよ?この件は丸く収まる」
俺は大統領をチラリと見て、
「悪い、迷惑をかける」
と、部屋を出た。
「まて!ジンサイト!!やめろおおおお!」
俺は足を止めなかった。グレンザは何だ?と大統領に詰め寄っていたのが遠くに聞こえた。




