刺客
俺はアヤカを抱え、身体強化と剣を使って兵士をぶった切る。
だが、厚い鎧に阻まれるので、鎧の隙間を狙わないといけない。
一人を殺すのに倍以上神経を使う。
「囲めええ!!!」
正直逃げるのは簡単だ。
レベル4を入れてる今、はっきり言ってぶっちぎって逃げる事は出来る。だが、それをしたらフェルズの国境警備隊が死ぬ。
あの人のいい兵士たちが。
「いつまでやっている!相手は3人だぞ!!」
俺とエリーは、右へと大きく旋回しながら兵士たちを着々と減らしていく。だが、全く終わりが見えない。
瞬間、背中が泡立った。
ゾクリ
俺はとっさに剣を構えて何かを受けた。
キン!!
そいつはあり得ないほどの速度で飛んできて、俺を真っ直ぐ縦に斬ってきた。
俺の足が止まる。
「へえ、よく避けたね。さてはレベル4を使ってるね?ギルドは使えないのにどうやったのかな?」
「……誰だ」
若い、ぱっと見は日本人の高校生ぐらいだ。
「江戸川コナ◯、探偵さ」
「ふざけるな」
俺が睨み付けると、
「おっさんは冗談がわからないなー、これだから田舎もんは」
「……」
間違いない、日本人のようだ。
「…………やめろ、同郷を殺したくない」
そいつはあははと笑い、
「よく言うよ、さんざっぱら殺してるくせに。日本人の女性を救出しに行ったのに、レイプして殺したんでしょ?」
「っ、……そんなことはしてない!!」
そいつは口をへの字に曲げ、
「そっ、まあ、どっちを信じるって、ギルドを信じるよね」
「……」
男は左手を腰に当て、
「一回言ってみたかったんだ。「冥途の土産に教えてやるよ、俺の名は拓哉だ」なんちって、あはははっ!」
「……」
強い、これほどの威圧を受けたことがあるだろうか。
下手したら俺より強いかもしれない。
「まさか、お前……」
拓哉は首を振った。
「うんにゃ。おっさんはレベル3って聞いてたからさ。4で充分かなと。でも5を入れると疲れるからね。多分一番バランスがいいのは4っしょ」
「……」
出来る。その通りだ。
そこまで理解しているのか。
いつのまにか、特設リングのように兵士に囲まれ、兵士の輪の中には俺たちと拓哉だけになっていた。どうやらこいつに俺をやらせる腹積もりらしい。
少年のような顔つき、ツーブロックの髪をして、身長は160ぐらいの若い男、拓哉は、余裕の表情で剣でトントンと自分の首を叩く。
「もしかしておっさん、同じレベル4だからなんとかなるとか思ってない?」
「…………」
拓哉はいやらしく笑う。
「おっさんがいくらつぎ込んでるかわからないけど、俺は500万使ってるよ」
「……」
マジか。ならばレベル4が5個か、3もあわせて盛りだくさんか。ほぼ互角なスキル構成だ。
だが、俺が感じてる威圧感は互角なんて思えない。
拓哉はニンマリして言う。
「でもね、俺、職業《大剣豪》なんだ」
「っ!は?!」
と、思った瞬間拓哉は消えた。俺がキョロキョロ振り返ると、拓哉はエリーの目の前にいた。エリーもアヤカも硬直して反応出来なかった。
拓哉はエリーの頭に手を置き、
「君可愛いね、好みだな。手を出さないでね、出されると殺さなきゃいけなくなるから」
エリーは拓哉の手を払いのけようとしたが、エリーが腕を振った時には拓哉の手はもうなかった。
「なっ!」
アヤカは拓哉を見つめて言う。
「あなた、ギルドに良い様に使われてるのですよ?」
拓哉は目を細めてアヤカに、
「はあ?、てめえに関係ねーし。俺、デブは嫌いなんだよ、おばさん」
「っ!デ、おばっ?!!」
アヤカが目を見開くと、拓哉は俺の目の前に戻っていた。
舜歩か。
俺はアヤカに振り返ると、両手に拳を握りこみ、肩を怒らせプルプルと震えていた。
良かった、魔力が封印されてなかったらここは既に火の海だ。
拓哉は余裕の笑みを浮かべて、
「じゃ、やろっか。おっさん。俺、人を殺すの初めてだわ」
「……ならやめとけ」
「冗談」
拓哉はまっすぐ俺に向かって走りこんでくる。そして俺の目の前に手のひらを出してきた。
ネットで聞いたことある。これ、手のひらに隠れて左右どちらかから攻撃してくるやつだ。
俺は目線を拓哉の足元へ向けて位置を確認する。
右だ!
俺は右足を左後ろに引き、右側に体制を作り、俺の首めがけて振られた剣を剣で受けた。
キン!
俺の剣が弾かれる。弾かれた勢いを利用し、俺はぐるっと一回転回りながら、拓哉の足首を切りに行く。
拓哉はそれをひょいとジャンプして避けた。
俺は避けられた剣、いや、それを持つ腕を左膝で蹴り上げ、剣を燕返しのように上に切り上げる。
キン!
拓哉はそれを剣を横にして受けた。
下方向に跳ね返った剣を、俺はグルンと一回転して拓哉の脳天に下ろす。
だが、それよりも速く拓哉は俺の腹を横薙ぎにした。
俺は攻撃を諦め、バックステップで躱すと拓哉は弾丸のように追いついてきて、俺の喉めがけて剣をまっすぐついてくる。
俺はマトリックスばりにブリッジで突きをかわし、左に転がりながら体制を整えようとする。
だが、俺を執拗に拓哉は追いかけてきて、俺へと剣を突き刺す。
ごろん
ザシュ!
ごろん
ザシュ!
ごろん
ザシュ!
左手で掴んだ土を、地面を回転しながら投げつけ、ほんとの一瞬だけ拓哉が怯むと、俺はなんとか起き上がった。
この間、ものの10秒ほどの出来事だ。
「へぇ~、やるじゃん、おっさん」
「……何もんだ、お前……」
まずい、今の攻防でわかった。
剣に関しては、何でも屋の俺より大剣豪の拓哉のが部が良い。
……負けるかもしれない。
「それに答える必要はないかなっ!!!」
~~~~~~~~~~~
もう、10分ほど斬り合っている。
拓哉は疲れは見えるものの無傷、対して俺は疲れていて更に、浅い切り傷を10以上貰っている。浅いとはいえ剣で斬られてるのだ、このままでは出血量もやばい。
拓哉は斬り合いながら喋る。
「もう、無理すんなおっさん!!」
キンキンキンキンキンキンキンキン
「はあ、はあ、はあ!」
対して俺は軽口を返す余裕もない。
「はやく!、諦めちまえよ!」
キンキンキンキンキンキンキン
雑念が消える。
いや、雑念を考えてる余裕もない。
「しつけえええええ!!」
と、拓哉が叫んだ瞬間、拓哉は目の前から消え、背中にぞわりと鳥肌が立った。
俺は振り返ろうとしたが、
もう、遅かった。
グサっ!!!
「仁さん!」
「ジン!」
俺の右胸には、背中から剣が生えた。
ブシュ!
すぐさま剣は抜かれる。
ブシャァと血が噴き出した。
負けるのか
やっぱ年かな
スキルがあっても若い奴には勝てないか
アヤカとエリーの叫び声と、拓哉の話し声が遠くに聞こえる。
終わりなのか…………
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
同時刻、《ジンサイトベース》にて。
ジンサイトベースでは、ミコトがコスプレからホットパンツに着替え、片付けや次の発進のネタを考えていた。
それに、ジンからの頼まれごともあった。
ミコトは手のひらサイズの鍵を、くるくると弄んでいる。
「はぁ~、あたしも異世界行きたいなぁ~。てゆうかこの鍵、いくらあたしの職業がキーマスターだからって、無茶振りが過ぎない?、異世界に行ったこともないあたしが、どうやって使い方を調べるのよ!」
ミコトは、ジンがいつのまにか持っていたという二本の金色の鍵の調査を任された。
何故か名前だけは覚えていると言う。
1つは森羅万象を通ず鍵。
もう1つは諸行一切を遮断する鍵だと言う。
「なんじゃそりゃ!!!」
ミコトは椅子の背もたれに仰け反りかえる。
当然、パソコン机の引き出しにあった、金色の半球体がすぐに頭に浮かんだ。
そして半球体の鍵穴に鍵を挿してみたのだが、入るには入ったが全く回せなかった。
鍵穴が悪いのかと思って、潤滑油を挿してみたり、色々試してみたのだが、刺さるだけで動かない。
ミコトは諦めて、鍵で手遊びをしていた。
「大体ね、異世界の謎を調べさせるなら、異世界に調査に行かせなさいよ!…………、まあ、あたしからは言わないって約束しちゃってるし……、はぁ~!あんなこと言わなきゃ良かった!」
ミコトはパソコン机に両足を投げ出し、鍵をお手玉のように、ぽいぽいと天井に向かって投げる。
すると突然!、片方の鍵が目が開けてられないほどの光を放った。
ミコトは慌てて、目を瞑ったまま手を前に出すと、鍵は手の上にポトリと落ちた。
ゆっくりと目を開けると片方の鍵が優しい光を放っている。
「な、何よこれ…………」
意味がわからない。
何故突然光るのか。
光ることに何の意味があるのか。
だが、今までとは違うということだけはわかった。
「と、とりあえずかしら?」
ミコトは光る鍵を持ち、引き出しを開けるとなんと金色の半球体も淡く光っているではないか。
「うそ、どうして……」
ミコトは色々な疑問を置いておき、とりあえず鍵を半球体の鍵穴に差し込み、ゆっくりと鍵を回してみる。
動いた。
何故か動いた。
そのまま鍵を回していくと、90度のところで止まる。
そして、パソコンの画面に文字が映し出される。
その文字は金色に輝いている。
《Unique Mastery Unlocked 》
「……は?!」
いつもは画面の右側にはスキルの一覧が、左側にはギルド登録証を差し込んだ人の名前や職業などのステータスが表示される。
だが今は、右側にはみたこともないようなスキルが並び、左側にはジンのステータスが表示されている。
「ちょ、ちょっと!なんなのよこれ!!!」
『ミ、ミコト……』
「は?!え?!」
いきなり誰かに話しかけられた。
ジンサイトベースの中を見渡しても誰もいない。
『ミコト……』
「え?!ジン?!仁さんなの?!」
だが、まるでテレパシーというのがあれば、こういうものではないかと思えるほど、自然と頭の中に声が聞こえ、何故かこっちの声が聞こえてるようだ。
「まさか……」
彩花たちはスキルで離れていても話が出来ると言っていた。それと同じようなものか?
ミコトは鍵に目を落とす。
「森羅万象を通ず鍵…………?」
ミコトはおずおずと鍵に手を乗せると、脳内に映像が映し出される。
そこには、彩花が血を流して地面に転び、エリーは、誰かわからない男に首を掴まれ釣り上げられ、服が破かれたように、胸が丸見えになっている。
そしてジンは、血みどろで地面に転がっていた。
「え?!何?!!仁!仁!!」
『ミコト…………た、すけ……、アヤカを、エリーを…………』
「なんなの!もう!なんなのよ!!」
ミコトは頭を掻き毟り、わからないながらも画面に現れたスキルを動かしてみる。
動く。右から左へと動く。
みたこともないスキルが……。
「…………よくわからないけど、状況はわかったわ!ようは負けそうで仁は死にそうなのね?!!」
ミコトは2つのスキルを左へと動かす。
「ならこれとこれよ!!!」
ミコトは鍵を握り、ジンに対して叫ぶ。
「仁!!多分これでいけるわ!だって……全てを通す鍵だもの!!出来なかったらここを燃やしてやるわ!!」
ミコトは目を血走らせる。
「さあ、行くのよ!」
『ミコト……』
「仁!あんたがやるの!!これで全てを解決しなさい!!」
ミコトは力強く鍵を握りしめる。ミコトの魔力が鍵に吸い込まれる。
「これがぁ!!!」
ミコトは半球体の鍵を押し込み、更に90度回す。
「これがぁ!!……、勝利の、鍵だぁぁぁぁぁ!!!!!」
ギュイン!
鍵が更に90度回ると、半球体は花開くように広がり、何やら機械のように動き出し、丸いテーブルのようになった。そして丸いテーブルは動き出し、《転送》と言う文字を形作る。
同時に半球体はどえらい光を放った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ミコトの声が聞こえていた。
何故死に際にミコトなんだろう。
何かごちゃごちゃ言ってるが、最後の言葉だけは良く聞こえた。
『これがぁ!!……、勝利の、鍵だぁぁぁぁぁ!!!!!』
急激に力が流れ込んでくる。
脳内に何かが頭に浮かぶ。
《超再生》
《龍化》
なんだこれは……。
だが途方も無い力だ。
「ジン!」
俺は身体が金色に輝き、傷がみるみる癒えていく。
意識がはっきりしてくる。
俺は立ち上がり、辺りを見ると、血だらけのアヤカと、ひん剥かれたエリーが拓哉に吊るされてるのが目に入った。
「てめえ…………」
「はあ?!おっさんしぶと過ぎだろ!」
「……俺の女に何してやがる……」
拓哉は俺が金色の光を纏っているのに気づいた。
「……おっさん……、なんだよそれ」
俺は思いっきり息を吸い込み、
「俺の女に何してるって言ってんだ!!!」
と、拓哉を怒鳴りつけた。
拓哉は顔が真顔になって、エリーを下ろし、剣を握る。
エリーは地面に降ろされると、前を隠しもせずにアヤカに駆け寄る。
「いい気になるなよ、死に損ない」
「許さねえ……、てめえは絶対許さねえ!!」
「早く死ねえ!!」
拓哉は高速で俺に詰め寄り、俺を袈裟斬りに斬りつけた。
キーン!!
「は、はあ?!」
拓哉の剣は俺の首に当たると、剣は俺に当たりはしたが、俺は無傷で剣はポッキリと折れた。
俺は右拳に力を入れ、
「てめえはぁぁぁぁ!」
拓哉の顔面にパンチをぶち込む。
拓哉の顔面にパンチがヒットすると、拓哉の首が取れ、首は俺たちを離れて囲んでいる兵士にぶつかった。
それをみて恐れおののく兵士たち。
拓哉の身体から噴水のように血が噴き出す。
「まだだ、てめえら、骨も残さねえぞ……」
俺は全身に力を入れる。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺の身体は急速に膨れ上がり、服が弾け飛ぶ。
「ああああ!!ドラゴン・フォーム!!!」
エリーはアヤカを抱き抱え、でかくなる俺の背中に飛び乗った。
どんどんでかくなる。首が伸び、牙が生え、翼が開き、爪がメキメキと生える。
急速に巨大化する体に、逃げ遅れた兵士はドンドン踏み潰されていく。
その大きさは、ジャンボジェットほどの大きさになった。
ドラゴンだ。完全なRPGとかに出てくるあのドラゴンだ。
俺は思いっきり息を吸い込み、腹から何かを吐き出すかのように息を吐き出した。
ゴオオオオオオオオオオオ!!!
閃光のようなブレスが、辺り一面を地獄へと変えていく。
荒れ狂う炎の波が、何もかもを灰にし、その温度は数千度まであがり、兵士たちは痛みを感じる間も無く蒸発した。
5万人の兵士が居た野原は、メラメラと火の海がうねりをあげるだけになっていた。




