THE ぼったくり
「結婚かぁ、……彩花さん、可愛かったな……」
俺は軽トラを走らせ、銀行へと向かう。支払いの金を銀行に入れるためだ。
今日入れておかないと引き落とし日に間に合わない。
「……胸も、かなり大きかっ────おわっ!!」
こんなことを考えながら走っていると、左の電信柱にあたる寸前だった。
「やべっ、集中しないと!」
頭から彩花さんのことを払拭して、銀行に金を入金し、自宅へと帰る。
財布の中を確認すると、
「あと五万か……でも、今月もなんとかしのげたな。あ、いや、光熱費がまだだ。……って、近藤のじいさんから金をもらい忘れた!!」
たかが三千円、されど三千円だ。
すると、電話が鳴る。近藤のじいさんだ。じいさんも金を思い出したのだろう。
だが、今取りに行けば、わざわざ捕まりにいくようなものだ。
「…………また今度にしよ……」
今日は居留守を使うことにした。
夜になる。
風呂に浸かり、冒険者の仕事の疲れを癒す。
思えば色々あった。でも金になるのは本当のようだ。あとは死なないように注意していれば、なんとかはなりそうな気分になった。
風呂から上がり、缶ビールを開けてゴクゴクとやると、庭から車が出て行くような音がした。
俺は玄関を開けてみると、
「ん?」
玄関に封筒とどんぶりがあった。
どんぶりには肉じゃががこんもりと盛られ、ラップがされている。封筒を手に取り中を見ると、三千円と、
『おじいちゃんがすいませんでした。お話は忘れてください。これはお詫びです。お口に合えば嬉しく思います 彩花』
と、手紙が書かれていた。
「…………」
色々思ったことがあるが、あえてそれを口にせず、部屋にどんぶりを持って入り、箸で肉じゃがをつまむ。
「……うめえ…………」
久しぶりの手料理のような気がする。やたら美味く感じて、肉じゃがを突きながら缶ビールの二本目を開ける。
「彩花さんかぁ……」
たしかに可愛い。嫁にもらえるならぶっちゃけ嬉しい。でも、食うのもギリギリの俺とわざわざ結婚しなくても、彩花さんの器量なら引く手数多なのは間違いない。こんなとこではずれくじの俺をつかむ必要はないのだ。
「せめて俺がまだ商社マンだったらな。……こんなその日暮らしの生活じゃ無理だ」
俺が3本目の缶ビールを煽った頃にはいつのまにか寝ていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日、すでに金が減ったことで焦燥感が出てきた。まだ約束の3日経っていないが、仕事に行くことにした。
冒険者ギルド、青木ヶ原樹海支店につく。
「ミランダ、居る?」
俺はドアを少し開け中を覗くと、ミランダはソファに横になり、テレビを見てゲラゲラ笑っていた。パンツが見えた。
「っ!ジンサイトさん!ノックぐらいしてください!」
「あ、悪い」
ミランダはスカートを慌てて直し、テレビを消してソファに座りなおす。俺もその向かいのソファに座る。
「どうしました?まだ3日経ってませんよ」
「時間が出来てな、今から行けるかな?」
「こっちはいつでも大丈夫です」
「なら頼む」
「はい」
ミランダは立ち上がり、紙の束を持ってくる。依頼表みたいだ。
「えっと、ジンサイトさんはまだEランクですから……、これとこれ、これなんかどうですか?」
それは町のドブさらいとベビーシッター、ペットの捜索だった。金額はドブさらいが銀貨5枚、ベビーシッターが1時間銀貨1枚、ペットの捜索は成功報酬で大銀貨1枚だ。
「五千円に時給千円、それと見つけたら一万か……」
悪くはない、悪くはないが一度10万の仕事をしてしまうと色褪せて見える。
「薬草採取はないのか?」
「あれは常時依頼ですからいつでもやれますよ」
「なら薬草採取をするよ」
するとミランダの顔が曇る。
「あのー、出来ますけど、薬草採取は魔物に襲われる地域ですから」
「知ってる、つうか襲われたしな。でもスキルがあれば問題ないだろ」
「それが……」
ミランダは紙の束を持ってきた。
クリアファイルに入っていて、本のように見れるようになっている。それを俺の前に置いた。
『スキル価格表』
と書かれている。
「お?」
これは気になっていた。見たかったのだ。俺はパラパラとめくると、
「はあああ?!鑑定、一回50万だと?!」
予想に反して、ものすごい高い料金が書かれていた。
「はい、鑑定が50万、剣術もレベル3なら10万円、気配探知の2は4万、言語理解が1万、昨日のセットで行くなら合計65万円です……」
「たけーよ!!、しかも前払いだと?!」
「そう、お話しましたが……」
「……」
確かに聞いていた。だが、この価格設定は想定外だ。
「ジンサイトさん、鑑定はとてもレアなのです。でも地球の方にはかなり必須レベルになるのでこれでも安くしてるんですよ。それにレベル3は達人レベルです、たった10万円で剣の達人になれるのは安くないですか?」
「…………」
言い返す言葉がない。まさにその通りだからだ。
「……なら、五万で何がレンタル出来る?」
「五万……ですか?」
「ああ……」
「それでしたら……、初級魔法が一律2万円ですね。あっ、でも言語理解をレンタルしないと向こうで誰とも話せませんし、文字も読めませんよ?」
「……」
詰んでる。詰んでるじゃねーか。
金を稼ぐためにどっかで借金してこいと?まんまねずみ講じゃねえか。
「なあ、これ。黒字に出来るのか?」
「はい、例えば向こうに1週間ぐらい泊まり込みで行って、1週間分の依頼をまとめて受けて、それに必要なスキルをレンタルして行ったり、……ほら、これとかオーク討伐して死体をまるまる持って帰ってくれば、それだけで一体十万ですよ?十体倒せば百万です」
「それをするのにいくらかかるんだよ」
ミランダは顎に手を当て、計算をする。
「そうですねぇ、まずオークを運ぶために亜空間バッグは欲しいですね。これが50万、あと剣術もレベル3でオークの群れをソロはちょっと厳しいのでレベル4、4なら100万円、あと魔法も多少は欲しいので、レベル2を2つレンタルして8万円、あっ、気配探知もないと後ろから殺されますね、これも4万、これに言語理解で1万だと、………………、最低でも163万ですね!」
「ぼったくりか!!」
とんでもない金額を笑顔で告げてくるミランダに、本気で殺意が湧いた。
「仕方ありませんよ、レベル4は国で剣聖と崇められるほどですよ?それがたったの100万円ですよ?」
「知らんわそんなん!!」
剣聖レベルがどの程度かわからんが、まあ凄いってのはわかる。だが、日帰りで借りたらたった1日で100万円だ。
価格設定をしたやつをとりあえずぶん殴りたい。
「…………、要はレベルがあるやつは1が2万、2が4万、3が10万で4が100万か?」
「はい、その通りですね」
「…………、なら1の剣術と魔法、それに言語理解で5万だ、それでどんな依頼ができる?」
ミランダの顔はまた曇る。
「正直、ゴブリンとの一対一ならやれますが、あとはちょっと……」
「……ゴブリンはいくらだ」
「ゴブリンは肉が売れませんので、討伐証明の耳だけ必要です。一体銀貨1枚です」
「やすっ!あいつ、千円かよ!」
意外と死の危険があったのに、たった千円だ。
するとミランダは紙束から1枚出してきて、
「これのように村の周辺のゴブリン討伐依頼になれば討伐報酬が出ますので、これなら周辺のゴブリン20体で討伐報酬が出ます。報酬は大銀貨7枚で期日は1週間です」
「……」
俺にもわかる。あれが20体に攻められたら、かなり危険だ。同時に来られたら間違いなく死ぬだろう。
でも、1匹ずつ釣り出せばやれないこともないか?
「わかった、ならそのスキルセットでこの依頼を受ける」
「……危ないですよ?」
「危ないのは百も承知だ、でもやらなきゃ稼げんだろ」
「……わかりました。依頼の報告は向こうでしてください。もう行きますか?」
「ああ」
俺とミランダは転移門の部屋に行き、この間と同じ要領で二度目の異世界へと旅立った。




