スキル?いらねーよ、何でも屋にはな!
転移するとミレイが部屋にいた。
ミレイはパソコンのメンテナンスをしていたのか、ぴこぴこと何やらやっていた。
「あ、ジンサイト」
「ミレイ、また来たぞ?」
「早かったわね、依頼を受けてきたの?」
「もちろんだ」
「どれどれ……」
ミレイはパソコンを動かし、目を細くして画面を見ると、大きく目を見開いた。
「ちょっ、どういうことよこれ!」
驚きの表情で俺を見る。いや、睨むに近い。
「……おかしいか?」
「無理に決まってるじゃない!!」
「……え?」
するとミレイは、パソコンの裏に置いてある受話器のようなものを取り、どこかに電話をしはじめた。
「ちょっとお姉ちゃん!!一体どういうことよ!」
どうやらミランダに電話してるようだ。つうか世界をまたにかけて電話が出来ることに驚きだ。
「え!?、……うん、……いやいや、無理に決まってるじゃない!…………あー、……、なるほど。わかったわ。じゃあ後はこっちでなんとかするわ。じゃあね」
ミレイは受話器を置くと、キッと俺を睨み出した。
丸テーブルに移動して、ミレイの話を聞く。
「大体はわかったわ。あのね、まず剣はどうするつもりなの?」
「……へ?あっ、いやまた貸してくれるんじゃ?」
「初回だけって言ったわよね?それに昨日、剣術のレベル3でゴブリンを倒したらしいけど、1にして倒せるわけ?」
「……あっ」
盲点だった。金のことしか考えてなかった。レベル3で危なかったのに、1にして更に20匹?そりゃミレイが怒るのも無理はない。
「普通、ドブさらいとか安全な依頼で資金を集めてから高級スキルでランクアップしていくのよ。なんでお姉ちゃんの依頼の勧めを断ったの?」
「あー、いやー、なんか安く感じて……」
「あんたねぇ、1ヶ月ぐらいは地道にドブさらいしなさいよ!そうすれば、1日大銀貨1枚にはなるはず。そうしたら剣術レベル3がレンタル出来るでしょうが!」
「…………」
言い返す言葉がない。
「大体ね、1から2になるのに金額2倍、2から3は2倍以上よ?金額が2倍以上なら効果も2倍以上ってわかるでしょ?!あんた、昨日の5分の1の力でゴブリン20体やれるわけ?!」
「あっ……」
馬鹿だ。俺は大馬鹿だ。
「……今回だけ特別に────」
と、俺が言いかけると、ミレイは椅子から立ち上がった。
「あるわけないでしょ。良い?ここでは毎日のようにあんたの半分以下の歳の子が死んでるの。そんな子達も特別扱いはしてないわ。あんただけ特別だと思ってるわけ?あんたよりその子らの方がよっぽど特別よ。それでもその子らにも何もしていないのはそれがルールだから。ルールというのはここでは人の命よりも重いのよ」
「…………」
ミレイは冷たい目で俺を見る。
だが、俺もここに生死がかかっている。この程度では引き下がれない。
「死────」
「死になさい。あんたはゴブリンにやられてここで死ぬの。あっ、帰りたいなら帰してあげる、向こうで5倍の違約金を払って。そしてあんたは帰ったらクビよ」
バタン
ミレイはドアを閉め出て行った。
「……」
頭が真っ白になる。
「………………くそが」
徐々に怒りが湧き上がる。
「……見てろよ異世界、見てろよミレイ!」
頭のもやが晴れていく。
「やってやんよ、やってやるっつうんだよ!!何でも屋をナメんじゃねえええええ!!」
俺は勢いよく部屋を飛び出し、地下道を通って借りている仮自宅へと走り込んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから5日が経っている。今日が6日目だ。今日中に依頼を達成させなければならない。
この5日間、遊んでいたわけではない。どうやら俺の仮自宅は、冒険者ギルドの簡単な倉庫になっていたらしく、ちょっとした道具がたくさん置いてあった。
俺はこれでなんとかするべく、役に立ちそうなものを担いで、依頼の村へ行った。場所は南門の守衛に聞いたら親切に教えてくれた。
朝歩いて出発すると夜には着く距離だった。
俺はミレイとの言い合いからすぐに街を出発し、この村にあれからずっと滞在していた。
下見をしたり、準備をしたりと大忙しだった。
寝床は依頼主の村長が馬屋を貸してくれた。藁が敷いてある分、意外にも寝心地は良かった。馬臭かったが……。
飯に関しては、その村で何か手伝えること、屋根の雨漏りの修理や、ドブさらい、水道がない家の井戸からの水汲みなどをして、代金として飯を食わせてもらった。
そして、今日はいよいよゴブリンどもとの決戦の日だ。
準備は万全だ。
俺は村長に一言声をかけて、ゴブリンの巣がある森へと一人入っていく。
「さあ、こっちも生きるか死ぬかだ、悪く思うなよ、ゴブリンどもめ」
俺は仮自宅にあったバールを手に持ち、森の奥へと突き進む。
この先に洞窟があり、そこにゴブリンが巣を作っている。俺はまっすぐそこに向かう。
「っ!、居た!」
「ケギャ」
「ゲギャギャ!」
俺と同時にゴブリンもこっちに気づいた。どうやら三匹のようだ。
こいつらは多分見回りの奴らだ。まずこいつらから血祭りにあげてやる。
ゴブリンどもは雄叫びをあげながら、簡素な武器、槍や棍棒、ナタなどを振り上げて俺に向かってくる。
「んにゃろ!」
俺はゴブリンに向かってない。逆にゴブリンに背を向け、一目散に逃げている。
周りの木にマークが書かれているのを確認しながら走る。
ゴブリンは追ってくる。早い。だが、全力で走れば俺のが速い。ギリギリ追いつかれない距離を保ちながら、俺は木についた目印を見ながら逃げる。
「っ!ここだっ!」
↓のマークの所で俺は渾身の力を入れて、走り幅跳びの要領でジャンプした。
「おおおぉぉぉらっ!」
ズザザァ!
すぐに俺は振り返る。
「ゲギャギャ!」
「ゲ?」
ゴブリン三匹は足元に張ってあるロープにつまずいた。そして前のめりにツッ転ぶ。
「あばよ」
ゴブリンが地面に手をつく。
すると地面が消失した。
そう、落とし穴だ。
「ゲギャ!!」
「ギ……」
それだけではない。
その辺でナタで切り落とした竹を剣山のようにするどくして穴のそこに用意してある。
2m四方の穴、深さは約5m。掘るのに丸2日かかった。俺の特製の落とし穴に三匹とも落下し、ゴブリンは竹に蜂の巣にされ一瞬で絶命した。
「まず3つ……」
木と木の葉を使い、またそのまま穴を塞ぎ、次のゴブリンを釣りに森に入って行く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ゴブリンはもう穴いっぱいだ。15匹はここに落として始末した。
討伐証明の耳は後回しにして、次の罠へと向かう。
ここも落とし穴だ。
今度はゴブリンを10匹ほどかき集めるように走り、一発で落とし穴にはめて行く。
「はあ、はあ、五年前にタバコやめて良かったぜ……」
俺は穴のヘリに立つ。穴の中にはゴブリンが10匹落ちている。ゴブリンたちはもがきながらゲギャゲギャ喚いている。
「無理だ、登れねえだろ。滑るからな」
中には仮自宅にあったランタンの油がたっぷり入れてある。
道具の運搬に2往復もしたのだ、本当に疲れた。
「じゃ、アディオス!火よ、我の力となれ。ファイアーアロー!」
初級の呪文を唱えると、手のひらから30cmほどのほっそい火の矢が現れて、穴の中へと発射される。
速度は高校生が硬球をなげるくらいの速さだ。避けづらいが、これだけで敵を倒すには少々心許ない。
ボオオオ!!
「ゲギャァァァァァァ!!!」
炎がランタンのオイルに引火し、一気に火柱が立ち上がると、ゴブリンの断末魔が森に響き渡った。
「うし、次行くか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう、充分依頼達成の数は超えている。
踏むと鋭い枝がとびだしてくる罠、ロープで足を吊るされる罠、隠して地面に敷いた網で、まとめて吊るし上げる罠、様々な罠を用いてゴブリンを討伐した。
「田崎のじいさんの手伝いが役に立つとはな……」
田崎のじいさんは山を持っていて、狩猟免許も持っている。時折田崎のじいさんを手伝い、害獣のイノシシをいろんな罠で退治していたのだ。その知識が役に立った。
「何でも屋様様だぜ」
もうあらかたゴブリンは消えた。残るは洞窟の中だけだ。
「ついでだ、やっちまうか」
俺は洞窟の入り口の前に陣取る。中には居ると思うが、出てくる様子はない。
「とりあえず挨拶から行きますか」
仮自宅に、自転車のチューブのようなゴムがあった。それを木と木にくくりつけ、大型のパチンコのようにする。
「こんなん、なんかの漫画であったな。んじゃ。……………………んぎぎぎぎぎ、てやあ!」
ビュン!
玉は見事洞窟の中に入って行った。
ボフン!
そう、玉は小麦粉だ。布袋に入った小麦粉が仮自宅にあったので、それを3袋拝借してきた。はっきり言って、この討伐より資材の運搬のが疲れた。
「では次、んぎぎ、ほいっ!」
ビュン!
うっすら、ゴブリンが洞窟から出てきたように見えた。でもデカかったような…………。170cmくらいに見えた。だが、小麦粉の布袋のパチンコ玉が、ゴブリンにヒットし、その勢いに負けて、布袋ごと再度洞窟の中に吹っ飛んでいった。
「もういっちょ!」
ビュン!
三発めを入れた。真っ白い煙のように、洞窟の入り口から小麦粉が宙を舞いながら出てきている。
「教えてやるよ、解体現場じゃな、タバコは厳禁なんだよ」
俺は右手を洞窟に向かって掲げる。
「火よ、我の力となれ!ファイアーアロー!」
撃つと同時に俺は避難して耳を塞ぐ。
洞窟の中に火の矢が飛んでいく。
ピュイっと空気を吸い込むような音がしたかと思うと、
ドオオオオオオォォォォォォン!!!
地面が揺れるほどの爆発音が、辺り一面に響き渡る。
吹っ飛ばされかねない爆風が巻き起こったが、斜線から逸れていた為に、俺は難を逃れた。
「うし、どーれ」
俺はランタンを手に持ち、ゴブリンから奪ったナタを持って洞窟に入る。
真っ暗な中をランタンで照らすと、居るわ居るわ。普通のゴブリンよりも大きなゴブリンがわんさか死んでいた。
「マジ臭すぎね?!」
これは討伐より骨が折れそうだと、疲弊しながら俺は耳を切り落としていった。




