いきなりですか?!
街に帰り、冒険者ギルドに戻り、また転送部屋に通される。
「なあ、俺ばっかりここに通されてるけど、ほかの人は違うんだろ?それで怪しまれないか?」
「もちろん怪しいわ。だから正面入り口からここに来るのはこれが最後よ。これからはこのすぐ近くに一軒家があって、その家の地下から地下通路を通ってここまで来てもらうわ」
「……そこに俺が住んでるって#程__てい__#か?」
「そう言うことね。あっ、家賃貰うわよ?一月で大銀貨二枚ね」
「微妙にたけえ…………」
ミレイはちょっと怒ったように、頬を膨らませた。
「相場の2割よ?!それにベッドもあるし炊事場もある。水も出るし、お風呂もあるのよ?!安すぎるくらいよ」
「お、おう……、悪かった……」
ミレイは「ホントにもう」とぶつくさ言っていたが、すぐに気を取り直した。
「じゃ、今日の成果を出して」
俺はリュックから薬草を取り出し、丸テーブルに置く。
「っとと、多いわね。やっぱり鑑定持ちは違うわ」
「そうなのか?」
「はい、これで、……さん、し、ご…………、はい、大銀貨11枚ね」
「てことは11万か。ってオイシイな!」
流石に現金が提示されると、喜びが込み上がってきた。
「……笑えるのね。笑わない人かと思ったわ」
ミレイに言われてハッとする。確かにずっとぶっきらぼうだったかもしれない。
「悪かったよ、緊張してたんだ」
「ふふっ、笑うと意外と可愛い顔をしてるのね」
「っ!」
顔が熱くなる。赤くなってるのが自分でもわかる。
「つ、次来た時の流れはどうすればいい?!」
「えっと、そうね……」
ミレイの話だと、まず到着したら地下通路を通り、仮の自宅に行く。
依頼は俺の場合は青木ヶ原支店で受けるから、そのまま行動に移っていいそうだ。
依頼を達成したら、ギルドの正面入り口から入り、依頼の報告をする。そして帰るなら自宅から地下通路を使ってこの部屋に、帰らないなら自由行動らしい。
「依頼を向こうで決める時は、自分で考えて好きなのにしていいわよ?お姉ちゃんはあてにならないから…………。冒険者ランクがDになるまでは、自由にしていいわ。素材の運搬がある時は、こちらで手配してジンサイトにこの転移門の部屋で渡すわ。それを向こうでお姉ちゃんに渡して」
「わかった」
「それから、私たちからジンサイトに用事があったり、ジンサイトから私たちに用事がある時や帰りたい時は、ギルドの登録証を裏向きでカウンターで渡して。私たちから用事がある時も登録証を裏向きで返すわ」
「わかった」
「ギルドの正面入り口からギルドに来た時は、ジンサイトでも普通の冒険者として扱うわよ?忘れないでね」
「わかった」
それから地下通路を教えてもらい、仮の自宅になる家を案内してもらった。正直、昨日の宿より上等に思える。これで1ヶ月二万なら確かに安い。
その後、装備一式を全て返却し、ゲートに乗り青木ヶ原支店へと帰った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おかえりなさい、一泊したのですね」
「てめえ……」
俺がミランダの説明不足への怒りを露わにすると、ミランダは両手を前に突き出し、ワチャワチャと動かした。
「そ、それは仕方ないですよ!時間もなかったですし、実際、行ってから説明受けた方がわかりやすかったですよね?!」
「あー、……まあ、確かに……」
「危険な仕事だと初めからちゃんと言ってます!」
ミランダは耳をプルプルと動かしながら抗議してきた。
「悪かったよ。わかった、わかったから」
プリプリ怒るミランダをなだめて、スマホを確認すると、近藤のじいさんから電話履歴が残っていた。
「で、どうしますか?すぐに行きますか?」
「いや、こっちの仕事が入りそうだ。3日後にまた来る」
「わかりましたぁ」
俺は異世界から持ってきた約大銀貨10枚分をミランダに渡し、日本円約10万円を貰い、車に乗り込み家路につく。
「本当に金が出来た……。こりゃ悪い話じゃなかったな……、だけど気をつけないとな……」
自宅の駐車場に車を止め、早速近藤のじいさんに電話を入れる。
「毎度どうも、何でも屋の斉藤です」
「うおぉ、仁さん。待ってたよ」
「すいませんね、野暮用で」
「なんじゃ、とうとう嫁子さ出来たかね?」
「はは、違いますよ。仕事です。で、どうしました?」
「あー、雨どいが外れとるんだわ。この歳になるとハシゴに乗るのもおっかなくてな。仁さん、頼めるか?」
「もちろんです、今から行きますね」
俺は仕事用の軽トラに乗り換え、すぐに近藤のじいさんの家に向かった。ここからは5分もかからない。
「ちわー、近藤さん」
近藤さんちの庭に車を止めて、玄関のスライドドアを開けて近藤さんに声をかける。この辺にインターホンなどない。これがデフォルトだ。
「おぉ、仁さん。助かるよ」
「早速見せてもらえますか?」
「こっちじゃ」
裏庭の方に通されて、じいさんが指し示す場所を見る。
どうやら雨どいを支える金具が3つほど外れている。
「直るかの?」
「直りますよ。三千円貰いますけどいいですか?」
「仁さんのとこは本当に安いの。仁さんがこの村に来てくれて本当に助かったわい」
「はは、ありがとうございます。じゃ、すぐに始めますね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
脚立に乗り、雨どいの金具をもう一度屋根の先に取り付けていく。
この程度はこそくりのうちにも入らない。簡単な作業だ。
雨どいを金具に設置し、更に針金で簡単に補強する。
「こんなんでどうです?」
「充分じゃ、さ、お茶でも飲んで行きなさい。まんじゅうもあるで」
俺は帰りたかったが、せっかく用意してくれたのに、このまま帰るのも気がひける。
「んじゃ、ちょっとだけ」
家に上がらせてもらうと、
「…………あれ?」
「はじめまして。祖父がいつもお世話になっております」
「ほっほっほ、孫の彩花じゃ」
「どうも、何でも屋の斉藤です」
女性がいた。年の頃は20代中頃に見える。綺麗なストレートの黒髪を背中まで伸ばし、白のブラウスに淡いブルーのカーディガンを羽織り、足首までのロングスカートを履いている。なかなか上品な感じのお孫さんだ。それにかなりの美人でスタイルもいい。
四角い茶の間テーブルの一面にあぐらをかいて座ると、彩花さんがお茶とまんじゅうを俺の前に出してくれた。
「どうぞ」
「すいません、ありがとうございます」
彩花さんは奥へ引っ込んで行き、近藤のじいさんがやってきて俺の目の前に座った。
「どうじゃ?」
「あー、うまいですね」
「何を言っとるんじゃ!」
「っ!へ?」
いきなり語気が強めで言われ、びっくりしてしまった。
「彩花じゃよ」
「あぁ、可愛いお孫さんですね」
「そうじゃろう!ってそうじゃないわい!」
俺は意味が分からず、口の中のまんじゅうを流すためにお茶をすする。
「仁さんの嫁子にどうだと言っとるのじゃ」
「ぶふぅーー!!!!」
盛大にお茶を吹き出してしまった。近藤のじいさんに思いっきりぶっかかり、じいさんの顎からお茶の水滴がぽとぽとと垂れる。
「あああ!すいません、すいません!!」
俺が立ち上がると、彩花さんがタオルを持ってきてじいさんに渡し、少しじいさんの体を拭くと、また引っ込んで行った。
「全く、見合いの1つで騒ぐ歳でもあるまい」
「見合いなんですかこれ?!」
じいさんはとんでもないことを言ってくる。
「まあ、それは嘘じゃが」
「嘘なんですか?!」
一体このじじいは何を言ってるのか。
「落ち着け!座れ!」
「…………はい」
俺はじいさんの向かいのテーブルに座りなおす。
「彩花はずっと東京で息子夫婦と暮らしていたんじゃが、都会の水が合わんらしいのじゃ。本人はずっとこの村で過ごしたいと言っとるが、とりあえずしばらくワシのとこで預かることになったのじゃ」
「……はぁ……」
「じゃけども、仁さんも知っとるじゃろ。ここは限界集落じゃ。」
「はぁ、まあ、そうですね」
上八一色村は平均年齢が47歳、村人も約1000人ほどしかいない。かなりきつい状況だ。
「仕事もないし、若い男もいない」
「まあ……」
実際俺も仕事で詰んでたからな。
「そこでじゃ、仁さんは確か今年31じゃろ、彩花は24。ぴったりじゃろ」
「歳はそうかもしれませんが、歳だけですよ。ここじゃ僕だって自分1人が食ってくのが精一杯ですよ」
「そりゃそうじゃろうの。なかなか無い貴重な仕事を、あんなはした金で受けとるようじゃ暮らせるわけないわい」
「ぐっ……」
じいさんらから金をむしり取るわけにはいかないからだろうが!
「じゃからの仁さん。彩花を連れて、そうじゃの、伊豆あたりに引っ越してはどうかね?」
「はいぃ?」
「あの辺なら選ばなければ仕事はある。それに彩花も都会ではないから問題ないじゃろ。お互いの結婚問題も解決じゃ」
「いや、あの先立つものもないし────」
「わしの遺産をやろう。なに、仁さんにやるんじゃないわい、孫の彩花にやるのじゃ。問題あるまい?」
「あ、いや、あの……」
流石にこの展開は予想していなかった。
「ちょっとおじいちゃん。仁さんが困ってらっしゃるじゃない」
奥から彩花さんが出てきて、助け舟を出してくれた。
「なんじゃ、仁さん。彩花では不満なのか?こんなにめんこいのに」
「いや、そういうことじゃないですよ。彩花さんはとっても可愛いですよ」
彩花さんは俺がそう言うと、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「ほれ、彩花はもう嫁ぐ気満々じゃぞ」
「やだ、おじいちゃん!」
彩花さんはじじいの肩を軽く叩いて、さささと逃げていった。
あれじゃあ、肯定しにきたようなもんだ。全く助け舟にならない。
(何しに出てきたんだよ……)
「と、とりあえず今日は帰ります!また!」
俺はこの隙に立ち上がって、玄関へと駆け出した。
「あっ、これ!待たんか!」




