借り物の力
「決まりました?」
また転送部屋に通された。
俺は小さな丸テーブルにミレイと向かいで座る。
「俺はやる、覚悟が出来た」
「そうですか。でもその話し方、いつもそんな感じなの?敬語をやめたと思ったら、なんか堅物のお爺さんみたいになっちゃって……」
「っ!」
確かに。別にこんな話し方の必要はない。だけど、敬語をやめろと言われたら、話し方がおかしくなってしまった。
「あー、そうだな。ごめんな、ちょっと慣れてなくてな」
「うん、少し柔らかくなったわね。まあ、追い追いね」
「了解した」
ミレイは一枚の紙を取り出し、丸テーブルに広げる。
「ここがこの冒険者ギルドよ」
地図だった。街の見取り図のようだ。
おれもミレイと一緒に覗き込む。視界に巨乳が目に入るが、無理やり地図に視線を落とす。
「ここを、こう進んで、南門を出て。南門を出たら、こう行って、この辺りに薬草、ヨモーギと言うのだけどヨモーギが生えてるわ。似たような葉の草が生えてるけど鑑定を使ってヨモーギだけ摘んでちょうだい」
「鑑定を使うとは?」
ミレイは頭をあげた。
「本、読んだ?」
「あっ、あー、思い出した!」
そう言えば書いてあった。ただ念じればいいと。ちなみに気配探知はレベル2だと殺意のようなものを感じ取れるようになるらしい。それと剣術レベル3は、なんと達人レベルだそうだ。
「……思い出したならいいけど、剣術も勝手に体が動くわけではないからね?私もスキルを使ったことがあるわけではないですけど、ちょっとはスキルを慣らしてよ?すぐに死なれたら困るわ」
「わかってる、わかってるって」
ミレイは半眼でおれを見る。
「まあ、いいでしょ。あまり頭だけで考えてもややこしいだけね。とりあえず行ってみて。終わってから質問があれば聞きますよ」
「了解」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とうとう、俺の冒険者生活が始まった。
地図の通りに南門から町を出て、言われた通りに進む。
町を出ると、荒地でもないけど草ボウボウでもない、まるでサバンナのような草原が広がっていた。
舗装はされてないが、踏み固められたような道もあり、道は左に折れ曲り、東の方に続いているようだ。
俺は道なりには歩かず、南へと突き進む。
30分くらい歩いただろうか、青々とした木が多くなり、目の前には森が一面に広がっている。
この辺から鑑定をしてみる。
「あー、鑑定。っう!」
すると視界一面にパソコンのウインドウのようなものが無数に開いた。どうやら目に入ったものすべてに注釈のようなものが出て、頭がくらくらした。俺は慌てて目を瞑る。
(…………これ、使い物になるのか?……あー、ヨモーギだけとか出来ねーのかな?ヨモーギだけ……)
恐る恐る目を開けると、半透明のウインドウは全部消えていた。
だが、右下に1つだけウインドウが残っている。
視線を向けると、ウインドウ内には
ヨモーギ
初級ポーションの材料となる
と書かれていた。
「おおおお!ゲームみたいだぜ」
少しテンションが上がった。
俺は本で読んだ通りに、ヨモーギの若芽10cmほどだけを摘み取る。
こうするとまた伸びてくるらしい。
更に森の中に足を進めると、ちらほらとヨモーギが鑑定に引っかかり、ポップアップのようにウインドウが現れる。
「こりゃ便利だ、あるのとないのじゃ大違いだな」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
2時間は摘んだだろうか、数にして100は摘んだと思う。そろそろ腰も痛くなって来たところだ。
帰り道?それほど俺はバカじゃない。木にバツ印をたくさんつけて回ってきた。それを見ながら帰れば問題はない。
するといきなり背中がゾワリとした。
俺はビクッと跳ね、後ろを振り返る。
何もいない……
いや、遠くの森の茂みがゴソゴソ動いている。
(これが気配探知?ってことは俺に殺意があるって────)
「うわっ!」
「ゲギャ」
緑の肌の子供だ。
身長は120ほど、顔は頬がこけたように凹み、飢餓難民のように下腹が出ていて、腰巻を巻いている。手にはナタのような刃物を持ち、ぐりっとした気持ち悪い目で俺を睨みつけて来ている。
「これがゴブリンか?」
「ゲギャアアア!」
20mほど先から、ゴブリンと思わしき者はナタを振り上げ、真っ直ぐに俺に向かってくる。
「うお、剣、剣を」
俺は左の腰にぶら下げた剣を右手で抜き放ち、ゴブリンに向かって構える。
剣術があるから大丈夫だろうという気はしてる。だが、体が硬直したように動きづらい。
「うっ、うお!」
ゴブリンがちょっとジャンプして、ナタを振り下ろしてきた。俺は咄嗟に左に避ける。
「何が、剣術────、あ?」
なんだこれは……。
確かに体は勝手に動かない。だが、こう動かせばいいということが、脳内にイメージで描かれる。
「ゲギャアアア!」
ゴブリンがナタを突き刺してくる。俺はそれをちょっと右に跳ね、着地と同時にゴブリンの頭を蹴った。
「この!」
「ゲギャ!」
イメージが浮かぶ。
言葉にするのは難しい。言うなれば、ペン習字の見本のように、うっすらと軌道が描かれていて、そこを剣でなぞれと言われてるような感じだ。
俺はイメージのまま、ゴブリンに二歩駆け寄り、軌道の通りに剣を振り下ろす。
「ゲッ」
ゴブリンを袈裟懸けに斬りつけ、返す刀で、ゴブリンの首を真横に斬りつける。
切るという手応えではない。まるで斧で木を切る手応えのようだったが、ゴブリンの首はごとりと落ちた。
「……これがスキル」
これは本当にスキルさえあればいいというわけでもなさそうだ。まず軌道がわかっても体を動かす筋肉が発達してなければ、スピード負けをしてしまうだろう。それに軌道がわかっても力が足りなく絶命させられないかもしれない。
《慣れ》は間違いなく必要なようだ。
「って、どうしたら……」
首がなくなったゴブリンを見つめる。
「…………うっ!」
冷静に見ると、かなりエグいことをしてる。村で老人が孤独死した死体の部屋を掃除したこともあるが、あれは本当に気持ちが悪かったが、そこまでの衝撃ではない。
それでも『自分が首を落とした』と言う事実が、やはり多少はクルものがある。
だが、魔物の討伐がこれからはメインになっていく。この程度が乗り越えられないなら、この先どうにもならないだろう。
俺は死体を放置して、木の印をたどりながら街へと帰った。




