俺がなんでも屋のジンサイトだ
やっと宿屋についた。
結局、俺はやっと覚悟が決まった。
大手商社に入り、絶対出世してやると思ってたが、10年経たずにリストラされ、もう野望のようなものは薄れていた。
リストラされたことにより、雇われではなく自営の道を選んだが、それも甘くはなかった。
これは俺にとって最後のチャンスかもしれない。
正直、日本の仕事だって命がけだ。
仕事がなくなれば餓死しかないのだから。もしくは生活保護を頼って社会的に死ぬか。どちらにしてもろくなもんじゃない。ならばここでもう一度覚悟を決めるのも悪い選択肢ではないと思えた。
なにせ、スキルのレンタルと金になる土壌はあるのだから。
「ちょうどいいじゃねーか。俺はなんでも屋、冒険者ってのもなんでも屋みたいなもんだと言う。こっちでなんでも屋でのし上がってやる!!」
再度決意を口にして、また『あなたにも出来る異世界生活』に目を落とした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
~遡ること2時間前~
冒険者ギルドで着替えて、金と本、練習用の剣と鞘を受け取り、ベルトのような剣帯を巻いて、そこに剣を刺す。一応初回のみは無償で貸してくれるようだ。
革製のリュックも剣と一緒に借り、荷物をそこに入れて、手には宿屋までの地図を持つ。
準備が終わると、ミレイと一緒に転移部屋を出た。
廊下を歩き、また扉を開くと、そこには大きなフロアが広がっていた。どうやらエントランスのようで、ここが正規の冒険者ギルドの入り口くさい。
俺が出てきたドアから右手側にはカウンターが5個ならび、冒険者らしきいかにも荒くれ者ってやつらが、カウンターの中の女と話している。
正面は開けっ放しのドアが開いており、ここが冒険者ギルドの入り口だろう。
入り口の右側の壁には何やら紙がたくさん画鋲で止めてある。そこにも人だかりが出来ている。
カウンターと入り口の間は大広間のようになっていて、左右の壁沿いにはダイニングテーブルのようなテーブルと椅子が四脚ワンセットになり、それが4セットずつ置いてある。
座ってる奴らを見る限り、どうやら酒場と休憩所も一緒に経営してるのだろうか。
俺の肩にミレイの手が置かれた。
「じゃあ、明日の朝待ってるから」
「…………ああ」
俺は冒険者ギルドを後にした。
空は雲ひとつない快晴だ。異世界って言っても地球と同じようなものみたいだ。太陽は登ってるし、空の色も青い。空気があるなら酸素も窒素も二酸化炭素もあるのだろう。重力も地球と変わりないように思える。
街並みを見て回る。
一言で言うならば、昭和の戦前戦後の日本のような風景だ。基本が木造建築で、レンガや漆喰の壁の建物もちらほらと見える。窓にはガラスもはまっており、窓枠が木の家がほとんどなので、サッシはまだないのか。だが、剣があるなら鍛治があると言うこと。ならば風呂釜程度はあってもおかしくない。トイレはボットンかな?上水道はあるのか?
興味が尽きない。
地図を見ながら歩くと、視界に屋台のようなものが入った。
「…………これで食えるかな」
手には大銀貨3枚、日本円で3万くらいと言ってた。食えないことはないだろう。
俺は屋台に近づく。
「すいま────、あー、それはなんだ?」
「いらっしゃい!これはモチだよ!」
ガタイのいい大男が気さくに答えてきた。……モチ?たしかに見た目は磯辺焼きそのものだ。だが、モチ?
「いくらだ?」
「2個で大銅貨1枚だよ!」
「じゃあ2個もらおう」
俺は大銀貨1枚を大男に手渡すと、大男は目を丸くした。
「ちょっと兄ちゃん、流石に大銀貨はないだろ。細かいのねえのか?」
「あっ、あー、すまない……」
「ったく、しゃーねーな!ちと待ってな!」
男は前掛けのようなところのポケットをジャラジャラと漁り、硬貨を台に並べていく。
「………………銀貨が足んねえ。兄ちゃん、大銅貨でもいいか?」
「構わない」
すると五百円玉よりも大きな銅貨を台の上に並べていく。
「ほれ、銀貨5枚、大銅貨が49枚だ……」
俺はリュックを背から下ろし、お釣りをジャラジャラとリュックに無造作に突っ込む。
「すまなかった」
「次からは気をつけてくれよ?今日はたまたまお釣りがあったけどよ。いつもは用意してねえからな」
「すまん」
俺はリュックを背負うと、磯辺焼きを2個手渡される。
その場でかじりつく。
(……うまい、つうか普通のモチだ。海苔も日本の海苔と変わらないし、これは醤油か、醤油もあると言うことだ。食い物には困らなそうだ)
俺がモチを見つめながら食ってると、
「どうだ、兄ちゃん」
ガタイに似合わず、恐る恐るという感じで、大男は聞いてきた。
「うまい、こんなに美味いとは思わなかった」
すると大男は花開くように笑顔になり、俺の背中をパンパンと叩いた。
「そうだろ!?俺も美味えと思うんだけどよ、なかなか売れねえんだよ」
「なんでだ?」
「まあ、屋台って言ったら串焼きだ、やっぱ肉のが食いつきがいいな!」
「ふむ、なるほど」
「美味いと思ったんならよ、たまには買ってくれよ!」
「そうさせてもらう」
「がははは!きぃ使わせたな!んじゃまたな!」
「ありがとう」
俺は屋台を後にした。屋台の大男は、俺が離れる時、何か驚いたような顔をした。
醤油のついた指をしゃぶりながら、俺はまた宿屋へと歩き進む。
歩く人を見る。
文庫本の書いてあった通りだとすれば、あの背が低い毛むくじゃらの男がドワーフだろう。耳が尖っていて見た目のいいのがエルフ……あれだな。人間は同じだな。黒人っぽいのは歩いていないが、大体が日に焼けている。なんだろう、中東あたりと白人系が混ざったような顔つきをしている。だが、白人のように真っ白な肌と言うのはエルフしかいないようだ。
獣人もいるな。比率的には人間が五割、エルフ、ドワーフ、獣人合わせて五割ってとこか。
少しだけ、少年に帰ったようなワクワクする気持ちにはなる。
俺は一路指定の宿屋へと向かった。




