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やっぱり落とし穴はあるよな

真っ白に染まった視界が、徐々に色を取り戻す。

すると、樹海のギルドと同じように、俺はゲートの上に乗っていた。だが、樹海の部屋は木造の壁だったが、ここはレンガの壁だ。パソコンのようなものは樹海と同じように置いてある。


「あっ、来た来た。こんにちわぁ~」


ドアから一人の女が入ってきた。女はミランダと同じように獣人だった。

顔もミランダそっくりだ。唯一違うところは胸の大きさだ。こっちは巨乳を通り越した爆乳だ、しかもそれを強調するようなVネックのシャツを着ている。


「あなたがお姉ちゃんが言ってたジンサイト?登録証はある?」

「あ、ああ」


俺は言われるままに、女に登録証を渡した。つうか姉妹かよ。


「うん、間違い無いわね。じゃ、そこに座って」


女が指差す方を見ると、小さい丸テーブルと椅子が二脚あった。俺は言われるままにそれに座ると、女が向かいに座った。

…………でけえ。これが異世界か。


「うふっ、まあ、見られる為にこんな服着てるけど、そこまで見られるとちょっと照れちゃうな」

「っ!す、すまん」


慌てて視線を女の顔に移動する。


「いいのよ。私はミレイ。あなたがジンサイトね?」


ジンサイト。ジン=サイトウだからジンサイトか?まあ、名前なんてなんでもいい。


「……そうだ」

「そんな警戒しないで。深呼吸でもしたら?」

「っ……」


たしかに緊張していた。俺よりかなり若く見えるが、ミレイと名乗った女は俺を雇うクライアントということになる。

俺は大きく深呼吸をすると、


「申し訳ありませんでした。そちらはお客様になるんですね。私は斉藤仁と言います。以後よろしくお願いします」

「あはっ!いきなり変わりすぎっ!敬語はいらないわよ」

「ですが」


ミレイは俺の手をテーブルの上で、両手で握ってきた。


「落ち着いて。理由も説明するから」

「……」


ミレイは数秒俺の手を握ったまま俺を見つめてくる。俺が落ち着いたのと同時に、ゆっくりと手を離して、


「じゃあ仕事の話の前に、注意事項を言っとくわね。まず敬語は基本的に禁止よ」

「何故ですか?」

「この世界では敬語なんて使う冒険者は居ないわ。敬語で話してるだけで、《こいつ何かあるんじゃないか》と疑われることもあるくらいよ。だから敬語は無しね」

「……わかった」

「それで良いわ。次、地球から来てることは内緒よ」

「……それはどうして?」

「この転移門は冒険者ギルドと各国の王族だけの極秘事項よ。最悪ジンサイトの身元がバレそうになっても転移門のことは話しちゃダメ。その時はなんだかわからないけど迷い込んだ迷い人とでも言ってね」

「……もしバレたら?」

「あなたの世界に、強大な力を持った侵略者がなだれ込むことになるかもね」

「…………わかった、秘密にする」


文庫本の内容と相違ないなら、地球には銃があるのでそうそう負けるとは思わないが、銃もものともしない本当にすごいやつがいるかもしれないし、地球の科学力ではどうにもならない魔法などもあるかもしれない。

それにわざわざ争いの種を蒔く必要もない。


「それとスキルだけど、転移門で帰る時にこっちの転移門で回収するわ。あくまでも貸し出しだからね」

「わかった」

「あ、スキルも秘密にして。例えば今日ジンサイトが借りた《鑑定》ってスキルだけでも、実はかなりレアなの。それを持ってるとバレただけでも、各国から狙われるかもしれないわ」

「それはどうしてだ?」

「だって、見ただけでなんでもわかっちゃうのよ?商売で偽物を掴まされることもなくなるし、身元の判別も完璧だわ。監禁されて、生涯奴隷のように使われるわよ?」

「奴隷……」


文庫本にはそんなのも書いてあった。だが、あれは物語だろうと思っていた。


「そう、地球のように人権なんてものはないわ。この世界では人の命は軽いの」

「…………」


予想よりとんでもないところらしい。


「それと常識もかなり違うわ。でも一から十まで全て教えてるわけにはいかないから、その辺はこれを読んでね」


するとミレイはどこからか、一冊の本を取り出してきた。表紙には、


『あなたにも出来る異世界生活』


と、書いてあった。

俺がそれを手に取ると、ミレイはテーブルの上に銀色の硬貨を3枚置いた。それは500円玉よりも一回り大きかった。


「これが大銀貨よ。これは依頼の報酬の先渡しよ。薬草採取をしてもらうことになってるから、その売り上げから引くわね」

「そんなに儲かるのか?」

「普通は無理ね。だって、どれが対象の植物か見分けるのもかなりの年季が必要なのよ。でも《鑑定》があるなら確実に集められるわ。だから大丈夫」

「なるほど……」

「で、何故先払いをするかというと、今日はこのお金で宿に泊まって、その本を読んでね。仕事は明日してもらうわ」

「依頼の期日は?」

「それは大丈夫。薬草採取は常時依頼だから、期日は無いわ」

「そうか」


なにぶん始めてだ、そうかしか言いようがない。

それに1日予備があるのはありがたい。異世界がどんなものか見てみたい気持ちもあるのだ。


「服装は……、それはダメね。こっちの服に着替えて」


またどっかからシャツとズボン、靴を取り出して、テーブルに置いてきた。一体どこに服を持ってたのか。


「1つ疑問がある」

「何?」

「ゲート、、転移門か?荷物を持ったまま移動できるのは地球人だけということはわかった。でもそれなら荷物運びだけすれば良いんじゃないのか?冒険者はここにも居るんだろ?」


ミレイは少し呆れたようにため息をついた。


「お姉ちゃん、また説明してないの?本当勘弁してよね」

「……」


ミレイは真剣な顔つきになり、テーブルに肘をつき手を置いた。


「地球人を雇う理由はね、スキルの貸し出しができるのは地球人だけだからよ」

「……」

「ここの世界の住人にスキルを貸し出すと、脳が受け付けないのか、狂ってしまうわ」

「ん?ならスキルを貸し出すのが目的か?」


俺はミレイを見ると、ミレイはまっすぐ俺から目を逸らさない。


「半分は当たり。目的は、この世界の住人には倒せないような魔物や、こなせない依頼をスキルの力によって達成してもらうことが目的よ。何も薬草を集めるために雇ってるんじゃないの。薬草採取はあくまでも世界に慣れてもらうため。私たちは冒険者に慣れた先を望んでるわ」

「それは……例えばだけど、1000人でも倒せないようなドラゴンを一人で倒せ的な感じか?」

「まさにその通りね。でもドラゴンなら1000人じゃないわ」

「…………何人だ?」

「最低でも50000人ね」

「っ!!」


俺は驚きを隠せずに仰け反った。

そして、ダン!と両手で丸テーブルを叩く。


「俺に死ねと言うのか!」


だがミレイは冷静に受け答えをする。


「死なないためのスキルよ。それにスキルを盛り込めば兵士50000人より、ドラゴンを倒せる可能性があるわ。…………失敗して死ぬのも一人で済むしね」

「っ!」


あまりにも、あまりにもな言い方だ。ようは50000が死ぬより1人のが被害が少ないから俺を呼んだと言っているのだ。


「だけど、倒した暁には、ありえないほどの名誉と、一生遊んで暮らせるようなお金を手にするわよ?そうね、ジンサイトの世界の通貨で10億かしら」

「っ!10億?!!!」


俺は思わず立ち上がった。

ミレイはまだ続ける。


「聞いてないなら正直に言うわ。あなたの前任者は、半年で死んだわ。その前は3ヶ月、その前は死ななかったけど、薬草採取しかしなかったのでクビにしたわ。…………私たちが求める人材は、死なないように、それでいて危険だからと逃げない。困難に立ち向かって栄誉を勝ち取る人が欲しいの」

「…………英雄かよ」

「そう、英雄。勇者とも言うわね。とっても危険よ」


俺は立ったまま呆然とした。ミレイは俺の腕を掴み、椅子に座らせた。


「でも考えてみて?あなたの世界には宝くじというのがあるんでしょ?一生かかっても当たるかどうかわからないけど、大金が手に入るやつ。こっちは、リスク管理を自分でして、自分の力で大金を手に入れられるの。運だけじゃない、スキルを使いこなす練習をして、ちゃんと管理すれば自分の能力で誰でも大金を得られるのよ?そんなのがそっちにある?」

「…………」


日本でだって努力して大金は得られる。いや、努力するのは当たり前だ。

努力してなお、億単位を得るのは容易ではない。むしろ億単位を得るにはそれなりの土壌があるか、相当な豪運がないと無理だ。それを自らの力のみで誰にでもチャンスがあると言う。

レンタルスキルがどんなものがあるかわからないが、あの文庫本のようにとんでもないものも借りれるなら、不可能ではないかもしれない。


運ではなく、自らの能力で……。


「…………」

「無理だと思うなら帰って。腰が引けてる人と向こう見ずな人は真っ先に死ぬわ。これは脅しじゃない、私たちもあなたに死んで欲しいんじゃないし。鉄の意志でのし上がり、栄光を手にして欲しいの」

「…………」


ミレイは更に目線を強くする。


「選んで。……向こうに帰り、細々と生きるために仕事をするか。こっちで自分の頭とスキルをフルに活用して、栄光を掴むために命がけで努力するか。……全てはジンサイト次第よ」

「…………」

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