初回特典です、どうぞ!
「さて、これでやっと仕事の依頼のスタートラインに立ったわけですが」
「質問が山ほどある」
「お答えしますよ」
ミランダはまたお茶を用意して、俺に出してくれた。
「まず、本当に文庫本のような異世界に行くんだな?」
「はい、私が証拠みたいなものです」
「ミランダ、さんは、獣人なんだな?」
「ミランダで良いですよ。はい、獣人です。正式な種族名は猫人族と言います」
「俺は向こうで魔物を倒すんだな?」
「討伐に限りませんが、そうです」
「それをここに持って帰ると」
「そうです」
ここまではわかった。わからないがわかった。わかったことにする。
「向こうで買いつけて、こっちに素材を運び込めば良いんじゃないか?」
「通常、転移門をくぐるには生まれたままの姿ではないとくぐれません。洋服さえも向こうの物は持ち込めないのです。もちろん、こちらの物も向こうには何一つ持ち込めません。ですが、地球人だけが持ち物と同時に転移門を行き来出来るのです。ですから、地球の方に頼むしかありません」
「なぜ俺なんだ?」
「誰でも転移門をくぐれるわけではないのです。魔力を持っている地球人に限られます」
「俺にはあると?」
「はい、もう調べてあります」
「ほかの日本人は?」
「もちろん居ますよ。でもこの辺りではあなただけですね。まあ、過疎地ですしね」
「ああ、過疎地だからな……」
もし魔力を持ってるやつってのが少ないなら、この辺りは過疎地だ。人口が少ないならその絶対数も少ないだろう。
「なら、現地で日本人の同業に会うこともあるわけだ」
「なくはありませんが、そんなに多くはないと思いますよ」
「そうか」
「向こうで死んだらどうなる?」
「もちろん死にます」
「俺は魔物と戦ったことはないぞ?剣と魔法の世界なんだろ?この文庫本にあったチートとか言う奴が貰えるのか?」
「はい来ました!ここからが本題ですっ!」
ミランダは、待ってましたと言わんばかりに、花開くように笑顔になった。
どうやら、スキルや魔法はあるが全てレンタル制らしい。このスキルも向こうの異世界かこの敷地内でしか効果がないので、レンタルして日本でスキル無双とかは出来ないようだ。
そしてレンタルには金がかかる。スキルの効果が高ければ高いほど、レンタルの料金が上がっていく。
だから、依頼内容に合わせたものをレンタルしないと赤字になってしまうとのことだった。
更にレンタル料金は前払いだ。
「なるほど、金がかかるのか」
「はい、レンタル期間は時間ではなく、一回の渡航でいくらとなります。だから向こうで何日間か掛かってもレンタル料金は変わりません」
「なら、一年とかでも?」
「レンタル料金は変わりませんが、冒険者の依頼には達成期日があります。それを超えると依頼報酬の5倍の違約金が掛かりますので、事実上一年とかは無理ですね」
「高っ!それ、向こうで怪我して動けなかったとかの時もかかるのか?」
「はい、かかります。体調管理も冒険者の仕事のうちですし、元々命がけの職業ですからね。その分報酬が高いのですから」
「……どのくらいだ?」
ミランダはソファから立ち上がり、事務机の上をゴソゴソと何やら探すと、一枚の紙を持ってきた。
「例えば、これは冒険者なりたての子供がするような依頼ですけど、薬草採取という物です。薬草ひと束で大銀貨1枚ですね。向こうでは大銀貨1枚でそこそこの宿が一泊出来ます。腹持ちが良い昼食が20回ほど食べられます。まあ、わかりやすく言うと、大銀貨1枚が日本円で1万円ぐらいですかね」
「子供のお使いで1万かよ……」
「はい、しかも普通はひと束では終わりませんよ。一回10万円くらいにはなりますよ?」
「たっか!?」
草むしりで一日10万、破格の料金だ。それが子供でも出来る仕事?!
「……いや、それはたかがその程度の仕事でも命の危険があると言うことか?」
「その通りです。物分りが良くて助かります。はっきり言って、命の危険は常に伴います。ですが、それでもお金が欲しいんじゃないですか?麻薬の運び人や臓器を売るよりよっぽどまともな仕事だと思いますが」
ミランダはニッコリと微笑む。まるで悪魔のような微笑みだ。
しかしおれのケツに火がついているのは事実だ。危険を伴う、だが、危険なんてのは屋根の雪下ろしだって危険を伴うのだ。それに冒険者は向こうじゃ子供でもやってると言う。子供ができるような仕事のチャンスを、むざむざ手放してもいいのだろうか。
俺が迷っていると、
「わからないのに迷っても無駄ですよ。まずは行ってみることをお勧めします。もし今日から動いてくれるなら、今日は無償でスキルをレンタルさせてもらいます。それも命の危険がないほどのスキルを」
「…………」
まるでネズミ講の勧誘のようだ。初めは上手い餌をぶらさげて、実は地獄を見ることになるような。
俺がまだ迷っていると、ミランダは追い討ちをかけてくる。ミランダはソファから立ち上がり事務机に戻り、1枚の紙を取る。
「気がすすまないならお断り頂いていいですよ。この辺に適合者は少ないですが、居ないわけではないですから。斉藤仁さんが断るのでしたら、仕方ないのでこの方にします」
「…………なぜそいつにはじめからしなかった?」
「性格に難があるんですよ、信用が出来ません。でも居ないなら仕方ありませんので。ですがこの方は必ずやってくれます。そうなれば斉藤さんとは御縁がなかったということで、後からやりたいと言われても受付られません」
「……」
ミランダは左手を腰に当て、斜に構えて紙をピラピラと振る。
くそが、足元を見てきやがる。
だが…………。
「……わかった。とりあえず今日やってみることにする」
するとミランダは目を開き、パァと笑顔になった。
「そうこなくっちゃ!、じゃ、気が変わらないうちに行きましょう!」
ミランダは俺の背中に回り、俺の背中を室内の奥へと押す。
「お、おい」
「さあ行きましょ、はやく行きましょ!」
急かされると不安になる。
室内の扉をあけると、長い廊下があり、そこを背中を押されるまま、突き当たりのドアまで来た。そのドアをあけると、一気に雰囲気が変わる。
今までの部屋は、小さい工務店の客案内用のような内装だったのに、その部屋の中は、近未来的というか、魔術的というか、なんとも言えない雰囲気だった。
部屋の中央には、空港の荷物検査のゲートのようなものがあり、俺はそこに立たされる。足元には魔法陣のような幾何学的な模様が描かれていて、それが淡い光を放ちゆっくり点滅している。
部屋の隅には、パソコンのようなものがあり、そこからケーブルが何本もこのゲートの土台につながっている。
ミランダは俺をゲートに立たせると、自分はパソコンの椅子に着席した。ピコピコと何やらパソコンを操作しだす。
「ギルド登録証作成、生体スキャン開始」
すると、足元の淡い光が光を強める。魔法陣のような輪の光が俺の足から上昇しはじめ、CTスキャンのように動きだす。
「スキャン完了、登録証に情報移送」
ミランダはパソコンの裏の機械から、1枚の板を取り出し、それを俺のところに来て手渡した。
「それが身分証みたいなものです。持って行ってください」
「お、おお」
俺は呆気にとられて、ほぼ思考停止している。ミランダはパソコンに戻る。
「転送点登録、グランダム王国、首都グランダムの冒険者ギルド」
「転送者、登録証人物、ジンサイト」
俺は手渡された登録証を見る。何やら読めない文字が書いてあり、なんだかわからない。
「スキル注入、言語理解、鑑定、剣術レベルスリー、気配探知レベルツー、…………、注入開始!」
ミランダは、ターン!とエンターキーを叩く。
するとまた足元の魔法陣が光を強くした。
「お、おお?」
登録証の文字が読める!
登録証には名前ジンサイト、年齢31、職業なんでも屋、ギルドランクEと書かれていた。
「おい、これって────」
俺が質問しようとミランダに目を向けると、
「細かいことは向こうのギルド員に聞いてください!それでは!have a nice work!」
「お、おい!」
すると足元の魔法陣が一気に白く光を放ち、視界が白で埋め尽くされた。




