猫耳女
「本当に青木ヶ原樹海かよ……」
翌朝早く、俺はメールの場所に車で出発した。
地図は青木ヶ原樹海を指していたが、一応来てみた。
考えてみたら、もし詐欺なら引き返せばいいし、取られるものも本当に何もない。身柄を拘束されるとも思ったが、こんなオッさんの身柄を拘束して何の得があると言うのか。
万が一、万が一を考えて、一応話だけは聞いてみることにした。
青木ヶ原樹海の指定地点までは車ですぐの距離だ。そこにつくと、森の中へと続く道が出来ていた。
「……こんな道あったか?」
俺の車は4WDのSUVだ、路面は問題ないのだが、鬱蒼としていて入るのを躊躇する。
「…………ここまで来てビビってどうする!」
俺は森の中へと車を走らせた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
車で5分ほど森の中のあぜ道を走ると、何やら看板と建物が見えてきた。その看板には、
「……冒険者ギルド 青木ヶ原樹海支店?」
聞いたこともない店の看板だ。
俺は車を止め、ロックをしてこのへんちくりんな建物のドアをノックする。
「どうぞー。開いてますよ」
声は昨日の電話の声だった。
恐る恐るドアを開けてみると、事務机みたいな机で作業している女が居る。
なかなか若くて綺麗な女だが、
(痛いな。こんなところに居るからこんな痛い女になっちまったのか?)
なんと頭に猫のような三角耳をつけている。あんなカチューシャがドン◯ホーテに売ってるのを見たことある。
女は事務机から席を立ち、電子ポットにお茶を入れに行く。
「そこのソファに座ってください」
「……」
(……どこまでコスプレに本気なんだよ。尻尾までつけてやがる……)
スカートの裾から、長く伸びた猫の尻尾がゆらゆらと飛び出している。
コスプレ好きなのは構わないが、わざわざ俺が来るとわかっているのに、あえて着けて見せるところが痛々しい。
俺はソファに座り、女も俺の正面のソファに座る。俺は女が持ってきたお茶を一口口をつける。
「私の名前はミランダです。以後宜しくお願いします」
「ミランダ?」
確かにどことなく西洋人っぽい顔をしている。だが、鼻も高くないし、アジア人っぽい顔だ。日本人と言われた方がしっくりくる。
「はい。早速ですがお仕事の話をしてもいいですか?」
「……ああ」
「お仕事内容は冒険者をやってもらい、その素材をこちらに持って帰って来てもらうことです」
「冒険者?」
俺が眉を寄せると、
「あれ、知りません?最近では有名なんですけど」
「……聞いたこともない」
(なるほど、だから冒険者ギルド 青木ヶ原樹海支店か。
だが、冒険者ってことは旅をすればいいのか?)
するとミランダと名乗った女は、少し口を開けて、
「あー、もしかしたらそういうことですか?」
「どういうことだ?」
「これはちょっと予想外でした。仕方ありませんね」
女は立ち上がると、事務机から一冊の文庫本を持ってきた。表紙に何やらオタクくさい少女の絵が描かれている。
「とりあえず、今日これを持って帰って、読んでから明日また来てもらえますか?」
「これが仕事となんの関係がある」
「読めばわかります。私が説明するより早いです」
「……」
「もう一度だけ言います。私たちは本気で斉藤仁さんを雇いたいです。からかってはいません。斉藤仁さんも私たちと仕事がしたいと思ってもらえるなら、それを読んで明日来てください」
俺は、何を言ってんだこいつはと思ったが、あまりにも真面目な顔なので、ちょっとだけ本気になった。
「わかった。でも本気ならコスプレはやめろ。社会人としてどうなんだそれは」
俺はミランダの返事も待たずに文庫本を持って席を立った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
~翌朝~
午前7時、冒険者ギルド 青木ヶ原樹海支店
「開けろ!開けてくれ!!」
「開いてますよー」
バン!
俺は勢いよくドアを開ける。
事務机には猫のコスプレのミランダが座っている。
「ほ、本気なのか?!」
「……やっとわかってもらえましたか?」
「まさか、俺にこの異世界ってとこに行って冒険者をやれと言うのか?!」
「はい。ただ、仁さんの場合は、向こうに行ったきりではなく、通いで向こうにで行ってもらいます。そして素材の買取はこちらで日本円でしますよ。あ、向こうにお金を持って行きたいなら両替もします」
ミランダはニッコリと微笑んだ。
「……信じられん……」
するとミランダは席を立ち、俺の目の前に来た。
「私もこれはあまりしたくは無いのですが、このままでは話が進みませんからね」
ミランダの身長は150ほどだ。頭が俺の目の前にくる。
「触っていいですよ?」
「……」
俺は恐る恐るミランダの猫耳を触ってみる。
「あっ……、ちょっとくすぐったい」
「コ、コスプレじゃないのか……」
猫の耳だ。本物の猫の耳だった。耳の付け根まで触ってみたが、しっかりと頭から生えている。ミランダの髪をかきあげ、通常の人の耳が生える場所を確認してみたが、そこには何もなかった。
俺がしげしげと触っていると、
「もう、良いでしょうか?恥ずかしいので……」
「っ!あ、ああ……」
ミランダがソファに座る。俺もミランダの正面に座った。




