それはねーだろ
俺が大統領官邸から出ると、アヤカ、ベティ、エリー、ザラが並んで待っていた。
アヤカとベティは90度に腰を曲げ俺を出迎えた。
「よお、少しは頭を冷やしたかよ」
アヤカとベティは頭を上げる。
「仁さん。私は調子に乗ってました。ギルドの束縛から離れ、自由と力を手に入れて、浮かれていました。それに…………、仁さんのことでさえ、まるで自分の物かのように錯覚していました。……今一度反省致します。どうか許してください」
俺は少し疲れたような顔で言う。
「ぶっちゃけ俺もう要らないだろ?転移門もじいさんの遺産だし、あの家の敷地は正式にアヤカが相続したんだ。夢は自力で叶った形だ。もう一人でやっていけるだろ?」
アヤカはツーっと頬に雫を走らせた。
「嫌です。……私はバカです。一人では自分のことさえ制御出来ません。……小賢しい真似をして良い気になってました。改めてお願いします。私の全ては仁さんのもの。私は仁さんを必要としています。…………もう仁さんなしでは生きられないのです。お願い……捨てないで……」
アヤカはボタボタと涙を流す。
「人に迷惑をかけるな。……楽しんでも良い、でもな?誰かを巻き添えにしたら俺は許さねえぞ?」
「肝に命じます……」
「俺に迷惑かけるなら良い。仲間内だけで済むようにしろよ?」
「はい……、ごめんなさい……」
俺はアヤカの頭に手を乗せる。
アヤカは、俺の手が乗ると、「ワァ!」と声をだして泣き出した。
「ご主人様……」
「ベティ、金貨1000枚ほど用意してやる。それだけあれば一生暮らせるだろ。全部やるから────」
「嫌っ!!!」
ベティは俺の両腕を両手でしがみついてきた。
「見捨てないで!見捨てないでよ!!ずっと居させてくれるって約束したじゃない!」
「お前の幸せはお前────」
「私の幸せはここにいることよ!!」
ベティも泣き出す。
「ちゃんとメイドするからっ!もうわがまま言わないからっ!!」
「別に俺はお前に人形になって欲しいわけじゃねえ。土台、そんなこと無理なんだよ」
「なら死ぬわ!!殺してよ!!あの時殺せなかった責任を今果たして!」
「…………わかった」
俺はゆっくりと剣を抜く。
「辛い思いをさせたな。今楽にしてやる」
俺がゆっくりと剣を振りかぶると、
「う、嘘です!。嫌っ!死にたくない!もう死にたくないの!ごめんなさい!一緒に居させてよ!」
と、抱きついてきた。
俺はまたゆっくりと剣をしまう。
「ベティ、俺がお前を助けた理由がわかるか?」
ベティは俺の胸から顔を上げ、
「私の為ですか?」
「バカか。なわけねえだろ」
「…………わかりません」
「俺のためだよ。俺がお前に死んで欲しくないと思った、ただそれだけだ」
「……」
「だけどな、助けられたらお前の人生は終わりか?なら俺は何の為にお前を助けた」
「…………」
「その先は自分で考えないと。自分の居場所は自分でしか作れねえんだよ。わかるか?」
ベティはゆっくりと俺から離れ、みんなと同じ列に戻る。
「なら私の居場所はここです。このならびに立つこと」
「そうか」
「それを作ります。もう一度、良く考えて、ここに立てるように努力します」
「わかった」
「ジン」
エリーは両手を腰に当て、少し首を傾げて挑戦的に俺を見る。
俺は黙ってエリーを見つめ返す。
「エリーはもう孤児院の問題は片付いたわ。だから地球へ帰れ、そしてジンのことは忘れろって言うんでしょ?」
「ああ、そうだ」
エリーはフッと鼻で笑った。
「ジンに教えてあげる。女はね、好きになったら一直線なのよ。ジンみたいに理屈っぽく言えば何でも通ると思ったら大間違いよ?」
「…………」
エリーは太ももからクナイを二本抜いた。そして、目を半眼にし、凛と立っているようで、今にも目の前から消えそうな雰囲気を醸し出す。
「抜きなさい、ジン。エリーはジンが好き。一生離れない。それを邪魔する奴は誰であろうと許さない……。それが例えジンでさえも……」
「お、お前、何を言ってんだよ……」
エリーは少し膝を曲げた。
「エリーは自分の力で自分の居場所を勝ち取る。……もしジンがエリーを遠ざけるなら、エリーはエリーの力で権利を勝ち取るわ」
「てめえ!スキルモリモリだからってずりいぞ!」
エリーは少し首を傾げて、
「ジン、災害はジンの準備を待ってくれないのよ?ジンは自分の選択で今のスキルを入れた。ならそれはジンの責任じゃない」
「ふざけんな!」
「ふざけてないわ。運が無かったわね、ジン。エリーを側に置くと誓うか、それとも死んでエリーの永遠になるか。選んでちょうだい」
エリーはすごい目をしている。それに瞬きしたら目の前から消えてしまうんじゃないかと思えるほど、存在感が薄くなる。
やる、こいつマジだ。マジやられる。
「ま、待てエリー……」
「女が体を張って男を守るってね、軽くないのよ」
と、言った瞬間!
エリーが目の前から消えた。
ゾクリとした悪寒が俺をおそう。蛇に睨まれたカエルの気持ちがわかるほどの悪寒だ。
俺は見えたわけではないが、勘で剣を抜いて、うなじを守った。
カン!!
俺のうなじに構えた剣に、エリーのくないが当たる。俺の全身から一気に汗が吹き出る。本物の殺意だ。
「あら、良く見えたわね。すごいじゃない。これならエリーも本気────」
「待て!わかったから!!とりあえず待て!!」
もう一度はかわせない、俺は二度とない偶然に頼るのはやめて、剣を手放した。
「何よ。エリーは自分の権利を勝ち取ってるだけよ?」
「わかったから!追い出さないから!!」
するとエリーはくないを太ももにしまい、列に戻った。
「そっ、ならいいわ」
「汚ねえクソロリだ!!絶対横隔膜をぶち抜いてやるからな!」
エリーは妖艶な笑みを浮かべ、
「あら、そんなにサービスしてくれるの?嬉しいわね」
「っ!お前、いつからそんなキャラになった!!」
「むしろそこまで慣れるほど突いたのはジンだけど?」
「ぐっ……」
「ジン、女はね、好きな男のために強くなるの。女を舐めないでよね?」
「っ……」
たった今、ベティに『自分の居場所は自分で作れ』と言った手前、エリーの行動を非難できない。
手段がずるい、ずるいが反論できなかった。
アヤカは「こんな手が……」とかボソリと呟いたが、エリーが「真似したら殺すわよ。この距離ならあんたも殺れるわ」と釘を刺した。
「ジン坊や、あたいは────」
俺は喋り出したザラの顔の前に、右手の手のひらを向けてザラの言葉を止める。
「あー、お前はいいから」
「な、なんでだよ!」
「こいつらは俺の仲間だけど、お前は俺の依頼人だ。さて、送り届けるかな」
「ちょ!待ちなよ!あたいの話も聞け!」
俺はザラのオーバーオールの背中の布を掴み、ひょいと猫のように持ち上げた。
「よし、行くぞ」
「離せ!下ろせジン坊や!」
「聞こえんな」
「親父に言いつけるぞ?!」
「勝手にしろ。これ以上増えてたまるか。うちは保育園じゃねーんだよ。処理しきれん」
俺がザラをブラブラとぶら下げながら歩くと、アヤカたちは付いてきた。
「くっ、エリー!おい!あたいら仲間だろ?!」
「道中はね。今は違うわ」
「なんで!」
「だってあんた、ジンに認められてないもの。認められてないなら仲間じゃないわ」
「くっ!鬼っ!悪魔!ガキ!」
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ザラの行き先は聞いている。フェルズの鍛冶屋に修行に来たのだと言ってた。鍛冶屋が何件あるか知らないが、全部の鍛冶屋に、「こいつ知りませんか」と聞いて回れば済むことだ。
俺は猫持ちしたザラをぶら下げて歩く。
「あたいが妊娠してたらどうするつもりだ!」
「妊娠してたら認知するよ。本当にしてたらな」
ドワーフ相手には10年間毎日頑張っても、他種族なら可能性は低いという。宝くじ程度の確率にビビってはいられない。
すると、正面からドワーフの男たちか3人歩いてきた。そして、その男たちはザラを見るとカッと目を見開いた。
「っ!!待て!そこの人族!」
先頭のドワーフが俺に怒鳴る。
俺が足を止めると、
ザラは「ゲッ」と小さい声を上げて、小さな両掌で顔を隠した。
「姫?!姫なのですか?!ザラスラン姫!!!」
「「「「……」」」」
俺とアリサたちは顔を見合わせる。
「「「「はあ?!!!」」」」
またまたとんでもない爆弾が落とされた。




