魔王が魔族だと誰が決めた?
「来たわ……ラスボスよ……」
「ラスボスってお前な……」
「なんだいあれはっ!!!ジン坊や、魔王が現れたよ!」
フェルズ共和国の首都ファイザに着いた。
だが城門から200mほど離れた所に、ドス黒いオーラを天高く登らせた人間と、それに付き従うメイドのような女が点のように見える。
「つうかエリー、なんでアヤカは怒ってるんだ?」
あんなオーラを挙げているのだ、間違いなく怒っているのだろう。
エリーはこっちを向かずに、魔王をじっと見つめたまま俺に答える。
「決まってんでしょ?エリーが報告してたからよ」
「はあ?!!!話が違うじゃねえか!!」
それは生でしていたことだろう。それをアヤカにバラさない代わりにエリーとも生でしていたというのに。
エリーは涙目でチラリとだけ俺を見た。
「仕方ないじゃない!エリーも怖いのよ!あいつ絶対魔王だわ!あいつに通信で毎日毎日詰め寄られてジンは黙ってられるわけ?!」
「…………」
道中、エリーから話は聞いている。近藤のじいさんのスキルの中には、特定の人と離れてても電話のように会話出来るスキルもあったと。それをエリーは今入れている。冒険者ギルドがギルド間で通信出来るアレの応用か、それの大元となったスキルなのだろう。
それとエリーは斥候系で2000万未満までスキルが入るようだ。斥候系に限るが俺と同量が入る。必要なものを入れまくって俺を迎えに来たと言っていた。
すると、アヤカは両手を大きく天高く広げたように、遠目から見えた。
アヤカの頭上には……
「なんだありゃあ……」
「バカじゃないの?!ジンを殺すつもり?!」
「魔王だよ!ジン坊や、魔王だよ!」
アヤカの背後のファイザの街が隠れてしまうほどの火球がアヤカの頭上に現れる。
直径10m?、いやそんなもんじゃない、50mはありそうだ。
「元◯玉かよ……」
「余裕ね?そんな冗談が言えるなんて」
「いやいや、まさか撃たないだろ?」
エリーはまたチラリと俺を見た。
「撃たないと思う?…………、大丈夫、パパは絶対エリーが守るわ」
「パパって言うな!!出来てるかわからねえだろうが!」
「この会話、年増に聞こえてるわよ?」
「っ!!てめえ!遊んでんのか!!」
すると馬鹿でかい火球はこちらに向かって進み出した。
速い。
「う、撃ちやがった!!」
「任せて!パパ!」
「パパって言うんじゃねえ!」
エリーは何やら忍者のように、手で何度も印のようなものを結ぶ。
「風遁!!つむじ旋風!!!」
ブオオオオオオオオオ!
エリーの前に巨大な竜巻が現れ、それはまっすぐとアヤカに向かっていく。
ちょうどアヤカとエリーの真ん中あたりで、火球と竜巻がぶつかり合い、数秒立つと火球は天高く飛んで行った。竜巻はそのままアヤカを襲うが、アヤカが右手をブンと横に振ると、竜巻は霧散して消えた。
「てめえらやりすぎだ!!」
エリーはこっちを向いた。涙目だ。
「年増、エリーたちを殺して自分も死ぬって……」
「はあ?!聞こえてんだろアヤカ!やめろ!」
アヤカの前に噴水のように水が轟々と立ち上った。
映画でみたことある、これ、隕石が海に落下してきた時の大津波だ。大津波はこっちに向かって押し寄せ始めた。
「バカか?!!」
エリーはまた印を結ぶ。
「風遁!!暴風結界!!」
エリーの手前2mあたりから、俺たちの頭を超え、俺たちの後ろ2mまで半円の形で風が前から後ろへとものすごい速度で流れる。
「エリー!後ろに人は?」
「っ、居ないわ!人間はゼロよ!」
ドドドドドドドド、ザバァァァァァァ!!
津波は俺たちに襲いかかるが、風のドームで全ての水を遮っている。
「すげえ……」
「パパは死なないわ、エリーが守るもの」
「てめえも余裕だな!」
エリーはどっかで聞いたようなセリフを言ってくる。
パパ呼びだけは断固修正しなければ。
ザラは俺の足にしがみつき、ブルブルと震えている。
水が引いていく。
「た、助かった……」
エリーはアヤカを見つめたまま、
「メイドから最後の言葉ですって。子供と子供を作ってたんですか?待っててください。天国では私とも作りましょう。ですってよ」
「ここで作ればいいだろうが!」
「現世では何だかんだ言い訳してどうせ作らせてくれない。ですって」
「っ!ぐっ……」
言い訳出来ない。確かにそうかもしれない。だが子供なんて出来たら身動き取れないだろうが!
するとアヤカのドス黒いオーラが、急激に膨らみ始めた。
「っ!マジなの、あの年増!本当に死ぬわよ!!」
アヤカの前の土が、いきなりドン!!と割れた。何かが地面から吹き出す様に割れると、地割れは放射線状に広がりながら、こちらに進んできた。地割れからは溶岩のような赤いものも見える。
「あれは防げない!」
「なんとかしろぉ!エリー!」
「くっ、これをしたらエリーは倒れるわ。あとは任せたわよ!!」
エリーは自分の口に右手の親指をつけ、なんと自分で親指の腹を噛み切った。
そして両手を前に突き出し、地面に血を垂らす。
「忍法!幻影招来!!!出でよ!ミドガルム!!」
パァ!!!
地面に巨大な魔方陣が浮かび上がる。そこから、巨大な何かが首を出して現れた。
蛇だ、いや、龍だ。
ギャアアアオオオオオ!!!
魔方陣から立ち昇るように現れた龍は、その場でとぐろを巻くと、迫り来る溶岩地割れにガブリと噛み付いた。
放射線状に広がる地割れは、龍が噛み付くと何事も無かったかのように、龍と地割れは両方ともスッと消え去っていく。
エリーは片膝をついた。きっと魔力が切れたのだろう。
俺はふつふつと怒りがこみ上げる。この身勝手極まりない振る舞いにカチンときた。
「アッタマ来たぞ!」
俺は大きく息を吸い、
「アヤカアアア!!文句があるならこっちへ来い!!俺を殺したいなら殺してみろ!!!」
と思いっきり怒鳴ってから、一人でファイザへと歩き始める。するとアヤカとベティもこちらへと歩いてきた。
アヤカからはオーラは消え、俺の前に足を揃えて立った。
「仁さん、お待ちしておりました」
パァン!!
俺は思いっきり頬を引っ叩いた。アヤカの顔は横に吹っ飛ぶかと思うほど左へ流れ、アヤカはぶたれた頬を手で押さえて俺を見る。
まさかぶたれるとは思ってなかった顔だ。
「どうせてめえのことだ。『エリーなら何とか出来るとわかってた』とか言うんだろ?…………見てみろ後ろを」
俺たちが通って来た森がある。森の木々は大津波の威力で軒並み倒れている。
「どうすんだこれ。はしゃぐのもいい加減にしろ。もし人が居たらどうすんだ?」
アヤカは頬を押さえたまま口を開かない。するとベティが、
「ご主人様!アヤカさんはご主人様を心配して、それは色々と動いていたのです!!それなのにエリーからはアヤカさんを煽るような連絡ばかり────」
「知るかあああああ!!」
と、怒鳴るとベティはビクリとして止まる。
「それとこれが何の関係がある。ベティ、お前まで一緒になってはしゃいでどうすんだよ、お前が抑えるんじゃねーのか?これが俺の為か?この惨状が!!」
ベティも黙ってしまう。
「アヤカ、異世界はてめえのおもちゃじゃねえんだよ。それともそれほど俺が憎いか?女とやったから殺したいか。なら殺せ。殺してみろおおおお!!」
俺が怒鳴りつけるとアヤカは涙をつーっと流した。
「…………ごめんなさい……」
「俺に謝ってどうする。後ろをみろ」
アヤカに後ろを振り向かせる。
魔王対忍者の大決戦を見て、集まる野次馬、兵士たちまで集まっている。
「アヤカ、どこに謝ればいいかわかるな?」
アヤカは大きな声で、子供が泣きじゃくるように、
「ごべんだざい!!もうじまぜんから、許してください!ごべんだざい!」
本当にフェルズの人は人がいい。手を振った奴までいる。住民たちは帰っていき、二人の身なりの良い男だけが護衛も連れずに歩いてきた。
「ごべんだざい…………ごべんだざい……」
ザラに肩を借りて俺の所まできたエリー。
「エリー、全員連れてどっか行ってろ」
「ジンは、どうすんの?」
「多分あいつらがお偉いさんだろ。身内の不始末のけじめをつける」
「ジン……、ごめんなさい」
「いいから。とりあえずどっか行け」
「わかったわ。後は任せて」
「おう」
エリーとザラはアヤカとベティの手を引いてファイザへと入って行った。男二人とすれ違ったが、男たちはアヤカたちをそのまま通した。
二人の男が俺の前に立つ。一人は中年?のエルフ、もう一人は熊の獣人だった。
エルフの男が口を開く。
「初めてお目にかかる。ワシはフェルズ共和国大統領、ルカーレ=ディ=ガンフォレストだ」
「ジンサイトだ。迷惑をかけてすまない。この責任────」
エルフは片手を上げて俺の言葉を止めた。
「ああいい。君らは声が大きいからちゃんと聞こえていた。人は居なかったんだろ?」
「ああ、多分で悪いが」
「それよりワシはホッとしてるのだよ」
「……は?」
大統領は疲れた顔で笑い、
「君がリーダーとは聞いていたが、あそこまであのまお──、コホン、アヤカ殿を制御出来るとは」
「……本当、申し訳ない」
大統領はハハハと笑い、
「君とは話がしたいんだ、一緒に官邸まで来てくれるかな?」
「はい、行きます」
熊の獣人の男が、一歩前に出た。
「俺は冒険者ギルドファイザ支店のギルドマスター、兼、フェルズ共和国冒険者ギルドの統括、グレンザだ」
とうとう来た、ミレイからの回し者だ。
「先に言っておく。冒険者ギルドも一枚岩ではない。フェルズ共和国の冒険者ギルドはジンサイトの《ノヴァリース人拉致監禁容疑》を冤罪と認めた。まだ裁判等あるかも知れんが、我々はジンサイトと敵対するつもりはない」
「…………」
ホンット、本当、フェルズ共和国いい国過ぎんだろ!!グランダムはどうなってやがる!
「俺も大統領と同席して話がしたい、構わないか?」
「あー、大統領がいいなら」
大統領は言う。
「こちらで話は付いている。よかったらフェルズの自慢のワインでも飲みながら、少し話をしよう」
「あり────、助かる。俺も奴らの保護者として話をしたい」
大統領は俺の肩に手を置いた。
「では、行こうか」




