犯罪者
アレから一緒に風呂に入り、もう一度ドロリを掻き出してやった。本当に不可能ではなかった。マンガのように腹の形がボコボコと膨らむのに全く痛くは無いと言う。流石ドワーフなのだろうか。
服を着てザラの話を聞くと、どうやら俺は異世界人ってもの話したらしい。異世界経由だから連れていけないと。
「だからわかったって。異世界に行ったらあたいの言葉はあんたも誰もわからなくなるんだろ?良いっての。たかが2、3日黙ってればいいだけだろうが」
「……」
「それに転移?っつったか?そんときゃあたいは素っ裸じゃないと通れないんだろ?どうってことないじゃないか。荷物はあんたが持ってくれるんだろ?ほら、何の障害もないよ」
「でも秘密を守って貰わなきゃ困る」
「守るさ、ドワーフの誓いをなめんじゃないよ。例え拷問されてもドワーフは口を割らない。バカにするのはおよし」
「………」
もう選択肢がなくなった。
「それにまさか、あたいをさんざん抱いといて、このまま「はいさよなら」って出来るつもりかい?」
「…………わかったよ、連れてく」
「手こずらせんじゃないよ、全く……あんたの情婦は大変だねぇ」
「……」
どうやらアヤカたちのことも俺は話したらしい。
「あっ、つうか旦那とかは居ないのか?」
ザラは呆れるような目で俺を見て、
「いたらやるわけないだろうが。……10年前に死んだよ。男はそれっきりさ」
「そうか……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ザラを運ぶ作戦はこうだ。
バカでかいリュックを買い、そこに全裸のザラに入ってもらう。身体強化があるから、手荷物とザラ程度なら全く問題なく運べる。
ミレイには引っ越し荷物だと言えばなんとかなるだろう。
全ての準備を終え、ザラを入れたリュック、俺の亜空間バッグ、ザラの工具や服を入れた大きめのバッグを持ち、俺は地下道から転移門の部屋に入り、呼び出しボタンを押してミレイを待つ。
「よお」
「何なのその荷物」
「色々家財が貯まってたからな。装備とかも持って帰ってもいいんだろ?」
「…………本当にもう来ないつもりなの?」
「違うって。ただ一年とか期間が空いたら、あの家を借りっぱなしってわけにはいかねえだろ」
「まあ……、そうね」
「またな、ミレイ」
「……ええ」
俺はゲートに立ち、転移を待つ。
ブー!ブー!ブー!ブー!
「っ!!」
けたたましいサイレンがいきなり鳴り響き、俺は動揺した。
「っ!、ジン!あなた」
「何だこれは!」
「ジン!そのリュックの中は何?!エルフ?!獣人?!」
「はあ?!」
「人族以外が通過するとサイレンが鳴るのよ!地球には居ない種族だからね、許可なく地球へは行かせないためよ。一体誰を連れてくつもりなの?!」
「っ!」
ザラがリュックの中から叫ぶ。
「何だいあたいのせいかよ!!あたいが出ればいいのか?!」
「誰っ!」
「これ以上話すな!お前は黙ってろ!」
俺はサイレンが鳴る中、ザラを黙らせる。
ミレイは物凄い形相で俺を睨んでくる。
「ジン、とんでもないことをしてくれたわね……」
「ダメだとは言われてねえぞ?」
「詭弁ね。そいつを渡しなさい」
「……何故だ」
「当然、……わかってるわよね?」
ミレイは眉を下げ、人間とは思えないほど冷たい目線を向けてくる。
処分するつもりだ。
「ジンは殺さないわ。でも奴隷紋は刻ませてもらうわよ」
「…………承知できねえな」
俺は腰からスクラマサクス型のミスリルの長剣を抜く。
「…………逃げても無駄よ。ギルドは世界中にあるわ」
「たしかに俺は人を一人連れて行こうとした。だけどそこまでのことかよ」
「当たり前でしょ?ギルドが守って来たものをなんだと思ってるの?」
ミレイがパソコンに目をやったので、俺は急いでゲートから降りた。スキルを抜かれたら俺は終わりだ。
「…………その程度のスキルで、ギルドを敵に回すつもり?死ぬわよ?」
「……やってみなきゃわからねえ」
するとザラが
「もうあたいはいいから!あたいを置いていけ!」
「出来るか!いいから黙ってろ!!」
ミレイはジッと俺を見る。
「後悔するわよ、ジン」
「かもな。でももう動いちまった」
「たかが他人一人のために人生を捨てるの?」
「仕方ねえだろ、不本意だけどな」
外からバタバタと音がしだす。
「じゃあなミレイ」
「逃がさない、絶対に……」
俺はドアをけやぶり転移門部屋を出た。
武装した兵士が続々と向かってくる。俺は剣を逆刃に持ち、致命傷を与えないように兵士をなぎ倒しながら地下道を出る。
右手に剣、左手には大荷物、背中にはザラを担いだまま、全速力でグランダムの南門へと走る。
「追えええええええ!」
「逃すなあああ!!」
兵士達が追ってくるが、この状態でも俺のが速い。
俺はアヤカたちのことを思いながら、全速力でグランダムを抜け出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アヤカが帰還してから3日が立つ。
ジンはまだ帰宅していなかった。
もうエリーも来ているのにおかしい。一日だっておかしいのにまさか二晩戻ってこないとは……。
「ミコト、エリー。青木ヶ原支店に行って見ましょう。仁さんに何かあったのかもしれません」
「確かに遅いわね。でもあたしが行って大丈夫?」
「ミコトは車で待っていてください。もしかしたら二台で帰る必要があるかもしれません」
「わかったわ」
アヤカはエリーに翻訳機で事情を説明すると、三人で車に乗り込み冒険者ギルド 青木ヶ原支店に向かった。
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「何ですって?そんなことあり得ません!!」
「ですが本当なんです。今ジンサイトさんには、《ノヴァリース人拉致監禁容疑》がかかっていて、全ギルド指名手配状態です」
「そんな……」
一体何があったと言うのか。ベティに何かあり、ベティを連れてこようとして見つかったのだろうか。
「だ、誰を拉致監禁したんですか?」
「わかりません。ですがベティさんではなさそうですよ?ミレイが聞いたことない声だったと言ってました」
「……」
それこそあり得ない。ベティ以外を連れてくる?その行為自体が異常だし、そんな人のあてもない。挨拶回りからどうしてこうなるのか。
「なら私を異世界に送ってください!」
ミランダはゆっくり首を振る。
「ダメです。ジンサイトさんと仲が良い方の行き来は全て禁止となりました」
「そんな!」
「むしろ喜んでもらいたいです。通常であればアヤカコンドさんにも嫌疑が及ぶところですが、それはあり得ないと止めたのですから」
「……ありがとうございます……」
嘘だ。こちらから仁に合流出来ないなら、ジンはたった一人。いくらジンが強くてもたかが剣術レベル3のスキルではギルドの大群には敵わないからとの見通しだろう。
それに亜空間バッグの使用期限は30+10日で40日、どんなに物資を持っていようと、ほっといてもそれを過ぎればどこかの町には頼るしか無くなる。そうすれば自ずと情報も入ってくる、それがギルドの狙いだろう。
「…………ならば私は帰ります。いつの日か仁さんが地球に戻って来た時の場所を用意しとかなければなりませんから」
するとミランダは机の下から何かの水晶玉を出してきた。
「一応念のためです。これは嘘を暴きます。確認させてもらえますか?アヤカコンドさんのために」
「……ええ」
アヤカは水晶玉に手を乗せる。
ミランダは質問を始めた。
「アヤカコンドさんはジンサイトさんが拉致監禁することを知っていましたか?」
「いいえ」
水晶玉は青く光った。
「アヤカコンドさんはジンサイトさんの拉致監禁に関与していますか?」
「いいえ」
「アヤカコンドさんはジンサイトさんがどこにいるか知ってますか?」
「いいえ」
水晶玉は毎回青く光る。
「結構です、これで完全にアヤカコンドさんの疑いは晴れました」
「ありがとうこざいます……、では」
アヤカはギルドを後にする。
そして車に乗り込むとミコトが話しかけてくる。
「どうだった?!」
アヤカは眉を寄せ、真剣な眼差しで、
「…………仁さんを助けに行きます。ジンサイトエージェンシー、初めての仕事です」
「っ!わかったわ!いっくわよ!!」
エリーは何がなんだか言葉がわからずキョロキョロする。
アヤカたちは二台に別れて車をジンサイトベースへと走らせた。




