亀裂
俺たちはガランドン王国に行くのを引き返し、また国境を越えてグランダム王国へと歩いた。
「ごめんね……、ジン……」
「気にすんな、エリー。俺も何も出来なかったよ。それよりアヤカ、大丈夫か?」
アヤカはキョトンとした顔をしたが、すぐにハッとした顔をして、なよなよっと膝を崩した。
「仁さん、私、人を殺してしまいました……。私、もう心が潰れてしまいます…………。聞いたことあるのですが、初めて人を殺した男性の兵士は女を抱きたくなると言います。仁さ────」
「行くぞエリー」
「あいつ本当にヤバイわ」
俺たちはスタスタと先に歩いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
西嶋さんの荷物は預かったままだが、食料や非常食、じゃらじゃらと金が入ってそうな袋ぐらいしかなかった。西嶋さんの着替え等はその場に出していたので、持ってきてない。金は後で数えて有効に使わせてもらおうと思う。
(俺もやっぱり異世界に染まってるんだな……)
明らかに盗賊の時のような忌諱感は薄れている。生物や人型の魔物をしこたま殺しすぎたからだろうか。
(少し気をつけなきゃ)
そんなことはないと思うが、俺が知らず知らずのうちに殺人鬼のようになっても困る。
「それはそうと仁さん」
「いきなり立ち直ったな」
さっきまでガックリと来てたのに。
「私たちのスキルの見直しは急務です」
「でも金の問題があるからなんでもかんでもってわけには行かないぞ?収入だって、前回がデカかっただけだし」
「それでも、どんなスキルがあるかを把握しておく必要はあります。今回のようなこともありますから」
「まあな……」
たまたまアヤカが魔法に抵抗出来たから良かったが、あれが毒なら全滅してたし、魔法に抵抗出来なくても全滅だった。
「それとこれを」
アヤカが差し出したのは西嶋恵子の方の登録証だ。
「…………淫魔って」
職業欄にはそう書かれていた。
「これに関わるスキルをレンタルしていたと思われます」
「なるほど」
「それ、あんたの登録証じゃないの?」
たしかに調べるのは必要かもしれない。
~~~~~~~~
4日かけてグランダムの街へと帰還した。あれから何故か、エリーが俺と一緒に寝たがる。アヤカなら何となくわからないでもないが、エリーはまだ子供だ。俺はロリコンではない、それにエリーは一線を引いたような態度だったと思うが、妙に距離が近くなっている。
またアヤカが何か企んでるのだろうか。
初めから3人で地下の転移門部屋へ行き、呼びボタンを押してミレイを待った。
そして事の顛末を全てミレイに話した。
「そう、そんなことが」
「信じるか?」
「ジンたちには殺す理由がないもの。それにジンが気軽に殺すとは思えないわ」
「そう言って貰えるとありがたい」
「登録証を預かるわ。それと報酬を持ってくるわね」
「ああ」
ミレイは西嶋夫妻の登録証を持ち、部屋から出て行ったが、すぐに戻ってきた。
「確認して、1人金貨10枚よ」
「了解」
俺は中を見ずに亜空間バッグに突っ込む。
「あー、そういえば、これ、買い取れるのか?」
俺は亜空間バッグから、輝きが少ない方の1cmほどのガラス玉を取り出した。
それを手のひらに乗せミレイに見せた。
ミレイの表情が変わる。驚いたって感じじゃない。表情が消えたのだ。まゆが下がり、目も半眼になる。冷たい表情だ。
だが、すぐにパァと笑顔になり、玉を俺の手のひらから持ち上げた。
「宝石ね!これをどこで?!」
「あー、あの遺跡でだな」
「そっ。買い取れるわよ!」
「いくらだ?」
「そうねぇ?」
ミレイは少し考えこむ。
「金貨10枚かしら」
「……意外と安いな」
いや、たかだかガラス玉に百万は高い。でも中がわずかだが、自身で光を放ってるのだ。そんなのは地球のどこを探しても存在しないだろう。
「なら、持って────」
俺がミレイから取り返そうとすると、ミレイはひょいと手を引っ込めた。
「な~にぃ?こんなガラス玉が欲しいの?仕方ないわね、じゃあ20枚出すわよ!」
「……」
おかしい。まず話し方がおかしい。こんな女女した話し方をしない。それに簡単に2倍に跳ね上がった。
するとアヤカが俺の足をコツンと蹴った。
そして、
「ミレイさん、返してください」
「何よぉ、アヤカも欲しいの?私案外気に入っちゃったんだけど────」
「返してください」
アヤカは真顔でミレイを見つめ、手を差し出す。
「宝の発見は発見者に権利がある。ですよね?」
ミレイは眉を寄せたが、渋々とアヤカに玉を返した。
そしてそれを俺に手渡す。ニンマリとした表情で。
「仁さん、私これでネックレスを作って欲しいです、ダメですか?」
コツン
また足を蹴られた。しつこい、俺だってこの雰囲気ならわかる。
「そうだな、たまにはそういうのもアリか。作ってやるよアヤカ」
「ふふ、ありがとうございます」
「待って!!」
ミレイが血相を変えて止めてくる。
「ひゃく……いえ、200枚出すわ。それを売りなさい」
「……」
ミレイが素に戻った。
「おいおい、いきなり20倍か?そんなに高いものなのか?」
「うるさい!早くよこしなさい!」
ミレイは手を出してくる。
「わりいなミレイ。今アヤカに約束しちまったから」
ミレイは明らかに怒っている。思いっきり眉間にシワをよせ、俺を睨みつけてくる。
「命令よ、それを売りなさい」
「ミレイ、はっきり言って俺はこれにそんなに興味はない」
「だったら────」
「だけどおかしいじゃねえか。お前の変わりよう、異常だぞ?」
「…………」
ミレイはまっすぐ睨んでくる。そして、
「ジンたちが持つものではないわ……」
「危険と言いたいのか?」
「…………そうよ」
俺はテーブルに両ひじをつき、負けじとミレイを睨みつける。そして可能な限りのドスをきかせて、
「ミレイ、嘘をつくのか?」
ビクッ
ミレイは上体をそらした。
「俺は結構うまくやってきたぞ?細かい諍いはあったけど、俺たちはいい関係だったはずだ。…………俺はこれがなんだか知らねーけど、たかがこんなガラス玉のために俺たちの関係をぶちこわすのか?」
「…………」
ミレイは冷や汗を垂らしている。明らかになにかを隠してる。
「こんなガラス玉、俺は金貨一枚で売ってもいい。だが、お前のその態度が気に入らねえ。言えミレイ。これはなんだ?正直に答えろ」
「…………」
ミレイは押し黙った。
沈黙が流れる。
数分が経ったろうか、ひとしきり悩んだミレイは答えを出してきた。
「……極秘事項は話せないわ」
「……そうか、なら取引はなしだ」
「極秘事項って教えたじゃない!」
「そんなのは態度でわかる」
「……後悔するわよ」
「そりゃ脅しか?」
「…………解釈は任せるわ」
「そんな態度じゃ、俺の異世界も終わりかな?」
「…………好きにしなさい」
「……」
そうきたか。
あれだけ俺に異世界に来いと言ってたのに。
自分の出世がかかってると言ってたのに。
それをいきなりもう用済み扱い。それほどの価値、いや、それほど俺たちに知られて欲しくないことがあると。これは…………。
「仁さん、帰りましょう」
「ああ」
俺はミレイを見る。
「まだ今回の滞在期間はあるよな?」
「…………ええ」
「なら10日後に地球へ帰る。いいか?」
「構わないわ」
「それ以降の仕事はまた一から相談ってことになるが、いいか?」
「構わないわ…………」
「わかった、帰るぞ、アヤカ、エリー」
「はい」
「う、うん……」
俺たちは地下道を進み、自宅へと向かった。




