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西嶋恵子

地上に出ると、アヤカは西嶋さんにここで別れようと言ってきた。


「同じ日本人じゃない。ちょっと冷たすぎない?」

「思ったより元気そうですので。それに私たちはあなたの救出でかなりの体力を使いました。とてもお送りするのは難しいです」

「ガランドンまでたった2日よ?!せっかくここまで来たのに死んじゃうわ!」


俺はアヤカの肩に手を置き、


「いい、アヤカ。送っていこう」

「……わかりました」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




俺と西嶋さんが並んで歩く。もう今日は少し歩いたら野営をするつもりだ。だが、どこから来たかわからない狼の大群という前例がある限り、あの遺跡で休む気にはなれない。苦肉の策としてガランドン方面に移動しているのだ。


「あなたの彼女、ちょっと変よ。それにあの格好はあなたの趣味なの?」

「いやー、コスプレって言うらしいよ」


すると西嶋さんは、


「あー、なるほどね。見たことあるわ。たしかゲームのキャラね」

「そうなんだ、俺はあんまりわからないんだけど」

「どっちにしろあの格好で歩くのは頭おかしいわよ」

「まあ、な」


するといきなりエリーが俺の前に飛び出してきた。


「ねねっ!北海道ってどんなとこなのっ!」


と、西嶋さんに話しかける。なんか子供みたいな話し方だ。


「あなたも彼の仲間なの?」

「そうだよっ!エリーって言うのっ!よろしくねっ!ねねっ、北海道のこともっと知りたいなっ!」

「え、ええ。いいけど……」

「雪が降るんでしょっ!」

「たくさん降るわよ」

「へーっ!すごーい!」


なんだこのエリーは。こんなキャラではないだろ。いや、逆にこんなキャラがすごい似合う見た目ではあるが、中身はこんなんじゃない。

すると俺は腕を掴まれ後ろに引っ張られた。エリーはアイコンタクトのようにチラリと俺を見たが、すぐに楽しそうに西嶋さんと会話をしだす。


アヤカは俺の手を取り、西嶋さんとエリーから距離を取る。そして小声で話す。


「仁さん、気をつけてください」

「アヤカ、警戒してるのはわかってたし、なんか旦那が死んだ割にはアレだなとは思ってたけど、警戒しすぎじゃないか?」

「仁さん、私は彼女が彼を殺したと思ってます」

「っ!!!」


俺は「はああ?!」と叫びそうになったのをギリギリ我慢した。


「多分保険金殺人か、遺産目当ての結婚詐欺か。その類だと思ってます」

「……考えすぎだろ」

「状況的に可能性が高いです」

「そうか?それに保険金殺人って死体がなかったら無理だろ」

「7年経過すれば認定死亡が取れます」

「長すぎね?」

「それに報いるほどのお金持ちかもしれません」

「……」


ちょっとドラマの見過ぎではないだろうか。


「おかしいと思いませんか?旦那さんが原型がとどめない程の衝撃を受けてるのに、奥さんは無傷ですよ?せめて骨折ぐらいしてるのが普通です」

「そこはスキルじゃ?」

「わかりません。でもどんなスキルでしょうか」


それは俺も知らんけど。


「仮に奥さんが無傷なら自分が死なない範囲ででも、旦那さんに何かが出来たはずです」

「いやでもよ、自分も落ちてるんだぞ?もし助けが来なかったアウトじゃねえか」


アヤカは顎に手を当てる。


「多分一緒に落ちたのは計算外でしょう。ですが亜空間バッグのルールを把握していれば、救出部隊が来る可能性は高いと見たのでは?実際、私が下に降りた時は、亜空間バッグの中身は全て出されていました」

「それだけで殺人ってのはちょっと……」

「旦那さんの遺体は綺麗に焼かれていました。匂いが発生するから焼くのは当然に思えますが、愛する人が死んだのにそんな簡単に焼けるでしょうか?少なくとも私は無理です。私なら仁さんの肉を抱いて後を追います」

「…………」


俺はその言葉を聞き、背中がブルっとした。


(確かにそれはそうかもしれんが、間違いなくお前のが異常者だ!やっぱお前どっかぶっ壊れてるよ!)


「うっそ!!ちょっとあなた!オークキングを倒したの?!!」


エリーと話していた西嶋さんが振り返り、大声で言ってきた。


「あ、ああ」

「すっごいわね!!レベル5とか借りてるんじゃないの?!」

「いやー」

「レベル5は一千万よ!お金持ちなのねっ!」


するとアヤカは、


「はい、仁さんは日本でも成功した実業家ですので」


盛る盛る。どんだけ盛るんだよ。


「そぉ~お!流石ハーレムを作るだけあるわね!こっちならやりたい放題だもんね!」

「あ、ああ」


西嶋さんの目はキラキラしていた。またエリーと話し出す。



「確かに少し証拠が足りませんが、仁さん、今夜あの方が誘惑してきたら、間違いありません」

「……」

「旦那が死んですぐに他の男を誘惑するのは異常です」


お前、じいさん死んですぐじゃなかったか?と言いたかったが我慢した。


「つうかアヤカ、仮に西嶋さんが保険金殺人をしてたらどうしたいの?警察に突き出すのか?」


アヤカを見ると、アヤカは首を横に振った。


「いえ、こんなゲスい女の為に私たちが命をかけたと言うことには腹が立ちますが、何をすると言うことはありません。私が恐れているのは、私たちの亜空間バッグの中身を狙われないかと言うことです。最悪寝首をかかれるとか。まあ、そんなことはさせませんが」

「…………」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




いつものようにテントを張り、アヤカの飯を食い、水シャワーで体を洗う。

アヤカ曰く、西嶋さんは何かに備えるように入念に身体を洗っていたようだ。もうアヤカはそうとしか見てないからそう思えてるだけだろとしか思えない。


今日はアヤカとエリーが先にテントに入る。俺と西嶋さんはテントの外で焚き火を薪をくべながらたわいのない雑談をする。


2時間ほど経っただろうか、エリーの寝息が微かに聞こえ出した頃、


「ねえ、斉藤さん?ちょっと身体を冷やし過ぎたみたい。寒いわ」

「ならコーヒーでも飲むか?」

「ええ、お願いします」


俺はコーヒーの準備をする。

すぐにお湯が湧き、コーヒーをカップに注ぐと、西嶋さんは立ち上がり俺に寄り添うように座ってきた。


「寒いからとなりに座っていいかしら?」

「…………ああ」


肩をぶつけ、横胸を押し当てるように俺に寄りかかる。

するとカップを「ふぅー、ふぅー」と子供みたいに頬を膨らませながら冷まし、一口唇をつけたかと思うと、上目遣いで俺を至近距離で見上げてきた。


「斉藤さん、私道産子なのに寒いのが苦手で……」

「まあ、土地は関係ないだろ」

「ふふ、そうかもね……」


西嶋さんはカップを地面に置いた。

そしておもむろに立ち上がり、あぐらをかいてる俺の足の上にまたがるように座ってきた。思いっきり抱き合うような形だ。


「北海道は寒いから……。こうやって暖め合うの……」

「流石にこれはまずいんじゃないか?」

「うふ、真面目なのね。……ねえ、もっと暖まることしない?」


西嶋さんはちょっと首を傾げて俺を見る。そして俺の首に両手を回す。


「いや、俺にはあいつらがいるから」

「黙ってればわからないわ。今だけでいいの。浮気じゃないわ、暖めあうだけ…………。ねぇ、斉藤さんも私の中で暖まって……」


そして徐々に顔が近づいてくる。もう唇と唇が触れ合うかどうかとなった時、


「エアカッター!」


シュン!

シュバッ!


西嶋さんはまるで消えるかのごとくに俺の膝上から消えた。


魔法を打ったのはアヤカだ。アヤカはテントから身体を出してくる。


「申し訳ありません。我慢が出来ませんでした」

「俺だって捕まえるとこだったんだぞ?」

「あの醜女が仁さんに触れてるのが耐えられませんでした」


アホが。俺だって色香に流されてはいない。ちゃんと俺の背中に背負ってる亜空間バッグを狙ってたのはわかってたし、手の中にナイフを仕込んでたのも気づいてた。


「あはははっ!醜女とは言ってくれるじゃないのよ、デブ女!!」

「私はデブじゃありませんが、それを決めるのは仁さんなのでどうとでも言ってください」


いや、アヤカはデブじゃない。万が一そんなことを冗談でも言えば、北の空に見えない星が見えてしまう。


しかし、まるで西嶋さんは本物のくノ一みたいだな。西嶋さんの声はしても姿は見えない。


「あんたらがあの宝を持ってるのは分かってるんだよ!!大人しく出しな!さもないと生きて帰れないよ!」

「3vs1で勝てるつもりですか?」

「馬鹿か?!見込みがなくてやるわけねーじゃん!脳みそが胸に詰まってるんじゃないのかい!」


女の言い争いはキリがないので俺は西嶋さんに問いかける。


「西嶋さん、あの玉がなんだか知ってるのか?」

「当たり前だろ?!売れば優に白金貨のお宝さ!」


マジか。


「宝石なのか?」

「、、あっはっはははは!無知は恐ろしいね!…………でも、教えてやる義理はないね」

「まあ、そうだな。でもいつまで隠れてるつもりだ?それで俺たちから奪えるのか?」

「もちろんさ!、ほら、もうそろそろだろ?」


何がそろそろなのか、ん?


「あっ」


身体がおかしい、手の感覚がなくなってるような。これは、毒か?!


「あははは!どうだい?麻痺魔法さ!安心しなっ、すぐには死にはしないよ。動けなくなるだけだよ」

「くっ」


本当に動かなくなってきた。立っていることも出来ない。俺はドサリと地面に崩れ落ちた。アヤカも同じように倒れこむ。


すると西嶋さんが瞬間移動のようにシュッと現れた。


「効いてるようだね」

「な、ぜ…………こん、な、、」


西嶋さんはニヤリとして、


「決まってるだろ?金のためさ。この世界ならなんでもやり放題、しかも日本で換金出来るんだから美味しいね。さて、女たちは殺すとして、あんた、私と組まないか?あんたがその気になってくれるなら命は助けるよ。まあ、奴隷にはなってもらうけどね」

「こ、れ、、ど、く、」

「あはははっ、毒じゃないよ。一応魔法だよ。それでもあと10分もしたら呼吸は止まる。早く決めな。私もキングが倒せるような奴には興味があるのさ」


やばい、あと10分だと?

アヤカもダメなようだし、エリーはどうだ?動けるのか?あいつ次第だが、魔法ならもうエリーも麻痺してるのか?


「まっ、とりあえずお宝を拝見させてもらおうか、ゆっくり考えな。あと10分だけど」


西嶋さんは俺の背中からむしり取るように亜空間バッグを取った。そして中をゴソゴソとやると、


「あった……」


光り輝く小さな玉を取り出してうっとりと眺める。


「(…ックアロー)」


ドスっ!!


西嶋さんの胸からいきなり石の矢が生えた。

西嶋さんは目を見開き、自分の胸を見下ろす。


「がふっ!」


西嶋さんは吐血した。するとアヤカがゆっくりと立ち上がる。


「魔法で助かりました。これからは毒耐性もレンタルしましょうか」

「あんた……、なんで……」


アヤカは指を一本立て、顎に指を添えて首をかしげる。


「多分職業特性だったのでしょうか。ある程度魔法に抵抗出来るようです」

「そんな……、私のパラライズエアーが、効かないなんて……」

「まあ、同じ炎の魔法でも魔物によって効果が違うんですから、抵抗値があってもおかしくないですよね」


アヤカはどうやら俺が倒れるのを見て、西嶋さんの隙を伺うために効いたふりをしたようだ。


「さて、仁さんに後遺症が残っても困ります。ではさようなら」

「ま、待っ────」

「エアカッター」


ザシュ!


西嶋さんの首は飛んだ。

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