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死地

「ジン、見て?!」


建物に入るとエリーが手招きをしているのが目に入った。


そこはベッドの土台のようなものの下に、地下へと降りる階段が口を開けていた。

チラリと壁を見ると、まるでボタンを押したように凹んでる壁がある。


「よく見つけたな、エリー」

「凄いでしょ!って言いたいところだけど、もう既に開いてたの」

「仁さん」


アヤカが階段を覗き込みながら俺の肩に手を乗せる。


「ああ、間違いないな。この中だろ」

「え~っ、ここ入るの?!キモいんだけど?」

「それが仕事だ」


アヤカがスクッと背筋を伸ばした。


「明かりをつけましょう、トーチ!」


アヤカが魔法を唱えると、アヤカの指先に火の玉が現れた。それをもう一つ出して、人魂のように2つ宙に浮かべた。


「便利だな」

「行きましょう」

「ああ」


俺たちは俺を先頭に中へ入った。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




階段は5階分ぐらいあったのではなかろうか。まっすぐな階段をかなり地下まで降りていくと、少し開けたところに出た。天井の高さも4、5mほどあり、まっすぐ立つことが出来た。


「こりゃあ、まるでウィザ◯ドリーだな」


小学生の時にやったダンジョン探索ゲームのように、四方を壁で囲まれた道が奥へと続いている。道幅も高さも4mは余裕である。


「仁さん、風が吹いています」


通路の奥からは風が階段へと流れている。ということは、この先に空気の流入口があり、俺たちが入って来た方向が出口になってるのだろう。


「とりあえずゆっくり進むぞ」


俺たちは歩き出した。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ジン、この先に魔物よ!」

「……何匹だ?」

「一匹みたい。エリーがやっていい?」

「あー、そうだな。見てみたいな」

「まっかせて!」


ちなみにアヤカは進入路から定期的にトーチを設置している。魔力が持つのかと聞いたら、1000個でも楽勝との頼もしい言葉を頂いた。

てっきり人魂みたいに浮かんだから歩行についてくるのかと思ったら、そんな都合よくはなく、設置型らしい。酸素が危ないが、これだけ空気が流れてれば問題ないとのこと。一度設置したトーチは12時間は燃えてるとのことだった。



「来たわ!」


アヤカがトーチを飛ばしながら設置すると、魔物が視認出来た。ゴブリンだ。


エリーはその場で少し腰を落とし、両太ももからクナイを抜き、


「しっ!」


同時に二本投げると、ゴブリンの眉間と目玉に深々と突き刺さった。

ゴブリンはそのまま後ろに倒れた。


「やるじゃん」


エリーは俺に振り返り、にっこりと


「まあね!」


テクテクとゴブリンまで歩いて行き、ゴブリンからクナイを抜いた。

そして水筒の水でさっと血を流すと、また太ももに装備した。


「意外と慣れてるな」

「ツゲレン公国では魔物狩りがメインだったもの。このくらいは慣れたわ」

「そっか」


これは予想外に戦力になるかもしれない。




それからもエリーの自給自足(サーチ&キル)は続いた。

運良く、一匹、または2匹ずつしか遭遇していないので、俺は棒立ち、アヤカはトーチ係に専念している。


エリーはなかなか凄かった。敵を見つけると、忍者のように体制を低くしながら走って行き、背中のダガーを両手に持ち、一体一撃で急所を確実に突いていく。

時には壁を蹴り、勢いをつけて飛んだり、隠密を使い背中に回り込んだりと、見事な戦いを見せている。


「あははっ!すごい!すごいわ!やっぱり忍者のコスは違うわね!」


間違いなくコスプレのせいではなくて、スキル構成のせいなのだが。

それにスカートが短いので、もうパンツは丸見えだ。スカート履かなくてもいいんじゃないかと思うほどだ。


まあ、楽しいならそれでいいが。



このトーチ、迷路のようなこのダンジョン?にはぴったりの性能だ。トーチがあるところ=行ったことがあるところなので迷うこともない。ただ、ここみたいに空気の心配をしなくていい場所に限るが。



しばらく進んでると、エリーはピタリと動きを止めた。

そして急に血の気が引いたように青ざめだす。

どうした、強い魔物でもいたか?


「交代か?」


エリーはギギギギと首を俺に向け、歯をガタガタと鳴らす。


「ご、ごめ……」

「……どうした?」


エリーはカランと両手のダガーを床に落とし、俺の皮鎧を両手で掴んだ。


「だ、だって!こんなに狭いのに!」

「落ち着け、どうした?」

「急にこんなことあるわけないわよ!!」

「だから落ち着け!どうしたんだ」


「仁さん、嫌な予感がします……」


アヤカも後ろをキョロキョロと見だした。


「いるの!!たくさんいるのよ!!」

「どのくらいだ?」

「わからない…………1000くらいかも……」

「はあ?!」


それはエリーじゃないがあり得ない。こんなダンジョンに1000なんて入りきらないだろう。


「来た!!来たわああああ!!」


エリーはしゃがんでしまった。俺は剣を抜いて構える。


『ウオオオオオオオオオオオオオオン!!』


狼の遠吠えが反響し、ものすごい大きな声に聞こえる。そして地響きが鳴りだす。


「ファイアーウォール!!」


アヤカが10mほど後ろに火の壁を張り、後ろを堰き止めた。


『ウォン!』


正面から狼がやってきた。真っ黒な狼で、シベリアンハスキーの成犬ほどのサイズだ。速い、速いが対応できないほどではない。


ズバッ!


俺は狼を一刀両断した。


「すげえ、カミソリみたいだ……」


ものすごい斬れるが本当に千も来るのだろうか。


「ロックアロー!!」


火の壁を突き抜けて狼が二体来た。そこへアヤカの石の矢が的確にヘッドショットで刺さる。狼は一撃で絶命する。


「エリー立て!!正面は俺が守る!お前はアヤカの前に立て!」

「で、でも!」

「忍者になるんじゃねえのか!!」


ズバン!


話しながらも正面から来た狼を二体同時に一振りで倒した。


「てめえのそれはカッコだけか!」

「ロックアロー!!」


バシュバシュ!!


やっとエリーの目に火が入り、やっとダガーを拾って動きだした。


正面から次々とやって来だした。


「本当に1000かよ!バカヤロウが!!」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「戻るぞ!戻りながら戦う!これじゃ死体で身動き取れなくなる!」


ズバン!


「はい!」

「出口まで進むぞ!」


本当にどんどん狼はやってくる。

次第に死体が山積みになり、俺たちの活動範囲にまで侵食しだしてくると、いつの日にかは死体に埋もれて反撃できなくなる。そうなる前に死体を蹴り上げながら移動を始めた。


ズバン!ズバン!


俺が帰り道に向かって切り開き、アヤカが進行方向と逆側に魔法を放つ。


「ファイアーウエィブ!!」


ゴオオオオ!


津波のような炎が背後からの狼を紅蓮の炎で焼いていく。


「アヤカ!火は抑えろ!酸欠になるぞ!」

「はい!ロックバレット!」


ズドドドドドドドドド!


撃ち漏らした狼が、アヤカに迫るも、


「やあ!」


ズバッ、ブシュ!


エリーがアヤカに近づかせない。やっとエリーも落ち着きを取り戻したようだ。


俺は死体を蹴り上げながら、迫り来る狼をぶち殺していく。そして、地上へ戻るために道を切り開く。

もう少しで登り階段までたどり着くだろう、という時、


忘れていた。広間があったのだ。ここは広いが4方向から狼がなだれ込んでくる。特に登り階段の方への道からは多くの狼がやってきて、とてもその通路に入れそうもない。


「くそっ、切れ目が出来るまでここで対処する!」

「「はい!」」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




キリがない。本当にいつまでも狼は次々とやってくる。


ズバン!

「アイスランス!」

「やあああ!」


狼の動きはオークとは比べものにならない。剣の斬れ味もあがり楽になったはずだが、弾丸のように突撃してくる狼が2、3秒に一体ぐらいの間隔で襲ってくるので息つく暇もない。


「アヤカ!どでかいのいけるか?!」

「アイスアロー!打ってる暇が、アイスアロー!!、ありません!!」

「くそっ!」


エリーも良くやっている。二人にこれ以上求めるのは無理だ。どうにかする方法はないのか。


ズバン!ザシュ!


『仁さんや、この世界は《エン》で出来てるのじゃよ』


ズバン!ズバン!


この忙しい時に何故か近藤のじいさんのことを思い出す。


『大事なお金も円、人との繋がりも縁じゃ』


これが走馬灯か?俺は死ぬのか?


楽しさも()苦しさも()助け合いも()、この世は様々な《エン》に満ち溢れている』


ズバン!

「ああああ!」

ズバン!


なんでこんな時にどうでもいい話を……。ははっ、笑っちまうな。


『全ては回り回って、(エン)のように繋がっとるのじゃ。ほっほっ、そうじゃよ、ワシと仁さんの出会いも縁じゃな』


「きゃあ!い、いった!」


エリーが狼に脚を噛み付かれた。

俺はダッシュで走り込み、エリーを左手で抱きしめ、狼を屠る。


「でりゃああああ!」

「ジン……」


エリーを左腕で抱きしめたまま、アヤカの周りを回るように、狼を殺していく。


『そしていつの日か仁さんにもやってくる、愛する人を守る戦いも、《エン》を持ってすれば乗り越えられるじゃろ』


ズバン!ズバン!


俺は現代の日本でそんなのあるわけないと笑ったっけか。


『未来は何が起こるかわからん。覚えておくのじゃ仁さん。全ては繋がっておるのじゃ。まるで円のように。《エン》は力じゃ、様々な《エン》があればどんな困難も乗り越えられるのじゃ』


ザシュ!

「ロックアロー!」


年寄りの言葉はいちいち回りくどいなと思ったっけか。


『流水のごとく、止まるることなかれ。全てを引き込み、己の糧とせよ。これすなわち、円の極意なり。じゃよ、仁さん』


ザン!ズバン!


「流水のごとく……」


ザン!


「止まるる……」


ズバ!

俺はアヤカの周りを回りながら、狼を切り、その回転力を利用して次の狼を斬る。


「全てを引きこみ」


ザン!


「己の糧……」


自然と足が回転力を味方にしていく。

流れるようにアヤカの周りを回る。

そしてその速度は慣性を味方につけ、まるで竜巻のように回っていく。


ズバババババ!!


「これすなわち!!、円の、極意なりっ!!」


「オオオオオアアアアアア!!!!」


俺はエリーをしっかりと抱いたまま、右手の剣を回転力に任せて振るっていく。

すでにアヤカも棒立ちになり、自身を守る俺の姿を見つめているだけだ。

狼が荒れ狂う竜巻にかすったかと思うと、狼の首はあらぬ方向へと飛んでいく。

鮮血を巻き上げる銀色の竜巻が、アヤカの周りを周回する。


しばらくすると動くものは居なくなった。


この広間にあるのは狼の死体の山と、血の湖、ジンの腕の中で熱い視線を投げかけるエリーと、目を見開いたまま硬直しているアヤカがジンを見つめているだけになった。


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