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フィクサーかよ

昨日、缶ビールを振る舞った。

ダンボールで2箱持ってきていたのだが、8人で半分消費した。


当然缶に関してツッコミが入ったが、絶対に秘密にしてくれと頼んだら、皆真面目な顔で『約束する』と言ってくれた。

これも命がけで戦った仲だろうか、俺もそれを心底信用出来る気がしてしまう。

それよりも皆ビールの味に驚愕していた。俺はまだこの世界のビール(エール)を飲んだことはなかったが、俺のビールに比べると味が薄く酸味があるらしい。俺のビールはとてつもなく旨いと皆喜んでくれた。


アヤカに食ってかかったナルスも、アヤカに詫びを言ってきた。

どうやらあの時はランスロットの言うように、本当に錯乱していただけで、根は悪いやつでは無さそうだ。


そしてまた3日かけて街に戻った。

俺のビールの在庫はなくなった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「何ですって!!」


街に帰り、ミレイがランスロットの報告を聞いていると表情がみるみる強張りあからさまに俺を睨んでいる。


「で、それを討伐()()()()()()()?」

「そうだね、彼はこれから大変だよ」


ランスロットは苦笑いで俺に振り返ったが、すぐにミレイに向き直った。


「……まあ、やっちゃったものは仕方ないわ。ランスロット、死んだ人の登録証は回収してきたわね?」

「もちろんさ」

「これはギルドからの緊急依頼だから、遺族には慰霊金が支払われるわ」

「抜かりなく頼むよ」

「もちろんよ。それと討伐報酬は確認が終わり次第支払われるわ。すぐお金が必要な人は言ってちょうだい。ギルドから一時金を出すわ。オークを持ち帰ってる人は検品所へ行って買取に出してちょうだい。これはすぐに支払われるわ。……キング以外はね」


ミレイはキング以外の所でギロリと俺を睨んだ。ランスロットは、


「はは、だろうね」


と、言ってから俺の前に来た。


「ジンサイトくん。機会があったらまた仕事したいな」

「ああ、俺もだよ」

「それと僕の故郷のフェルズ共和国にも是非招待したい。()()()()()()()もまた飲みたいしね」


と、ウインクした。


「ああ、そのうち行きたいな」


するとミレイが、


「ランスロット?ジンのホームタウンを換えさせるつもり?許さないわよ」


ランスロットはミレイに首だけ振り返り、


「はは、観光だよ!」


また俺に向き直って、


「また会おう」

「キングの分け前は?」

「それは君の分だ」

「でもよ、キングはみんなで────」

()()()してもらったからね、アレ、高いんだろう?アレで充分だよ」


いや、200円ちょっとだから。しかも半分は発泡酒だから。


「そうか……」

「じゃあ」


俺とランスロットは握手をした。


「アヤカさんも」

「はい、お元気で」


今度はアヤカもランスロットと握手した。やはり共に命をかけて戦ったってのは修羅の心をも溶かす。


「やった。これは分け前より価値があるよ?」


と、手をヒラヒラさせながら、カウンターから登録証を取り、イケメンセリフを言って去って行った。


そのあとも次々と俺に挨拶していく。何故と思ったが、理由はわかった。

皆アヤカと握手をしたがって帰っていくのだ。俺とはしないのに。

俺はただの窓口だった。


「あねさん、あたいも握手を……」

「理由を聞いても?」

「だって!未来の大魔導士だよ?!有名人と握手したって自慢出来るじゃないか!!」


やはりアヤカの魔法はハンパなかったようだ。


「…………また会えばよろしいのでは?」


ティアモは首を横に振った。


「あたいは国に帰るよ。……冒険者は今日で終わりだよ」

「ティアモさん……」

「ジスが関係してないとは言えない。だけどそれだけじゃない。自分の限界を知ったんだ、実家の雑貨屋を継ぐよ」

「そうですか」


ティアモは俺を見て、


「チキンハートが愛人にしてくれるなら残るけど?!」

「悪いな、その枠はいっぱいだ」

「ホントにあたいに冷てえな!!乳揉んだくせに!!」


だがティアモの顔は笑顔だった。ティアモなりの冗談だろう。

そしてティアモも俺とアヤカと握手して出て行った。


残るはやたら何か言いたげなミレイだけだ。

当然、登録証は裏側で返ってきた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「あんたたち、加減ってものを考えなさいよ」


なぜか説教されている。


「いや、あれ放置したらヤバイだろ?」

「もちろん放置なんてしないわ。規模的には騎士団が出るレベルよ?それをたった2人で?バカじゃないの?!戻ってきなさいよ!」

「2人じゃねえよ、みんな一緒────」

「生き残った人たちがそう言ってるのよ!!…………すぐに噂は広まるわ。…………はあ、頭痛いわ……」


いやいや

納得できない。


「いや、お前、俺を英雄とか言ってなかったか?万々歳だろうが」


ミレイはため息をつく。


「規模が問題よ。ギルドの調査では多くて100、まかり間違っても200は超えないと判断してたの。100ならば上位個体もそこまで多くないし、50人の冒険者でも行ける算段だったのよ?それが500って…………しかもキング?騎士団が3000で当たる規模よ。言い換えたらあんたたち2人で騎士団3000人(一個師団)より強いってことになるわよ?。国からしたらそれはもう脅威よ」

「…………」


マジか。やり過ぎたか。だが、金さえ払えばレンタル出来るもので何とかしただけだ。やっぱり俺の責任じゃねえだろと言いたくなる。


だが、アヤカは何故かニンマリとしている。


「仁さん、これでいいのです。これが異世界です」

「いやいやいやいや」


何を言ってるんだ、この変態コスプレ痴女が。

アヤカは更に続ける。


「むしろこの程度の中途半端だからダメなのです」

「…………は?」

「騎士団一個師団程度の力しかないと思われるからダメなのです。それでは一個師団をぶつければいいと思われてしまいます。ならば騎士団十個師団の力があると思われたらどうなりますか?」

「え?」


やはりこいつの頭はぶっ壊れている。作り物の物語と現実が混同してしまっている。


だが、予想外なことにアヤカの話を聞いてミレイはハッと見開いた。


「そうか……、それなら……」

「?、何だよ」


ミレイは立ち上がり、


「そうよ!逆よ!手を出したら終わり!やるなら国の総力をあげなきゃと思わせれば!それなら絶対に害そうとは思わない!」

「そうです。大きすぎる力なら敵対するより懐柔するほうが楽です。そしてここからが重要です。私たちの力は冒険者ギルドありき。最終的に私たちの手綱を完全に掌握出来るのは冒険者ギルドだけ…………」


ミレイは目を見開いてアヤカを見る。


「あんた……」


アヤカはまるで教師が生徒に教えるように、優しくミレイを諭す。


「私たちは世界の覇権とかには興味がありません。それに国さえも恐れるほどの力を持った仁さんは、絶対国に仕えることはないでしょう。国は困ります。放置も怖い、でも懐柔も出来ない。ですが冒険者ギルドの命令なら何でも聞く。私たちを操れるのはギルドだけ。いや、ミレイさんだけ。これ、最高じゃないですか?」


ゴクリ


ミレイは唾を飲み込んだ。


「私の言ってることは口だけじゃありません。だって冒険者ギルドにスキルを借りなければ何も出来ないのは事実なんですから。どんなに私たちが強くなっても、最終的にはミレイさんの言いなり。事実ですよね?この力関係は覆しようがないです」


アヤカは首をちょっと傾げながら、ミレイを諭した。


ミレイは上機嫌になった。俺にはアヤカのぼそりと囁いた「チョロい」の一言が聞こえた。







ギルドから自宅へ帰る地下道にて。


「なあ、アレ、本心か?」


するとアヤカはキョトンとして、ニッコリと笑った。


「本心と言うより半分は事実です。私たちにとって1番恐ろしいこととは、ギルドにスキルのレンタルを止められてしまうことです。そうしたら私たちはもう無力ですから。ですからギルドには『絶対に私たちはギルドに逆らえない』と思わせなければなりません。国の王族もスキルレンタルのことは知っているのです。国がギルドに対してどれほどの発言力があるのかはわかりませんが、もし国からギルドへ『あいつらは脅威だからスキルのレンタルを禁止する』と言われたら困ってしまいます。…………ギルドには常に私たちの盾になってもらわなければなりません」

「……おま……」


こいつ、腹の中でとんでもないことを考えてやがる。じいさん!あんたの孫は腹黒黒ですよ!!

でも、


「いやでもよ、実際本当にギルドが貸し出さなくなったら終わりってのは変わりないだろ?」


アヤカはニコリとまた笑う。


「大丈夫です、このスキルレンタルのルールは穴だらけです。方法はいくらでもあります。……それに」


アヤカは顎に手を当てる。


「多分、スキルレンタルではなく永続的にスキルを書き込めるようなものか、スキルレンタルの機材そのものを入手する方法があるはずですよ?……やりようはいくらでもあります」

「…………」

「もっと冒険すれば、きっともっと自由になれるはずです。仁さん?私たちの異世界はこれからですよ。ふふふ」

「…………」




俺は、

1番恐ろしい事は『アヤカを異世界に連れてきたこと』なんじゃないかと思った


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