主人公
~~ジンとアヤカが集落に行ったあと~~
「…………俺は行く。例え犬死でも」
虎の獣人、虎人族のジス。
盗賊討伐でジンに食ってかかり、一矢報いることもできずにジンに敗れた男。
だが、その時からジンに密かに尊敬の念を抱いていた。
自分もこの30年間、寝る間も惜しんで剣を振ってきた自負があった。だが、そんな努力をあざ笑うかのように、種族の特性の筋力など無意味と言いたげなほど、ジンとの力量の差は圧倒的だった。
明らかに自分より若そうな、それに種族的に最も特徴がないと言われる人族に、剣を交えさせてももらえなかった。
一体この人は、どれだけの時間を剣を振ってきたのだろうか。
そんな男を、将来有望の男を、こんなオーク討伐程度で死なせるわけにはいかない。
そう本気で思えるほどジスはジンに心酔していた。
「ダメだよ。あの2人は本気で2人でやるつもりだ。もし、それが本当に出来る実力があるとしたら、僕たちは何の役にもたたない……」
「それでも肉壁ぐらいは出来る」
ランスロットはゆっくり首を振る。
「それでもジンサイトくんは君をかばうだろう。それじゃ意味がないから彼らは2人だけで行ったんだよ」
「…………」
ティアモはジスの尻を叩く。
「少しだけ様子を見ようぜ?危なそうならあたいも行くさ」
「ティアモ……」
「すごい……」
「化け物かよ……」
ランスロットとナルスがため息をつくように、遠目から2人の戦いに言葉をかける。
全員がまるで伝説の物語を読むような気持ちで、2人の戦いを見守っていた。
「……やはりジン殿は本物だ」
「ああ、あいつはハンパじゃねえ。あん時のチキンぶりが嘘のようじゃねえか」
オークの首が宙を飛んでいるのが遠目に見える。恐ろしいほどの火炎に、焼かれるオークのにおいがここまで匂ってくる。
「こりゃあ、本気でやっちまいそうだぜ……」
冒険者たち全員は、知らず知らずのうちに、ジンたちが戦う戦場へ向かって足を進めていた。
「もう無理だ!俺は行くぞ!」
ジンがオークキングと思われる個体に、なすすべなく振り回されている。
相棒の魔法使いのアヤカの魔力も、もう底をつくだろう。
ジスは気が気ではなかった。
だが、ランスロットはジスを諌める。
「邪魔をしちゃダメだよ」
ダン!
ジスは木をぶっ叩いた。
「貴様それでもBランクか!見ろあれを!新人の2人が苦戦してるんだぞ!」
「…………僕たちでは無力だよ」
「馬鹿者が!人の体力が無限だと思ってるのか!!魔力もいずれは尽きる!体力も同じだ!!ここまで2人で倒したのも奇跡なのだぞ!!」
だが皆の顔は曇っている。
あんな化け物じみた戦いに入れば死は必然だからだ。
すでにほとんどの奴の心は恐怖に蝕まれていた。
「ジン殿は、彼らは誰のために戦っているのだ?!貴様の、貴様らの仲間を助けに行ってるのではないのか?!……それだけじゃない!このままではスタンピードを起こす、それがわかってるから!全ての街民を守るために無謀とも思える戦いをしてるのではないのか!!……あれが、あれが真の冒険者だ!俺は……、貴様らのような腰抜けには死んでもなりたくない!!」
ジスが走り出そうとすると、
「待ちな」
「ティアモ、貴様は────」
ティアモはまっすぐジスを見る。
「あたいも行くよ」
「……好きにしろ」
「ああ!」
2人は走り出す。
・・・
・・・・
・・・・・
「ジンどのおおおおおおおお!!」
「ジン!!!」
2人が急いでジンに加勢に向かうも状況はもうやられる寸前だ。オークの凶刃は今にもジンに振り下ろされようとしている。
「ファイアァァァァァボォォォォル!!!」
ジスたちの背中から、オークめがけて巨大な火球が飛んでいく。
それは見事オークに命中した。
「やれえええ!キングを倒せえええ!」
ランスロットが叫ぶと、
「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」
冒険者たちが雄叫びをあげ、キングに突撃していく。
「みんな、、、ランスロット……」
イケメンのエルフ、ランスロットはジスの背中を叩いた。
「僕だってエルフだからね、このくらいの魔法は使えるさ。さっ、ジンサイトくんを助けるよ」
「っ、おお!!」
ジスたちもオークに突撃していった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
~時はオークボスの戦闘終了後~
ナルスやランスロットは掘建て小屋のような、ただ木を寄せ集めただけのような建物の中で、自身の仲間達を見つける。生きていたのは2人だけだった。
俺はトラオの亡骸を抱きながら泣きじゃくるティアモのとなりに立つ。
「ジスゥゥゥゥ!!うわあああああ!」
かける言葉が見つからない。
俺のせいだ、俺がオークをもっと早く倒せてたなら。
そこへランスロットが歩いてきた。
俺は黙ってランスロットを見る。
「なんで助けに来た?とは言わないのかい?」
「……言うわけない。あのボスをやれたのはお前らのおかげだ。……俺は力が足りなかった」
ランスロットは疲れたように苦笑いし、
「それ以上は化け物だよ。……あれ、オークキングだよ?」
ランスロットは巨大なオークの死体を指差した。
「普通、オークキングを倒すなら最低でもAランク6人って言われてるんだ。それを君は倒した。誇っていいんだ」
「誇れるわけないだろ!!!」
こんなにも沢山の仲間が死に、トラオまで殺してしまった。そう、俺が殺したようなもんだ。
だが、ランスロットは興奮する俺とは対照的に、冷静に話しかけてきた。
「君のそれは傲慢だよ」
「……なんだと?」
「みんな自分で決めたんだ、覚悟を持って自分の意思で戦ったんだよ。彼らは君のオマケじゃない」
「っ、…………」
「死んでしまったとしても、彼らは主人公だ。君の脇役だったわけではないんだよ。彼らの死を自分のせいだと言うのは彼らに無礼だよ」
「…………」
言われてみたらそんな気がする。俺は皆より強いと驕っていたかもしれない。
言葉で吹っ切れるほど簡単ではないが、トラオの死を俺のせいだと言うのは、命をかけてティアモを守ったトラオに対する侮辱かもしれない。
俺はランスロットを見て、
「…………流石Bランクってことか?」
「皮肉でないなら褒め言葉と受け取っとくよ。……それにこれでも185歳だ。君より何倍も仲間の死を経験してるからね」
どこの世界も年寄りは侮れないな。
「……助かった」
「いつでも」
俺はティアモの元へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺はティアモの隣に再び立つ。
「ティアモ、トラオを埋めていいか?」
トラオの上半身を抱きながら座り込んでいるティアモは、俺が話しかけると俺を見上げた。
「ジスはあんたを尊敬してた。あんたに埋めてもらえるならジスも本望だよ」
「わかった、俺にやらせてくれ」
俺は真っ二つに割れたトラオの大剣の半身で、木の根元に穴を掘った。
そしてトラオの上半身と下半身、剣先を一緒に埋め、残りの半身の剣を墓廟代わりに突き立てた。
「仁さん、粗方のオークは収納しました」
アヤカが俺のところに来た。
「ありがとな」
「いえ。…………仁さん、申し訳ありませんでした。私の責任です」
アヤカは暗い顔で頭をさげた。
「アヤカ、それは死者に対する冒涜だ。それに俺も俺が戦うと決めたんだ。アヤカが決めたんじゃない。…………、って、さっき教わった受け売りだけどな」
と疲れを隠しながらも笑って見せた。
するとアヤカは、
「はい、見てました」
「…………」
どこまでも格好がつかなかった。
俺はキャンプファイアーのような焚き火を起こし、売り物にならなそうなオークを燃やしていく。
「ランスロット、今日はここで一泊しないか?……弔いの意味も込めて。俺が酒を奢ろう」
「……持ってきてるのかい?」
「ああ、特別なのをな」
「なら悪くないね。ジスくんと別れの盃ってのも冒険者らしいよ」
「そうか」
出発時50名
森の守護者、2名 ランスロット、セリー
疾風迅雷、2名 ナルス、ファタソ
大地の怒り、1名 ハマヌン
アヤカ、俺、ティアモ。
この8人で、42人が安らかに眠れるよう、見送り酒で最期の別れをした。




