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英雄への第一歩

50人の行軍は4日目の朝を迎えた。


俺の亜空間バッグはものすごい便利だった。ベティに出発時にもらった食料が腐らないどころか温度変化もしない。

これは流石にバッグの買取がとてつもなく高いってのはわかる気がした。


あと、テントも最高だ。いくら布製と言っても現代の地球製だ。細部までのこだわりや密閉製が他の奴らのテントと段違いだ。

ランスロットも俺たちのテントをまじまじと見ていき、


「これは生地は布、綿かな?防水はどうしてるんだい?」

「柿渋を使っております」

「へー、匂いがしないね」

「特別な製法でやっておりますので」

「…………こんなのエルフでも知らないよ?」

「ご希望でしたらお譲りできますけど、白金貨を片手で掴めるほどはご用意ください」

「…………だろうね、考えとくよ」

「はい」


と、アヤカがあしらった。

なぜ俺よりアヤカのがあしらいが上手いのか。

アヤカに聞いたら、ラノベ?を読み込んできたおかげだと言っていた。仮想の物語なのにそんなに効果があるとは……。

もしかしたら地球のラノベと言うものは、元異世界冒険者が書いた物語なんじゃないのか?


キャンプの醍醐味、朝コーヒーも堪能できた。

ティアモはあたいにも飲ませろ、食わせろとまとわりついてくる。

こいつら、非常食は持ってきているが、テントも持って来てないし、とにかく水が全然足りてない。他のパーティに金で頼んであったようだが、コップ一杯とかしかもらえなく、途中からそれを断りこっちに要求するようになった。


「すまないジン殿」

「まあ、亜空間バッグがないから仕方ないけど、お前らももう少し考えないとな」


トラオはBランク冒険者達を睨みつけ、


「まさかあのような詐欺まがいなことをしてくるとは思わなかったのだ……」


水は重いし貴重だが、行軍中の水で金貨2枚はぼりすぎだ。しかも一回コップ一杯とか。

俺たちはペットボトルは出さずに、こっちの大樽にこっちの水を詰めたものを3個持ってきている。量は潤沢だ。



あとキャンプ道具を使ったアヤカの夕飯も絶品だった。当然ティアモとトラオも群がってきてるが、俺たちは今回は仕方ないと諦めて2人をパーティとして扱った。


一つだけ俺に都合のいいことがあった。

2人をテント内で寝かせてるため、アヤカと2人きりにならない。アッチ方面の追求を免れている。

アヤカが嫌なのか?嫌なわけない。だが、日本であんなことがあって、アヤカからははっきり好きだと言われ、俺は何も答えてないのに手を出すのはどうかと思う。

俺がはっきりしてしまえばいいのだが、それもなんか躊躇われる。

アヤカを手放す気はないが、まだ抱く覚悟もできてないのだ。



そんなこんなで4日目の朝だ。テントを収納していざ出発という時、


「仁さん…………これは……」


いち早くアヤカが反応する。アヤカの気配探知はレベル3だ。


「どうした?」

「とてつもない数です。300?いや、500は居ますよ。それもかなり強い個体もいそうです」

「どのくらい、とかわかるのか?」


アヤカは俺を申し訳なさそうに見て、


「仁さんより強いかも……」

「マジかよ」


それは一大事だ。


「ランスロットが居るだろ。あいつはBランクでもキャリアがあると言ってた」


俺が聞くとアヤカはキョトンとして、


「あのエルフのことですか?」

「ああ……」

「私の気配探知の見立てですが、あんなの仁さんの半分に毛が生えた程度ですよ」

「…………Bランクだぞ?」

「わかりません。ですがそう感じます」

「マジかよ」


流石にそれも違う意味で予想外だ。俺より弱い奴ばかりで俺より強い敵がいる。ならもう詰んでるじゃねえか。


「ちと、相談してくるわ」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




個人の強さの話をすると必ず揉めると思い、俺は数の話をした。


「500?!ありえない!ギルドの調べの倍以上じゃないか!」

「うちの気配探知のアヤカがそう言ってる」


ランスロットは自信があるようだ。


「悪いけど、君の人族の彼女よりもギルドの報告を信じるよ。それに僕も気配探知は持ってる。これでも僕はエルフだ、気配探知は得意さ」

「…………ちなみにランスロットが見た感じはオークはどのくらいだ?」

「100ぐらいだね、もっと近寄れば少しは増えるかもしれない」

「……」


探知結果に開きがありすぎる。


「俺は撤退を勧めるが」

「無理だ、まだオークの姿も見てないんだ」


そう、ここまでオークに出会えていない。あの時は30分圏内に居たのに、今では全くだ。まるで誰かの命令でそうしてるかのように。


「……参ったな」

「仁さん」


後ろからアヤカの声がした。

俺は振り返り、


「どうした?」

「手遅れです。囲まれました。向こうは私たちに気づいています」

「マジかよ」


ランスロットはアヤカを睨む。


「君、あまりみんなの不安を掻き立てるのは────、っ!!!!」


いきなりランスロットの目が見開かれた。ランスロットも何かを探知したようだ。

アヤカは表情を変えずに絶望を口にする。


「あと3分で到着します」

「立てえ!!撤退だあ!後ろの活路を開けえええ!!」


全員が武器を抜き立ち上がった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




『プゴオオオオ!』

「ぎゃあ!!」


男はオークに頭と右腕を持たれ、腕を引き抜くように引っ張られる。

そのまま首がありえない方に曲がり絶命した。


俺たちはすぐに撤退を始めたが、撤退方向にはすでに20ほどのオークがいた。後ろだけではない、辺り一面オークだ。それは地獄絵図だった。


ばたばたと冒険者たちがオークにやられていく。

Bランク冒険者たちは動きが速くオークに攻撃を与えているが、動揺してるからなのか、一体倒すのに3人かかりで1分はかかっている。Dランクのやつらはもっと遅い。Dの中ではトラオが1番マシだ。

遅すぎる。これではどんどん状況が悪くなる。


「ティアモ、トラオ!俺から離れるなよ!」

「あたいの剣が通らない!こいつら普通のオークより硬すぎだっ!」

「ぬおおおおおおおお!」


トラオは巨大な大剣を振り回す、それは当たればオークを両断出来たが、いかんせんトラオの動きはそこまで速くない。トラオが囲まれないように間引いてやらないとトラオは動けなくなるだろう。


アヤカは風の刃でオークの首を落としている。


「アヤカ!!いけるか?!」

「このままではジリ貧です!集落側から敵多数!!」

「くそがあああ!!」


俺はオークの首に一体一撃で仕留めていくも、何分数が多すぎる。俺も疲労が徐々に蓄積する。


「仁さん!みんなを集めて!」


アヤカが叫んだとおりにする。


「てめえらあ!ランスロット!!こっちに集まれ!」


ランスロットたち冒険者はもう20人まで減っていた。50人があっと言う間にたったの20人だ。

ランスロットたちがこっちに駆け寄ってくる。


「なんだこのオークは!!訓練されてるのか!強すぎるぞ!」

「知るかっ!ここを動くな!アヤカ!」

「はいっ!…………」


アヤカが数秒目を瞑り、カッと目を見開く。アヤカのスカートが花のようにぶわっと開く。


「魔力操作…………、魔力増幅…………いきます!フリーズ!!!」


アヤカが叫ぶと、アヤカを中心とした半径5mの外側の地面に、青白い何かが急激に広がったかと思うと、


パキィィィィィィン!!!


全てが氷の世界と化した。

動くものは何もない。木々もオークも一瞬のうちに彫刻のように固まってしまった。


「すごい…………」


ランスロットのため息に似た感想が口から漏れる。


「仁さん、トドメを。多分生きているオークは居ます」

「わかった。おい、動ける奴はオークにトドメをさせ!」


冒険者たちは一斉に動き出した。



・・・

・・・・

・・・・・



トドメを刺した数は200体になった。アヤカの見立てではこれで半分以下だ。

今はオークを収納できる奴は収納して、作戦会議をしている。


「うちの森の守護者は2人死んだ。紅の地平線は全滅、疾風迅雷と大地の怒りは2人づつしか残ってない。そっちは?」

「俺たちパーティは死人は居ないが、他のDランクのパーティはもう戦えるやつは居ないと思ってくれ」

「はは……、1番下のランクが1番強いなんてな……」


ランスロットはイケメンの顔が台無しだ。もう疲れ果ててしまっている。


「どうする?撤退かどうか」

「…………本当にまだあれ以上いるのかい?」

「ああ、しかも強い個体がな」

「…………」


皆の顔に絶望が浮かぶ。

1人だけ涼しい顔をしてる奴がいる。


「私は仁さんの指示に従います。ですが、なんとかしろと申されるならなんとかいたしますが」


全員がアヤカに注目する。

皆アヤカの魔法を目の当たりにしている。本当になんとか出来るかもしれないと思ってしまう。


「ダメだ、危険だ」

「わかりました」


アヤカはすんなり折れたが、


「冗談じゃない!!こっちは女3人さらわれてんだ!亜空間バッグまで一緒に持ってかれてる!撤退なんて出来るか!!」


疾風迅雷の生き残り、確かナルスとか言う奴だ。

ランスロットが言う。


「ナルス、でも無理なのは無理だよ」


ナルスはランスロットの胸ぐらを掴む。


「ふざけんな!てめえんとこは新人2人が死んだだけだろ!……うちは終わりだ。取り返さなきゃどのみち終わりなんだよっ!」

「ならナルス、君たちは行くのかい?」


ランスロットがそう言うと、ナルスはアヤカを指差した。


「こいつがいるじゃねえか!!こいつにやらせろよ!!…………、そうだ、こいつらが集落を見つけたんだろ?!ならこいつらに責任────ぶはっ!」


ランスロットはナルスをぶん殴った。


「すまない。いつもはこんな奴じゃないんだ。今は失った物が大きくて正気を失っている。勘弁してあげてくれ」

「ああ、大丈夫だ」


本当にどうしようもない時、人間おかしくなってしまうこともある。わからないでもない。


だがアヤカがスクッと立ち上がった。ティアモがぼんやりとした目つきでアヤカを見上げた。


「アネサン……」

「分かりました」

「おい、アヤカ」


皆が驚きの表情でアヤカを見る。

そしてアヤカが俺を見下ろす。


「仁さんが本気を出してくれるなら、私と仁さんでなんとか出来ます」

「アヤカ!」


周りの冒険者は目を見開いた。ランスロットも怒鳴る。


「君!いくらなんでも言い過ぎだ!自分で言ったじゃないか!まだ300もいるって!」

「はい、言いました。でもこのままじゃ無理です。あなた方は帰ってください、足手まといです」


「「「「「なっ!!」」」」」


アヤカは止まらない。


「はっきり言います。仁さんはみなさんを守りながら戦っているため、本気を出すことが出来ません。邪魔なんですよ」

「てめえ!」


ナルスが立ち上がった。


「俺たちは居た方がマイナスだってのか!」

「その通りです。仁さんはすぐにSランクになるお方。この程度でつまづきません」


アヤカは座ってる俺を見下ろす。


「仁さん、さらわれた人は死にますよ?酷い死に方で。でもまだ生きてます。見殺しにしますか?」


俺は黙ってアヤカを見る。

たしかに俺はみんなを守りながら戦っていた。みんなのことを気にしなくていいなら、もっと疲れずにもっと殺せるとは思う。思うが……。


「仁さん、ここが分水嶺です。あのミレイの思惑通りなのは癪ですが、ここが本当の第1歩。仁さん、本気で戦ったことあるんですか?」

「……」


いつでも本気だと言いたい。だが、アヤカの言ってる意味でないことはわかる。


「私は見たい、本気の仁さんが。そして仁さんの大好きな人助けです。()()()()オーク300、雑魚など蹴散らしましょう。もちろん、私も仁さんの矛となり敵を殲滅します。…………ご決断を」



全員の目が俺に注がれた。

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