真のチートはこれだ
今日はオークの集落への襲撃の日だ。
俺は転移門の部屋でミレイと話している。
「そう、わかったわ」
「で、あの家じゃもう狭い。もう少し広い家ないのか?」
「地下道の距離が少し長くなるけど、あるにはあるわ。でも家賃は30日で金貨2枚よ?」
「いきなり10倍かよ」
「その分庭も広いし、ベッドルームも5つあるわ。お風呂だって全員同時に入れるほど大きいわよ?」
「まあ、いいか。この依頼が終わったら引っ越していいか?」
「構わないわ。ベティに場所を教えとくわね」
「頼む」
俺は首をコキコキと鳴らしてから、
「あいつはちゃんとやってるか?」
「ええ、今日も朝からギルドの図鑑とずっと睨めっこしてるわ」
「ならいい。さて、正面から入り直しますかね」
「気をつけてね?オークの集落はゴブリンの数倍キツイわよ?」
「ああ、安全第一だ」
俺は転移門の部屋から出て、冒険者ギルドの正面から入り直した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺とアヤカは、日本から持ち込んだキャンプ道具や資材、ベティが用意してくれた食料や現地産の道具の数々を亜空間バッグに収納し、それをアヤカに持たせて冒険者ギルドに入る。
「あっ!やっと来たなチキンハート!!」
「またお前かよ。リンダはどうした?」
「あいつは月の物だ」
「あっそ」
何かと絡んでくるティアモだ。
お?トラオもいる。
「ジン殿」
「よお、トラオ」
「…………ジン殿、何か貫禄がついたな」
「そうか?まあ、ちょっとは冒険者に慣れては来たかな」
ティアモは俺の腕にしがみつき、俺の後ろに立っているアヤカを見る。
「チキンハート!なんだよこの女は?また情婦を増やしたのか?」
「離せ、掴むんじゃねえ」
「なんだよ、あたいの胸を揉んだくせにあたいにだけは冷てえじゃねえか!」
「別にお前だけって────いだっ!いだだだだだっ!」
けつに激痛が走った。
振り返ると笑顔の修羅が俺のけつをつねっていた。
「ずいぶんお盛んだったんですね?」
「痛いから!アヤカ、誤解だ!」
「誤解なんかじゃねえよ、あたいの胸の右を揉んだら、気持ちいいから左も揉ませろって揉んだじゃねえか!」
「黙ってろティアモ!いでえええ!!」
俺たちがコントをしていると、緑の髪のイケメンがツカツカと俺に向かって歩いてきた。
「ずいぶん賑やかだね。僕はBランクのランスロットと言う。森の守護者のリーダーをしている。君が集落を見つけたようだね」
エルフだ。エルフのイケメンが俺に手を差し出してきた。
俺はティアモを振り払い、イケメンと握手をする。
「うるさくてすまねえな、Dランクのジンサイトだ。ジンと呼ぶ奴が多いかな」
硬く握手をする。
「ほう、かなり剣の腕は立つと聞いているけどDランクなのかい?」
「まだひよっこさ。冒険者にもなったばっかりだ」
「そうか。なら一応今集まってる50人の中で、僕が1番キャリアがあるんだけど、とりあえずの指揮は僕がさせてもらっていいかな?」
「もちろん構わない。よろしく頼む」
「お互い頑張ろう」
ランスロットは顔をひょいと傾け、俺の後ろを見る。
「ところで後ろの見目麗しいご婦人はどなたかな?」
「あ」
早速目をつけてきやがった。異世界はなかなか美人が多いが、アヤカはその中に居てもくすぶるどころか光り輝くほど美しく見える。イケメンが気にするもの当然か。
アヤカは俺の隣に立ち、深々と頭を下げた。
「はじめましてランスロットさん。私はアヤカコンドと言います。アヤカと呼んでください」
「よろしく、アヤカさん」
イケメンはアヤカにも握手を求めたが、アヤカは手を出さずにまた頭を下げた。
「申し訳ありません、私はジンサイトの従者であり所有物です。殿方のお体にむやみに触れることは出来ません。失礼かと思いますがどうぞお許しください」
所有物ではないだろ。
ランスロットは目をくりっとさせ、俺とアヤカの顔を交互に見た。
「いやー、参ったな。奴隷でもなさそうなのに所有物と来たか。これじゃ口説くことも出来ないな。ジンサイトさんはモテるんだね」
「あー、いや、すまんな」
「いや、いいんだ。羨ましいよ。それじゃ」
ランスロットはヒラヒラと手を振って離れていった。
ティアモがアヤカに言う。
「あいつ、めっちゃ金持のエルフだぜ?あいつをフッた女なんて聞いたことねえよ」
アヤカは微笑みの表情のまま、
「私には仁さんでなければ誰でも同じですので」
「まあなあ、お前もあの悪魔に骨抜きにされたのか?」
アヤカは首を傾げる。
「悪魔?ですか?」
するとティアモはニカリと笑い、
「何言ってんだい、こいつの股間の悪魔だよ!ありゃ女なら一度味わったらもう離れ────むぐ、むぐう!!」
「っ!」
俺はティアモを後ろから抱きしめ持ち上げ、口を塞いで喋れなくする。
「はい、黙ろうかティアモ。つうかお前は味わってねえだろうが」
「むぐうううう!!」
だが修羅は完全に誤解してしまったようだ。
「お前は?、なら誰が味わったのでしょう。仁さん……、きちんとオハナシをする必要がありますね……」
「本当に誤解だから!!マジ勘弁してくれよ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
冒険者50名の一行はギルドのカウンターで依頼を正式に受注して、森の守護者を先頭に西の森の奥地へと足を進める。
どうやら集落はここから3日の距離に発見されたそうだ。
俺とアヤカはティアモとトラオと一緒に歩く。ティアモもトラオもDランクで、ちょうど同じくらいだから一緒に行動してくれとランスロットに言われた。
行軍しながらティアモたちと話す。
ティアモによると有名どころのパーティは4つ。
ランスロット率いる森の守護者
同じくBランクの疾風迅雷
同じくBランクの大地の怒り
もう一つはCランクの紅の地平線だ。
そして最後に俺たちの仮パーティとなる。
それ以外は全部Dランクパーティだ。
「あん?俺のところも有名なのか?」
「フォレストガーディアンほどじゃねえけど、チキンハートの剣の腕はグランダム1だって噂もあるからな」
「は?」
いきなり何言ってるんだ。つうか、俺の剣の腕なんて、見たことあるのはお前くらいしかいねえだろうが。
「…………てめえがいいふらしてんじゃねえか」
俺が半眼でティアモを睨むと、ティアモは両手を頭の上に乗せて、澄まし顔で答えた。
「いやあたいじゃないよ、ジスだよ」
「はあ?!」
俺がキッとトラオを睨むと、トラオはデカイ図体をのけぞらせて驚いた。
「じ、事実しか言ってない。それにジン殿の腕はもっと讃えられてもいいはずだ」
「…………」
トラオの性格的に、俺を貶めるとかではないのはわかる。事実、良いことで有名になって来てると言うのだから。俺との模擬戦をしたことをある種の自慢みたいに話したのだろう。もし俺もイチロー相手にピッチャーとして対戦出来たら、生涯言いふらすと思うし。
あまり有名にはなりたくなかったが、仕方ないと諦めた。
それにしては、他のパーティのリーダーたちは冷たかった。
ランスロット以外のリーダーは、Dランクなんかに挨拶出来るかと挨拶はしてこなかった。
俺は一応高ランクには挨拶には行ったが、どこも「あっそ」と返されて終わったのでそれ以上立ち入らなかった。
有名ならばもうちょっとフレンドリーに返してくれても良いもんだが。
ティアモが話題を変えてくる。
「おいチキンハート?そろそらあたいも正式にパーティにいれてくれてもいいんじゃねえか?」
「俺に勝ったらって言っただろうが」
「そりゃおかしいぜ、この女がチキンハートに勝てたわけないだろ。こいつは入ってるじゃん、ずりーぞ!」
「…………いや、残念ながら負けたぞ?」
「嘘だっ!んなわけねえ!」
ある意味、ある意味は負けた。俺が根負けしたからアヤカはここに居るわけだから。かなりエグいやりとりもあったが、負けたと言ってもいいだろう。
するとアヤカは後ろから俺の隣まで移動して、ティアモに告げる。
「勝ちましたよ?」
「嘘つくな!どうせベッドの上でとか言うんだろ?!……まあ、それはそれですげえけど……」
ティアモは顔を赤くして俯いた。
やめろ。さも一度戦闘経験があるような口ぶりは止めろ。
「でも勝ちました」
「嘘つけ!ならあたいと勝負しなっ!!あたいが勝ったらあたいもパーティに入れてもらうからなっ!」
するとアヤカは小さくため息をつき、
「仕方ありませんね」
アヤカはピタと立ち止まり、右の誰も居ない森に向かって右手を差し出した。
「ワールウィンド」
ヒュン!!
ザン!!
見えない、何も見えなかったが、風切り音と何か硬いものが断ち切れた音のようなものがほぼ同時に音がした。
俺もティアモもトラオもその手の方向を見ているが、
「よお、女?何にも起こらね────」
ギギギギギギギギ、
ズダーン!!!
巨大な大木が縦に真っ二つに斬れ、左右に開くようにゆっくりと倒れていった。そして轟音と共に綺麗に二つに割れた大木が出来上がった。
俺、ティアモ、トラオは目を見開き、口をこれでもかとあんぐりとあけ、呆気に取られる。
「勝負、なさいますか?」
修羅はにこやかにティアモに告げる。
ティアモはギギギギと音がなるくらいの動作でアヤカを見て、
「いや、しねえ……。しねえよ、姉さん…………」
「そう、わかってもらえましたか」
アヤカは俺を見てウインクをしたが、俺もアヤカを怒らせるのはやめようと心に誓った。
その後ランスロットがやってきて、『何遊んでるんだ!』とめちゃくちゃ怒られた。




