3人目
「ご主人様がお出かけになってから数日後のことです。突然玄関からやってきて中へ入れろと言ってきたのです」
「だってメールの返信くれないんだもの!」
「もちろん入れるわけには行きませんので締め出したところ、庭先に居ついてしまったのです」
「行くとこないんだから仕方ないじゃない!」
「ご主人様のことをジンと呼び、何やらあまり風潮されては困ることを口走るので、追い出すわけにもいかず」
「こっちだって必死なのよ!」
「軒先で勝手に死なれても困るので、ご主人様がお戻りになるまでと、1日1度だけ餌付けはしておきました」
「お金がないのよ!死んじゃうわ!」
「あーソーデスカ」
という事らしい。どうやらあのメールラッシュを全部は読まなかったが、先に異世界に行ってるので、現地で支援お願いとかメールをしてきていたようだ。
ギルドの地下から俺の家に入ることは出来ず、仕方なく正面玄関から突撃するも、ベティの鉄壁のガードにより侵入を諦め庭に居座ったと言う事だ。
「よーし、わかった。ベティ」
「はい」
「ミレイを呼んでこい。すぐこいと言え」
「かしこまりました」
ベティは正面出口からギルドに向かった。まだエリーを家の中には入れてない。俺たちは室内側、エリーは玄関の外側だ。
「仁さん、どうするのですか?」
「もちろん、双方に悪いことにならないようにするさ」
「…………まだ子供ですよ?」
アヤカは心配そうな顔をする。
「エリーは子供じゃない!てかオバさん誰よ?!」
「オバっ!!」
アヤカは一気に目を見開いた。
「誰がオバさんですか!」
エリーは半眼でうすら笑うように、
「どうみてもオバさんじゃない。そんな気合い入れた服着ちゃってるのが痛々しいわ。オバさんはオバさんらしくした方がいいわよ?」
「は、はあ?!私は24です!オバさんじゃありません!」
「あはっ、やっぱオバさんじゃない。女の華は10代よ?」
「それはガキって言うんです!」
「18ですけど?成人ですけど?」
「そんな子供みたいな身長で起伏のない身体はいくら成人でも子供です!」
「カチーン、言ってはならないことを言ったわね?オバさん」
「そっちが先でしょうが!」
なんだこれは面倒くせえ。
俺は2人の間に入る。
アヤカがかなり強めに俺の腕を掴む。
「仁さん!こんな子供をハーレムに入れるのですか?!」
「ハーレム?ジン、私が居れば年増はいらないでしょ?…………いいわよ?援助してくれるなら私を抱いても」
「お前らちょっと落ち着け」
一体何の戦いをしているのか。
するとベティとミレイが走って帰ってきた。ベティは走ってもメイドとしての優雅さを保っている。
どんなスキルを持ってんだ?
「おいミレイ」
「あっ、こんなとこに居たの?!」
「げっ、融通効かない猫女……」
ミレイも猫女と言われてエリーを睨みつけた。
「ミレイ、これはどう考えてもお前の管轄だろ。任せろと言ったよな?」
「ええ……、これは私の失態ね、ごめんなさい」
「しっかり頼むぜおい」
エリーはキョロキョロと俺とミレイを見る。
「え?ちょっと?どう言うこと?……ジン?」
俺はエリーを見て告げる。
「俺はたまたま森で居合わせたお前をこの街まで連れてきただけだ。何故俺がお前の面倒を見なきゃならん?」
「仁さん……」
アヤカは俺の言葉にホッとしたようだ。顔が優しくなった。
「ひっ、酷い!冷たすぎない?!」
「1度会っただけの他人だろ?」
「同じ地球人じゃない!助け合うべきよ!」
「「「っ」」」
ここは外だ。家の中じゃない。なのにエリーは大声でそんなことを言う。
(終わったな)
するとギルドからだろう、ちょうど武装した男が2人来た。
男はエリーの腕を2人で掴み、エリーを拘束する。ミレイは冷たい目でエリーを見て、
「コレはだめね。信用出来ないわ」
「だろうな」
「ちょっと離しなさいよ!痛いじゃない!ジン!、ジンも何とか言ってよ!」
エリーはジタバタともがく。
「帰れ」
「っ!帰れないわ!イタリアに帰ったら借金取りが来るもの!」
「働いて返せよ」
「いやよ!何年かかると思ってるの?!殺されちゃうわ!」
「たかが50万程度の借金で殺されるわけねえだろ」
イタリアのことはわからないが、この時代にたかが50万でそんなことがあるわけない。イタリアだって先進国なのだから。
「借金の心配は要らないわ」
「……へ?」
ミレイがエリーを見ながら冷たく言った。エリーは意味がわからずキョトンとする。
「死人に借金はないもの」
「「はあ?!」」
俺とエリーは予想外の言葉にびっくりした。
「ちょっとどう言う意味よ!私は地球人よ?!何で殺されなきゃいけないのよ!離せ!私を誰だと思ってるの?!お前らなんかレンタルスキルで────」
「キース」
ミレイが男の名前を呼んだ。するとキースと呼ばれた男はエリーの腹に思いっきりパンチした。
「ぐふっ!」
エリーの体がくの字に折れる。エリーは気を失った。
「お、おいミレイ。どうするつもりだ」
ミレイはため息をついて、
「当然処分するわよ」
「いやいやいやいや、何も殺さなくてもいいだろ。向こうへ返せよ」
「無理よ、ジンも見たでしょ?」
「……」
「この子に秘密を守るという意識はないわ。ローマ支店の奴に文句言ってやらなきゃ」
「でもよ、まだガキなんだから」
「もう成人してるわ。それにこのまま向こうへ返したら、必ずこの子は情報を売ってお金にするわ。…………予想以上の大事になるわよ」
「……」
確かに。このなりふり構わない性格は危険だ。異世界のことを地球で言いふらし、それを金にしようとするかもしれない。だが殺すのはやりすぎだ。
俺が考えこんでいるとミレイは俺に告げる。
「ジンの関係者じゃないでしょ?」
「……違う」
「情が湧いたの?」
「違う」
「この子にお金を与えても、また赤字になって同じことを繰り返すわよ?」
「わかってる」
「……こんな子供に欲情するの?」
「なわけねえだろ」
ミレイは俺が何を考えているか予想出来てるようだ。
「あまりお人好しがすぎると、あとで後悔するわよ?」
「…………他に手があるのかよ」
最悪だ。
本当最悪だ。
「今回は私たちの失態だから、ジンがそれでいいのならギルドは構わないけど」
「…………殺さない方法はないのかよ?」
「生涯牢にぶち込んどくことも出来なくないけど、食事代もかかるし意味がないわ。処分が妥当よ」
俺はミレイを睨む。
「くそが、何かってえと処分処分と言いやがって。やり口が汚えんだよ」
「それがこの世界よ。ジンもわかってるわよね?」
「…………いつかお前らも痛い目みるぞ?もうちっとやり方を考えろ!!」
「……ええ、肝に命じておくわ」
男たちはエリーを離した。エリーは糸が切れた操り人形のようにドサッと地面に落ちる。
そしてミレイと男たちは去って行った。
俺はアヤカとベティの顔を見る。
「あー、その、なんだ……」
「ご主人様は本当に慈悲心が強いですね。まあ、私もそれだから今ここに居られるわけですけど」
「私は従者ですから。仁さんの決定に従います。でも、苦労なさいますよ?」
俺は意識のないエリーを抱き上げ、自室へと運び入れた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………ここは……」
「俺の家だ」
エリーはベッドから上体を起こした。
「なんで…………、私……」
「ホンット、迷惑なクソガキだよ」
すると、エリーは目に涙を貯め、ツーっと頬を走った。
「…………ごめんなさい、ありがとう……」
エリーは状況を理解したようだ。
俺は大きくため息をつく。
俺は金貨10枚をベッドの掛け布団のエリーの脚の上に放り投げる。
「これを持って帰れ。向こうの借金を払って異世界のことは忘れろ」
「…………」
「もちろん変な気を起こすなよ?ギルドから追っ手がかかるぞ?」
「…………」
エリーは金貨をじっと見つめている。金貨10枚は日本円で百万だ。ユーロに変えても単位が違うだけで借金は返せるだろう。
「私……ここに居たい……」
「ダメだ」
エリーは懇願するように俺を見る。
「お願い、なんでもするから」
「ダメだ」
「……」
俺が取りつく島が無いと思ったのだろう。エリーは更に涙を流す。
しばらくワンワン泣いていたが、やがて口を開いた。
「私、孤児院で育ったの……、18になると孤児院は出なきゃならない。生活が苦しいから」
「……」
「今でもとっても苦しいわ。私はウエイトレスをしてほんの少しだけど元いた孤児院に寄付していたわ。…………自分の育ったところだもん、当たり前よね」
「……」
「でも、とうとう孤児院の資金繰りが行き詰まり、半年後に閉鎖することが決まったわ。…………そうなったら、孤児院の子供たちはどうなっちゃうの?」
「……」
「イライザ、ヨシュア、ターニャ、ビンセント……その他にもいっぱい。みんな離れ離れになっちゃうわ……」
日本とイタリアは違う。孤児院ぐらいはあるかもしれない。日本にだって同じような駆け込み寺はあるのだ、不思議では無い。
「そんな時、異世界への招待が来たわ。私はこれしかないと思った。私が孤児院を助ける。私が生まれ育った場所を守るには私がやらないとって思ったの」
「俺には関係ない」
俺は冷たく言い切る。
「ええ、ジンには関係ないわ。これは私の問題。でも私は諦めることは出来ない。私が諦めたらあの子達の未来はどうなるの?!」
「……」
「……例え異世界で死んでもいい。でもこのままでは死ねない。孤児院を助けなきゃ、私の故郷を守らなきゃ。私しか居ないんだから!」
「……」
エリーは大粒の涙を流しながら、掛け布団を思いっきり鷲掴み、涙をポタポタと垂らす。
(俺ってやっぱり甘ちゃんなのかな……)
「お前はバカだ」
「っ!」
「目先しか見てない」
「だ、だって!今何とかしないと────」
「一回50万の鑑定ありきで薬草採取が儲かるわけないだろ?なぜ薬草を判別出来るように勉強しないんだよ」
「っ、そ、それは…………」
俺は大きくため息をつく。
「しばらくは図鑑と薬草のにらめっこだ。あと、借金はそれで払ってこい。話はそれからだ」
「…………え?、あ、……うそ……」
俺はエリーを睨みつける。
「やるんじゃねえぞ?!それは貸しだ!借金を払って、なんかのレベル3と気配探知のレベル2だけレンタルしてこい!」
「は、はい!」
「あと、臭くてかなわねえ。おいベティ!居るんだろ?!」
この部屋には俺とエリー2人きりだ。だが、俺が叫ぶとすぐにドアが開いた。
「ご主人様、ここに」
「こいつを風呂にぶち込んでから、地下から追い返せ!」
「かしこまりました」
エリーは俺の首根っこに飛びついてきた。
「ありがとう!グラッツィエ!グラッツィエ・タンテ!!!」
「くせえんだって!ベティ早く連れてけっ!」
「はい、かしこまりました」
ベティはにこやかな顔を俺に向ける。
ベティがエリーを引っ張っていくと、アヤカが入ってきた。
「照れ隠しが可愛いですね」
「うるせえ!お前もあっち行ってろ!」
どいつもこいつも!
どいつもこいつも!!!




