見解の相違
エリーをミレイに押し付け、家に帰るとベティが待っていた。
「おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま」
「ご飯になさいます?お風呂になさいますか?それとも私になさいますか?」
「お前どこでそんなのを覚えてきたの?!」
「……昔からありますが?」
「嘘つけ!」
いや、ほかの日本人が来て広めたのか?ありえなくはない。
「あー、じゃあ飯で」
「かしこまりました」
テーブルにベティが料理を並べるが、何かおかしい。
「待て、これ一人分だろ?お前のは?」
「私はあとで頂きます」
俺はテーブルに両ひじをつき、少しきつい目でベティを見る。
「ベティ、外では奴隷らしくってことが常識って言うから俺はそれを承諾した。でもな、家の中では止めろ。一緒に食えばいいだろ」
するとベティは、顔をうつむかせて暗い表情をした。
「…………無理よ……」
「なんでだよ」
「ジンさん、優しいんだもの……」
「それでなんで無理なんだよ」
「……勘違いしそうになっちゃう……」
「……は?」
予想外の答えが返ってきた。勘違い?
「わかってる、わかってるのよ?こんな盗賊に犯された女なんてここに置いてもらってるだけで幸せなの。……でも、………………あまり優しくしないで……」
「ベティ……」
要は『惚れてまうやろー!!』ってことか?
だから自分を律する為に、奴隷としての境界線を引いてると。
冷静に考えてみよう、もし俺が20歳未満で女に命を救われて、その女は一緒に住めといい、ある程度のスキンシップもしてしまった。
そして、事あるごとに自分を気にかけてくれる。
うん、無理だな。惚れるわ。
参った。
「兄妹ってのは?」
「兄妹じゃないもの……」
「だな……」
この設定はやはり無理があったか。ベティは奴隷メイドとしての立ち位置に自分から立とうとしてるし。
「あー、どうしたらいい?」
どうしていいか全く見当がつかない。だから素直に言ってみた。
するとベティは顔を上げた。
「勘違いしないで聞いてね」
「なんだ?」
「ジンさん、好きな人いるの?」
俺はなんとなく彩花さんが浮かんでしまった。また彩花さんをダシに使ってしまってすいません。
「あー、いる、、かな」
「あの子供?」
俺は目つきを鋭くし、きっぱりと言う。
「ない、断じてない、絶対ない、微塵もない」
「そ、そう……あの子が好みと言われたら困るから聞いただけよ……」
「そうか」
「その好きな人はすぐここに来るの?」
「…………多分一生来ることはない」
ここには来れる人が限られている。
彩花さんが来ることはありえない。
「なら、ジンさんが逢いに行ってるのね」
「……」
そう言うことではないのだが、間違ってるってわけでもないわけでもないわけでも…………。
「はっきり言っておくわ。私はジンさんの妻になろうとはしてない」
「あー……、その……」
「いいの、聞いて」
ベティは真面目な顔でもう一度言う。
「でも、こんな女でも私も一応は女なの」
「わかってる。ベティは綺麗だ」
ベティの顔は一気に真っ赤になる。
「もう!そう言うこと言わないで!」
「あ、すまない」
「コホン、でね、手に入らない男はいつまでも輝いて見えるの。わかる?」
「……わからないでもない」
片思いをこじらせると、良いところばかりが目につくようになる。アイドルなんてのはその典型的なものだろう。
「だから……私にメリハリをつけさせてほしいの」
「どうすれば?」
「もちろん、奴隷になりきることも出来るけど、ジンさんはそれは嫌なんでしょ?」
「嫌だな」
「でもなりきれないと私の心がもたないかも」
「…………、聞こう、それで?」
「だから、お風呂では私に想いを遂げさせて」
「……それは────」
「お風呂だけでいいの!」
俺の言葉を遮り、ベティは身を乗り出した。
「それ以外では家の中でさえ、ちゃんと一線を引くから!お風呂の……裸の時は心も裸に…………」
その言葉を最後にベティは俯いてしまった。テーブルに水滴が落ちる。
本当は、『犯す犯さない言ってなかったか?!』とつっこみたい。
『レイプされて傷心の女が、そんなこと言うか?!』と突っ込みたい。
だが、それを押してなお、もしくはそれだから尚更、またはこんな身体でごめんなさいとか。色々な意味がこもった涙なのだろう。
それに俺も男だ、嬉しくないわけはない。こんなに熱い想いをぶつけられたことは、正直今まで生きてきて体験したことがない。
同時に、そういうことをさせる為にベティを連れてきたんじゃないと言う気持ちもある。
俺に選択が迫られる…………、
「わかった」
「っ!」
「俺の家の風呂場では一切の抑制を解除する」
「本当っ!」
「ああ、そのかわり」
「……、何?」
俺は真剣な眼差しで言う。ベティも何を言われるのか身構えている。
「俺も完全に割り切る。お前は奴隷メイドだ。この先俺に嫁が出来たとしても、お前の立場は変わらない。俺が良いと言うまでベティは俺の側から一生離さない。それでもいいのか?」
と脅した。生涯の自由を奪うのだ。それも奴隷として。最も恐ろしいことだろう。
俺の言葉を聴くと、ベティは目を見開いた。
そして、俺の予想通りにはならず、ベティはニマアとちょっと何かを含んだような笑顔になった。
「それ、私を脅してるつもりかもしれないけど、今の私にはプロポーズみたいなものなんですけど?」
「……え?」
プロポーズ?何を言ってる。一生を拘束すると脅してるんだぞ?
「『一生俺のそばにいろ!例え他に女が出来てもお前だけは離さない』って言ったわ」
「待て、そんなことは言ってないだろ」
「同じことよ」
あれ?言ったか?いやいや、そんな意味ではない。
だがベティは勝ち誇るようにふふんと鼻を鳴らした。
どうしてこうなった?
「い、いや、ちょっと待て。今のは無しだ」
「もう無理ですぅ!ご主人様、一生仕えますね!」
ベティはメイド服のスカートを広げるようにくるくる回る。
「おい……、待て、ちょっと、ベティさん?」
ベティは踊るように部屋を飛び跳ねている。
「…………、まあ……、いいか……」
ベティは踊りながら、(わかってます、ありがとう)と小声で言ったが、俺には聞き取れなかった。
そのあと、風呂で無茶苦茶にされた。




