本物の戦闘
俺は地図を見ながらオークが出没すると言う、西ノ森に行くために西門から街を出た。
この依頼表には、街から3時間ほど歩いたところでオークが目撃されたと書いてある。3時間歩くって口では簡単に言えるが、いざ歩くとなるとかなりの距離だ。
「盗賊退治に行っといて良かったかもな」
盗賊退治は一日中歩き通しだった。良い練習にはなった。
西門から出ると、10分ほどで森の入り口があった。
だが、獣道?遊歩道?冒険者たちが歩いているからか、草木が生えてない人二人ほどの幅の道が森の奥へとずっと続いている。これなら迷子にはならなそうだ。
地図にもこの歩道のことは書いてなく、ただ3時間歩くしか書いてない。当てもないならこれを進んでみることに決めた。
「…………」
一人で黙って歩いていると、色んなことを考える。考えてしまう。
やはり考えることは、この世界の殺人に関する常識のことだ。
日本で生まれ育ち、殺人は犯罪の中でも最悪と教え込まれて生きてきた。事実、自身でもそう思える。
ならば殺人を犯したものは全員死ねばいいのか?、いやそうとも言えないだろう。例えば実弾の銃を乱射するやつがいる。そいつは無差別に人を殺していく。そいつに追われ、逃げてる間にそいつを避けつつ階段から突き落として殺してしまった。
これで、『お前は最悪の殺人者だ!』と言われたらたまったものじゃない。この状況で「殺さない方法があるだろとか言うやつにはお前がやってみろと言いたくもなる。
また、犯罪者にも人権をとか言うつもりもないが、どんな状況でも「目には目を」と言うつもりもない。
「殺したから殺す」
トラオはこう言った。
一見、それが正義に聞こえなくもない。だがそれは、敵討ちのように恨みがあるやつが恨んでる奴に対してすることに思える。
というか、「殺したから殺す」が容認されるなら、冒険者は盗賊を殺したわけで、ならば次は殺される立場に立ったと言うことになるではないか。
なんだそれは。どこのアクション映画の話なのか。ハードボイルドのおっさんが出てきそうな話になってしまう。
俺は仕事に来たんだ。害獣駆除までは請け負うが、殺し屋になったつもりはない。
そんなことに慣れてしまったら、日本でも殺人に対する忌諱感が薄れてしまいそうで、身震いを感じてしまう。
だが、この世界ではやらなければやられるという。
「…………どうしろって言うんだよ……」
なんか価値観の違う世界を股にかけてること自体が、無理があることに思えてきた。
「ん、うわっ!!!」
偶然だった。何か右手に動くものを感じて、目線を右に移すと、目の前に何かが降ってきていた。それが何かわからずとも身体が動いて避けることが出来た。
左に倒れるように避けると、そこには…………
「っ!!ひ、あ、はっ!」
呼吸が詰まる。恐ろしい。
男が立っている。2mはありそうな、プロレスラーのように少し贅肉を纏ったムキムキの男だ。
いや、男?人間ではない。
頭が豚だった。申し訳程度の腰蓑を腰に巻き、それ以外は全裸、肌は浅黒く、少し硬質化してるように見える。そして豚の顔がプロレスラーの身体に乗ってるような、存在自体が恐ろしく思える魔物だった。
これがオークだ。
オークは馬でも両断しそうなナタを持ち、ふうふうと荒い鼻息をしている。
「ま、待て!お前何ものだ!」
「ふぅ、ふぅ、フゴオオオオオオオオオオオ!!!」
突然オークは雄叫びをあげた。そのありえない声量に、耳が痛くなる。
身体がすくむ。立てと脳が命令してるが足が言うことを効かない。
オークはナタをゆっくりと振りかぶり、渾身の力で俺の脳天めがけて振り下ろしてくる。
「ひ、ひぃぃ!!」
俺はなんとか身体が動いた。ナタをすんででかわし、立ち上がり来た道を全速力で引き返す。
チラリと後ろを振り返る。どうやら足はゴブリンよりも遅いようだ。
「あれを討伐?!10体?!ふざけんじゃねえ!!」
普通の日本人がどうやって勝てと言うのか。どうみてもパワーが違いすぎる。
後ろをチラ見する。既に距離が20mは開いている。
「はあ、はあ、はあ、お、遅いか?速度はないのか」
少し足を緩める。
遅い、あれならトラオより遅い。
「……なんとかなるのか?」
比較対象が出来たことにより、それが自信に変わる。
「俺はレベル3だ、いけるんじゃないのか?」
立ち止まり、剣を抜く。
「でかいけど、ゴブリンみたいなものだ。……人じゃない」
人じゃないと思うだけで、少し心が冷静さを取り戻す。
「とりあえずやってみるか」
俺はオークに向かって戻り出した。
「フゴオオオオオオオオオオオ!」
またオークは雄叫びをあげ、ドタドタとナタを振りかぶりながら向かってくる。
「俺だって、やってやんよおおおおおおお!!」
オークに負けないように俺も大声を張り上げ、オークに向かって走る。そして軌道をなぞりながら、オークの胸を袈裟斬りに斬りつける。
ザシュ!
「え?」
堅かった。サイを切ったことはないが、サイを包丁で切りつけたような手応えだ。だが、オークの胸はうっすら血がにじみ出ている。
ブン!
俺の剣が全く通用しなかったことに、一瞬ぼーっとしてる間に、馬ギリのナタが水平に俺を襲う。
「つ!、ぐわっ!」
俺は剣を立て、ナタを受け止めた。だが、俺の足は浮き上がり、数m身体ごと吹っ飛ばされた。
「がはっ!」
木の幹にぶちあたり、肺から空気が吐き出される。
俺はオークをにらみながら、よろよろと立ち上がる。
「フゴオオオオオオオオオオオ!」
オークがドタドタと迫ってきて、ナタを袈裟斬りに振り下ろす。俺は転がるようにそれを避け、すくっと立ち上がった。
ナタは幹にめり込んでいる。
「すげーパワーだ、ありゃ受けちゃダメだな」
一発もらったことにより、完全に目が覚めた。
これが、やらなければやられるだ。
オークは懸命に幹からナタを外そうともがいている。
俺は中段に構えて、
「切れないなら、突きはどうだよ!!」
態勢を低くし、力を貯めるように剣を腰に構え、オークに向かって突き進む。
オークはまだもがいている。
「おおおおおおお!!」
オークのナタが木から外れるのと、俺の突きがオークの横腹に刺さるのはほぼ同時だった。
ザシュ!
「プギィィィィィィィィ!」
オークは悲鳴をあげた。オークの脇腹に俺の剣は深々と刺さった。
ナタが来る前に俺は剣を引き抜き、オークから離れる。
「やれる、やれるぞ!」
左手で脇腹を押されながらナタを構えるオーク。
俺は剣を突きこむために前に走る。
ブン!
軌道が見える。俺はナタを半身でかわして、下から突き上げるようにオークの首めがけて剣を刺した。
「おおおおおお!」
ブシュ!
「プギィィィィィィィ!!」
俺はすぐにオークから離れる、
オークはナタを手放し、右手で首を抑える。そして数秒で前に倒れ込み絶命した。
「う、うおおおおおおお!!」
俺は両手でガッツポーズを取り、ターザンのように勝利の雄叫びをあげた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
焚き火を炊き、道に座り込み休憩を取る。ライターを買っといて良かった。
むしろファイアーアローで火をつけようと思ったが、爆ぜるだけでうまくつけられなかった。
「死ぬかと思ったぜ……」
オークの死体は亜空間バッグを手に持ち、口をつけたらするりと入っていった。口より大きなものを入れたことはなかったが、無限に入るとは聞いていたので実践してみたらなんなく入った。
一歩間違えば殺られていた。
「これ、気配探知は必須なんじゃないか?」
初期に無料で借りた気配探知、あの時は襲われる前に寒気がして、かなりの距離から気づくことが出来た。今日は考え事をしていたってのもあるが、隣にオークが迫って来てることさえ気づけなかった。初撃を避けれたのはまさに僥倖だった。
「しかし、3時間?まだ30分だぞ?」
かなり街の近くでオークが現れた。
冷静に考えたらオークも生きてる、その場で待機してるわけはなく、動いてるのだからそういうこともあるだろうとはわかる。
「こっからは周りを見ながら行かないとな」
俺は焚き火を消して出発した。
焚き火は何のため?雰囲気だ。
でも次に来る時はキャンプ道具を必ず買ってくると強く思った。




