女は化ける
昨日はお約束のごとくベッドの争奪戦になった。無論、取り合いではなく譲り合いの方だ。
ベティは俺が床に寝て自分がベッドならば舌を噛むと言うので、仕方なくシングルベッドで一緒に寝た。もちろん何もしていない、風呂で矜持を守ったのにここでしたら意味がない。
そして朝、ベティに今後の方針を与える。
小さなテーブルの上には約合計金貨4枚がある。
「えー、まず俺は、10日ぐらいここで寝起きしたら、10日ぐらいどこかに消える。そしてまた10日ぐらい帰ってくるという生活をしている。どこに行ってるか詮索はするな」
「かしこまりました」
ベティはすまし顔だ。何の疑いも持っていないような顔をしている。
「俺はあの地下室から出入りしている。アレは地下で冒険者ギルドと繋がっている。俺が何者かとあの地下室のことは、絶対に口外できない」
「たとえ死んでも言いません」
「……」
それはどうかと思うが、でもそのくらいじゃないと困るのも事実だ。
「逆に冒険者ギルドは味方だ。あの地下室を進むと小部屋がある。そこでなら、困ったらミレイに相談も出来る。だけど正面から行っても普通の対応しかしてくれない」
「はい」
「そして俺は今日から狩りに出る」
「お一人でですか?」
「そうだ」
「……大丈夫ですか?」
ベティは首を傾げて心配してくる。
「あー、なんか誤解されてるようだけど、俺は剣術レベル3だ」
「っ!うそっ、あんな甘ちゃんなのに?」
「甘ちゃんって言うな!」
「……失礼しました」
こいつ、地が出るとなかなか辛口だ。まあ、はじめはあんなだったしな。
あー、裏表ないのは彩花さんだけだ……。
「魔法も使える。だから心配いらない」
「すごい……了解しました」
「この金は預ける。ベッドを買ったりテーブルを買ったりしろ。歯ブラシとかコップ、石鹸などの小物は俺が持ってくるから買わなくていい」
「夢の石鹸ですね」
「夢の…………、まあいい。あっ、この家の中のお前の見たことなかったものは全部秘密事項だ、言っていいのはミレイにだけだ」
「かしこまりました。夢の石鹸はお兄ちゃんと私とミレイさんのもの」
「ミレイは関係ないんだが…………」
ベティが軽く手をあげる。
「なんだ?」
「今回はいつまでいらっしゃりますか?」
「んー、そうだな。後8日は居るつもりだ」
「かしこまりました。ならばそのように食事を用意します」
「あっ、金足りる?」
「普通ならこれだけあれば、家族が60日間暮らせます」
「なるほど、なら大丈夫だな」
「はい」
「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
俺は自宅を出た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
正面入り口から冒険者ギルドに入る。
するといきなり絡まれた。
「あっ!チキンハート!早速情婦にしたのかよ!」
「……してねーよ」
ティアモだ。リンダと一緒にいる。
俺は一言だけ返して、ミレイのカウンターに行く。
「今日からオークだ」
「そう、気をつけなさい」
俺の背中に飛びついてきた奴がいる。誰かは言わなくてもいいだろう。
「なんだ?オークか?やれんのかよ!いくら腕があってもチキンハートじゃな!」
「うるせえな、どっかいけよ」
「あたいも行ってやるよ、危なっかしくて仕方ないからな」
ミレイと俺の目が合う。わかってる、皆まで言うな。
「お前程度の腕じゃオークは無理だ」
「っ!そ、そんなことはねえ!」
「俺は盗賊より魔物専門だ、わかるんだよ」
「くっ……」
ミレイの顔を見ると、俺の受け答えは満足レベルのようだ。
「よかったらあたしもついてくけど?」
「リンダ、ありがたいけど準備も万端だ。それに俺は一人のが動きやすい。きつい言い方かもしれねえけど、今回は勘弁してくれ」
「っ、わかったわ。ほら、ティアモ、離れて」
「なんだよ、あたいはまだ納得してねえ!」
俺はティアモを睨む。
「ティアモ、別にお前が納得するかなんてどうでもいいんだよ。勘違いするな、俺とお前はパーティじゃねえ」
「ぐっ……」
ティアモが怯んで離れた。
「ご主人様」
「ん?」
俺が振り返るとギルドの入り口にベティが立っていた。
真新しい、膝丈のスカートの黒い上等のメイド服で身を包み、少しカカトが高いミュールを履いている。立ち方もカカトを揃えて上品だ。
風呂に入って綺麗な身体だ、入り口から光が差し込み、ブロンドの肩口の髪もキラキラと光沢をだしている。
元が良かったんだろう、かなり綺麗に見える。
カラーン……
俺も驚いたが、周りの反応はそれ以上だ。どこの貴族のメイドかとおもえるような立ち姿に、皆見とれている。
そして、元を知ってるティアモ、リンダ、ミレイの衝撃はハンパではなかった。
リンダは杖から手を離し、その音が静まり返ったギルドのホールにこだました。
「ご主人様、お弁当をお忘れです」
「ご主人様って────」
だがベティは俺をキッと見つめる。
わかったよ、外ではより奴隷らしくな。
「ああ、助かった」
俺は弁当を受け取る。
するとティアモが、
「ちょ、ちょ、ちょ、だ、誰だよ!!」
「は?ベティだろうが」
「ベティって……、あの助けた子かよ!」
「それ以外に誰がいる」
「別人すぎるだろ!!」
「は?少し泥が落ちただけだろ」
「ふざけんな!」
リンダもベティに近寄りマジマジとベティを見る。ベティは上品な立ち方で身じろぎしない。
「……何これ、どうやったらここまで綺麗に…………」
ティアモもリンダに賛同する。
「な?!別人だ!」
「あたしより綺麗……」
ミレイがカウンターから出てきて、俺の胸ぐらを掴み、俺の頭を下げさせた。
そして小声で、
「何をした」
「何も。石鹸で洗って服を買ってやった
だけだ」
「嘘をつけ」
「お前に嘘ついてどうする」
「…………」
するとベティが深々と頭を下げた。
「皆さま、これからもご主人様と仲良くよろしくお願いします。…………、では失礼します」
ベティが回れ右をすると、スカートとツヤツヤの髪がフワリと膨らみ、とても優雅な匂いを振りまく。リンスの匂いだ。
俺は鼻高々に、
「わかったか?俺は見る目があるってことだよ。それじゃあな」
呆然とする冒険者たちを尻目に、俺はオーク狩りに出発した。




