救いとは
「うぎゃ!」
「なんだありゃ!」
「は、速い!」
「化け物だ!化け物がいる!!」
俺は剣を鞘に入れたまま、一撃で盗賊をどんどんぶっ飛ばして行った。
剣の柄で、腹で、致命傷にならないように気をつけて、盗賊をものすごい速さでぶっ飛ばしていく。
目の前にティアモと盗賊が切り結んでいる。俺は左手でティアモを抱き、右手の剣の腹で盗賊の横っ面をひっぱたいた。
「ぐはっ!」
盗賊は吹っ飛び、木にぶちあたって地面に落ちた。
「ジン、あんた……」
「大丈夫か、ティアモ」
「あんたが大丈夫なのかい?」
「当たり前だ」
俺は周りを見る。
「っ!!」
なんと俺が戦闘不能にした盗賊に、トラオがトドメをさして回っていた。
「トラオ、てめえ!!」
俺はトラオにかけより、俺より背の高いトラオの胸ぐらを掴んだ。トラオは何とも言えない、それでいて冷たい目で俺を見下ろす。
「何故殺す!!」
「こいつらも人を殺してきたからだ」
「だからって殺すことはないだろ!」
「ここで殺さなくても、街に連れて行けば殺される。盗賊に裁判はない」
「っ!だからって!」
「野に放てば、こいつらはまた盗賊になる。被害が広がるだけだ」
「っ!、俺が命令する!殺すな!俺のいうことは聞くんだろ?!」
パーン!
またビンタを食らった。
今度はティアモだ。ティアモも泣いている。
「あんたは!!あんたは見たことあるのか?!!」
「……何────」
「両親を盗賊に殺されて、餓死していく子供達を見たことあるのか!!見たことないからそんなことが言えるんだ!」
「っ…………」
「何の罪もない子供が死ななくちゃならなくなっても!沢山の孤児が出来ても、死んでないならそれでいいってあんたは言うのかい?!」
「…………」
ティアモの顔はぐちゃぐちゃだ。
トラオが俺の肩に手を置く。
「誰も好き好んで盗賊になるやつは居ない」
「……だったら」
「それでも、殺される人たちがいるのに、殺す方をかばってはいけない。こいつらもここでは虐殺されてるように見えるが、今までさんざん殺してきた報いだ。こいつらもわかっている。だから、問答無用で襲ってくる。生きるためにな」
「……でも、いい奴もいるかも────」
「そんなやつはいない!!」
トラオも怒鳴ってきた。
「アジトを見てこい!そこに現実がある!!」
「アジト?」
俺は洞窟に目を向け、ゆっくりと歩き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アジトは盗賊の死体だらけだった。
血の匂いでむせ返っている。意識すると吐き気が上がってきそうだ。
俺は盗賊の死体を尻目に、どんどん奥へ進む。洞窟はランタンのようなものが沢山壁についていて、視界だけは確保されていた。
ふと動くものが見えた。見ると、ガルムが地面に横たわっている裸の女の首に剣を立てていた。
「っ!」
俺はガルムに駆け寄る。
「何してる?!」
ガルムはこっちをみた。
だが、ガルムの目の方が死人のようだった。
「何ってジンさん。助けてんですよ」
ガルムに剣を立てられた女は、両足が膝から下がなかった。
「この足じゃもう生きていけない。……ひどいことするよ、たかが逃げられないようにってだけでここまでするんだから」
「…………」
マジか……。
よく見ると、四肢のどこかが欠損してる全裸の女が床にゴロゴロと転がっている。そして全員一突きで殺されている。
「お前がやったのか?」
「……みんな言うんですよ。早く殺してってね……」
「……」
「ねえ、私も早く」
「、あー、すまねえ、すぐやってやる」
見ると、壁に鎖で十字架のような形で張り付けにされてる全裸の女が、真っ暗な目でガルムを呼んでいた。
ガルムも女に呼ばれると、剣を振り上げた。
俺はガルムの腕を掴む。
「……、ジンさん、離してください」
「……なよ」
「はい?」
「殺すな!殺すんじゃねえよ!」
ガルムは剣を下ろした。
「ジンさん、こいつらは街に帰ってももう生きる場所もないんです。楽にしてやりましょう」
「なんだそりゃ!生きてるじゃねえか!腕も足もある!」
「ここで生かして、『あんたら生きてるなら喜んで娼婦をやれ』『良かったな、股開いてでも生きてて』って言うんですか?」
「なんでそうなるんだよ!娼婦以外もあるだろ!」
「ありませんよ」
「ある!」
「なら一体どこにあるんです?」
「っ、」
女が嗚咽を漏らす。
「なんなのこの人、頭おかしいんじゃないの?……ねえ、あなた。早く」
「ああ」
ガルムが剣を構えるが、俺はガルムを突き飛ばす。
「ふざけんな!」
「ジンさん……」
俺は女に言う。
「なんで死にたがる!生きてなけりゃいいこともねえんだぞ?!。死ぬな!まずは生きろ、生きなきゃ何も始まんねえだろうが!」
女はどっと涙をあふれさせた。
「生きても意味がない!!」
「意味はある!」
「街に戻っても死ぬまで盗賊に股を開いた女と指さされるのよ?!そんな惨めな思いをして生きろと言うの?!」
「そのくらい────」
「そのくらい?!そのくらいですって?!地獄よ!もう二度と恋愛も出来ない、まともな仕事ももらえない!わずかなお金で股を開く人生しか残ってないのよ!……私……、こんな辛い思いして、まだ犯され続けなきゃいけないの?!もう嫌!もういやなのよ!!」
「…………」
「うぅ……、うああああああ!!」
洞窟に女の鳴き声だけがコダマした。
俺は言葉に詰まってしまった。
そんなことはないと言いたいが、女とガルムの様子を見る限り、これがこの世界の現実なんだろう。
ならば確かに生きてる方が辛いのかも、しれない。
しれないが、納得いかない。
《思うままに》
フッとじいさんの最後の言葉が頭に浮かぶ。
思うままに。
思うままにしていいのだろうか。
それが幸せなのだろうか。
わからない。
「わからねえ、わからねえけどよ……、そんな世の中承知出来ねえよ!!」
俺は剣を振り抜き、
キン!キン!
女の両手の鎖を切った。
俺は女の肩を両手で掴む。
「本当に死にたいのか?」
「死にたいわよ!!」
「毎日美味いもの食って、綺麗な服を着て、誰にも汚されず、自由に暮らせる。そんな未来があっても死にたいのか?」
「なんなのあなた!そんなのないわ!……私に希望を持たせたいの?、……ねえ、希望を持ったら死ぬのも辛いのよ?、ないもので光を見せて、どう責任とるのよ!!」
「責任は取る」
「…………え?」
「「「「「は?」」」」」
「お前、今日からうちで暮らせ」
「「「「はああ!??」」」」
みんな、驚愕の声を上げたが、二人だけは何も発しなかった。
一人目はこの全裸女だ。
「……そう、これからは盗賊の代わりにあなたに犯されながら生きろと言うのね。……反吐がでるわ!!」
「犯さない。約束する」
「なら奴隷?擦り切れるまで仕事させられるんじゃない!同じことよ!」
「そんなのもない、うちで家政婦をしろ。ただそれだけだ。金もやる」
「カセイフ?」
「あー、メイドだ。犯さないし、街に出たくないなら出なくてもいい。好きなものを食い、好きなものを着て、心が癒えたら恋をしてもいい。それでも、それでも死にたくなったら死ね」
「…………」
女は黙った。1分ほどで口を開いた。
「本気なの?」
「本気だ」
「もう処女じゃないわ」
「だからなんだ」
「盗賊の子を孕んでるかも」
「産めばいい。飯は食わせてやる」
「…………本気なの?」
「しつこい、本気だ。だから死ぬな。生きてても何もないとか言うな!証明してやる、俺が証明してやるから!たかが犯されたくらいで死ぬんじゃねえよ!!」
俺もいつのまにか泣いていた。




