覚悟とは
「よりによってお前かよ……」
「ひっどい!人の胸揉んだくせにっ!」
「はぁ」
おれとのコンビはティアモだった。
こいつが1番面倒くさい。なまじ揉んでしまったがために、あまり強く突き放すこともなんか躊躇われる。
俺たちは1番はじめに見張りだ。しかし、みんな地面にじか座りして、木に寄りかかって寝てる。こんなので寝るのは俺には無理だ。
虫がよじ登ってきそうだし、何かの囲いが無くては不安で仕方ない。
今度日本に帰ったら、キャンプ道具を一式買ってきてやる。
「ねえ」
しかし、魔物に遭遇はしないもんだな。もっとバンバン襲われるかと思ったが、そうでもないな。運が良かったのか、これからなのか。
「ねえ」
彩花さんはどうしてるかな?俺の勝手であんなふうに決めちまったが、実は本当は遺産欲しかったりして。
働いたことないって言ってたし、本当に働けるのか?
つうか、このクソ田舎で一人で────
「ねえってば!」
「あ、悪い、考え事してた」
「もうっ!」
声は大きくはないが、ゆさゆさと体を揺すられた。
「で、なんだ?」
「パーティメンバーは要らないって言ってたけどさ、例えば愛人とかは要らないの?」
「……却下」
「どうしてよ!」
「要らないからかな」
むしろ、お前を愛人にするなら彩花さんをしてるっつうの。
っ、いけない、彩花さんに失礼だ、ごめんなさい。
「ジンも男でしょ?要らないってことはないんじゃない?なんなら今ここでしてもいいよ?」
「誠にありがたい提案だが、俺は故郷に嫁がいる。だから要らない」
「故郷にいてもここにいないじゃない。ここだけの愛人でいいわよ?」
こいつ、随分話し方が女っぽくなったな。はじめは女海賊みたいだったのに。
絶対猫かぶってるじゃん、ヤッたら1番面倒なタイプだ。
「しつこい」
「そんなこと言わないでさ、お試しでもいいから」
俺はティアモに振り向き、目を細めて声のトーンを落とす。
「いい加減にしろ。要らないから要らないんだよ」
「…………」
少し冷たくしたら、それっきり口を開いてこなくなった。
ちょっとだけ罪悪感があるが、うるさいよりマシだ。
トラオ、リンダ、サンザが起きてきた。
リンダがティアモに「どうしたの?」とか言ってたが、俺は見ないふりをした。
眠くはなかったし、虫も不安だったが、みんなに習い、木に寄りかかって座っていたら、いつのまにか寝てしまっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
朝日が差し込むと否応無しに目が覚めた。
リンダが魔法で水を配っている。
「水よ、癒しを与え給え、ウォーター」
リンダがそう唱えると、指先からチョロチョロと水が水道のように出ている。それをみんなはコップで受ける。
(あれは便利だ)
俺も真似してみる。
「水よ、癒しを与え給え、ウォーター」
プシュアアア!!
「やべっ!」
リンダの水の比じゃない量が手のひらから溢れ出す。
水道の蛇口を全開で開いたような水量だ。
俺は見られたらまずいと思って、水を出しながらみんなから離れるようにダッシュで走り出した。
「あっ、ジンさん!」
ガルムの声がしたけど、無視をして走って離れる。
水は1分ほどで止まった。
「ふぅ、なんだよ一体!」
これも後日練習が必要みたいだ。
俺は歩いてみんなに合流する。
するとリンダが、
「ジン、今水を出してなかった?」
「さあ?、気のせいだろ」
「地面、濡れてるけど?すっごく」
「昨日、雨降ったか?」
「…………」
「…………」
リンダはガッツリ半眼で睨んでくるが、俺はすっとぼけることに決めた。
俺たちはまた歩き出す。今日は森の中をズンズン進んでいく。
1時間ほど歩いた時、
「みんな、もうすぐだ」
ガルムがみんなに告げた。
そこからはガルムが指示を出し、ゆっくりと音に気をつけるように歩いていく。
更に30分ほど歩くと、ガルムは俺たちに振り返り、「しーっ!」とジェスチャーした。
ガルムが指差す方向を見ると、洞窟が見えた。あそこが盗賊たちのアジトか。
ピイィィィィィィ!!
森の静寂の中に、指笛のような甲高い音が響き渡る。
「ヤバイ!見つかってた!!」
洞窟の中から、ワラワラと盗賊らしき奴がたくさん出てきた。
……おいおい、30以上居るぞ?
「みんな行くぞ!」
ガルムが剣を抜き、先頭で走り出す。トラオも大剣を構えて走る。ティアモも短剣を両手に持ちガルムに続いていく。他の奴らもそれぞれ武器を抜いて、雄叫びをあげながら盗賊に突っ込んでいく。
俺は少し呆気に取られて、その場で硬直してしまった。
「ほらっ、ジン!」
いつのまにか、となりにリンダがいた。リンダに声を掛けられて我に帰り、俺も剣を抜きガルムたちを追いかける。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うわあああ!」
ザシュ!
ガルムが剣を振り下ろすと、盗賊らしきやつの右手が宙を舞った。
「ぎゃあああ!」
「……おいおい」
あんなことをしたら死んじまう。たとえ盗賊でも人間だ。
「てやあああ!」
右手側では盗賊がティアモに襲いかかっていた。それをティアモは左の短剣で受け、
「シッ!」
右の短剣で首を撫でた。盗賊の首から血が噴水のように吹き出す。
その盗賊は、最後の命を燃やすように、ティアモに覆いかぶさった。
「きゃっ!」
俺はすぐさまティアモに駆け寄り、盗賊を地面に転がした。盗賊はもう絶命していた。
俺はたまらず叫ぶ。
「ティアモ!何してる!」
「っ、ごめん、助かったよ。潰されるとこだった」
「っ!違う!何も殺すことはないだろ!」
「……、はあ?!」
そう、殺すことはない。捕まえて警察に突き出せばいい。
「ジン、何言ってんだい?!」
「何ってお前───」
「でりゃああ!」
俺とティアモが話してる時に、盗賊が一人剣を突き出しながら走りこんできた。
ティアモはいち早くそれに対応し、剣を避けながら盗賊の胸に短剣を埋める。
プシュ!
ティアモは盛大に返り血を浴びた。
「っ!」
「ジン!どうしたんだい?!しっかりしてくれ!」
「きゃあああ!」
後ろでリンダの悲鳴が聞こえた。
俺はそれに反応して振り返ると、リンダに馬乗りになってるやつがいる。
俺は全力でリンダに走り出す。
「おらっ!」
「ぐあっ!」
間一髪間に合い、リンダにまたがる男をけとばした。盗賊はゴロゴロと転がる。
するとリンダはすくっと起き上がり、太ももから果物ナイフのような短い短剣を抜くと、男に覆いかぶさり躊躇なく短剣を振り下ろした。
「ぐはっ!」
リンダも返り血を浴びる。
そして俺に振り返る。
「助かりました、ジン。私はもう大丈夫です、さっ、次へ行ってください!」
「お前…………」
リンダは返り血の滴る顔でニッコリと笑った。
なんだここは…………
これは地獄なのか?
人間同士が躊躇なく殺しあう……
時には笑いながら相手を殺す
まさか、盗賊は皆殺し?
同じ人なのに?
まさか、これが登竜門?
人を殺すことに慣れることが?
パンパン!!
俺が愕然としていると、俺の顔が左右に動く。
気がつくと鬼の形相のリンダが目の前にいた。
「ジン!しっかりして!」
「リンダ……」
「あなた人を殺すのが初めてなの?!」
「…………」
「うそ……、っ、まさか、だからEランクなの?!」
「……何を言ってる?」
この女は何を言ってるんだ?
俺はリンダに両手で顔を持たれ、首を無理やり盗賊のアジトの方に向けられた。
「見てジン!!あなたが動かないと、あなたの仲間が、ガルムが、ジスが!ティアモもサンザも!ゲルドもキーンもみんな死んじゃうわ!!」
「……死ぬ?」
「そう!みんなを見殺しにするの?!」
意味がわからない。
パーン!
もう一度、思いっきりビンタをされた。
俺はリンダを見る。
リンダは涙を流していた。
「ねえしっかりしてよ!!私も、私も死んじゃうのよ!あなたが盗賊をやっつけてくれなきゃ私も死ぬの!!死にたくないのよ!!」
「…………」
リンダはボロボロと泣いている。
くそが……、これが異世界かよ……。
人の命が軽いって、こういうことかよ。軽いのは自分の命だけじゃないってか?
魔物にやられるんじゃないのかよ
「くそが……」
リンダは涙を流したまま俺を見てる。
俺は盗賊のアジトを見る。
「くそが……。何が異世界、何が登竜門……、みんな、みんなくそったれだ!!」
俺は走り出した。
俺は閃いた。ガルムたちにやらせるから盗賊を殺してしまうんだ。あいつらはレベル1や2だから。
だったら俺がやればいい。
俺ならば殺さずに戦闘不能に出来るはず。
全部、全部俺がやってやる!!!




