閑話 近藤彩花
朝起きるとおじいちゃんが死んでいた。
ただ寝てるだけのように見えるけど、雰囲気でわかる。なんか生気が感じられない。何故だろう、もう死んでると確信してる。
「でも救急車…………」
ふと枕元を見た。封筒が何個も置いてある。
《彩花へその2》《遺言書》《彩花へ》《仁さん》《田崎さん》《国枝さん》とそれぞれの封筒に名前が書いてあって封がしてある。
変だ。私にも変だとわかる。
これじゃまるで自殺みたい。自分が今日死ぬとわかっていて、自分で枕元に用意したの?
私は《彩花へ》と書いてある封筒を開けてみた。
彩花へ
きっとびっくりしとるじゃろ。
すまんのう。
じゃがわしにも寿命がある、仕方のないことなんじゃ。
お前はわしが居なくなっても大丈夫か?
大丈夫じゃな。
実は芯はしっかりしとる彩花のことじゃ、おじいちゃんは心配しとらんよ。
国枝さんへの手紙で、彩花を雇ってもらえるように頼んである。若い人の手は欲しいじゃろうから、国枝さんの所で働かせてもらえ。
それと隆のことじゃが、あやつはもうダメじゃ。あの魔性の女に騙されて、性根が腐ってしもうた。あれを父と思うのはもうやめなさい。
世の中、親がいなくても幸せに暮らしとる者はたくさんいる、彩花もそういう風に生きるのがおじいちゃんはいいと思う。
そうそう、仁さんは早くに両親を亡くしとると言うで、その辺は心得とるじゃろ。困ったら相談しなさい。
仁さんは本当にいい子じゃ。
多少お人好しで、極端なところがあるが、自分で自分の道を切り開ける男じゃ。いざとなったら頼れる、そんな男が彩花には合っとると思うがの。
一度きりの人生、大事に、悔いの残らないように生きなさい
また会う日まで
友蔵
追伸
その2に書いてあるが、遺言書は公正証書じゃ、その2に書いてある通りに事を進めなさい。
それと
仁さんは押しに弱いぞ?待っとってもああいう男は襲ってこんぞい?ほっほっほっ
「おじいちゃんたら…………」
良い手紙なのに追伸で台無しにしてしまって。
おじいちゃんのふとんの胸の部分が変に膨らんでいる。
「なんだろ」
布団をめくる。おじいちゃんは綺麗にまっすぐになっていた。
でも、胸に水晶玉で出来たような数珠を持っている。
「……こんなのうちにあったかしら…………」
見たことがない。
「あっ、救急車を」
私は救急車を呼んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……うそでしょ?」
その2には、1週間斉藤さんを泊めろと書いてある。
おじいちゃんがいなくなって、二人きりなのに……。
「これじゃ、私が誘ってるみたい……」
おじいちゃんがあんなこと書くから変に意識しちゃう。
まあ、笑顔が可愛いなとは思ってたけど……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「…………僧なのかしら?」
斉藤さんはお酒を飲んでも全く雰囲気が変わらない。私に手を出してくる気配がない。
「魅力が足りない?」
でも大胆な服装なんてお葬式なのに出来ないし。
「あっ!喪服っ!」
男の人は喪服に異常に興奮するとネットで見た。
喪服になれば斉藤さんも我慢できなくなる?
「って、私が欲求不満みたいじゃない!」
おじいちゃん、おじいちゃんのせいだからね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「斉藤さん……」
お父さんとお母さんが来た。
斉藤さんは他人なのに、私のために戦ってくれた。背中がとっても大きく見える。
これが頼れるってことかしら……。
それにしてもおじいちゃん、まさかこうなることを予想して斉藤さんを泊めろと言ったの?お父さんとお母さんから私を守るため?
いや、おじいちゃんは斉藤さんなら私を守ってくれるとわかってた?お金よりも大切に思ってるものを守ってくれると?
一体どこまで先を読んでたの?!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「この朴念仁……」
この人本当に男の人なのかしら?
私が崖から飛び降りるつもりで背中を流しに行ったのに!
ネットやマンガ、ラノベとかならもっと男の人って野獣みたいなものじゃないの?!
…………いや、最近のラノベは草食系だったわ。斉藤さんもその類?
「リアル草食系っているのね……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は斉藤さんが帰っていく車をいつまでも眺める。
「あーもう!、本当に夜這いするしかないの?!夜這いの仕方も手紙に書いといてよ、おじいちゃん!!」




