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久しぶりの異世界

初七日が過ぎた。


なんとなく微妙な空気のまま、時間だけが過ぎていき、なんとなく帰る日になった。


「では、仕事に戻ります」

「8日間もお仕事をお休みさせてすいませんでした」

「いやいや、どうせ仕事もなかったですよ。実際どこからも電話はありませんでしたし」


メールはあった。ミランダからだ。

いつまで休んでるの?という内容だった。


「これを」


彩花さんは封筒を差し出してきた。俺のこの七日間は一応依頼ということになっている。多分金だろう。


「ありがとうございます」


俺はそれを受け取る。


「では、食事代、宿代を払いますね。これを」


俺はそれをそのまま手渡した。


「そんな、それはおかしいです」

「彩花さん、もし俺がじいさんの友人として滞在してたならお金をもらうのはおかしな話ですよね、友人ですから。もし、俺が仕事でここに居たならば、滞在費はこちらもちが当たり前です」

「っ……、それでは私がわがままを言っただけに……」


俺はニッコリと微笑み、


「こんな若くて綺麗な女性と7日も一緒だったのですよ?こっちがお金を払わなきゃいけませんよ!」


俺があははと笑うと、彩花さんは少し黒い顔つきで足元を見る。


「……(手出しできない意気地なしですけどね)……」

「え?何て?」


彩花さんは顔を上げてにっこりと笑い、


「いえ、なんでもありません」


と、少し首を傾けた。


「っ、また来ます。今、1週間ほど連絡取れない仕事をしてるんですが、また1週間経ちましたら、彩花さんの美味しいご飯をご馳走してくれますか?」


彩花さんはちょっと目を丸くして、


「……(そんなこと言えるなら早くキメてよ)……」

「え?」

「いえ、ご飯の用意して待ってますね」


菩薩のような微笑みで彩花さんは俺を見る。


「では、また」

()()()()()()()()、仁さん」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




俺は雑貨屋を周り、歯ブラシなどの身の回りの物を買う。これは異世界に持っていくためだ。向こうの雑貨類はイマイチクオリティが悪かった。目立たない仮自宅の中でなら、地球のものを使ってもいいだろう。


一山の雑貨類を車に積み、俺は冒険者ギルド 青木ヶ原樹海支店へと車を走らせる。


両手に荷物を抱えて、ギルドのドアを開ける。


「…………遅くないですか?」

「すまない、こっちの用事があってな」

「まあ、とりあえず座ってください」


ミランダに半眼で見られ、俺はソファに座る。

ミランダも俺の向かいに座った。


「俺、考えたんだ。剣術のレベル3を軸にして、それに見合う依頼を受けたいなと思ってるけど、どうかな?」

「悪くないと思います。剣術のレベル3と言えば、冒険者ランクで言うとAランクぐらいにならないと居ないくらいですから」

「そんなか」

「はい、ただそれはパーティを組んだ前提になりますけどね」

「俺もパーティを組めるのか?」

「もちろん組めますけど、地球人と言うのをバレないように、またこうやって時々消えるのをパーティにどうやって説明しますか?」

「あー……」


それは面倒くさい。もう秘密ばかり増えて二進も三進もいかなくなる未来が容易に見える。


「あー、なら、他のスキルも見たいな」

「どうぞ」


ミランダは例のスキル価格表のクリアファイルをテーブルに置いた。


「んー、この身体強化ってのは?」

「一言で言いますと身体の動きが良くなるスキルです」

「おお。なら、この従魔スキルってのは?」

「魔物を瀕死に追いやると、自分の従魔として従えさせられるものです」

「おお、いいじゃん!具体的にどう使うの?」

「このスキルに限らず、スキルの詳しい使い方は私たちにはわかりません。使ってみて覚えてもらうしかありません。こればかりは、私たちに使えないのでなんとも…………」

「まあ、たしかに」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここでスキルについて説明しよう。

これは『あなたにも出来る異世界生活』に書かれている内容だ。


まず、異世界の現地人の話をする。

異世界にはスキルがあるか?

ある。

ただ、俺たちが想像しているのと意味合いが違う。

俺たちはスキルを覚える→魔法が使えるようになると思う。

だが、現地人の場合は、魔法が使える→スキルとして表示されるなのだ。


例えば凄腕の剣士になりたくて、一生懸命剣を振る。するといつのまにか剣術レベル1が表示される。もっと上達したくてさらに腕を磨く。そしてこの界隈で1番と言われるようになった。するといつのまにかレベル2と表示されるのだ。

要は、頑張った証の履歴書みたいなもので、地球人みたくスキルをレンタルしたからそれが出来るっていうことではないのだ。

だから、現地人はスキルにあまり興味がない。履歴書があろうと無かろうと、出来ることは変わりないからだ。

ちなみにスキルの確認方法は、教会に行くと転移門のようなゲートがあり、それで調べることが出来る。


そして、現地人が重要視するのは職業だ。

職業は、一言で言うと素質の履歴書だ。

現地人は5歳になると教会に行き、生体スキャンして職業を調べる。

そこに表示された職業は、自分がどんなものが得意か、何を努力すれば成功するのかの指針だ。


例えば魔法使いと表示されたとしよう。

でも何年も剣を懸命に振ればそのうち剣の扱いも上手くなる。上手くなれば剣術レベルのスキルも表示されるようになるが、職業剣士の奴は、もっと早くスキルに表示されるほど上達するのだ。

キャベツの千切りを練習して、1週間たっても上手くならない奴と一日で機械レベルの千切りが出来るようになるやつがいるのと同じ理屈だ。

それが目で見てわかるようになるのが、職業というやつだ。

すごく便利である。表示された職業に向かって努力すれば、その方向で成功するのが約束されたようなものである。



反対に地球人はどうなるか。

地球人はいくら努力してもスキルに表示はされない。されるのはあくまでもレンタルしたスキルのみだ。

わかりやすく言う。現地の言葉と文字を完璧に覚えても、言語理解のスキルの表示はされない。だが、覚えれば話すことはできる。

履歴書表示としての役割は、現地人のみの特権だ。


地球人の特権としては、スキルをレンタル出来る。

剣術のレベル3を毎日レンタルしてれば、自ずと身体が覚えるだろう。だが表示はレンタルしないとされない。


ならば地球人の職業は?

剣術をレンタルした時、ペン習字のお手本のように、なぞればいいように分かると言った。しかしなぞるのも得手不得手がある。

職業が剣士の人はなぞるのがやたら上手い。魔法使いの人はなぞるのでさえ四苦八苦だ。これが地球人の職業だ。意味合い的には素質みたいなものなので、似たようなものだと考えられる。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふむ、どうするかな」


俺が迷っていると、ミランダがアドバイスをくれる。


「こうしたらどうでしょう?。まず剣術レベル3と亜空間バッグを毎回レンタルします。剣術レベル3なら、一人でオークを倒すのも群れでなければ容易です。これを軸にして異世界に慣れ、どういう道に進みたいかがはっきりしてから他のスキルをレンタルすればいいのでは?近接攻撃は誰が持ってても腐らないですし、オークがやれるならお金も稼げます」

「この亜空間バッグってのは?」

「オークは2mの人型の豚の魔物です。倒しても重くて運べませんが、肉は食材になります。日本の豚と変わりません。それを亜空間バッグに収納すれば重さはなくなりますので何体でも運べます」

「何体も入るのか?」

「バッグの質によりますが、レンタル物は容量無限です」

「なるほどな」


悪くないかもしれない。たしかにまだ異世界を知らなすぎる。どのスキルをレンタルしたらいいかもわからない。それがわかるまではこの方法でいいかもしれない。


「わかった。剣術レベル3、言語理解、亜空間バッグ、それと火と水の魔法のレベル2、あと身体強化のレベル2を頼む」

「でしたら、…………レベル3が10万、2が3つで12万、言語理解で1万、亜空間バッグで50万、総額73万ですね」

「ああ、これでオークを10体倒せば黒字だ」

「ならば、この依頼をどうぞ」


テーブルに出された紙を見る。


「期日は2週間、オークを3体で報酬が金貨1枚、オークの死体が良好ならば合計金貨4枚、40万になります」

「ならその依頼を3つ受ける」

「それは辞めましょう」

「何故だ?」

「万が一、依頼数の討伐が出来なかったら、違約金が発生します。依頼が1つでも報酬は出ませんが買取はできます。リスクは低い方がいいでしょう」

「わかった」



ミランダの勧めた通りに依頼を受け、まだ換金してなかった現地通貨で金を払った。あまりの金も現地通貨のまま亜空間バッグに入れて持って行く。


俺は亜空間バッグを背に背負い、両手に雑貨類を持ちゲートに立つ。


「それでは、have a nice work!」


ゲートの光に包まれた。三度目の異世界だ。

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