歴史に名を残す 中
「いくぞ!」
病院の中庭で、ヤマトタケルと清少納言の戦いが始まった。
「でやあ!」
ヤマトタケルが剣で斬りかかる。サッ、サッ。清少納言は、剣を簡単にかわしていく。
(なんだ? この違和感は?)
一方的にヤマトタケルが攻撃するが、剣が当たることはない。
「もうやめませんか?」
清少納言は、休戦を提案するが、
「なに!?」
ヤマトタケルは、始まったばかりの提案が意外そうだった。
「あなたも、オカマに負けたって言われたくないでしょう。」
清少納言は、もう勝った気でいる。
「おいおい、オカマのくせに、なめてんじゃねーぞ!」
ヤマトタケルは、バカにされて、イライラしてきた。
「先に言っておきますが、僕が従順なのは紫式部さまだけですよ。」
清少納言は、紫式部の親衛隊でると、優しく笑顔で説明しているが、
「他の人には、厳しいですよ。」
顔から笑顔が消えた。
「おもしろい、そうこなくっちゃ。」
ヤマトタケルは、改めて剣を振り回し斬りにかかる。
「僕には、あなたの行動が読めるので、攻撃が当たることはありませんよ。」
清少納言は、相手の行動が読めるスキルを持っているらしい。
「なんだと!?」
(それで、攻撃が当たらなかったのか!?)
ヤマトタケルは、自分の攻撃が当たらない理由が分かった。
「長引かせると紫式部さまを、お待たせするので直ぐに終わらせてもらいます。」
清少納言は、余裕である。
「ふざけるな!」
ヤマトタケルは、なめられている自分に腹がたってきた。
「あれをやるのか。」
病室から中庭を見ている紫式部は、清少納言を見て察する。
「春は曙。やうやう白くなりゆく山際、すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」
清少納言は、攻撃をかわしながら、枕草子を読み始めた。
「なに!?」
ヤマトタケルには、清少納言が歌を歌いだしたのが理解できない。
「夏は夜。月の頃はさらなり、闇もなほ、螢飛びちがひたる。雨など降るも、をかし。」
清少納言は、ヤマトタケルを気にせず、枕草子を読み続ける。
「ああ~、嫌になるな~、おまえ戦う気があるのか?」
ヤマトタケルは、やる気がない相手に呆れる。
「秋は夕暮。夕日のさして山端いと近くなりたるに、烏の寝所へ行くとて、三つ四つ二つなど、飛び行くさへあはれなり。まして雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆる、いとをかし。日入りはてて、風の音、蟲の音など。」
清少納言は、枕草子を秋まで読み進めた。
「無視してないで、なんとか言ってくれないかな?」
ヤマトタケルの攻撃は、相変わらず当たらない。
「冬はつとめて。雪の降りたるは、いふべきにもあらず。霜などのいと白きも、またさらでも いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持てわたるも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、炭櫃・火桶の火も、白き灰がちになりぬるは わろし。」
清少納言は、枕草子を読み終えた。ピカーン! 神々しい光りがヤマトタケルの全身を包む。
「なんだ!?」
ヤマトタケルは、突然、現れた光に目を閉じる。
「ここは・・・どこだ?」
目を開けたヤマトタケルの目の前は、
「暗いな、夜か?」
暗い世界が広がっていた。ピカーン。光りが地平線から昇ってくる。
「眩しい!? 朝日か?」
太陽が昇り始め、ヤマトタケルの世界に朝を告げる。
「なんだこれは? 幻術か?」
本当の自分は、清少納言と戦っているはずである。
「なにかは知らないが気持ちのいい朝だ~♪」
ヤマトタケルは、この幻の世界が気に入った。
「もう勝負はついたな。」
病室から中庭の戦いを見ていた紫式部は冷たく言い放つ。
「2人とも立っているだけなんですけど、どういう状態なんですか?」
源頼朝が質問する。
「清少納言の必殺技、枕草子。」
随筆が必殺技になるみたいだ。
「歌を読み終えた時、相手は枕草子の世界に飛ばされる。」
歌の世界に、異世界に誘われるらしい。
「この技から脱出することは、まず不可能。」
異世界に飛ばされると帰ってくることはできないようだ。
「今頃、ヤマトタケルは、きれいな朝日を見ている頃だろう。」
紫式部は、枕草子の説明を終える。
「昼の太陽もきれいだったし、夕日も夜空の月も星もきれいだ。」
ヤマトタケルは、枕草子の世界を楽しんでいた。
「ふう~。」
大きくため息を吐く。
「でも、2週目は遠慮させてもらおうか。」
ついにヤマトタケルの表情から、緩さが消え、鋭い顔つきになり、反撃が始める。
「いでよ、草薙の剣。」
ヤマトタケルの手に神剣が握られる。
「草薙の剣よ、この世界を薙ぎ払え!」
剣を振り回し始める。スカ。攻撃を薙ぎ払う草薙の剣だが、歌の世界を薙ぎ払うことはできなかった。
「ダメか・・・。」
ヤマトタケルは、首を傾げる。
「今頃、オカマが勝った勝ったと騒いでいるんだろうな。」
推理は、当たっていた。
「勝ちましたよ~♪ 紫式部さま~♪」
中庭で、飛び跳ねて清少納言は喜んでいる。
「詰めが甘いな。」
紫式部は、腰巾着を冷たくあしらう。
「え? どうしてですか? 僕の勝ちですよ?」
清少納言は、首を傾げる。
「そんなことも分からないのか?」
紫式部は、冷たいルーティンに入っていく。
「キャア!? やめて下さい!!!!」
清少納言は、冷たい言葉が飛んでくるので、恐怖して身構える。
「あほう。」
紫式部が冷たく、決めゼリフを言うと、グサ!
「ギャア!」
清少納言の心に冷たい花の棘が突き刺さる。ピカーン! その時、ヤマトタケルから、眩い光が輝きだす。
「あら?」
清少納言は、目を疑った。
「オカマくん、何を泣いているの?」
ヤマトタケルは、正気を取り戻し、現世に戻って来た。
「俺の勝ちだ。」
ヤマトタケルは、日本武尊に覚醒していた。
「なんだ!?」
光りが消えると、パワーアップしたヤマトタケルが現れた。
「おまえの異世界も斬らしてもらったよ。」
草薙の剣は、天叢雲剣になっていた。
「悪いな、俺も覚醒するのは、初めてでね。」
軽装から鎧装備か、神剣から3大神剣化した。
「どれくらい強くなったか、分からないんだ。」
ヤマトタケルは、緩くしゃべっているが、
「な、なにを!?」
技が破られビビっている清少納言に、一歩一歩近づいていく。
「ぶった斬ってやる!!!」
かなりムカついていたのだろう、狂気に憑りつかれた表情になる。
「キャアアア!!!」
恐怖する清少納言は、オカマ? いや、ボーイズラブキャラなのか? ゴゴゴゴゴ! 天叢雲剣を持つヤマトタケルの上空には、常に雲気が掛かっている。
「天と雲を司り、異世界すら斬りさく、天叢雲剣・・・。」
ヤマトタケルは、清少納言に向けた剣先を、振り上げ、
「オカマ位、簡単に斬れるんだよ!」
剣を振り下ろした。ブサ。
「ギャア!!!」
清少納言は、斬られ苦しんでいる。
「やった!」
ヤマトタケルは、文学系3人の内の1人を斬り倒し高揚した。
「そこまで!」
紫式部は、2人の勝負を止めた。
「ああ!? 」
ヤマトタケルは、訝しげそうに紫式部を見ると、
「な!? なんでオカマが!?」
紫式部の横に無傷の清少納言が立っていた。
「どうなっているんだ!?」
ヤマトタケルが斬ったはずの清少納言は、
「俺は、オカマを斬ったはずだ!?」
病室にいる紫式部の横に立っている。
「確かに手応えもあった!?」
ヤマトタケルは、カラクリが分からないで、たじろいていた。
「そこまでです。」
紫式部が話始める。
「なに!?」
ヤマトタケルは、訳が分からないまま、試合を止められた。
「この勝負は、あなたの勝ちです。」
ヤマトタケルの勝ちだという。
「私が、あなたの強さを認めましょう。それでいいですね?」
紫式部は、ヤマトタケルの自尊心を尊重している。
「わかった。」
ヤマトタケルは、すんなりと和解を受け入れたのは、
(なんだ!? この違和感は!?)
起きている現象が理解できないからであった。
(これも紫式部の力だというのか!?)
心の中は揺らいでいた。
「その賢明な判断力に免じて、種を明かしてやろう。」
紫式部は、説明してくれるという。
「ぜひとも聞きたいね。」
ヤマトタケルは、緩い顔で両手を広げ降参のポーズをする。
「まずこちらの世界で私の冷たい棘を清少納言の心に突き刺し弱らせる。」
紫式部の冷たい言葉には、相手の戦意を奪う能力があるらしい。
「まあ、天叢雲剣があれば、異世界を斬ることも可能だろう。」
紫式部は、ヤマトタケルのプライドに気を使っている。
「おまえが清少納言を斬ろうとした時に、私が清少納言を偽物にすり替えた。」
やはり紫式部の仕業であった。
「斬った感触のある偽物にな。」
恐るべし紫式部。
「・・・。」
ヤマトタケルは、考えている。
(なんなんだ!? このスケールの違いは!?)
紫式部の底知れない力に、武者震いをして、手足が動かないが、
(覚醒した、今の俺と天叢雲剣があれば、)
戦闘タイプの悲しいサガであるが、
(紫式部にも勝てるのでは!?)
ヤマトタケルは、紫式部を睨む。ギュ。天叢雲剣を握る手に力が入る。
「やめておけ。」
紫式部から警告が入る。
「今、私にも勝てるんじゃないかと思っているだろう?」
紫式部は、相手の心を読み透かしてしまう。ドキ。ヤマトタケルは、なぜか無意識に、一歩足を後ろにする。
(おいおい、文学系の連中は、相手の心が読めるのか?)
ヤマトタケルも、そろそろ気づいてきた。
(それで歴史に名を残す者の序列は、文武系より、文学系が上なのか?)
武力型のヤマトタケルには、屈辱であった。
「今更、気づいても遅いぞ。」
紫式部は、ヤマトタケルを冷たく見下し、
「あほう。」
冷たい言葉を吐き捨てる。グサ。ヤマトタケルの心に突き刺さる。シュシュシュッ。ヤマトタケルの覚醒が解けて、
「な!?」
軽装、草薙の剣に戻る。
「覚醒状態で天叢雲剣もあれば、私に勝てるかもしれない。」
紫式部は言う。
「しかし、私は覚醒を解除する能力を持っている。」
相手の戦意を奪う、相手の心に冷たく突き刺さる棘を。
「・・・。」
ヤマトタケルは、まだ戦意が少しだけ残って、紫式部を見ている。
「ほお、まだ戦う気持ちが残っているか。」
紫式部は、男気のある女を見て、冷たくニヤっと笑う。
「おまえが私に絶対に勝てないことを分からせる必要があるな。」
そう言うと紫式部は、グサ!手を胸に突き刺した。
「な!?」
その場にいた全員が目を疑った。
「この体は、ただの器だ。」
胸を刺したのに、血は流れてこない。
「私の本体は、私の大切なモノの中に隠してある。」
紫式部の霊魂は、ここにはいないのである。
「だから、どんなに斬ろうが、殴ろうが、私の本体には触れることもできない。」
紫式部の余裕は、体のカラクリからきている。
「わかった。俺の負けだ。」
ヤマトタケルから、遂に戦意が無くなった。
「もう戦おうなんて、思いませんよ。」
表情も緩くなり、普段通りひょうひょうとし始めた。
「やっとわかったか。」
紫式部の普通の言葉にも、冷気よりも冷たいモノがあり、
「あほう。」
その場にいる者の心を凍らせて、心身共に凍らせていく。グサ。
「和解したのに・・・グスン。」
もちろんヤマトタケルにも無条件で冷たい棘は刺さっていく。
「そして、私の最大の強みは、」
紫式部には、まだまだ特殊スキルがあるというのだ。
「全てが分かる聖徳太子に、感知されない空間を作れるということだ。」
悪役設定の上位者は、なんでもできるのであった。
つづく。




