嘘つき、いい加減闘う
隣の部屋で寝ている女の子達の寝息が、大量に取得したスキルの内の一つ「聴覚強化」により、耳に届く。向こうで、3人が一部屋で寝ているのを考えると、少し罪悪感を覚えた。
そんなことをしているうちに、日は昇り、
「じゃ、そろそろ一狩行きますかっ。」
ルナの声が耳に届く。
途轍もない眠気が僕を襲っているが、まぁ、自業自得ではある。
「了解。」
と頷いた優衣に便乗し、僕も頷いた。というか、一人でこの家に居るほどの勇気はない。
「行きますよーっ。」
「まてまて、役割分担を決めないと。」
「何のスタイルを選択してるの?」
優衣が首を傾げながらこちらを見つめる。相変わらずの無表情だが、整った顔立ちをしている為、やはり動揺してしまう。しかし、スタイルと言われても理解出来ない。よくある職業のようなものだと勝手に解釈して、とりあえず、スマホを起動した。
「あの敏捷性で、魔法も使えるって凄いよねっ。」
そう言えば、この世界の基準には大きくかけ離れたLevelをつぎ込んでいることを説明しておらず、しかも、Levelを1000も残していた為、さほど、スキル取得に使って無い思われたのかもしれない。天下の大嘘つきの汚名を更に広めたくはないので、まだ真実を告げたりはしないけど。
「じゃ、3人は何を取得してるの?」
「召喚師ですっ。」
「巫。」
「槍使い(ランサー)だ。」
「回復出来るのは?」
「一応、出来るには出来ますけど、正直、心許ないですね…」
じゃ、回復出来るスタイルを取得しようかなー、と思っていると、ふと「タブルスタイル」というスキルを取得したのを思い出した。どんなものかよく分からなかったが、名称が厨ニっぽくてつい。
「タブルスタイル」の説明欄を確認すると、
ふたつのスタイルを取得可能、変更時の熟練度も継続。
「回復が優秀なスタイルは何があるの?」
知識が無い為、参考程度に問いかけた。
「ドロイドとかクレリックかなー。」
RPGによく出て来そうなスタイルが飛び出す。この世界の大体はRPGとして見ても良さそうだ。
「本当に回復役でいいの?」
「いいんじゃ無いかな。ダブルスタイルってのもあるんだし。」
自分でも短絡的だと思わなくは無いが、回復が追いつかないのは致命傷になりかねない。
「でも…」
確かに異世界に転生したら俺ツエーしたかったことは否定出来ない。
「さぁ、どうしようかなー。」
優衣の気持ちを汲み取るなら回復役では無いのだろう。しかし、ルナの負担が増えるのも考えものだし、イリアも同様だ。
スマホのスタイル一覧の画面を発見し、その中で、付加魔術師というものを発見した。
ステータスの向上や、相手への妨害などを行い、戦闘を支える後衛職とある。
女子を後ろからしか支えられないのは不服ではあったが、回復の補助、優衣の気持ちを少しでも汲める、イリアの手助けにもなる。その為、付加魔術師にスタイルを重ねて決定した。
重ね掛けが機能するのか分からないが、近距離戦を行いながら、補助魔法などという離れ業を出来るとは思えない、それならまだこちらでいいのかもしれない。
「行こう。とりあえず。」
考え過ぎるともう寝てしまいそうな為、話をとりあえず打ち切って、プレイヤーハウスの外に出た。
日光は普段よりも眩しく感じられ、一層眼を開けるのが辛くなってくる。それでも眠気覚ましには丁度よく、頭は少しだけ冴えた気がする。
「いい天気ですー。」
「昼寝したいくらい。」
雲ひとつ無い青空。
確かにこれ以上無い天気だと思う。これから、その日差しが届かない洞窟に潜ることを考えなければ。眠気を必死で振り払い、昨日ぶりのミノタウロスの住処へと前衛職のイリアを先頭に、足を踏み入れた。
少し進むと2本に道が分かれ、今迄眩しかった光が遮られた。それと同時に聞くにたえない呼吸音を聞き、不快な表情になってしまう。昨日は寝息に癒されていたのもあり、更に効果は抜群だ。それと同時に、ダンジョンに入ったことを自覚し、警戒を強めた。
「月明」
警戒して、小さな声を発し、手のひらを上にかざす動作によって、小さな光球が、ルナの周りを漂い始める。
「サンキュー」
「ありがと。」
魔法の使い方は、先程の魔法名+それにあった動作でいいのだろう。ステータス画面を開き、羅列されてある魔法の中で、名称に明が着いているものを探す。
「暗明」
唱えて、先程のルナの動作を模倣してみたものの、光球が発生するわけでも無い。失敗したのかとも思ったが、熟練度が少し上昇している。ということは、発動はしたのだろう。
「ルナ、一旦月明消して。」
「はいっ。」
それまで眩しく僕たちを照らしていた光が一瞬にして消滅する。暗闇に包まれるが、不思議と明るい時さながらに視えている。
先頭を進んでいたイリアも、月明が消え、周りをきょろきょろと見渡している。普段冷静なイリアが、びくびくしている姿は少し面白い。
足元に落ちていた石ころを、イリアの後ろの壁にぶつける。
「うわっ‼︎」
「きゃっ‼︎」
イリアの悲鳴が洞窟に木霊し、その声に驚いたルナも声を上げる。それでも、優衣は驚くことなく、無表情のままルナとイリアの方を眺めている。
「まだなのか〜?」
震えた声で問いかけて来たイリアに嗜虐心をくすぐられ、
「あー、もーちょっと待ってくれ。」
などと曖昧な返事で返し、極力音を立てないようにイリアの背後に近づいた。
パキッ‼︎
ふと下を見ると動物の骨?だろうか、それを踏んでしまっていた。
「ひゃわっ‼︎⁈」
女の子らしい悲鳴を上げながら、イリアが振り返ったかと思うと、前に向き直った僕の目の前を槍が空を切った。気づくと髪が数本散っていて、思わず冷や汗をかいた。
Level上昇の恩恵が無いとは言え、流石にステータスは上げまくっている。それでも反応出来なかったことに恐怖を覚え、急いで元の位置に戻った。肩を叩いて驚かそうとした本来の目的など、僕の脳から何処かへ消え去っていた。
「もういいよ。」
と、ルナに出来るだけ平静を装って合図する。
「月明」
また、洞窟内が光に照らし出される。
「はー、びっくりした〜…」
「唯の石ころ。」
優衣がこちらをじとーと、見ながら、そんなことを呟いた。
多分気づいているのだろうが、今の所なんの指摘もない。
「イリア、どんまいだ。」
白々しくもそう答え、優衣の方へ視線を向けた。その表情は無表情ながらも、いつもより少し口角が上がっているように見えた。
優衣が面白がっているなら、また今度やってみようかな。
状況を知らないイリアとルナには悪いが、楽しい体験だった。
「まきもどんまい。」
「まきって僕?」
槍で刺されかけたことを言っているのだろうか。こくり、と首が縦に振られた。少しの笑みは続いており、これで、気づいていたことはよく分かった。
「まきかー。なんかいいですねっ、それ。じゃ、私はまきさんって呼びますねっ。」
「じゃ、普通にマキナで。いいよな?」
特に異論が在るわけでも無いし、僕は首を縦に振った。
「誓願の障壁」
優衣の無機質な声とともに、魔法が発動された。
背後に張られた障壁に弓矢が何本もぶつかり、甲高い音を上げる。
「敵⁉︎」
「イリア、まきに説明して。」
「でも、このタイミングでか?」
「イリアの距離じゃ無い。」
遠距離からの射撃に、槍使いのイリアでは何も出来ないだろう。
「わかった。マキナ聞けよ?」
緊迫した表情のイリアは、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「魔法には、リキャストタイムが存在する。瞬間的にしか効果を及ぼさないものは早く、継続的な効果が見込めるものは長い。優衣の誓願の障壁もリキャストタイムは長い部類だ。ルナの月明もリキャストタイムは長いけど、その分の効果時間があるからさして問題は無い。ここまでおっけ?」
説明は急いでいる割に丁寧で、特に疑問に思った訳でも無い。
「じゃあ次、MPについて、これに関しては使う魔法によってまちまちだが、
規模が大きければ大きいほど消費すると考えてもいい。あ、それと、ショートカットが出来る。発動した魔法のリキャストタイムが過ぎ、発動から3分以内なら魔法名だけで発動出来る。行動が必要とされないから、対人戦などでも便利だぞ。」
「おっけー、大体分かった。」
ショートカットのシステムは今の所、有効的な利用方は見当たらないが、ダブルエンチャンターの僕なら、上手く活かせるかもしれない。
優衣の元に急いで戻ると、ゴブリンが前線まで出てきていて、優衣は障壁ごと洞窟の奥まで押し込まれていた。
「大丈夫か?」
「問題は無い。少しだけ押されてるけど。」
障壁などは空間固定されているのかと思っていたが、少し違うみたいだ。MPによって、そこに固定しているのだろうか。
自身のステータスを開き、適当にスクロールする。
加速
対象を力の加わる向きに一瞬だけ加速させる。リキャストタイム一秒
という項目が、目に入る。
先程習った通り、瞬間にしか効果を持たない為、やはりリキャストタイムは短い。これならずっとダブルならずっとブースト出来そうだ。
「優衣、障壁はランスの一撃に耐えれるか?」
「イリア、障壁を前に押し戻してくれ。」
「よゆー。」
「了解」
そう言ってイリアが、ランスで、優衣の障壁を前に押し出した。その瞬間に、
「加速。加速。加速。加速。加速。加速。」
最初のブーストにだけ動作をつけ、障壁にブーストをかけまくった。道が真っ直ぐだったことが幸いし、障壁が止まった先で、断末魔の悲鳴が幾つか耳に入った。
早口言葉を練習したわけでは無いが、言いにくい言葉でも無かった為噛まずに言うことが出来た。
「何それ…」
「巫はダメージ遮断系の職業。障壁にダメージは発生しないはず。」
「色々無茶苦茶ですねっ」
3人が呆れたような眼をこちらに向けてくる。
「障壁には、質量が存在しなくても、物理攻撃も遮断出来るんだから、そこの空間に物質は形成されてるからじゃ無いか?」
僕もノリでやってしまった為、障壁をすり抜けてゴブリンが来てしまったらどうしようかと後で思った。
ま、これで、悪意ある攻撃に反応みたいなファンタジー色満点でもない事も分かったし良しとしよう。
「優衣の経験値入っている?」
「ううん」
「入ってないか。じゃあ、イリアは?」
「あー、入ってる。」
基本的に攻撃職に経験値は集まりやすい。あんな突拍子もない攻撃でも、一応優先されるのは、Levelを上げたくない人間にとってはありがたい。
ゴブリンからの攻撃が完全に途絶えた為、前に向き直り、今度こそ、聞くに耐えない音のする方へ、歩を進めた。
稚拙な文章で申し訳ありません




