嘘つき、ではもう居られない
「フレンド登録をしよーぜー‼︎今まで忘れてたけど。」
少し抜けているイリアの言葉が、僕とルナで構成されていた空間を崩してくれた。
ルナは赤かった顔を、イリアが入って来た瞬間に、冷静な表情に切り替えた。
「フレンド登録ですかっ。確かにしてないですねっ‼︎」
「どんな機能があるの?」
「その人のステータスとか、所属しているパーティーなどが表示されますっ‼︎」
単純な説明だけの筈なのに、ルナのテンションが上がっている。
「Levelが上昇した時も通知が来るんだぜ‼︎」
「それ言っちゃダメでしょ‼︎」
ルナが急いでイリアの口を手で覆い隠す。
しかし、もう僕の耳に届いている。
つまり、僕が嘘をついた時に、Levelが上がり、通知が来る仕組みと。そして嘘が発見できると、そう言うことのようだ。
「あの…もうそろそろイリアを離してあげないと、顔赤くなってるよ?」
その言葉に乗っかって、イリアがぶんぶんと首を縦に振りまくる。
「はぁ…しょうがないですね…」
ルナの手がイリアの口から離れ、ぷらぷらと宙を舞う。一方のイリアは、ルナを睨みながら、肩を震わせて呼吸をしている。
「なにすんだよー‼︎」
「ごめん、つい、反射で。」
バツの悪そうにルナは謝っていたが、真正面にいた相手の、わざわざ後ろに回り込んで口を塞いだのを僕は見ていた。反射神経って素晴らしい。
「出来た。ご飯。」
突如、玄関へと、優衣が登場し、三人をリビングへと誘った。
目の前には、豪勢な料理の数々が並び、テンションが上がった。
「「「「いただきます」」」」
「美味いっ‼︎」
口に入れた瞬間に広がる味は、この世界に来てから何も食べてない僕を癒してくれる。
「でしょっ‼︎」
「なっ‼︎」
本人ではなく、他の2人が威張り出す。
「そうだ、四人揃いましたし、フレンド登録しましょ。」
「近くの人にフレンド申請を送るってやつでいいのか?」
「はい。」
食事中にスマホを取り出すのも悪い気がしたが、取り出して、そのボタンを押した。
「灰巻マキアLevel1と」
「灰巻マキアって名前だったのか。知らなかった。」
「それより、Level1って何?さっきリセットしたよね?」
優衣の容赦ない追及。睨んできていたルナに目を向けて僕は笑った。
「承認しましたよっ。」
ルナの嬉しそうな声と同時にスマホの画面にNEWの文字が3件続く。
初めて開いたフレンドリストには、
ルナ=アーデリア Level10
イリア=アステリア Level8
九優衣 Level11
全く人を騙す事なんてしない子達かと思っていたが、
「数回は嘘ついてるんじゃん。」
「違いますっ。一緒にしないで下さいっ。嘘を看破することでも上がるんですよ‼︎」
「だから、さっき1Level上がった。」
一緒にしないで下さいの一言は、心に深く突き刺さったが、気にしているのもかっこ悪く思え、無理矢理平常心を装った。
「まぁ、ツンデレだからなー。気にするな。あっ、一応モンスターでも上がりはするんだぜ。まぁ、あれだけど。」
イリアは割と心の機微には敏感な様で、慰めの言葉を送ってくれた。その心遣いが、身に沁みる。当のルナはというと、イリアの言葉に首を傾げている。
「モンスターはとても非効率。」
三人の口から溜息が零れ落ちる。ここまでのテンションの低さとなると、モンスター狩りでのレベリングはとても大変なのだろう。
それでも、言いなりになるリスクを避けるには、まぁ、納得のバランスなのかもしれない。特に、女の子にとっては。
「じゃあ、パーティー登録しますかっ。」
「やっとかー。長かったなー。」
「四人いて始めてパーティーが成立する。」
分かってなかった僕に気づき、優衣が補足説明を簡単に行ってくれる。
ルナ=アーデリアから招待されています。
承認しますか?Yes/NO
と、表示される。
スマホの画面を間違ってもNOを押さない様に、Yesをタッチする。
navy に参加しました。
「そうだ、Levelクラフトってのしてみないかー?」
「いいね、それっ‼︎」
Levelを使って何かをするという事は何と無く分かるが、英語力が皆無の人間にはよく理解出来ない。
「Levelクラフトっていうのは、1Level消費して、何かのアイテムを創り出す事が出来るんだ。」
「へぇ、なんか良いね。そういうの。」
記念品には素晴らしい物だと思う。しかし、
「Levelの方は大丈夫なのか?」
僕自身が膨大なLevelを保持していた事があったからなのかとも思ったが、スキル取得時に要求されたLevelを鑑みると心配は拭えない。
「大丈夫ですよっ。思い出は大切ですっ‼︎」
「リングがいい。」
「じゃあ、そうしよっか。」
優衣の要求をそのまま通して、指輪のアイテムが生成されるようにスマホの画面を操作した。
「皆出来たっ?」
「うん。 」
そして皆の貴重なLevelを犠牲に、生成された指輪は昔僕がつけていた物によく似ていた紺の宝石の指輪。
そして、その指輪を優衣が、悲しそうに眺めていた。
「このリング特殊効果の付与があるみたいだぞー。」
イリアの言葉に、3人がつい先程装備したばかりのリングの説明欄を覗き込んだ。
「Levelの低い味方がいればステータスアップだってよ。」
補足と、して1Level以下の味方が居れば、全ステータス100%アップとある。
「1Levelでクラフトしたにしては便利なものですね。」
しかし、序盤では、優秀なアイテムだとは思うが、全体的にLevelが上昇してしまうと、あまり価値の無いものに成り下がってしまう。まぁ、Levelリセットという機能があるだけいいとは思うが、その為だけに苦労してあげたLevelをリセットする人間は少ないだろう。
「このデザイン、凄く好きですっ‼︎ずっと付けてたいです‼︎いや、付けますっ‼︎」
「あぁ、だな。そうするか。」
「私も。」
先程まで悲しそうな表情をしていた優衣も、いつの間にか、いつもの無表情に戻っている、ルナとイリアの表情はとても明るく、同じ物を持っている僕としては嬉しい限りである。
ふと、手にはめている指輪を眺めて、白熱電球に照らされて輝く紺色の宝石が、鈍く光を発している。
3人の顔と、そのリングを見比べて、僕はLevelを上げない様に決めた。
「よし、じゃあ、僕はLevelが上がるたびにリセットするから。」
いくら気に入ってくれたといっても、命の危険もある以上機能性を蔑ろにするわけにはいかない。
そうして、守りたいものを今度こそ護ってやろうと、リングに願いを込めた。
「別に、嘘をつかなければLevelは上がりませんよっ?」
感傷に浸っていると、ルナからの声に遮られる。
まだ一度騙されたことを根に持っているのか、笑いながらも、本気の瞳をしている。
「いやー、咄嗟に出たんだよ。本当に。」
「そーですかっ。」
苦しい言い訳ではあるものの、そこまで本気では無かったようで、特に追及もなかった。
「じゃあ、ルナと優衣もシャワー浴びてきなー。」
イリアがその言葉を掛け、ルナと優衣が立ち上がった。
「はーい。」
そして、イリアと僕だけが取り残される。
イリアは活発的に会話に参加するものの、どちらかと言うと、自ら話題を振るタイプではあまりない様に思っていた為、何か喋ろうと考えていると、
「助けてくれたこと、本当にありがとな。」
照れ臭そうに頬を染め、外の夜景を眺めながら、イリアがそう呟いた。
「いや、別に。可愛い女の子達だったから助けただけだからね。」
一度嘘として発覚している為、特に隠し立てする必要もないだろう。
「だな。ルナも優衣も可愛いもんなー。」
羨ましいよ…
聞き取れなかった言葉を、聞き返すのは何と無く無粋な気がして、
「いや、イリアも十分可愛いだろ。」
「え?」
更に朱く頬が染まり、イリアの顔が俯き、手をブンブン横に振りまくる。
「こーゆーやつなのか…」
「?」
「ま、いいや、うん。で、優衣とルナのどっちが好きなんだ?」
突然の話を聞き、いきなり噎せてしまった。
「いきなり…だなっ…」
咳込みながらの言葉に、イリアはにやにやと笑みを浮かべ、僕を見つめていた。




