嘘つき、嘘つけない。
「君の恋路を応援する」
そうは言っても僕は、そいつのために何かをしてやることはなく、
「君を一生幸せにする」
そうは言っても僕は、君を幸せにし続ける事は出来なかった。
嘘をついて、嘘を吐いて、嘘に憑かれ、嘘に疲れた僕は、ありふれた交通事故で、その生涯を終えた。
そして、僕は、さもありきたりな異世界に転生した。
「すいませんー。ここは何処ですか?」
言語が共通しているのかは分からないが、とりあえず、自分の近くを通りかかった御老人に声をかけてみた。
「ようこそ、永月村へ。」
何処かのゲームのテンプレ回答が帰ってきた。日本語は通じるようだ。
御老人をよく見ると、服もそこまで、今まで生きていた世界とあまり変わらないものを着用している。
「教えていただいて、ありがとうございました。」
「いえいえ。攻略頑張って下さい。」
何故か攻略という言葉が聞こえた。何かを倒す冒険者みたいな存在なのだろうか。
「攻略ってのは、どういう事です?」
「説明が、面倒ですので、自身のスマホで確認した方が良いかと。」
状況は理解できていないが、ポケットの中に入れたままだったスマホを取り出し、電源を起動する。
すると、インストールした憶えのないアプリが一つインストールされていた。
RPGのように、自分のステータス等が表示されている。
「Level17961000⁉︎」
「ほう。そんなに人を騙して来たのですか。この世界で嘘が発覚すると、一度だけ相手の言いなりになるというリスクが在るのに。」
おかしな世界に転生したようだ。
騙すとLevelが上がるのは、僕向きと言えば僕向きなのだが、余りにもリスクがでかい。
にしても、僕のLevelが高すぎる。
「分かりました。何から何までありがとうございました。」
「村へと入って行くと、道中にダンジョンがあると思いますので。頑張って下さい。」
理解はしていないものの、とりあえず、この圧倒的なLevelがあればなんとかやって行けるだろう。
アプリを起動し、スキル&必殺技という所を開いてみた。
大量のスキル&必殺技の数々、その横には必要なLevelが書いてあった。
とりあえず【ステータス上昇】と書かれたものを取得することにした。
50Levelが消費されます。よろしいですか。
というような確認文が浮き出し、僕はYesを押した。
そのようなことを何度も繰り返し、Levelこそ千ほどにまで減ってしまったものの、ステータスや、必殺技などは、必要そうなものは全て取得した。その際、1番下に赤い欄で囲まれているLevelリセットを発見し、寝ぼけていても押さないように気をつけようと、育成ゲーム等で、寝ぼけたままの僕が支払った犠牲達に誓った。
ふと、自分の外見がどうなっているのかが気になり、スマホのカメラ機能による鏡を起動した。
相変わらず、不細工ではないが、超絶美形と言うほどでもない、普通の顔立ちに少し落胆してしまった。
まぁ、予想していた事だと自分を騙し、ダンジョンへと歩みを始めようとすると、LevelUPのよく聞く音楽が聞こえた。自分を騙すことでも出来るようだ。
ダンジョンに向かう足取りはかなり軽く、ステータス上昇がかなり生きている。
予想より遥かに早く辿り着いたダンジョンへと突入し、周りを見渡すと、三人の女子パーティがミノタウロスに襲われていた。
上げまくったステータスにものを言わして颯爽とミノタウロスを先程習得した風魔法の必殺技で切り刻む。
魔法が使えるのは思った以上に快感だった。
怯える女の子を救えた事が更に優越感を助長する。
「すいません。ありがとうございました。私はルナ=アーデリアと言います。」
「ふんっ、助けてくれなくても大丈夫だったんだからね‼︎まぁ、でもありがと‼︎
私の事はイリアって呼びなさい‼︎」」
「ありがとうございました。優衣です。」
三人から一応感謝され、舞い上がった僕は、
「いえいえ、当然の事をしたまでですから。」
そう口走った。内心で、男なら助けて無いのだろうなと思いながら。
「嘘ですね。女だから助けてくれたんでしょ?」
無表情の優衣に嘘を指摘される。
途端、先程老人に聞かされた嘘が発覚した時のリスクが頭によぎる。
「え…」
早くもボロが出た。
「じゃ、一度だけ言いなりになってもらおうか」
イリア本人が指摘したわけでも無いのに、攻勢に出て来た。
「私たちとこれからパーティーを組む事を命令するわ!」
すぐに行動に移す事ではない筈なのだが、パーティーを組む事になったのが分かった。
聞いていただけで、嘘を指摘したわけでもない者でも言いなりにする権利が発生することも分かった。自分自身で検証したくは無かったが、こんな娘たちとパーティーを組めるなら悪くはない。
「えっと…え、じゃあ、助けてもらったのに、本当に申し訳ないですけど、私はLevelのリセットを要求したいですっ…」
顔を赤く染めもじもじと、して居たため、告白でもしてくれないかなーとも思っていた最中に、衝撃の一言が、僕に容赦無く突き刺さった。先程、Levelを大量に使用し、スキル等を取得しておいたとは言え、Levelがこの世界において重要なパーツで在ることは間違いない。
当の彼女と言えば、本当にごめんなさい。と、僕が放心状態となってからずっと連呼している。
「まじなの?」
長考の末、絞り出す事が出来たのはその一言だった。
「まじです…だって…貴方だけLevelが高いと、任せっきりで迷惑かけちゃうからっ…」
彼女なりに考えた理由をきちんと説明してくれた。
「そーだな。スキルはもうある程度取得してるから、一応大丈夫だよ。だから、そんなに謝らないて大丈夫だよ。」
その説明で、納得は出来た。ショックは抜けきった訳では無いが、今作れる精一杯の笑みで彼女を慰めてやる事にした。
「ありがとうございますっ‼︎パーティー組んでくれるのもとても嬉しいですっ‼︎」
そう言ってくれた。喜んでくれている姿はとても可愛らしく、こんな娘と一緒に居られるならLevelなんてどうでもいいと思えた。
Levelのリセットについては一通りの話を終えたため、三人の視線は自然と今まで沈黙を貫き続けていた物静かな娘に向けられる。
「じゃあ、私達三人以外に嘘をつくのは禁止。」
よく理解できなかった。私達にだけは嘘をついていいよ。という、意味に取れば良いのか、それとも別の意図が在るのか、その答えを、彼女の表情から読み取るのは、僕には出来なかった。
「じゃあ、帰りましょう。」
一方的に会話を打ち切られる。
そして、女子3人が立ち上がって、永月村へと歩き始めた。
僕は、その場に立ち尽くしていた。これからパーティーを、という言葉をポジティブに受け取って、このまま、ついて行っていいものかを決めあぐねていた。
「何してるんです?行きますよーっ。」
「早くしないと置いてくぞー?」
3人して、振り返って僕を待っていてくれているのはとても嬉しく、これからの転生生活に希望がもてる。
ステータスに物を言わせた敏捷力で、大急ぎで、3人に追いつく。
「ごめん。待たせたね。」
「そんなに待ってないし。ところで、レベル今の所どんくらいなの?かなり強そうだったけど。」
「えーと。残ってるのは千くらいかなー。」
「「1000⁉︎」」
3人とも、驚きを隠せずにいた。
「1000Level=嘘を1000回って事だぞ?」
「天下の大嘘つきですね。」
「最後の条件で正解。これで治安は護られる。」
「まぁ、どうせリセットするんだから。」
ま、確かに、とてもリスクが高いため、そうそうつく機会のある物ではないだろう。そう考えると、1000という数字は膨大な物に思える。実際は、1796100という、途方もない値だったのだが。
世間話を交えつつ、歩いていると、村の端の方に位置するのであろう一軒の家で、歩みを止めた。
「着いたー‼︎」
「どうぞお入り下さい。」
「ただいまー。」
「ようこそ。私達のプレイヤーハウスへ。」
優衣の抑揚のない声の歓迎を受け、恐る恐る扉をくぐる。
内装は、綺麗に整えられ、全体的に明るい雰囲気で、何と言うか、いい意味で女の子っぽい感じにまとめられている。
「えっと、お邪魔します。」
「いらっしゃいませ。ご主…」
メイド喫茶のような対応を受けたような気がし、嬉しいような、驚いたようなで、反応出来ないでいる。
「……」
途端、ルナの顔が、真っ赤に染まり、
「えっと、これはそのっ‼︎癖というかなんというかっで‼︎」
テンパって、本人でも何を言っているのかよく分かって無いように見える。
「えっ、あ、あの、この家って、とても広いけど、高かったんじゃない?」
話を変える為に、咄嗟に振った話が、お金の話と言うのは、後々反省しなければなら無いような気がするが、振ってしまったものはどうしようもない。
「えっと、この家は、私達3人が、それぞれの得意な事で、働いて稼いだお金で買いました。」
「へー。何やってたの?」
「イリアは、ダンスで、優衣は料理で、あっ、あの子の料理ってとても美味しいんですよっ‼︎分量とかも正確で、とにかく美味しいんですっ‼︎」
「いつか食べたいなぁー。」
「はい、是非っ‼︎」
2人が、各々の性格を活かした方法で、稼いで居たことが分かった。
イリアは活発で、ダンスしている光景がすぐに目に浮かぶ。
優衣も、何でもそつなくこなしそうで、プロのシェフ負けず劣らずの物を作ってくれそうだ。その対象が僕になるかが問題だけど。
「じゃあ、ルナはどうやって稼いでいたの?」
「え、いや、料理を運んだり、お皿洗ってたりしてましたよ。」
嘘は言って無いだろう。この世界で、何年も生きているだけはある。しかし、先程の口振りを見る限り、それだけには思えない。
「本当にそれだけ?」
必死に隠そうとしている姿に嗜虐心をくすぐられ、更に追求する。
「め、メイド喫茶で、バイトしてましたっ。これで満足ですかっ‼︎」
言いなりのリスクを避け、真実を自白した。ルナは僕の笑みを見て、
「分かってましたよね?」
そう、問い掛けた。
「いや、分かってなかった。」
違和感無いような表情を貫き、この世界で二つ目の、嘘をついた。
「まぁ、いいですけどっ。」
ルナの言葉に少し笑って、ステータス欄を開き、押さないと決めていた赤いボタンを押す。
そうして、僕のLevelは1になった。




