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日本冒険社  作者: TSUJIMO
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EPISODE 36

掃討は徹底したものだった。大隊が投入されて冒険者もかなりの人数が協力した。1〜16Fはダンジョンホテルとセブンイレブンを拠点として、17〜23Fはダンジョン銀座を拠点として。ゴブリンやオークの死体は人力で地上に運び出されて国営公園内に埋められた。防衛庁長官の撤収命令が出たのは1ヶ月も後だった。


死者はホテル勤務の3〜4期生が2名。重軽傷者は多数。自衛隊員の負傷者も数名。彼らには国家公務員災害補償法による補償、あるいはそれに準じる補償が行われる。


この事件は世間ではゴブリン災害、内々ではゴブリン反乱と呼ばれている。



ゴブリンが使っていた未確認通路、通称ゴブリンの道はまるで解明されていない。冒険測量社では超音波を用いた最新機器による壁の向こうの非破壊調査が計画されている。


15F地底湖の亀裂は藤田さんが仕事抜きで調査して発見した。人が誰も行かないところの岩陰にそれはあった。ただし人間が出入りすることは難しい。それと21F奥の滝。滝の上がどうなっているかは誰も知らない。ここも冒険者が調査をすることになっている。金鉱石や宝石に宝箱。謎の骨と秘密の通路。ここは今でも謎だらけのダンジョンだ。



ドラゴンについてもわかったことがある。動物学者たちがやってきて、探査ロボットO4がさまざまな餌をドラゴンの前に並べる嗜好性試験を行った結果、ドラゴンは単食性の動物と判明した。コアラのユーカリ、パンダの笹。そしてドラゴンはネズミ。ゴブリンの遺伝子は齧歯類に近い。だからそればかり食べていた。


どうしてあんな部屋にドラゴンがいたのだろう。それについても仮説はある。いつかどこからか小さなドラゴンがあの部屋に入り込んだ。そして中で成長して階段から出られなくなった。



そして問題の25Fはロボット探査が行われ、次に冒険者たちも降りてみた。探査チームに参加した星野が見たものは、子供や傷病者の多いゴブリンの村だった。それらはでこぼこした岩の隙間を住処として、虫や魚、壁の苔や地衣類を食物にしていた。人間の菓子や保存食のかけらも見られた。攻撃はなく敵意も見られないのでチームは撮影をして引き上げた。


これはあくまでも推測まじりの噂話に過ぎないのだが、あの天地という行方不明になった人物が、この村で何かをして反乱のきっかけを作ったのだ。戦えるものはみな戦って死んだ。残っていたのは非戦闘員ばかり。


オークについてもその子供の個体が村にいた。観察の結果、オークはゴブリンと共生関係あるいは主従関係にあると思われた。オークはゴブリンの飼育動物なのだ。



これらのことがあきらかになると動物愛護団体が集結して大規模に運動をするようになった。ゴブリンは賢い動物。オークを虐待するな。


世論が政治を動かすことはよくあること。特定危険領域は23Fまでとされた。24〜25Fは環境省自然環境局が管理する国立公園・自然保護区になった。多摩動物公園の飼育個体をのぞき、今後の捕獲個体は25Fに戻されて観察対象になる。環境省ではドラゴンの愛称をハガキで募集している。


冒険者が許可なくここに入ることはできない建前になっている。実際には冒険者しか入れない領域なので、用事があれば依頼と許可がセットで出る。胡乱な話だ。



ゴブリン災害を収束させた自衛隊への世論の支持が高まったことから、防衛庁を内閣府の外局から省に昇格させるという発足以来の悲願も俎上に乗せられた。こちらはまだ議論が続いていて結論は見えていない。星野を含めた関係者らは、もはや時間の問題と考えている。



一方で国土交通省特定危険領域局が分離して独立性の高い特定危険領域庁に改変され、これと同時に冒険社法も改正された。法律に基づく法人の名称が日本冒険社から冒険公社に変更。主務大臣が国土交通大臣から特定危険領域庁長官に変更。予算と決算の承認は国会で行われる。子会社株式を段階的に売却する義務の明記。一見すると小さな変更だ。国交省の直接影響下から外れて民主的になったようにも見える。だが何をするにも国会対策が必要になった。国会承認が重荷になる。


政府の強い統制を受けていることで、これでは以前のほうがかえって政治的に中立的だったとも批判されている。批判しているのは野党だ。彼らがこうしろと主張したからこうなったのではなかったか。政治は本当に難しい。


冒険3法の改正案は一括法案で、2003年秋成立、2004年春施行。



冒険公社奥多摩支部支部長室。



「どうもお世話になりました。満足したので引退します」

「さびしくなります」


海保を定年退職してから冒険者になった小林さんは、やることをやったと引退を決めた。まだやれることがあるだろうと言うのは身勝手だ。そう思うので星野は何も言わない。


「H&K USP はお預けしたままで大丈夫なのですか」

「冒険者免許に期限はありません。ずっと預かっておきます。小林さんもいつでも入域してかまいません」


反乱が鎮圧されてからもゴブリンが出没することはまれにあるから、身を守る備えは必要だ。しかし実態として銃はあまり使われていない。生きたまま捕獲すると冒険公社の褒賞に加えて、環境省からも多額の賞金をもらえることになったから。最近の人気は刺股とネットランチャーとスタンガンだ。


世の中は変わる。人も変わる。小林さんは変わりたくないから去るのだろう。そういえば、あの人も変わった。生還後のアルバムリリースを勝手に決められたことを知って激怒したあと、小林さんのように挨拶をすることもなく自然に消えた。戦う冒険者アイドルの消失で世間は大騒ぎになった。噂では彼女はどこかの大学に入り直したらしい。方向は違っても向上心は好ましい性向だと思う。いつかまた会うことがあれば何を勉強したのか話してみたい。もしダンジョンで会ったなら歓迎したい。



星野哲夫は変わったというか変わっていないというか。階級は3等陸佐になった。階級を維持したまま冒険公社に出向せよと正式に辞令が出て、現在の肩書きは冒険公社奥多摩支部長。30過ぎで佐官は普通に考えたら早すぎる。これは支部長という普通でない役職に見合う階級章を用意してくれたのだと考えている。上司の辻も2佐に昇進して星野の頭の上に座ったままだ。


冒険公社はなぜだか世間で冒険者ギルドと呼ばれている。星野自身も雑誌の取材を受けたら、見出しにダンジョンマスターと書かれていておおいに困惑した。ただの役人にファンタジー要素などないというのに。


「伊藤さん、今日は予定があるので早退します。ダンジョーのごはんをよろしく」



星野にとっては毎日、普通に帰れるようになったことが大きかった。家庭の時間を義務のためにないがしろにしてきた自覚はある。面倒な離乳食と幼児食の時期は家事の多くを妻にまかせてしまった。これからは大事にしていきたいと星野は思う。


今日は大地の5歳の誕生日。身重の妻とともにダンジョンホテルのレストランに招待した。豪華冒険料理を予約済みだ。


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