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日本冒険社  作者: TSUJIMO
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EPISODE 34

木製のバリケードは行動を阻害しないよう完全に撤去されている。星野は G-SHOCK DW-5600C で時間を確認した。彼の武装は89式5.56mm小銃とマガジン6本。単発で使うがいざとなれば連射も躊躇しない。


「5分過ぎてます。もう行きましょう」


星野に続いて走り出すのは小林さん。20Fには因縁があると志願した。彼は愛用の H&K USP を使用する。


「ここには道路か鉄道が欲しいですね。鉱山の雰囲気に合わせてナローゲージなんかどうでしょう」

「今日のところはマラソンでお願いします」


続けてトンネルに入るのは神谷さん。この状況でも彼の武器はジュラルミン棒だ。


「日本刀でも良かったんだが、こればっかり使ってたら慣れてしまった。これは星野さんが考えたんだろう」

「考えるまでもない、ただの棒じゃないですか」


最後は陸自から水野1等陸曹。撤退時の部隊との連絡は銀座のインターネットと彼の無線機のどちらでもかまわない。直線のトンネルでなら無線も支障はない。彼は命令を受けて作戦に参加しており、もちろん小銃を持っている。


「なんだか懐かしいな」


星野の言葉が水野1曹には不思議だった。


「私が遭難したときに21Fまで助けに来てくれたのが星野さんなんです。そのあとの探索でゴブリンを倒したのが神谷さん」

「そうだったんですか」

「義務ですよ。今も同じです。やれる人がやらないのは怠慢です」


彼らは1時間後にもうひとつの扉に到達した。



「ちょっと待っててください」


星野は冒険手帳を取り出して暗証番号を探し出した。順番にページをめくりそれを見つけた。


「えーと。49*****000255」

「なんでこんなに長い番号なんでしょう」

「JANコード用のソフトウェアを流用して鍵にしたそうです。スキャナーを接続したら使えますよ」


コードを入力して解錠ボタンを押すと、ガチャリと小さな音が聞こえた。



真田さんのすぐ横に転がっていた大野さんがぱちりと目を開けてレミントンを手にした。


「峰さん、そろそろ交代しましょうか」

「まだ時間じゃないでしょう。それにもう地上は動き出してる。このまま起きてる」


両手にグロック19を持った峰さんが横目で大野さんを見る。大野さんのほうこそ休んでおかないと動けなくなっちゃう。


「私ももう起きます」


彼女は銃を持ったままパンの缶詰を選んでいた。チョコチップ入りはもう残ってないよ。


「大野ちゃんってどうして冒険者になったの」

「就職氷河期なので手に職を付けようと。私の場合はとくに就職の難しい学部にいたので」

「そうなんだ。どんな学部なの」

「文学部哲学科です。ホッブズとロックを読んでいました」


それは就職がなさそうだ。


「どうぞ」


パンを食べ始めた彼女に川崎さんが水を渡した。この人もひどい目にあっている。吉村さんと川崎さんはふたりでひとり、という漫画家みたいな関係だそうだ。今はそのパートナーと別れて黙々とパソコンに向かっている。こんなときでもプログラミング。彼は何を考えているのだろうか。


「恵ちゃん、支部からメールが来てるよ。良い知らせと悪い知らせ」


峰さんの PowerBook G4 を勝手に使っていた清水さんが雑談のように報告した。


「どっちからでもいいよ。どうしたの」

「まもなく救出作戦開始。それと階段封鎖が決壊寸前」



通用口を通るとトイレの裏に出る。右手には上下水道のメーターがある。


「ここにはいない。一気に18Fに降りよう。水野さんは最後にドアを閉めて」


星野は水野を階級で呼ぶのをやめた。外部との連絡が閉ざされた今は一時的な冒険者として扱う。



左の曲がり角にミニマグライトを当てながらまっすぐ大通りを駆け抜ける。冒険ライトは健在で彼らを地下へと誘う。


「階段にゴブリンが2匹。私と水野さんで排除する」


左右をそれぞれ単発で撃ち倒し下の階へ。降りたところにいたオークが足音を聞いて振り向いた。


「棒で押さえて。水野さんは3バースト射撃」


神谷さんがジュラルミン棒で腹を鋭く突き、よろめいたオークの胸を狙い水野さんが連射する。


「小林さん、後ろのゴブリンに注意」


斜め後ろで光から隠れるように小さくなっていたゴブリンを神谷さんが見つけて注意すると、小林さんは即座に H&K USP で処理した。



「私と水野さんで前方の十字路を確認します。小林さんは20Fに連絡、神谷さんは警戒」

「了解。星野さん、今日は指揮官みたいだな」


小林さんが携帯受話器からコードを引き出して冒険ライトのジャックに接続する。


「もしもし。こちら救助隊です」

「20F真田です。急いでください。ゴブリンが増えてます」



ゴブリンたちは階段を目指して行進する。だけどたまに横道に入ってみようとするものがいる。その先に20F基地がある。


「また来た。大野ちゃんお願い」


群はまとめてショットガンで吹き飛ばす。救助が始まった以上、弾の節約はもう考えない。峰さんは襲ってくるわけでもなく、のんびりと歩いてきたゴブリンを撃ち殺すとマガジンを交換した。


「お願いします」


もうしっかり狙わなくていい。銃弾の節約も考えなくていい。敵のいる方向にたくさん撃つのが有効。そんな条件でのみ二丁拳銃に意味がある。実際にそうなるまでは考えたこともなかった。


「なんだか増えてきたけど救助はまだなの」

「もうすぐ来るでしょう。ゴブリンと間違えて撃たないでね」



ベータカムは空になった備蓄箱に入れて部屋の奥に置いておく。


「川崎さんもそろそろパソコンを片付けたらどうですか」

「これはまだ使う」


持っていくものと置いていくものを分別する。服は着込んで靴紐も固く結ぶ。ゴブリンの対処をしながら出立の準備をする。水も食料ももういらない。荷物は手の届くところへ。



「また来た」


ここにこんなに来るということは、もしかして通路はゴブリンでいっぱいなのかもしれない。


「峰さん、オークです。こんなときに」


ゴブリンの後ろの暗闇にあの怪物が立っていた。


「まったくだよ。あれが本気になったらこんな扉は役に立たない」

「撃ちますか」

「近くに来ないと無駄。でも撃ちたかったら撃ってもいいよ」


大野さんが散弾を発射するとオークは両腕で胸をガードした。真下にいたゴブリンに当たったらしく逃げ出していく。


「峰さん、大野さん。O3を動かします」

「あれ歩けないんじゃないの」

「上半身は動きます」


川崎さんは ThinkPad 770 の操作画面にコマンドを入力した。


> KILL


そしてEnterキーを軽く押し下げた。探査ロボットがすばやく立ち上がる。しかし歩くことはできない。



「攻撃しないのはなぜ」

「手の届くところに敵がいないからです」


オークはO3を気にしていない。アクリル製の窓の中をうかがいゆっくりと近付いてくる。そしてO3の間合いに踏み込んだ瞬間。


ドンッドンッドンッ


O3がオークを思い切り殴った。連続して殴り続ける。


「近くにいるものはなんでも殴り飛ばす機能です。私でもやられる。さすがに殺すことはできないので銃で仕留めてください。今なら急所に3連発できるでしょう」


オークがロボットに反撃して頭を揺らす。オートバランサーが倒れかけたロボットを無理に立て直した。


「早くしてください。何度も攻撃を受けたら壊れます」


大野さんはO3を攻撃しようとしているオークの脇腹に散弾を集中させた。オークはその場に倒れて動かなくなった。


「O3の自動防御は攻撃から身を守る機能でした。接近を攻撃とみなすよう定義を変更して、ガード動作を外しました。そうすると近くに何かが来たら振り払うようになります。最後にパワーリミッターを停止しました。ぶん殴ってるように見えたでしょう」


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