EPISODE 23
24FにO3を降ろすとドラゴンは部屋の奥にいた。
「移動している」
どうやら今日は向こうの壁のほうを向いている。
「このまま部屋を調べましょう。ドラゴンがO3に気付いたときにどうなるかです」
ロボットは壁に沿って南に進む。活動時間がどれだけになるか不明だから今日は給電モードで稼働している。東側の壁までは届かないが近くまでは行ける。
「この部屋に照明を設置したらどうでしょう。明るければ接近時に逃げやすいです」
「どうかなあ。あいつが空を飛べたら逃げられないぞ」
羽のないドラゴンが飛べるはずはない。単調な風景が続くのでつい余計なことが頭に浮かぶ。
「吉村さん、壁に沿って歩くのはどういうコマンドなんだ」
「GOです。簡単でしょう」
「簡単すぎる。どうやったらGOとかDOWNで適切に行動できるんですか」
「伊庭さん、半日かけて説明を聞きたいですか。これは最先端のロボット技術なのです」
ドラゴンがすこしずつ視界に入ってくる。漆黒のトカゲ、短い角、閉じた口から牙が何本もはみ出している。
「反応しないはずだ。寝てたんだ」
「ファンタジーのドラゴンとちょっと違います。鱗が動物っぽくない。多角形が繋がっててサッカーボールみたいだ」
ここでO3を停止する。写真撮影を始める。
「高解像度モードってないの」
「静止画像ならUXGAで撮れます。切り替えます」
「時間はいくらかかってもかまわない。たくさん撮ってくれ」
> RECALL
ロボットは逆回しのように元の道を戻る。探査を開始した場所に戻るのだ。
「事務所の猫みたいによく寝るドラゴンだ。捕獲できそうな気がしてきた」
東に向き直って停止。異常がないかオートチェック。
「何も解決してないけど順調だ。小林さん、すこし代わってもらえますか。水分を補給してきます」
「了解です」
昨日の見学メンバーは全員がそろっていた。
「毎日やるなら交代制にしたらどうでしょう。私も明日は来れません」
「見学者は来なくても大丈夫じゃないの。ここにいて報酬がもらえるのは伊庭さんと小林さんだけだよ」
そうだな。峰さんと佐々木さんの言うとおりだ。星野もすっかり巻き込まれて困っていた。
「伊庭さんが戻ったら相談しよう。それよりそろそろ行けそうだ。どうですか」
「今は小林さんがリーダーでいいんですね。行けますよ」
「探査再開」
「探査再開します」
吉村さんがNと入力してEnterを押した。向きが変わったら次はGOと命令してロボットが歩き出した。
壁を左手に単調な風景が続く。ドラゴンは離れている。
「昨日はこのあたりで捕食されたんでしたね」
「ああ、思い出しちまった」
「神谷さんはああいうの苦手じゃないでしょ」
「小林さんは俺のことをなんだと思ってるの。ゴブリンでも無抵抗で死んだら無念だろうよ」
微妙な空気になったところに伊庭さんが戻ってきた。指揮をそのまま小林さんにまかせて画面を見ている。
「やっぱりゴブリンがいたな」
投光機を避けるように走る小さな影が目の前にいた。
「どこかに出入口があるはずだ。壁に注意」
「ありました。左の壁にホール。ゴブリンを無視して接近します」
階段から穴までは直線で25m程度だ。近くで停止するとカメラを寄せて確認する。
「下り階段です。25Fに行けます」
「やっぱり。これで目的のひとつが達成できた」
「しかし入口の高さが低いです。O3の身長は160cmですので階段にかがんで侵入しなければなりません」
周辺を走りまわっていたゴブリンが見えなくなったことに誰も気が付いていなかった。
「この部屋の探査を続行。前を向いてください」
「待ってください。超音波センサーに反応あります。ドラゴンが真横にいます」
「どっちですか。カメラを向けてください」
O3が振り返るとドラゴンがゴブリンを咀嚼していた。そして右脚の下にも動かなくなったゴブリンが見えた。
「やっぱり食うんだ」
「撮影を続けて。動画で」
悠々と食事を終えたドラゴンはその場にしゃがみこんだ姿勢で動かなくなった。O3はやはり襲われない。
# 第24F探査結果に関するお知らせ
## 1. 階層について
- **測距**:ダンジョン探査用二足歩行ロボット3号(O3と呼称)の超音波センサーにより測距した。
- **結果**:第24Fは直径が**80m**の円形に近い形の大部屋である。
- **階段**:入室地点より北方向**25m**に下り階段を発見した。入口の高さは**140cm**であり、O3の侵入は困難である。
## 2. ドラゴンについて
- **形態**:全長**8m以上**の直立二足歩行動物。直立時の体高は**3.5m**程度。姿勢および股関節の状態は恐竜に酷似。細部に差異あり。
- **生態**:長時間、同じところにとどまる。またゴブリンを捕食する様子を観察した。
- **特徴**:感熱センサーによる表面温度測定結果は室温と変わらない。熱探知による位置の測定は成功しなかった。
- **呼称**:正式に分類されるまでは公式に「ドラゴン」と呼称する。
## 3. O3について
- **接近**:O3は、ドラゴンの捕食行動を至近距離で観察した。この際、ドラゴンはO3を攻撃しなかった。原因は不明。
## 4. 特別報酬について
- **報酬**:本部指揮報酬として担当者2名にそれぞれ**20ポイント**を付与する。ドラゴンと階段の発見の功績により**10ポイント**を追加で付与する。
- **異議**:異議の申し立ては、今週中に所定の書面で行うこと。
## 5. 探査の継続について
- **計画**:O3のメンテナンス後に、第24F探査およびドラゴンの観察を再開する。
## 6. 第25F攻略について
- **計画**:未定
- **機材**:低身長探査ロボットO4の開発を検討中
## 7. 情報公開について
社会情勢、特に国会における最近の議論をかんがみて、今回の探査の結果はすみやかに公表する。
冒険者がメディアの取材に応じることは自由であるが、当社に関して、誤解を生まぬよう留意されたい。
吉野大臣や官房長官のコメントはほとんど冒険社の公式発表と方針をなぞるものだった。国民の安全確保を最優先としロボットによる慎重な観察を通じて事実関係の把握に努めたい。それしか言いようがない。野党も今までの追求と同じことを繰り返している。観光に現を抜かしてきた政府の安全確認がなってない。この人たちもそれしか言いようがないのだ。
テレビニュースで紹介される映像はNHKも民放もそれほどショッキングでないものを選んでいた。顔のアップや食事の動画は放映されなかった。新聞も似たり寄ったりだった。外信ではOkutamaなんて地名は知らないので near Tokyo と書いていた。あそこはいちおう東京都なんだけど。
ダンジョン前の動物愛護団体はドラゴン派とゴブリン派が対立して内紛が起きたところにアイドル派が外から乱入して騒がしいことこの上ない。国営公園のすぐ隣の土地には奥多摩龍神社が建立された。ご神体はダンジョンそのもの。ここではドラゴンお守りやドラゴン絵馬を授与してもらえる。ドラゴンを擬人化した映画やアニメやゲームも出るのでタイアップ予定。
ドラゴンと言えば宝石とばかりに宝石業界も反応した。おとぎ話と現実をいっしょにするなと思うが、ダンジョンには実際にダイヤモンドやルビーや金塊が転がっている。鉱業社が売り払ったものにはプレミアムが付いた。株価は乱高下してロボット株や鉱業株が軒並みストップ高になる一方、観光株はお通夜状態。詐欺師が国有地や国有財産を売ろうとして捕まった。
冒険社が馬鹿正直にすべてをぶちまけてしまったおかげで地上はにぎやかだ。そして世間の目は25Fに注がれはじめた。あの階段の下には何があるのか。宝石か未知の危険なのか。冒険社は何も知らないので沈黙した。




