EPISODE 22
途中休憩をした15Fで伊庭さんはThinkPadから取り出した画像を何枚かメールで送信していた。そしてダンジョンゲートで待っていた伊藤さんにすぐプレハブの奥の支部長室に案内された。途中の机の上で寝ていたダンジョーを峰さんが通り過ぎながらなでていた。
プロジェクターに映し出された顔はふたつ。左には真野副会長、右に技術チームの小野寺主任。カメラの前に雁首を揃えているのは奥田、伊庭、小林、神谷、佐々木、峰、向井、鷲巣、吉村、川崎、星野。
「会ったことのない人もいるようだから挨拶をしておきます。副会長の真野です。奥多摩特定危険領域安全対策委員会という組織の会長をしております。この委員会が探索計画への承認を行なっているのですが、今日は私しかいないので出てまいりました。そちらが技術や調査担当の小野寺くんです」
小野寺さんがぺこりと頭を下げた。彼は冒険ライトの開発者のひとりだ。
「まず名前がないと困るのであの動物のことはドラゴンと呼びましょう。あとで変わるかも知れないけれどいいですよね。それで単刀直入に聞きますが捕獲は可能ですか」
奥田支部長が困惑顔で問い返す。
「捕獲とおっしゃいましたか」
「うん。できるかできないかだけ答えてください」
「できないと思います」
「なら討伐は」
「それもできないと思います」
副会長は軽くうなずきながら全員を見渡すように顔を振った。
「意見のあるものは自由に述べてください」
伊庭さんがすぐに挙手した。
「今日の責任者の伊庭です。我々の見ているときドラゴンは小型のゴブリンを捕食したように見えました。捕獲または殺害の手段があるとして、それを実行するために接近するのは危険であると考えます」
「ではどうしますか」
「24Fを封鎖して他の階の活用に専念するのが良いと考えます」
次に発言したのは神谷さんだった。
「俺も無理だと思う。ただ遠くから観察するのはできそうに思える。階段から双眼鏡で見たらいいんだ。見ていたら何かわかるかも知れない」
「一理あると思います」
峰さんは手を上げずに話し出した。
「はいっ。私も観察に賛成です。あのドラゴンは何か変です。ゴブリンは食べたのにロボットは食べませんでした」
「食べられないからじゃないですか」
「それは、そうかも知れません。わかりません」
真野副会長は星野を見る。カメラとプロジェクターの組み合わせなのに特定の相手を見ることができるのだろうか。そんなことが気になった。
「あなたはどう思いますか。星野1等陸尉」
星野は起立する。階級で呼ばれたなら立つべきだから。
「相手が生物であるならば殺す手段はあります。強力な火器や爆薬を用いれば必ず殺せます。しかしながらダンジョン内での爆発物の使用は国土交通省の省令に反します。仮に実行したならば、崩落やダンジョン火災の危険はきわめて大きいものと考えます。よって冒険者に許される装備での殺害は確実とは言えません」
「たしかにそれは最後の手段だ。ありがとう」
星野が着席すると最後に吉村さんが手を上げた。
「吉村と申します。探査ロボットの開発担当者です。ひとつ提案があります」
「どうぞ」
吉村さんも星野にならって起立した。
「ロボットが襲われなかったのは事実です。原因はわかりませんが、次も襲われない可能性があります。つまり私の提案はロボットによる探査の継続です」
奥田支部長がその場で計画を作成して副会長の承認を受けた。明日も今日と同じようにO3が出動する。
伊庭さんはドラゴン目撃者たちを奥多摩駅前の大きなスタバに誘った。早く帰りたがる星野もすこしだけと同行させられた。甘いコーヒー牛乳は人の口を滑らかにする。
「思うんですけど、21Fの骨って鳥じゃなくてドラゴンだったんじゃないですか」
抹茶クリームフラペチーノをこくこくと飲みながらそう言ったのは峰さん。
「たしか鳥類または爬虫類って。でもあれはそんなに大きくなかった」
「小さいのが上の階にいたんですよ」
「それをゴブリンが殺した。ありえると思うよ」
向井さんはあっさり同意した。
「そうしたら 24Fのドラゴンだけじゃねえのかもな。もっと下の階にもいそうだ」
「そりゃいるでしょう。だってあの子だけじゃ繁殖できませんよ」
カプチーノを飲みながら星野は思う。動物にも配偶者や子がある。こっちだって殺したくて殺すわけじゃない。共存できないだけだ。
「吉村さん、あいつがサーモグラフィーでわからなかったのはなんででしょう」
「表面温度が環境温度と同じだから。体温がないとは言いませんよ」
「伊庭さん、変温動物にも体温はあるんです。極端に動かない生き物であるか、断熱服を着てるのだと思います」
川崎さんは宇宙服を着たドラゴンを想像して自分で言ったことがおかしくなった。
「あいつは投光機の光が当たっても反応しませんでしたね。暗闇の生物がみんな光が苦手ではないのでしょうか」
「苦手だから食べなかったのかもな」
鷲巣さんは静かに話を聞いていた。
「ふう、ラテが苦いな」
「そんなわけないでしょう」
明日どうなるかは、やってみなければわからない。




