EPISODE 19
金貨の部屋の拠点化に尽力したのは橋下さんだった。人手をやりくりしながら電力を確保した。壁を補強して頑丈な扉を造り付けた。少量ながら水と保存食とを備蓄した。攻撃力を欲して射撃練習をするつもりだったけれど、そのために2Fの練習場に上がることは難しかった。だからここでも練習できそうな武器としてヌンチャクを選んでみた。SONY PCG-QR3/BP を持ち込んで、燃えよドラゴンを何度も観た。
その橋下さんを冒険社は次の探索の責任者として指名した。探査ロボットO3は光ケーブルを接続したまま充電しようとして不調になった。20Fでの緊急メンテナンスが終わり次第で合流する。絶対に無理をするなとの指示だ。
「冒険ライトはまだ数が揃ってません。無駄にするくらいなら戻るという判断でお願いします」
Aチームの向井さんが階段の下までAC100VとDC24Vの2本のケーブルを引いていく。階段の下には20Wの蛍光灯を2本設置して点けっぱなしにすることにした。階段が長いようなら階段にも設置する。
それが終わったら通信機能付きのLEDライトを等間隔で設置して進行する。23Fが初投入の新型だ。22Fより上も順次置き換える計画だが生産がぜんぜん進んでいなかった。
冒険ライトは正式化するに当たって改良が施された。市販のプラケースに穴を開けたものではなく鉄板プレス加工で専用ケースを作った。照明の部分だけプラ板がはまっている。接続端子もオーディオ用部品の流用でなく産業用のネジ固定コネクタに変更された。中継器には電流を自動的に加減する機能があり延長時の不安定さを軽減する。また通話用の受話器にノイズ除去の簡単な回路が組み込まれた。
つまり今回は21Fと同じ手順だ。ただし念には念を入れて各チームにショットガンとカメラを必ず入れるように編成した。
「Aチーム向井です。階段下の照明は設置完了しました。通路は東に続いています」
「本部です。分岐点があるまでゆっくり進行」
「了解」
橋下さんは息をついてポットのスイッチをONにした。
「こんなところで烏龍茶を淹れるのは橋下さんくらいですよ。基地のポットはラーメン用でしょう」
「コーヒーを飲んでる人は何人もいるよ」
誰がいたっけ。島野さん、武道さん、藤田さん。
「そんなにいませんよ」
「トイレもないのにカフェインは摂りたくないですか。いらいらして命を落とすくらいなら紙パンツを余分に買ったほうがいいですね」
急須に茶葉を入れて沸騰したお湯を注ぐ。ダンジョン流では洗茶や湯通しはなしだ。
「そういえば17Fにトイレができるんですよね」
「相馬さんは欲しがってましたね」
「誰だってそうでしょう。台所は作らないんでしょうか。上下水道と電気があるなら電磁調理器も置いたらいいんですよ」
「そんなものを置いたら南側通路に住みつく人が出ますよ」
橋下さんは急須から紙コップに一滴も無駄にすることなくお茶を注いだ。
「Aチーム向井です。予定個数の設置が終わりましたので戻ります。すぐ先が十字路になっているようです」
「本部です。戻ってから詳細を聞きます」
「了解です」
通路には部屋も危険な穴も見当たらない。3チームを投入して進行すれば良さそうだ。
「そうすれば後ろを気にしなくてすむので安全で効率的です」
「予備がいなくなる。いざとなったら21Fから岡本さんと石原さんを増援に呼ぼう」
「連絡しとく」
冒険ライトは各チームに1セットずつ持たせたら在庫が払底する。十字路までのケーブルと分岐コネクタを別に用意する。
「3チームいっぺんに動くと通路が狭いので危険だ。Bチームが先行してケーブルの接続をやる」
「了解」
```
Aチーム
向井 レミントンM870、警棒
根本 ジュラルミン棒、ナイフ、カメラ
伊庭 ナイフ複数、H&K P7M8
Bチーム
星野 ジュラルミン棒、ミネベア9mm拳銃
真田 レミントンM870、ナイフ
羽田 ナイフ、警棒、カメラ
Cチーム
佐々木 レミントンM870、ナイフ
神谷 ジュラルミン棒、短刀
前田 ボウガン、ナイフ、カウンターアサルト熊撃退スプレー、カメラ
```
「Bチーム星野です。予定通り右に進んでます。AとCはもう出ましたか」
「Aチーム向井です。分岐点に到着しました。左に向かいます」
「Bチーム星野です。向井さん気を付けて」
「こちら本部。Cチームが出ました。何かあれば呼んでください」
モーションセンサーで点灯するLEDライトは人が通るたびに安全を誇示する。拠点になる場所が見つかればそこに100V線を延長する。17Fの工事が終わればこの線にはインターネットも乗る予定だ。
順調さに気が抜けそうになった橋下さんは苦いお茶を飲み込んだ。
「この部屋の前でオークを仕留めたのは相馬さんだろ。俺はまだオークは見たことないんだよね」
「俺と星野さんと峰さんとで仕留めました。あれは危なかった」
テーザー銃で止まらなかったら人死にが出ていた可能性がある。
「また出たら対処できるか」
「そのためにここで準備してきたんでしょう。弱気になってるんですか」
「何もなさすぎると思ってな」
改良された本部用通信機はラジカセのような形をしている。それが前触れもなく声を発した。
「Bチーム星野です。下り階段に到着。向井さんと佐々木さんもここにいます」
「本部です。報告内容が判然としません。どういう意味ですか」
何かに追われていっしょになったのか。
「別れた道がまた合流したんです。降りた道をまっすぐ進んだところが次の階段でした。ライトとケーブルをやりくりしてここまで到達させます。それから戻ります」
「了解です。帰還を待ちます」
なんということだ。本当に何もなかった。
# 第23F攻略結果に関するお知らせ
## 1. 探査の結果について
発見物はなかった。被害もなかった。通路の一部を残して冒険ライトの設置を行った。残り作業はライトの生産を待って行う。
## 2. 報酬について
参加冒険者全員に**20ポイント**を付与する。本部長には本部指揮報酬**10ポイント**を付与する。
## 3. 拠点について
第23Fに拠点は設けない。22F基地を用いて次の攻略を行う。
## 4. 第24F攻略について
- **日時**:未定。
- **状況**:下り階段は封鎖されている。




