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日本冒険社  作者: TSUJIMO
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19/40

EPISODE 18

橋下さんが地図を見直していると、蓮谷さんが小声で報告した。


「あそこに何かいます。黒い影が見えませんか」


目線から方角を読み取って曲がり角のほうを見るとたしかに何かがいる。大きさはロボットくらい。大型のゴブリンか小型のオークか。どっちでもいい。


「蓮谷さんは下がって。いつでも逃げられるように。こいつを俺のヌンチャクの錆にしてくれる」

「木製のヌンチャクは錆びないでしょう」


両手を背中にまわしてヌンチャクを敵の視界から隠す。続いて体をひねって遠距離攻撃。


「当たってません」

「わかってるよ」


なんでだ。胸元にヌンチャクを引き寄せ、すばやく回転させて上方から攻撃。耳をかすめて肩に当たる。


「頭を狙ってください」

「わかってるよ」


ゴブリンはヘッドランプの光から逃れるように横に移動する。


「逃すか」


左から大振りで敵の腹を狙う。ヒット。


「逃げよう。ぜんぜん効いてない」


蓮谷さんの表情が引きつったようだった。


「なんでですか」

「練習したんだけど。実戦は初めてでうまく力が乗らない」

「他の武器はないんですか」


蓮谷さんは返事を待たずに全力で逃走を開始する。橋下さんはゴブリンの頭をめがけて思い切りヌンチャクを投げ付けると同じ方向に逃げ出した。



神谷さんが警戒を解かずに調査を続けていたら前方の遠くから足音が聞こえてきた。


「何が出てくるか。南野さんは油断するなよ」

「はい。でも残念です。神谷さんの日本刀さばきが見られると思ったのに」

「なんだって」

「いえなんでも。それよりヘッドランプが見えます。お仲間でした」


前方の通路からやってきた人物は金属棒を持っていた。


「おい」

「あれ、神谷さん。どこから来たんですか」

「こっちのセリフだ。俺は自分の担当場所から離れてないぞ」

「でも」


地図を手にした皆川さんが前に出る。何か気が付いたようだ。


「道が繋がっているんじゃないでしょうか。こことここ。どっちも地図では行き止まりです」

「なるほど。確認済みの道はどれとどれだ。皆川さんと南野さん、ちょっと見てくれ」

「わかりました」


ふたりが地図やメモを突き合わせて調べているあいだに神谷さんが根本さんを問いただした。


「そのカバンに入ってるのはなんだ」


ザックから首だけ出していた猫が神谷さんを見つめていた。


「迷い猫を保護しました」

「どこで」

「えっと、地図に印をしたはずなんですが」

「ちゃんと報告して提出しろよ。調べてもらわないと猫かどうかわからんだろう」

「そんな、解剖されちゃう」

「するわけないだろ」


ふたりの補助者は確認を終えた。


「ここの調査は終わりですね。藤田さんと合流しましょう」



やはり見落としがあった。道を戻った鷲巣さんたちの右側に分岐点がある。


「なんでこれが見えなかったんだろう」

「地図では分岐してないからだろう。これで問題が見つかったな。こっちに行くとどうなるんだ」


戸田さんが地図を確認していた。


「本来の調査ルートです。ぐるっとまわって出発点に帰れます」

「そいつは楽でいい」


彼らが通路を進んで帰り着こうとしていたとき、猛烈な勢いで走ってくる蓮谷さんがいた。


「助けて、ゴブリンが出ました」

「光を向けろっ」


通路にヘッドランプが向けられる。もうひとりこちらに走ってくるのは、あれは橋下さん。


「中型危険動物と遭遇した。救援を求めるっ」


鷲巣さんは木刀を構えて待ち構える。そして橋下さんとすれ違うやいなや。


「えいっ」


5mほどを一歩で進んだ鷲巣さんの姿はゴブリンには見えなかったに違いない。それは鈍い音を立てて斜め後ろに倒れると、仰向けになって息の根が止まった。



どこまでも歩き続ける藤田さんは不思議に思っていた。いくらなんでも遠すぎる。地図で見たら1kmもなかったはずなのに。


「井上さん、まだ大丈夫ですか」

「大丈夫です。まだ15,000歩くらいです」


井上さんは普段から健康のために万歩計を使っていた。だいたい10kmくらいなら計算は合う。


「藤田さん、なんだか明るくないですか」

「そうですね。これはもしかすると出口が近いのかも知れない」


トンネルを抜けるとそこは雪に覆われた森の中だった。


「広葉樹とカエデ。奥多摩の自然林だ。距離で考えたら国営公園内だと思う」

「出ちゃいましたね」

「トンネルの中は特定危険領域ですよ。一歩出れば財団の管理地です」



# 第17〜19F予備調査結果に関するお知らせ


## 1. 地図との一致について

- **結果**:各階に地図の誤りが発見された。修正した地図は完成次第、公表される。


## 2. 第18Fで回収されたゴブリンについて

- **鑑定**:過去に捕獲または死体で回収されたゴブリンと同種の大型個体と認められる。

- **区別**:サイズ以外に特徴はないため、区別することに合理性を認めない。


## 3. 第19Fで回収されたダイヤモンドについて

- **鑑定**:ダイヤモンド原石(**1.5カラット**)である。過去に発見された同石のサイズを上まわる。

- **環境**:発見地点の周辺は花崗岩に囲まれており、マントル由来の鉱石が産出することは、基本的にありえない。


## 4. 第17Fで発見された通路について

ダンジョン内分岐点から、北に**11.5km**の一本道が確認された。この通路はこれまで1km程度で行き止まりと考えられていた。

通路の先は、国営公園内の自然林の洞窟であり、財団法人奥多摩自然環境保全機構が委託を受け、管理する地域である。

この通路に関しては、後日あらためて通達する。現在はバリケードを設けて封鎖されている。


## 5. 安全について

真田冒険者が捕獲したゴブリンが、どこに潜んでいたかは確定しなかった。どこに潜んでいたとしても、おかしくない状況であった。

第1〜22Fは同程度に安全であり、また危険であると、当社は認識している。


## 6. 第23F攻略

- **日時**:年明けより開始する。


## 7. 第17Fで捕獲された猫について

- **鑑定**:普通の猫である。成猫(2歳)雌。黒に近いグレー。目は金色。

- **処遇**:奥多摩支部にて一時的に保護する。期間は定めない。引き取る意思のあるものは受付に申し出ること。

- **識別**:保護中に限り、仮称を「ダンジョー」とする。識別子として首輪を装着した。色は白。


## 8. 報酬

参加した冒険者には、それぞれ**20ポイント**を付与する。以下のものには**10ポイント**を追加する。


- ゴブリン討伐に貢献した鷲巣冒険者

- ダイヤモンド回収に貢献した石原冒険者

- 17F北通路確認に貢献した藤田冒険者


補助者には別途、通達する。



# 第17F北通路に関する追加のお知らせ


## 1. 通路の情報

第17Fの中央通路より北方向の直線通路である。分岐点より**11.5km**にて、国営公園内の自然林に出る。

同公園の地上部分を財団法人奥多摩自然環境保全機構が管理を委託されている。地下部分を日本冒険社が管理を委託されている。

両団体は協力関係にあり、通路の利用に関して話し合いを行った。


## 2. 利用方法

自然林に道路を通すことには多大な費用を要することが判明した。よってこの通路を用いて、物資の搬入や廃棄物の搬出を行うことは難しい。

しかしながら、上下水道、予備電力線、インターネットを敷設することは可能である。


## 3. 計画

- **2月まで**:第17Fの北側の、中央通路付近に小規模な基地を設け、水場とトイレを設置する。

- **3月まで**:同基地まで光回線を通す。また電力線搬送通信の機器を設置する。インターネット接続が可能になるのは15F基地、17F基地、20F基地、21F基地、22F基地となる予定である。無線インターネットは計画されていない。


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