EPISODE 14
階段の下には肩の投光機を点灯させたロボットがいた。足元にはLEDライトが点灯している。
「階段の下まではデイジーチェーンを伸ばせるとして、これ以上は無理なんだろう」
「まだライトは延長できるけど不安定になる。だから拠点になりそうな場所を見つけるまで方針を決められない」
降りたところからまっすぐ北に一本道が続いている。3mから先は暗闇だ。どこかで分岐するまでロボットに探査をまかせて、それから人間が行動するという計画。オークが出たら待ち構えて遠方から攻撃したい。ショットガンが有効なら全員が持てばいい、とはならなかった。うまく使えなかったり、棒やナイフを主体にするスタイルを変えたくなかったり。あるいはオークの胸の大穴を見て思うところがあったのかも知れない。個々の内心はわからない。
神谷さんは報道を見て自重した形だ。星野の手帳には今回のチーム表が書き写されていた。
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本部長 神谷
本部補佐 伊庭
Aチーム
星野 ジュラルミン棒、ミネベア9mm拳銃
相馬 ナイフ、レミントンM870
峰 ナイフ複数、M26テーザー、カメラ
Bチーム
向井 警棒、レミントンM870
前田 ボウガン、ナイフ、カウンターアサルト熊撃退スプレー
鷲巣 木刀、十徳ナイフ、カメラ
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階段の手前まで机と椅子を運んできてHONBAの社員2名が待機している。今回は光ファイバーで操作する電池駆動で探査を行う。電池モードと給電モードは接続されたケーブルの種類によって自動的に切り替わるように改良されている。光と電線の両方をつなぐとおかしくなるらしいが、それは些細な欠点だ。
「07:55 前進準備」
「準備オーケー。前進できます」
20F基地には佐々木さんと真田さん。21F基地には羽田さんと根本さんが待機している。根本さんは3期生から初めての参加者だ。神谷さんが G-SHOCK RISEMAN を見つめる。
「前進開始」
「前進開始します」
吉村さんがNと入力してEnterを押した。ロボットはだんだん小さな光の点になっていった。
「あんなふうに歩いてて左右の壁にはぶつからないんですか」
「前後左右と足の裏を超音波で調べながら歩いています。階段を後ろ向きに登れるのはそのおかげです」
「じゃあ左右に空間があればわかりますか」
「わかります。今のところ平滑な壁が続いています。ずいぶん単調な風景です」
画面を見ていた峰さんが身じろぎする。
「なんだか緊張しますねー」
「人前で歌うよりよっぽど簡単だよ」
「あれは冒険社広報部に依頼されたんですよ。ただの仕事です」
サイン入りCDは妻の会社の人が欲しがっていたから上げてしまった。物好きな人が多すぎる。そんな軽口を叩いているあいだもO2の前進は止まらなかった。
「もうすぐ内蔵電池の半分がなくなります。帰還地点、距離は380mです。予備電池を持って追いかけるなら800mまで歩けます」
「ここまでか。それでも前より距離がずいぶん伸びてます」
吉村さんがSと入力してEnterを押した。ロボットは自動的に振り向いて南を目指し始めた。
「さっきから何か音がしませんか」
「ロボットからですね。コンコンと音が聞こえます」
「カメラに何か当たったみたいです。何か下に落ちてませんか」
> LOOK
「これは矢だ」
「何かに撃たれていたんだ。大丈夫なんですか」
「ダメージはありません」
そのうち攻撃が止まり音は聞こえなくなった。神谷さんは対応を考えていた。
「ポリカーボネートの盾は何階にあるんだったか」
「20Fに2枚だけ。地上に出ればいくらでも」
「2枚でいいから持ってきてもらおう。ロボットが戻る前に備える」
連絡を受けた佐々木さんと真田さんが上からシールドを届けるとロボットの帰還まであと100mのところだった。それを両チームに分け与える。
「ロボットが戻ったら回収して電池交換。それから出発する。道が狭いので全員いっしょは動きにくい。Aチームから時間差10分でBチームだ」
星野は盾を調べる。これを持って棒を振りまわすのは難しい。拳銃の装填も両手を使う。レミントンも同じだ。そうすると峰さん。彼女を前に立たせるのは違う気がする。
「まず私が持ちます。戦闘になったら状況次第で峰さんに持ってもらいます。それでいいですか」
装備と携帯品、防刃ベストやヘルメットのベルト、靴紐などを相互に確認する。O2が上がってきた頃に準備は完了。
「それでは、Aチーム出発します」
「気を付けて行ってきます」
「このロボット邪魔」
散歩に出るように軽い足取りだが油断はしていなかった。
ヘッドランプの光量が足りないので星野はミニマグライトを右手に持っていた。一本道が続くことがわかっているのでここはまだ怖くない。相馬さんはすこし不安そうだ。
「ねえ、星野さん。21F攻略ではライトを敷設しながら始めたじゃないですか。22Fもそうしたら良かったんじゃないですか」
「21Fに降りたときはゴブリンが出るとは思ってなかったから。拠点の構築をしてから敷設するほうが安全だと会社は判断したんだろう」
300m地点。そろそろ気を引きしめる。何が出てくるかわからない。あの小さな矢を放ったのはゴブリンだろうか。それとも別の種類の危険生物だろうか。
自分たちの足音がうるさく感じ始めたころにそれは現れた。
コツン。
ヘルメットに何かが衝突した瞬間に彼らはかがんで盾に身を隠した。
「来た。顔をあまり上げるな」
ライトを地面から上方に向けて周囲を確認する。小さな人影が光から逃げるように走り抜けた。
「やっぱりゴブリンだ。相馬さん、散弾は何が入ってますか」
「鳥撃ち弾です。ザックの中に3粒弾もあります」
「じゃあちょうどいい。撃ちやすいように集まってくれないかな」
峰さんがごそごそとなにかをしている。
「私も懐中電灯を持っています。両サイドを照らしたら真ん中に集まりませんか」
「やってみるか」
星野が右の壁を照らすと峰さんは左の壁を照らした。走りまわる音が小さくなる。だがいる。相馬さんが中腰になって正面に発砲すると、ギャッと鳴き声がした。
「このまま待機」
周囲の気配を探りながら透明な盾を見ると小さな矢が数本落ちていた。懐中電灯を回すと2匹のゴブリンが倒れていた。遠くでまだ足音が聞こえている。撃退に成功した。
峰さんが CAMEDIA C-1 を開いて死体をパシャパシャと撮影した。落ちている矢を回収して前進する。動物の死体は後まわしと伊庭さんから指示を受けていた。
「左に分岐している」
曲がり角を慎重に確認して光を差し込む。
「こっちの道は10mもないが。あれはなんだろう。曲がり角かな」
短い通路の右奥が周囲よりさらに暗く見える。
「あれは部屋みたいですね。小林さんが遭難したときの隠れ家のような」
「後続を待たずに行けるだろうか」
「ちょっとだけ見てみましょう。それで難しそうならBチームに声をかけましょう」
星野が偵察に近付いたとき、中から毛だらけの手が飛び出した。ゴブリンだ。
とっさに盾を後ろに投げて両手でジュラルミン棒を持つ。上から振り下ろして空振り、ゴブリンは足元をすり抜けて峰さんに向かった。
「注意しろ」
星野が叫ぶと両名はナイフで応戦する。そして星野は駆け付けることができなかった。部屋からもう一体が現れたから。すかさず突き入れると棒の先端が胴体に命中してゴブリンは暗闇の中に転がり込んだ。
「大丈夫か」
星野がようやく相馬さんと峰さんに向き直った瞬間、峰さんが叫んだ。
「後ろにオーク、星野さんっ」
棒を持ったまま前方に転がって大振りのスイングを回避した。暗闇は敵だ。このやり方のほうが安全だと言ったのは誰だ。
転がって立ち上がった先にいたゴブリンを蹴り飛ばす。オークに有効な武器はショットガン。だが相馬さんの銃には小粒の弾が入っている。装填の時間を作らねばならない。まずは体勢を整えて…
背中に棒を突き出して、追ってきたオークに当てる。まるで効いていないが体の向きを変えることができた。ゴブリンの位置はわからない。相馬さんは弾の入れ替えを始めた。早くしろ。星野は棒を捨てて、9mm拳銃のハンマーを起こした。
このとき閃光とともに世界が停止した。オークが腕を振り上げた姿勢で硬直していて、星野はその頭を慎重に狙い撃った。相馬さんはオークの背中側から心臓を撃ち抜いた。
「助かった。峰さん、ありがとう」
テーザー銃がオークの動きを一瞬だけ止めていたのだ。ゴブリンは姿を消していた。




