拉致は突然に
「はぁ〜……これからどうしよう……?」
シスターの服を身に纏った少女、ソフィーは溜息を付く。がっくりと項垂れており、持っている本を抱き締めた。無理も無い、何故なら……
「私がホテルにチェックインした直後に火災だなんて……悪運にも程があるわ」
彼女がホテルにチェックインした直後、何者かが放火した様だった。火は瞬く間に広まり、あっという間に全焼してしまった。彼女は逃げる時、最低限の荷物しか持って来なかった為、無一文に等しかった。
「今夜は野宿かな……いやいや!近くには『ロイズ』があるんだから、こんな所で野宿なんて自殺行為よ!」
『ロイズ』それは、アメリカで1番凶悪な街と言われている。そこは全ての暗部の生まれと言われる程であった。殺人、強盗、薬物の売買なんて日常茶番時。何よりその街の町長が上に賄賂を贈り、警察を無力化させているときた。そんな街の近くで野宿をしようものなら、あっという間に売り飛ばされてしまう。
「警察は頼りにならないし……どっかで住み込みで働くしか無いのかな……でも、私みたいな身寄りが居ない人間なんて、雇ってくれる所あるのかな……」
考えれば考える程にどんどん暗い気持ちになっていってしまう上に涙も出てきそうになる。しかし、このままでは駄目だとソフィーは頭を振った。
「な、何としてでも働き口を探さなきゃ!」
「あらぁ〜?こんな所でどうかしました〜?」
後ろから間延びした声がしたのでソフィーは振り返った。そこには、自分より年下にしか見えない少女が、斧を持ってじっと見ていた。似つかわしく無い斧を持っている少女を見て、ソフィーは警戒していた。
「えっ……えっと……」
「あぁ〜もしかして、ホテルに泊まる予定だったの〜?ごめんね〜私が燃やしちゃったんだ〜」
「……へっ?」
いきなりのカミングアウトに、ソフィーは固まってしまった。そんなソフィーを他所に、少女はペラペラと話し始めた。
「実は〜このホテルに私達の教会と敵対してた組織が危ない物を取引しようとしてて〜神父にお願いされて〜阻止しようとして放火したの〜」
「組織?取引?何の事を言ってるの?!本当に貴女が放火したの……?」
「あ!これ、言っちゃいけないんだった!私うっかりしてた。でも貴女は知ってしまったので〜仕方ないけど〜……」
この娘は危険だ。少女の声色が変わったのを聞き、そう本能で感じたソフィーは、後ろを向き逃げ出そうとした。しかし後ろには、眼鏡を掛けた青年が銃を構えていた。ソフィーは周りを見渡す。人は居ない。助けを求めても無駄の様だ。
「一緒に来てもらいまーす!」
少女が明るく場違いな声で言った瞬間、彼女は2人が居ない方向に向かってダッシュで走り始めた。人がいる方に出れば、あの2人も追ってくる事は無いだろうと考えたからだ。
「逃げても無駄だからね〜!」
ソフィーの心の中を見透かした様に少女は言う。お構い無しにと逃げていたソフィーは直ぐに青年に腕を掴まれ、口に何か布の様な物を当てられた。次第に意識が遠のくが、ソフィーは腕を引き剥がそうと必死にもがいた。
「……!……!」
「駄目だよ〜!逃げたりしたら〜私達の事を知ってしまったら、もう普段の生活には戻ないんだからね?それに貴女、良い本持ってるみたいだし〜きっと神父が喜ぶよ〜!」
意識を手放す直前ソフィーは、少女が自分が持っていた本を値段を定める様な目で見ていたのに、一抹の不安を感じた。そしてそのまま、気を失ってしまった。ソフィーが気を失った後、青年が口を開く。
「これで良いのかい?アリス」
アリスと呼ばれた少女はにっこりと笑った。
「うん!彼女に知られちゃったのは残念だけど〜彼女が持ってる本……これって」
「間違いない。『悪の書』だ。神父が捜し求めている本は恐らくこれだと思う。でも、どうしてこんな子どもが……俺より年下の筈だ」
「まぁ〜細かい事は教会に戻ってから尋問でもすれば良いよ〜そんな事より……出ておいでよ。居るんでしょ?」
アリスの問い掛けに応じる様に、男達がぞろぞろとアリス達を囲んだ。各々武器を構えていた。
「……さっきの残りか。俺はこの娘を連れて車の方に戻ってる。……後は頼むぞ」
「もっちろん!でも、残ってるとは想定外だったね〜まぁ……生き残りは運が無いみたいだね〜」
ソフィーは斧を持ち替え、男達に向けた。青年はソフィーを抱き抱え、アリスの後ろに下がった。
「さっき炎に焼かれて死んじゃえば、今から苦しんで死なずに済んだのにね」
そう呟くアリスの目は笑っていなかった。
約1時間後にホテルの客が散策していると、辺り一帯が死体と血塗れとなっていたのを発見した。通報を受け、警察は直ちに捜索に取り掛かったのだが、とある一報により、捜査を打ち切ったのだった。




