第8話 バカタレ
「この世には変換器というものがある。いや、増幅器というのが正しいか」
項垂れる俺を無視するようにエアが言った。
「ルイナスの魔力は微弱だが、増幅器があれば多少は戦力になる。ーーまぁ、魔法を操るまではいかんだろうが」
「そんなんじゃ、戦力どころの話じゃないだろ」
「なぁに。アタシの魔力も込めといてやろうーーーといいたい所だが、前回はそれが仇になってしまった。だから今回はアタシの力は使わない」
「じゃあ、どうするんだ?」
「ドワーフの力を使うのさ」
「ドワーフって、あのネックレスを作った?」
「そうだ」
エアの黒い笑顔が頭をよぎる。
「増幅器は」エアは続ける。「ドワーフに作らせる。とはいえアタシは力を貸せない。だから今回は精霊の手を借りる」
そう言うと、エアは腰に下げたポシェットからランタンのようなものを取り出した。ガラス製で、金属製の持ち手がついている。
「そんな大きいものよく入るね」
「まぁ、こちとら魔女なんでなぁ。さ、これを両手でしっかり持ちな」
投げ渡されたそれを湖に落とさないよう、慌ててキャッチする。すると、ランタンの蓋が勝手にパカリと開いた。そのとき、隣に立っていたエアが叫んだ。
「さぁ! これからこのルイナスに力を貸してやろうという奴はいるかい?」
周囲は静まり返っている。さっきまで吹いていた風は止み、向こう岸にいた鹿は姿を消していた。虫すら葉の裏に隠れてしまったのかと思うほど静かだ。湖の中の魚達も、どこかにじっと姿を隠しているようだ。
「今まで魔物から守ってきてやったんだ。土と水に栄養を、時には雨を呼び寄せて。人間共からも干渉されず、随分と過ごしやすい数百年だったろう。それなのに礼のひとつも無しか?」
驚く程に周囲は静まり返ったまま。鳥の鳴き声ひとつ聞こえない。
「ーーあ? 魔王?」
エアは返事をした。何かと会話をしている? だが俺にはなにも聞こえない。
「そう、魔王と接触する機会はあるだろうね。豪傑でいい女だと聞く。血統も良く、稀に見る双子の王族」
俺はエアが見ている方を見た。が、何も見えない。ただ澄んだ色の湖が広がるのみ。
「胸? ーーそこまでは知らんが、魔族は元々体格が良いからねぇ。そんなに気になるならさっさとランタンに入んな! アンタの力は癖があるがきっとコイツの役に立つ」
エアがそういった時、黒い何かがすっとランタンに入り込んだ。と思うが早いか、エアがランタンのフタを力強く閉じて、開かないようにベルトをかけてしまった。
「ーーふぅ。なんとか見つかった」
「見つかったって、何が?」
「ルイナスには見えないか? よーく目を凝らせば、或いは多少見れるかもしれないね」
そう言われ、俺は目を細めてランタンの中をじっと見た。すると、じんわりと黒い靄のようなものがみえた。人の形をとっているのが分かる。
「うわ……」
「それが今回アンタを助けてくれる妖精だ。色々と癖はあるが魔王と聞いて怯まない、妖精にしては珍しく好奇心旺盛なタイプだね」
「俺、声も聞こえないけど……?」
「なに、じきに話せるようになる。さぁ、次行くよ」
「次?」
「姿もほとんど見えずに会話もできない妖精、それでアンタは身を守れると?」
「いや全然」
ガタガタッとランタンの中で何かが動いた。怒らせてしまったかもしれない。
「気にするな。事実は事実。さぁ、次はドワーフの住処へ乗り込むよ。あのバカタレただじゃおかん」
エアが片手に持っていた杖を地面に一突きすると、彼女を中心に紋章が浮かび上がる。
「紋章の中にしっかり入んな。刺身になりたくなければね」
「えっ!!? ちょ、ちょっと待って」
慌てて彼女に近づくのとほぼ同じくして、目を開けていられないほどの眩い光に周囲が包まれていった。




