第5話 鏡面
「うわっぷ」
蜘蛛の巣が顔にかかった。自宅を壊された蜘蛛が迷惑そうに逃げていく。
「早く来な、迷子になるよ」
エアはそう言って俺の前を歩いていく。彼女は随分と背が高い。1度しか会ったことがなかったが、すらりと高い背丈と腰より下に伸ばした金髪が印象的でよく覚えていた。
「それにしても、エアはずっと変わらないな。魔女ってそんなものなのか?」
「……。まあ、あんたら人間よりは老いるのが遅い。寿命という概念が、あまりないからね」
「へぇ。じゃあ産まれてから成長して、大人になったらそのまま?」
「相変わらず惚けたやつだね、アンタは」
「えっ?」
「……いや、なんでもないよ。アタシら魔女は根本的に人間とは違う。魔族とも。だから話してもあまりよく分からないだろうがね」
「ふぅん……。だから魔族達も変に嫌煙してたのか」
「それはまた別の話さ。アタシ達の使う呪いを恐れてのことだろう」
「ーー呪い?」
背の高い草を掻き分けて道を進むと、少し開けた場所に出た。
数メートル先には、陽の光をガラスのように反射する湖が広がる。エアはそっちへ歩いていくと、俺の方をちょっと向いて手招きをした。
「綺麗な場所だな」
「人も魔物も滅多に寄り付かない。ここに来た人間はアンタくらいだ」
「へぇ。それは何か、ちょっと嬉しいな」
「さっきまで戦場にいたとは思えないほど呑気なやつだ。阿呆も突き抜けると才能だね」
「褒められたと思っておくよ」
「それがいいーー。で、本題だ。アンタ、これを見てみな」
エアは杖で湖を指した。俺は魚でもいるのかと思ってひょっこりと顔を突き出し、湖を覗き込んだ。確かに魚はいたが、俺に驚いてピシャリと水を波立てて逃げていった。
「あの魚がなにか? 腹でも減ってるのか?」
ゴツン。また杖で殴られた。
「水面が落ち着いた。もう一度、よく見てみな」
俺はもう一度湖を覗き込んだ。そこにはよく見知った、だがとっくにいない筈の男がいた。10代の頃の俺。
肌にまだ艶があって、腹を空かしてはいたものの、まだ元気で希望を捨てきっていなかった時の俺の顔。
そういえばエアの後ろを歩いていたとき、彼女が妙に大きく見えた。俺は自分の身体を見下ろした。傭兵をしていた時よりも細く、一回り小さかった。
「ようやく気づいたかい」




