第99話 暗澹たる死よ来たれ
「まぁ、現状できることはほとんどないってことは分かったか」
対策しようにも、何が正解かもわからないのだ。
対症療法的には体のステータスを上げるとかもできるだろうが、それで本当に効果があるのかも分からないからな。
あと単純に、俺の方針的に体のステータスの重要度が高くないってのもある。
聞きたいことは聞けたし、まずは、ステータスを確認しておくか。
「ということで端末くん。そろそろ普通の業務をお願いしてもいい?」
『そもそも、こういう説明を個別にされている方がだいぶ稀なんですけどね』
まぁ、そうだろうな。
松川さんとか杉井さんの様子を見た限り、端末と会話をしている時点でかなり異端っぽかった。
本来は、自分の指で操作するなり口頭で指示を出すだけで、端末相手に意見を求めたりとかしないんだろう。
考えてみれば、俺もパソコンでヘルプ機能そんなに使うかって言われたら使わないしな。
でもAIって言われたら会話形式で情報引き出すのが普通って気もするし、世代の違いかもしれない。
『その前に上杉様。ダンジョンからお知らせが一件──いえ二件ございます』
「二件かぁ」
このタイミングで一件は多分、宝箱の再配置だと睨んでいる。
以前も一週間くらい経過したところで、宝箱が再配置されたっぽかったから、一週間籠ってたなら計算は合う。
「一応聞いておくけど、良いお知らせ?」
『……そうですね。上杉様の望まれるお知らせかと思われます』
なんか含みのある言い方だった。
まぁ、これまでのお知らせでは『あなただけに特別な召魔忍者のオファー』とかもあったし、二件って言われると身構えはする。
「……それじゃ開封をお願い」
『一件目は、宝箱の再配置のお知らせです。ダンジョン18764番の一階層から三階層の宝箱が再配置されました。マップに変更はございませんので、改めて探索することもお考えください』
「ビンゴ」
一件は想像通りだった。
可能なら、今日中に三階層までの宝箱は回収しきってしまいたいな。
本命は、今まで連続で魔術書を落としてくれている二階層。
まぁ、前回はEP0というクソ渋ミミックとの初遭遇もあったが、期待値は高い。
これでもし氷水魔術か衝風魔術が取れたなら──今までずっと残しておいた『救済ジョブ』の取得を考えている。
「それで残り一件は?」
『……これは、上杉様が自身の手で開封したほうがよろしいかと』
「なにゆえ?」
『説明はしがたいです』
いつも通りさらっと開封してくれたらそれでいいのに、なぜ端末くんはわざわざそんなことを言うのだろう。
唐突に、嫌な予感が背中を走る。
これはなんだろう。
暗闇に対する恐怖とか、死に対する恐怖とか、そういうダンジョンであまり感じなくなっていたものを、心の底から思い出させる、根源的な恐怖というか。
単純に、見るのが怖くなった。
『件名は【あなたの望むものをご用意しました】です』
「あやしいよ」
なんだその怪しすぎるタイトルは。
今時詐欺メールだってもうちょっと体裁を整えるよ。もしくは、おかしいくらいキャッチーな件名で思わず開かざるを得ない感じにするよ。
さすがにこんな直球なタイトル用意しないよ。
ここで、そんな怪しいお知らせは無視してしまうこともできなくはないが──開いた方が良いと本能が告げている。
むしろ、無視した方がやばいことになると。
俺は恐る恐る、端末くんの表示画面に手を伸ばし、お知らせを開封した。
『
【あなたの望むものをご用意しました】
今から称号付与しま〜す!(by 闇の女神)
事前に言ったから良いんだよね〜??(by 死の女神)
』
「うわあああああああああああああ!?」
お知らせを開いたらまるで悪ノリした友人からのメッセージみたいな文章が!!
これ、めちゃくちゃ聞かれてたよねさっきのやりとり!?
というか思いっきり、俺の心の中まで聞いて煽りにきてますよねこれ!?
まずいまずいまずい。
絶対にこれはあれだ。
めちゃくちゃ目立つ称号付与されるやつだな……!?
『上杉志摩様に、称号が送られました』
受け取り拒否の選択肢すら与えられず、端末くんとは違う入退場のときの天の声さんが淡々と告げた。
称号をただ送られただけでは、体感ではほとんど何も分からない。
だから、自分で確認しなければどんな称号か分からない。
いっそここで俺が何も確認しなければ、シュレディンガーの称号として、なかったことになったり、しないよね。うん。
「端末くん、さっき送られた称号の確認とか」
『かしこまりました』
端末くんは、まるで自分は関わりたくないとでも言いたげに、一際事務的な声でその称号を表示した。食い気味で。
そして表示されたのがこれだった。
──────
『さあ駆けよ黒き者よ、昏き者よ、死を呼ぶ者よ。あなたの歩むその一歩こそがこの世界に安寧を齎すのだ。恐れるな、神はいつでもあなたを見ている。あなたの歩みを応援している。だから心の向くまま進むがいい!! そう、そのままそのまま! もっともっと、楽しませておくれ!! 頑張れ上杉! ファイトだ志摩! 君ならできる!!』
ちゃんと目立つ称号にしましたよ?
これだけ目立てば、あなたが誰に目をかけられているか一目瞭然ね?
ステータス補正:とくになし
──────
「あああああああああああああああ!!?」
めちゃくちゃ遊ばれてるな俺のステータス!?
神の面白半分の行いで、俺のステータスが本当に誰にも見せられない形にされてる!!
しかも、ステータス補正に何の意味もない!!
俺は頭を抱えて蹲った。
そのまま床をゴロゴロゴロゴロ、ローリングしたい気持ちに苛まれるが、クミンと端末くんが見ているという一点でなんとか理性を保った。
「すみません神様、もうちょっと手心をお願いします! もう称号にナマ言ったりしませんから! お願いしますから! かっこいい称号いつもありがとうござます!!」
そう。
どう粋がって見せても、所詮おれはただの人だよ。
ステータスというのが向こうに与えられたものである以上、俺たちの生殺与奪は常にあっちが握っているのだ。
だからもう、謝って崇め奉るしかない。
俺にできるのは必死に許しを請うことだけだ。
……ちくしょう。
でも、いつか、何か意趣返しする方法を見つけてやる。
この心も読まれているかもしれないけど、そのまま進めって言われたんだから、いいんだろう。
それ込みで、きっと俺の反応を見てるんだから。
ちくしょう。
『上杉志摩様の称号が変更されました』
と、俺の願いか翻意か、どちらが通じたのかは定かではないが、天の声さんからは称号変更の連絡が届いた。
「端末くん」
『…………』
端末くんに声をかけると、無言でさっきのと同じ画面を開いてくれた。
──────
『暗澹たる死よ来たれ』
自分より強大な敵の首を落とした功績を称えて送られた称号。
闇の女神と死の女神に魅入られている証。
死を呼ぶ者よ。敵がどれほど強大であろうとも、その一瞬のために牙を砥げ。
貴方は常に、敵を殺す権利を持っている。
ステータス補正:急所への攻撃に成功した際に、確率で即死効果が発動する。『隠密状態』『闇の中』『死の側』において確率大上昇。
──────
「許されたぁああ!」
謝罪と翻意のどっちがツボに入ったのかは本当に分からないけど、とりあえず許された。
むしろ、最初から怒ってなくて俺の反応で遊ぶためにやっていた可能性もゼロではないけど、なんにせよマトモな称号を貰えた!
……本当にマトモかな?
……また人様にお見せできない称号な気がしてならない。
あと誰が闇の女神様と死の女神様に魅入られているんですかね?
事実無根ってレベルじゃないんですけどね。
だが、そんな心情は置いといて、効果としては、あれだな。
雑魚相手に積極的に狙うとまでは言えないが、強敵相手にワンチャンスある戦いができるやつだ。
ゲームだったら、レベル差のある狩場に乗り込んでセーブとロードを前提にジャイアントキリングに挑めるやつ。
だが、残念なことにここは命がけのダンジョンだ。
この称号効果一本を頼りに進むのは流石にマズイ。
そもそも、ゴーレムに不意打ちで急所攻撃できる目処が立ってないし。
「ただ、効果自体は本当に良いものだ」
あの怪物は最初急所が見えてなくて問題があったが、攻撃力が上がっていれば強引に首を搔き切るなどの手段も取れたかもしれない。
それで急所にかすりでもすれば、即死の効果があるかもしれないのだ。
隠密状態からの初撃は積極的に急所を狙う意義がある。
「一応聞いておくけど、他に称号はある?」
『他にも申請がなされている称号はございますが、受理待ちです。今回は、かなり強引にねじ込まれましたので……』
「お疲れ様?」
なんだか、ダンジョンのシステム界隈でも疲れるようなことがあったようだ。
まぁ、だからと言って俺がどうにかできることはない。
「あと、確認しておきたいけど、地上での戦闘で得られるEPとかはないんだよね?」
『はい。少なくとも、地上での活動において上杉様が獲得されたEPはございません。これは他の方々も同様の仕様になります』
「骨折り損じゃないけど、やるせないな」
あれだけの激闘を繰り広げても、貰ったものは称号一つだけ。
その称号が有用だったからまだ良いが、他の人たちがどうだったのかは定かではない。
ゾンビとの戦いは、本当に、生きるためだけの戦いなのだと心に刻んだ。
「あとは、鍾馗のステータスを確認したいところだけど」
端末くんは俺の鍾馗が一段階成長したはずだと言っていた。
この状況でそれほど心踊らされるお知らせもあるまい。
とはいえ、鍾馗のステータスは俺のテンションを上げる為の最後の砦だ。
俺は好きなものを割と最後に残しておくタイプなのだ。
だから、メインディッシュの前に達成しておきたい目標がある。
一つは、宝箱の回収。
一つは、怪物戦でボロボロになった装備のメンテナンス代を稼ぐこと。
そう考えると、慣れ親しんだ三階層までなら、EP回収を優先して行動してもいいかもしれない。
もしそこで何か嫌なことがあっても、鍾馗の成長分で気持ちチャラにできるかもしれない。
「とりあえず、今の鍾馗がいきなり折れるようなことはないよね?」
『はい。現在鍾馗のステータスは正常です。なお。ここから万全の状態に修復するためにはEPが100ほど必要です』
「一戦闘でそれは結構かかるなぁおい……」
スケルトンの収支を考えても、無造作にポケットから出せる金額ではない。
だが、武具の調整は重要だと、怪物戦を通して学んだところだ。
鍾馗のおかげで、俺は命拾いをしているのだから。
命に比べれば、100EPのメンテナンス費など安いものである。
「とりあえず、軽く潜ってEPを稼いでくるから、そのあとに改めて武具の手入れをお願いしたい」
『かしこまりました。これらの階層は上杉様にとってはあまり脅威ではありませんが、お気をつけて』
端末くんの相変わらず心配なんだかよく分からない言葉を受けながら俺はダンジョンに深く潜る。
とは言え、第一の目的は宝箱の回収だ。
可及的速やかに、マップにしたがって宝箱の探索を行うことにしたのだった。




