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ダンジョンサバイバルinゾンビワールド  作者: score


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第98話 不活化ウイルス



 端末くんからの声に息が詰まった。

 暫定グリーンというのに不穏な気配を感じてはいたが、返ってきたのはその不穏さを肯定するような返答だった。


「……俺は、ゾンビになるところだったのか?」


『部分的に、はい。ですが、先ほども言ったように上杉様の体内に存在しているウイルスは現在、不活化しています。そのため、現時点で喫緊の危険はないと考えられます』


「一から説明してくれる?」


 端末くんの言葉はなおも俺の危機感を煽る。

 だが、同時に端末くん自身は現時点での危険はないと考えているだろうことはよくわかった。

 そもそも、ダンジョン側としては問題ないとしているから、俺がダンジョンに入れているのだろうし。


『一から、という言い方だと少し語弊がありますが。そうですね。上杉様の現在の状況は、いくつかの要素が積み重なった上に形成されたレアケースだと考えられます』


 今の端末くんは、感情を全く感じさせない淡々とした説明をするときの声音だ。

 こういう事務的な時の言葉には冗談はない。

 心して聞く構えを取る。


『まず、第一の要素です。上杉様が今回侵入を許したウイルスが、そもそも本来のウイルスから変異したものだったことです。その点はご存知ですか?』


「戦った相手の状態が『呪腐魔病(悪性変異)』だったことはわかっている。そういうこと?」


『はい。我々が観測している限り、呪腐魔病ウイルスは本来その感染力にかなりのリソースを注いでいます。しかし、今回のウイルスは基本となるウイルスとは素性が異なっていました。リソースを感染力ではなく、能力の強化、特殊能力の取得、および戦闘思考などに振っていたようです。ウイルスの変異によってステータス傾向が変化し、悪性は強くとも感染能力は低いものになっていたというわけです』


「……そういう感じなのか」


 今さっき死力を尽くして戦った『なれはてたものたち』を思い浮かべる。

 確かに、と納得できるほど奴の能力は飛び抜けて高かった。

 普通のゾンビとは一線を画する高ステータスに多彩な能力、そして柔軟な思考。

 普通のゾンビであっても、呪腐魔病の進行状況が悪化していると──呪腐魔病(重)になると身体能力が上昇していたが、悪性変異は感染力を犠牲にそれらをさらに突き詰めた形なのかもしれない。

 というか、あんだけ強くて感染力も高いですと言われたら、流石に理不尽が過ぎる。


 そしてこれは、何気に恐ろしい話でもある。

 つまりは、今後新しい変異個体が現れたとしたら、感染能力を極限まで強くしたものや、人類以上の知性を獲得したものなどの可能性があるのだ。

 それらを思うと、俺たちが遭遇した個体は『戦闘能力』が純粋に強化された個体で運が良かったのかもしれない。


『とはいえ、いかに感染能力が下がっていようと、空気感染とは比べものにならない病状の進行があったはずです。そこに要素の二つ目、上杉様自身の抵抗能力の大幅な補正が挙げられます』


「称号の効果かな」


『はい。それと上杉様が装備している『護刀:鍾馗』の能力でしょう。上杉様自身が体感しているものと存じますが、そちらの刀は現在一段階成長しております。あとで能力の確認をしておくことをお勧めいたします。それらの対抗要素が合わさったことにより、感染能力の弱まったウイルスに対して、ほとんど拮抗する形で症状の発症を抑え込むことができていました』


 俺が呪腐魔病を発症しなかった二つ目の要因は、俺が持っている状態異常耐性の高さだった。

 そこそこレベルが上がっていることによる体ステータスの上昇、全くのソロで戦ったために、余すことなく効果を発動していただろう『混沌と孤独の同胞』による状態異常耐性上昇。

 そして、俺の意志を受けて一段階成長したらしい鍾馗による耐性上昇。


 それらが合わさったことにより、多少の感染を許しはしても病状の発症までには至らなかった。

 つまり、ゾンビになるギリギリのラインで踏みとどまることができた。


『しかし、そこまで揃ってもそれは一時的な拮抗となります。もしそのままであれば、上杉様が仲間の方と合流した段階で、拮抗状態は崩れ緩やかに発症に行き着くはずでした』


「でも、そうはならなかった。ここにもう一つ理由がある?」


『……結論から言いますと。我々がステータスを通して上杉様に仕込んでいた対ウイルス鹵獲機能による援護によって、ウイルスは不活化にまで追い込まれました』


「…………なんだって?」


 最後に、めちゃくちゃ聞きなれない不穏な要素が現れた。

 クミンにちらっと視線を送ってみるも、彼女はそんなの知らないと言いたげに首を振った。


「端末くん。その対ウイルス鹵獲機能とは?」


『ことここに至ってはご説明するほかありませんね。ことの発端は本日、上杉様が誤って呪腐魔病ウイルスに対し、テイム能力でコンタクトを取ってしまった地点になります』


 端末くんは少しだけバツが悪そうな声音になりながら、説明を始める。

 ずいぶんと前の話のような気がするが、そのテイムの件があってからまだ半日も経っていないのだ。

 あの時は、ウイルスの進行をなんとか押しとどめた上で、ダンジョンに入ったことで万事解決したと思っていたが。


『その際、我々は上杉様個人がウイルスになんらかの形で認識された、という可能性の話をいたしました』


「そう、だったな」


『つまり、我々はウイルスが上杉様個人に対し、なんらかの特殊なアプローチをしかけてくる可能性を考えていました。そのため、上杉様のステータスの内部に、マスクデータとして特殊なウイルスの干渉があった場合に、そのウイルスの鹵獲、および情報の収集を行う機能を追加しておりました』


「……聞いてないよね? 俺」


『はい』


「…………うーん?」


 つまりは、まぁ、あれだ。

 俺に無許可で、俺のステータスに罠を張っていたところ、そこにたまたま通常とは違う変異したウイルスが入ってきたから、その罠が発動。

 システムの思惑とは違う形であったが、結果的にそのおかげで俺が助かったと。


「……とりあえず、無許可で色々されたことには思うところはあるけれど、助かりましたありがとう……?」


『…………いえ、礼は不要です。我々は、我々の目的のために上杉様を囮にしていたのですから』


 システムとしてはそういう感じなのだろう。

 そしてそれを俺に教えていなかったのは、きっとその事実を俺が知っていることで、なんらかの悪影響を及ぼすことを避けたかったから。かな。

 ウイルスがどの程度危機意識を持っているのかは知らないが、万が一それをあてにするような行動を俺がとった場合、逆にウイルスに怪しまれる可能性がある、みたいな?


「とりあえず、端末くんはその罠を秘密にしておいても良かったのに、わざわざ教えてくれたのはなぜ?」


『我々は聞かれた問いが答えられるものであれば答えるように設定されています。そして現時点での上杉様であれば、それを知る権利があると思えたからです』


「堅苦しく言ってるけど、隠し事はしたくなかったってこと?」


『……はぁ。そう捉えていただいても結構です』


 ちょっとだけ、真面目モードだった端末くんから若干のデレを引き出せたぞ。

 少しだけ気を良くした俺は、もらった情報を整理する。


 今回俺がウイルスを食らいつつゾンビにならなかった要因は主に三つ。

 一つはウイルスが感染力の低い変異個体だったから。

 一つは俺の状態異常耐性が高かったから。

 そして最後の一つは、システム側が秘密裏に協力していたから。


 とりあえず、そのあたりは理解した。

 そして問題はその先だ。


「それで、暫定グリーンってことは、この先ウイルスが悪さをする可能性はあるのか? また、そのウイルスを取り除く方法はあるのか?」


『前者は、その可能性は低いと考えています。後者に関しては、わかりません』


「わからない?」


 体内に入りつつ不活化したウイルスを排除できるかと聞いて、分からないとはどういうことだろうか。


『そもそも、通常であれば不活化したウイルスは自動的に排除され減少します。これは上杉様がテイムしてしまった先の場合も同様であり、その際のウイルスはダンジョンのシステムによって即座に排除されています。しかし、今回のウイルスは、上杉様の肉体に『定着』してしまっているのです』


「どゆこと?」


『決定的な答えでなく、あくまで推論となりますがよろしいでしょうか?』


「よろしいです」


 そんなわけのわからん状態で、わけのわからんままいたくはない。

 たとえ推論であろうと、考えがあるのなら聞かせて欲しかった。


『現在、鹵獲したウイルスの情報を急ピッチで解析していますが、そもそも『ウイルスが変異する条件』に、ある種の『人の願い』が関わっている様子なのです』


「人の願い???」


『はい。つまるところ、変異したウイルスとはウイルス側が自分から『変異した』わけではなく、感染した人間の奥に秘められた自我がなんらかの条件で表出し、その表出した自我にウイルスが『変異させられた』のではないかと考えています』


 つまりは、なんだ。

 あの怪物があそこまで強力だったのは、ウイルスが人をそう変えたのではなく、ゾンビになってしまった人がそう願ったからウイルスが変わったというわけなのか。


「それが、俺にどう関わる?」


『つまり、現在不活化しているウイルスは、もともと感染したウイルスと同一のものではなく、上杉様の強い願いによってさらに変質し、上杉様に固着してしまったものという可能性があるのです』


「……ああーそういうね」


 強い願いか。

 ぶっちゃけ、あの怪物との戦闘中で俺がどんだけ感情を力に変えてたか、わかったもんじゃない。

 もしかしたら、火事場の馬鹿力だと思っていたものが、ウイルスによって与えられた力だった可能性すら、あるのか?

 だとしたら、俺は半分くらい、すでにゾンビだったりするのか?


『上杉様の現状については、我々としても完全に把握できておりません。ただ、上杉様の精神状態が安定しており、ウイルスが不活化していることから暫定的にグリーンの判断をしております。ただし、今後上杉様の内部に残ったウイルスがどうなるのかに関しては、引き続き継続的な調査をする必要があるかと』


「現状は何もわからんってことね」


 俺は自分の胸に手を当てて考えてみる。

 もしかしたら、俺はこのまま緩やかにゾンビに変わっていく宿命なのかもしれない。

 あるいは、全て杞憂で時間が経てば何事もなかったことになるのかもしれない。


 一つわかることは。

 俺はまだ俺だってことだ。

 そして俺にはまだやるべきことがある。



「わかった。とりあえず、俺のダンジョン探索に支障がないなら、それでいい。俺はそれだけでいい」


『……上杉様の決断を、尊重します』


「それはそれとして、今後俺に何か仕込むんなら事前に言ってね」


『かしこまりました』



 いやまぁ、そもそもの話、ダンジョンに入っただけで初期ステータスとか色々いじられている時点で、今更ステータスに何を仕込まれようが知ったことではないんだが。

 黙って色々やられるのはちょっと嫌ってだけだ。




 だからといって、目立つ称号入れてくださいってわけじゃないですから、そこらへんはマジで本当によろしくお願いします神様がた。




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